89: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 16:28:27 ID:???
「シンジ起きなさい。遅刻するわよ。」
「う~ん……あれ…?母さん?」
今日はいつもと違う朝だった。毎朝起こしに来てくれる幼馴染みのアスカが来なかった。代わりに母のユイが起こしに来たのだ。違和感を感じつつシンジは眠い目を擦りながら体を起こした
「アスカは…?」「後で話すから先に着替えなさい。」
シンジは制服に着替えてダイニングへ行った
「父さんおはよう。」「ああ…」
ゲンドウの横に座ると既に並べられている朝食をつつく
「あっ母さん。アスカどうしたの?」
「朝ねキョウコから電話あって、昨日の夜アスカちゃん倒れて病院へ行ったのよ。」
「ええぇっ!!」シンジは驚いて思わず立ち上がる
「でも心配しないで。軽い貧血みたいだから。」
「そうなんだ…あのアスカが…」
あの元気で小さい頃から病気もした事無いアスカが倒れたのが驚きだった。少しの胸騒ぎを感じつつ朝食の残りを食べる
「たまにはお前もアスカちゃんに何かしてやれ。お前の世話で倒れたかもしれんぞ。」
「うっ…うるさいな…(アスカのためにできる事か…)」
この時は深く考えていなかった

90: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 16:30:48 ID:???
「アスカちゃん今はもう家で安静にしてるみたいだから、学校終わったら行ってあげたら?」
「そうなんだ。帰りにお菓子でも買って行ってあげよ!いってきます。」
アスカの事だから家で退屈だと愚痴をこぼしてるに違いない。シンジはそんなアスカの様子を思い浮かべながら家を出た
教室に入るとヒカリが声を掛けてきた。
「碇君おはよう!アスカは?」
「おはよう。アスカは今日は休み。体調不良で。」
「えぇ!」クラスのみんなが驚く
「あのアスカが?」「そりゃアスカも人間だし…」
本人が居たなら教室は戦火となっていただろう
「惣流がおらんと静かやの~。」
昼休み。トウジ、ケンスケ、シンジ、ヒカリ、レイは屋上で弁当を食べて居る。いつもはもう一人いるのだが。
「惣流が倒れるなんてな~。」
「また言ってる…」
「アスカが居ないから今日は碇君は私の物~!」
シンジの腕にしがみつくレイ
「ちょっ綾波!」
「お前らはいいよな…」
右横ではトウジとヒカリが仲良く弁当食べ、左横でレイとシンジがベタベタしている光景を見ながらケンスケは一人寂しくパンをかじっていた

91: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 16:38:29 ID:???
最後のHRが終わるとシンジはすぐ教室を飛び出した。朝からアスカの顔を見てない事がシンジを急かす。途中でコンビニでお菓子を買い、走ってアスカの家に向かった。
ピンポーン
「は~い。」アスカが出て来て驚く。
「アスカ起きてて大丈夫なの?」
「あぁ全然へーき。もう元気よ!」
アスカはシンジを招き入れた。
「あれ?キョウコさんは?」
「仕事よ。娘が倒れたってぇのにあの母親は…」
「元気そうで良かった。ちょっと心配してたんだ。」
「ただの貧血だったし、まぁ一応安静にしろって医者が言うから仕方なく学校休んだのよ。」
「そっか。あっ。これ差し入れ。」
「サンキュー!シンジにしちゃあ気がきくじゃない!」
「たまにはね…」
「今日朝ちゃんと起きれたの?」
「母さんが起こしてくれたから…」
「明日からまた私が叩き起こしてあげるから!」
「うん!やっぱアスカじゃなきゃ…」
シンジは言いかけて口を閉じる
「何?私じゃないとなんなの?」
シンジの顔を除き込む
「なっなんでもないよ!」
顔を真っ赤にしながらシンジはアスカの視線を逸らした

92: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 17:00:43 ID:???
そして翌朝
「バカシンジ!起きなさいよ!」
「ん…アスカァ…」シンジは枕を抱きしめて心地良さそうにしている
「何寝ぼけてんのバカ!」パチン!!アスカの平手がシンジの頬を捕らえた
「いて!アスカ…おはよう…」
「ったく…さっさと着替えて来なさいよ!」そう言ってアスカは部屋を出て行った
「やっぱアスカじゃないとな」
シンジは一人笑みを浮かべながら着替えて部屋を出る
「じゃあおば様。いってきます!」「いってきます。」
「はい。いってらっしゃい!あなたもさっさとして下さい!」
「ああ…わかってる…ユイ」
シンジとアスカは走っていた。
「もう!またギリギリね…ハァハァ」「ごめん…」
息を切らしながら走っていると、急にアスカはよろけて立ち止まった。アスカの後ろにいたシンジは咄嗟にアスカの体を支える
「アスカ大丈夫?」
「うん…ちょっと目眩がしただけ…」
「まだ体調悪いんじゃ…」
「大丈夫よ。」
「じゃあ歩いていこう。遅刻してもいいよ」
シンジはアスカの手を握り歩く。アスカは握られた手を恥ずかしそうに見ながらシンジに引かれ歩き出した

93: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 17:32:45 ID:???
校門辺りでチャイムが鳴るがアスカを気遣い歩いて校舎に向かう
そして教室に入った途端どよめきが起こった
「おぉ!朝から見せつけてくれるやんけ!ご両人!」
トウジは手を繋いで教室に入って来た二人をひやかす
「あぁ!アスカもう復活!?しかも手…繋いで」
レイはショックを受けている
「あら~?朝から仲良いのはいいけど遅刻はダメよん!」
担任であるミサトまでひやかしている
二人はどちらともなく手を離すと、顔を真っ赤にしながら席についた

体育の時間アスカは倒れた。ずっとアスカを気にしながら授業を受けていたシンジは、アスカが倒れた時走って女子の授業の場所まで行った
「アスカ!大丈夫?」
「シンジ…心配しないで…」
立ち上がろうとするアスカはまたよろけてシンジに寄り掛かる
「碇君早くアスカを保健室へ!」
「うん!アスカ行こう?」
「ごめんね…」
シンジはアスカを背負って保健室へと連れていった
「あんな速いシンジ見た事ないな。」
「そやな…そーとー心配やったんやろ。」
シンジの行動にトウジとケンスケは少し驚いていた

94: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 19:50:04 ID:???
保健室に着くと先生がいた
「先生…アスカが倒れたんで…見てもらいますか?」
「あら珍しいわね?今日はシンジ君じゃないのね?」
シンジはよく体育の時間に怪我やアスカに殴られて保健室に行くことが多かったのだ
「まぁ…」
苦笑いを浮かべながらシンジはアスカを先生の前に座らした
「ん~顔色がすぐれないわね…熱はないみたいだし。ベッド空いてるから少し眠ってなさい。それでも体調がすぐれない場合は今日は帰った方がいいわね。」
「はい…」
先生の言葉を聞くとアスカはベッドに横になった
「じゃあ僕は授業に戻るから。休み時間また来るね。もし帰りたくなったら僕も早退して送るから…」
「うん。悪いわね。でもあまり心配しないで。大丈夫だから。少し寝るわ。」
アスカはシンジに心配させまいと笑顔を作る
「うん。じゃあ行くね。」
シンジはアスカの笑顔にホッとし保健室を後にした
アスカはシンジの優しさに感謝しながらそのまま眠りについた

95: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 20:13:06 ID:???
アスカが目覚めると横にはシンジがいた。「あっ起きた?もう昼休みだよ?」「そうなの?」
アスカ起き上がるがまだ目眩がし、こめかみを手で押さえる
「やっぱ帰る?まだ体調悪いみたいだし…僕送るよ」
「でも悪いわよ…」
「いいよ。気にしないで。いつもアスカには世話になってるから。僕にできる事ならなんでもするよ!」
アスカは顔を赤らめながら頷いた
「ありがと…」
「アスカの制服と鞄持って来るから!」
シンジは職員室に行き担任のミサトに早退する事を告げ教室から自分とアスカの荷物を持ち保健室に戻って来た
「はい。」
「ありがとっ。」「うん。」「……ちょっと!」
「え?なに?」
「着替えるんだから出てよ!」
「あっそか…ごめん!」
シンジは慌てて出て行きカーテンを閉める。カーテン越しでアスカが着替えていると思うと色々想像し、ドキドキしていた
「お待たせ~。ってなにボーっとしてんのよ?」
「いや…なにも考えてないよ!」
「イヤラシイ事考えてたんでしょ!」
顔を真っ赤にしてるシンジに鋭い指摘をすると、アスカはシンジに軽くデコピンをした

96: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 20:37:42 ID:???
二人は手を繋ぎながら学校を後にした。
「海行きたい。」
急に立ち止まるとアスカは言い出す
「え?」
アスカの方を振り返るシンジ
「なんでもしてくれるんでしょ?海に連れてって!」
「でも帰って休まないと…」
「イヤイヤ!今行きたい!私は元気よ!」
「う~ん。わかったよ…」
アスカの強引さに負けシンジは渋々言うとおりにした
二人はバスに乗り込み海へ向かった
三時間ほどかかり海に着いた
「う~ん!いい香り~!」
潮風を浴びながらアスカは海へ走って行く
心配したが元気そうに走っているアスカを見てシンジはホッとした
「アスカあまり走っちゃダメだよ!」
シンジはアスカの後を追い近寄って行く
「大丈夫っ!」
ペタンとアスカは浜辺に座り込む。シンジもその横に座り込んだ
少しの間会話もなく二人はただ海を眺めていた。その沈黙を破ったのはアスカだった
「ねぇ…シンジ…。キスしようか…」
「えっ?」
驚いてアスカの方を向く。アスカは顔を赤く染めたまま海を見つめていた

97: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 22:51:06 ID:???
「嫌?」
視線を海に向けたままシンジに問う
シンジは黙ってアスカの肩に手を添え自分の方へ向かせる。そしてそのままアスカにキスをした
長い長いキス
ようやく唇を離すと二人は照れくさくなって俯いた
また沈黙がおとずれる。それを次はシンジが破った
「あの…アスカ。え~と…。」
「なによ?はっきり言いなさいよ。」
「ぼ…僕アスカの事ずっと昔から好きなんだ…」
「そう…」
シンジの言葉に嬉しくなり笑みがこぼれる
「な…なに笑ってんだよ…」
シンジは恥ずかしさでいっぱいだ
「いや…嬉しいのよ…。アタシも好きよ。シンジの事」
アスカが笑ってシンジに言う。その顔を見てシンジは再びアスカの口に自分の唇を重ねた
今度は軽く短いキス。
「ありがとう。僕も嬉しいよ。」
「シンジから言ってくれるなんて一生ないと思ってた~。だから余計嬉しいかも…」
「僕も一生言えないと思ってたよ…。キッカケをくれたのはアスカだよ。」
(シンジありがとう)
今日助けてもらったいろんな事をシンジに感謝しながら海の向こうに沈む夕日を眺めていた

98: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 23:34:08 ID:???
「ああ!もうこんな時間!?帰らなきゃ…」「え?」
アスカは腕時計を見ながら立ち上がった
時間はもう六時を過ぎていた。慌ててバスに乗り込んだ

「うわ…遅くなっちゃったね。キョウコさん怒るんじゃ…」
バスを降り家路を歩く二人。もう9時を過ぎた所だ
「シンジと一緒だったって言えば大丈夫よ。」
「そう…」
「それよりユイさんの方が怒るんじゃない?『こんな時間まで女の子連れ回して!』とか言って。」
アスカの言葉は的中。シンジはユイにアスカの言った通りに説教をくらった。
説教が終わると疲れたシンジはそのまま部屋へ行きベッドに倒れこんだ「はぁ疲れた…」そのまま深い眠りについた

そのころアスカは湯船に浸かり今日シンジとキスした事。好きだと言われた事を思い出していた。また嬉しさが込み上げる
風呂から上がったアスカは、また立ち暗みがし裸のまま倒れた。その音でキョウコは慌ててアスカの元へ走りすぐに救急車を呼んだ
ユイも心配になりアスカの救急車に乗り込んだ。家が隣で救急車に気がついたのだ。
シンジは気付かないまま幸せそうに寝息をたてていた

100: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/14(金) 23:59:04 ID:???
翌朝シンジは胸ぐらを掴まれ強引に起こされた。重い瞼を開けるとゲンドウがいた
「起きろ。朝だ…」
「…うわっ!父さん!?」
ゲンドウが手を離すとシンジはそのまま床に崩れ落ちた
「どうして父さんなの…?」
今日はまた違った朝を迎えたシンジ
着替えてダイニングへ行く
「あれ母さんは?」
「キョウコさんと一緒だ…」
「どうして?」
シンジの質問に答えずゲンドウは言った
「シンジ…これからは一人で起きろ。いつまでも他人に頼るな…」
「へ?」
「アスカちゃんは入院した。だからだ」
「そんなアスカが?いつの間に…昨日元気だったよ?どうして?大丈夫なの?」
「ああ問題ない…」
「そう…」
「学校は行け。それから見舞いに行ってやれ」
「う…ん…」
学校に行ってもシンジはずっとアスカの事が気になって仕方がなかった。クラスの皆にはアスカの事は言わなかった。シンジもこの時はすぐ元気になって戻ってくると思っていた。昨日の今日。アスカに会いたい気持ちが高ぶる
学校を終えるとシンジはすぐに病院へと走り出した

102: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/15(土) 11:59:57 ID:???
アスカの病室に着く
「アスカ大丈夫なの?」
シンジは息を切らしながら言った
「あっシンジ!大丈夫よ。ただの疲労だって!」
「本当に?ビックリしたよ。」
「私元気でしょ?」
満面の笑みでシンジに言う
「そうだね。よかった…」

そのころキョウコは医者に呼び出されていた
「血液検査の結果、娘さんは急性白血病と思われます」
「え?そんな…治りますよね!?」
「絶対とは言い切れませんが…治る確率はあります。あなたも支えてあげて下さい。」
「はい…」
キョウコは電話でユイに医者から聞いた事を告げた。本人とシンジには黙っててほしい事も。そしてアスカの病室へ戻る
「あっキョウコさん。こんにちは。」
「シンジ君わざわざ来てくれてありがとうね。」
「ママ。先生なんて言ってたの?」
「安静にして体力と栄養をつけなさいって。体が弱ってるみたいね。」
できる限り嘘をつく
「アスカは体力めちゃくちゃあるのにね?」
「そうよ!それじゃすぐ退院できるわね!」
「アスカが頑張ればできるわ。」
キョウコは悲しみを抑えアスカに笑顔を贈った

103: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/15(土) 12:22:47 ID:???
それから一週間。アスカは退院できずにいた。シンジは毎日お見舞いに行っている。
「アスカ。来週からテストだよ~?いつもアスカに教えてもらってるから今回はやばいかも…」
「たまには自分の力で勉強しなさいよ!朝ちゃんと起きてる?」
「うん。一人でなんとか起きてるよ。今までアスカに頼りっぱなしだったね。ごめん…」
「謝るな!私も別に嫌じゃなかったし…」
「ありがとうアスカ」
シンジは顔を赤くしているアスカの頬に軽くキスをした
「なっ…なにすんのよ!こんな所で…」
「嫌だった?」
「嫌じゃないけど…」
突然の事で恥ずかしいのだ
「そうだシンジ!明日ね外泊許可もらったの」
「外泊許可?退院じゃないの?」
「うん…一日だけ。だから海連れてってよ。」
「またぁ?遠いけど大丈夫?」
「絶対行きたいの。」
「わかったよ!」
「約束!」
アスカは小指を出しシンジに指切りをさせた
アスカには日に日に自分の体が弱ってる事に気付いていた。不安がいっぱいだったがそれを面には出さない。アスカの強がりな性格がそうさせていた

104: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/15(土) 12:46:27 ID:???
そこへヒカリとトウジとケンスケが見舞いにやって来た。今日アスカが入院してる事を知ったのだ
「みんなぁ!久しぶり!」
「アスカ大丈夫なの?」
「大丈夫よヒカリ!ほら!」
両手を挙げて元気な素振りを見せる
「ホンマ入院してるって聞いたときはビックリしたで~!」
「あの惣流が入院だとはな~」
「なによ!私もか弱い女の子なのよ!」
久しぶりの友達との会話に盛り上がる。アスカは少しだけ元気を取り戻したようだった
「二人の邪魔しちゃ悪いし、そろそろ帰るわ~。」
「そうだな。二人とも仲良くしろよ」
「じゃあねアスカ。碇君。」
「うん。またねヒカリ。」
「じゃあまた学校で!」
「ふぅ~久しぶりに思いっきりしゃべったわ…」
「アスカ疲れたんじゃない?少し眠りなよ?」
「うん。シンジも疲れたでしょ。今日は帰っていいわよ。明日帰るから家で待ってなさいよ。」
「わかった。じゃまた明日。おやすみ」
シンジはまた軽くキスを交わし病室を出て行った
「バカ…」
アスカは恥ずかしさと嬉しさをいっぱい抱えながら布団に潜り込み、そのまま眠りについた

105: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/15(土) 13:11:36 ID:???
翌朝シンジはアスカに叩き起こされた
「起きなさいよ!もう9時よ!」
休日で普段ならまだまだ寝ている時間だ
「う…んアスカ」
久しぶりにアスカに起こされすぐ目が覚める
「早く着替えてらっしゃい!」
シンジが着替えている間アスカはユイと話をしていた
「体大丈夫なの?海行くんでしょ?」
病気の事を知っているユイは心配でたまらない
「大丈夫ですよ!シンジも一緒だし。ママもいいって言ってくれたし!」
「そう…気をつけてね?」
「はい!じゃあ行ってきますね!」
シンジがちょうど着替えて来てすぐ家を出た
昼過ぎ二人は前来た同じ海に来ていた
「泳ぎたいなぁ…」
ファーストフードのハンバーガーをかじりながらアスカは呟く
「元気になったら嫌ってくらい泳ぎに連れてってあげるよ!」
「そういえば…テスト終わったら修学旅行じゃない?」
「うん。」
「行けるかな…沖縄よね?スクーバーしたい。」
「…行けるよ…」
シンジはそっと後ろから座り込むアスカを抱きしめる
「アタシね…怖いんだ…本当は…」
シンジの温もりを感じアスカは思わず本音を吐いた

106: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/15(土) 14:03:44 ID:???
「アスカ?」
「私ね…わかるんだ…自分で。元気になるどころか日に日に体が弱くなってる…アタシ…病気なのかな…?」
波の音でかき消されてしまいそうな小さな声
シンジは抱きしめる力を強めた
「病気でもなんでもアスカは負けない。だってアスカ強いもん。僕の知ってるアスカは何にでも負けた事ない。」
「でも怖いよ…一人じゃ無理だよ…一人は嫌…」
「一人じゃないよ。僕がいる。僕にできる事ならなんでもするって言っただろ?」
アスカの体を自分の方へむかせる。アスカの長い髪を撫でながらシンジは優しくキスをした
「シンジ…ずっと側にいて…ただそれだけでいいから…」
「うん。」
ずっと二人は抱き合っていた。大切なものを離さないように。

夕方二人は家路を歩いていた
「今日は楽しかった!ありがとうシンジ!」
「うん。いいよ別に…退院したらまた行こう!」
アスカのお礼の言葉に照れくさそうに頭を掻きながらシンジは言った
「うん…」
その日アスカは久しぶりのキョウコの手料理を味わい自分のベッドで深い眠りについた

107: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 03:57:08 ID:???
翌日アスカは再び入院した。本格的に治療するため、病室が無菌室の部屋へ移動された。その時初めてアスカは自分の病名を知った。キョウコは告知した方が本人も病気と戦い安いだろうと医者に進められたのだ
「辛いだろうけど絶対治らないわけじゃないから、頑張ろう。」
医者から言われた言葉。それでも不安は消えない。まさか白血病だなんて。
「アスカちゃん。頑張ろうね?」
「うん。私頑張るわ。ママ!」
不安を抱えながらも皆の前では強気を振る舞った。
シンジは午前中でテストを終え病気に駆け付けた。
いつもの病室に行くがアスカがいない。
「あれ?」
通りすがりの看護士に聞き移動された部屋へ向かう。
「シンジ君!」
「キョウコさんこんにちは。アスカは?この部屋ですか?」
「そうよ。今日から面会する時はこれを来て。」
給食のエプロンみたいなやつと帽子
「え?アスカやっぱり病気なんですか?」
「そうよ…白血病なのよ…シンジ君支えてあげてちょうだい」
「……はい」
白血病。シンジはピンとこなかった。どんな病気か知らなかったからだ。

108: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 04:20:55 ID:???
「アスカ!」
「あ~シンジ!テストどうだった?」
「え?あぁテスト?全然ダメ…」
「テスト前日にアタシが連れ回しちゃったもんね…勉強する時間潰しちゃったわね…」
「連れ回されなくても勉強しなかったと思うし…」
苦笑いを浮かべながらシンジは言う
「アンタ帰って勉強したら?」
「いいよ。アスカと一緒にいたいし。夜するから。」
「あっそ。」
アスカはそっけない返事をしながらも顔を赤くする。そして少し沈黙がおとずれた後アスカが俯いたまま言った
「シンジィ…アタシ修学旅行行けない…」
「うん…アスカが行かないなら僕も行かないよ…」
「あんたバカァ?」
「え?なんで?」
「あんたは行って私にお土産を持って帰るという仕事があんのよ!」
「お土産?」
「そう!いっぱい沖縄の写真撮ってきなさい!あと砂と海水も!わかったわね?」
「え…あ…うん。わかったよ…」
シンジはアスカがいないなら行きたくなかったが、渋々行くことに決めた。
夕方シンジは病院の帰りに本屋で白血病について調べた。その時初めて怖い病気だと知った。

109: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 05:05:20 ID:???
そしてテスト最終日を終えシンジはいつもどおりアスカの病室へ来ていた。
「明日ね…沖縄。私の分も楽しんでくるのよ?」
「うん…」
笑って言うアスカを見てシンジは胸が痛んだ。ずっと楽しみにしてた事知っていたから。

そして修学旅行―
シンジはアスカの言われた通り、何十枚もの写真を撮り、ビンに海水と砂を詰めた。
アスカのいない修学旅行はシンジにとって淋しく、辛いものとなった。
四日後―
シンジが帰って来る日
アスカ薬の副作用に苦しんでいた。
「なによ…これ…」
目覚めると髪の毛が枕に散らばっていた。
アスカのイライラはピークに達していた。
「なんで私がこんな目にあわなきゃなんないのよ!」
「アスカ…落ち着いて…お願い」
「全部抜けちゃうの?ねぇ…?ねぇ!?」
「大丈夫だから…大丈夫だから…」
キョウコはそれしか言えなかった。アスカは布団に潜り込みずっと泣いていた。
(こんなんじゃシンジに会えないよ…)
やっと会えると思ってた日。ずっと楽しみに待っていた日なのにアスカは辛い気持ちを抱えずにはいられなかった

110: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 05:24:53 ID:???
シンジは走ってアスカの病室まで行く。(早く会いたい!)シンジの心は弾んでいた。
「アスカ!ただいま!」
「……シンジ…」
布団に潜ったまま返事をする。
「こっち見ないで…」
「え?どうして?」
「後ろ向いてて早く…」
「わかった…」
少し布団から顔出し、シンジが後ろを向いてるのを確認すると、アスカは鏡を取りだし自分の髪の毛をチェックした。
(まだまだいけるわね…)
あまり抜けた事がわからないと確認すると
「シンジいいわよ。」
「うん…あ…やっと見れた。」
「なによ。そのセリフは…」
シンジは久しぶりにアスカの顔を見てホッとする
「いや。あっこれお土産!写真は現像出したから明日持って来るよ。」
「ありがと…ねぇ楽しかった?」
「アスカがいなかったから淋しかったよ…」
「バカね~?そんなの気にせず楽しめばよかったのに…」
「僕はアスカいないとやっぱりダメだ…」
苦笑いで言うシンジ
「バカ…」
アスカはシンジの言葉に照れていた。


111: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 13:45:08 ID:???
学校が夏休みに入りシンジは毎日朝からアスカの見舞いに来ていた。
アスカの体は日に日に痩せて髪の毛も少し薄くなっている事にシンジは気付いていた。
アスカはそんな自分をシンジに見られるのが辛かった。
そしてある日アスカはキョウコに告げた
「ねぇママ…私ドイツに行きたい…」
アスカは6歳から四年間ドイツで暮らしていた。キョウコが元々ドイツで育ったため家はドイツにもある。アスカはその事を知っていて言い出したのだ。
「本気なの?」
「うん…シンジに会うのが辛いの…このまま毛が抜け続けて、痩せて…そんな自分を見られたくないの…」
「アスカが本当にそうしたいなら…構わないわ…」
キョウコはネルフと言うゲンドウが経営している会社に勤めていて、ドイツにも支部があり仕事もなんとかなるのでドイツに行く問題はなかった。
「できるだけすぐ行きいから…」
「そう…わかったわ。先生にも相談してみるわ。」
翌日医者はアスカの抗がん剤の治療をやめると告げた。アスカの癌細胞は辛うじてだか減って、副作用により体力も減少していたため、どのみち少しの間、治療を延ばす予定だった

112: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 14:09:26 ID:???
夏休みも残り一週間をきった頃シンジは朝から日課になっていたアスカのお見舞いに向かう
しかし病室にアスカの姿はなかった。
その日アスカは退院しすぐドイツに行ってしまったのだ。シンジに黙って
すぐに看護士に聞きに行く。
「惣流さんなら今朝退院したわよ。よく知らないけど違う病院に移ったんじゃない?」
「嘘だ…」
シンジはアスカの家へ走った。インターホンを鳴らすが返事はない。
「アスカ…どこに…?」
シンジは家に帰りすぐゲンドウの会社へ電話した。
「シンジか。どうした?」
「父さん!キョウコさん居る?アスカが病院にいないんだ!」
「キョウコさんはドイツに転勤した。」
「え?じゃあ…まさかアスカもドイツに?」
「そうだ」
「どうして…?ねぇ?どうしてだよ!?」
「今は忙しい…話は帰ってからだ。切るぞ」
「父さん!」
電話は切られてしまった。
シンジ呆然と立ち尽くしていた。
(アスカがいなくなるなんて…そんなの嫌だ…アスカがいないと嫌だ…アスカがいないと…「僕は駄目なんだよ!」
そう叫びながらシンジはその場で泣き崩れた

113: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 14:38:27 ID:???
そして夜ゲンドウとユイが帰ってきた。
すぐにシンジはゲンドウのもとえ駆け寄って叫んだ
「父さん!知ってたんだろ?どうして教えてくれなかったの!?どうして転勤させたんだよ!」
シンジがゲンドウに掴み掛かる。するとユイが
「アスカちゃんが決めた事なの…シンジには黙ってて欲しい事も。」
「嘘だ!嘘だ!嘘だ…アスカは僕にそばにいて欲しいって…一人は嫌だって…」
「事実だ。受け止めろ。」
「う…ぅ…うぐ…」
「シンジ。アスカちゃんから預かったわ。」
シンジは涙で視界がぼやけながらもユイからアスカの手紙をしっかり受け取った。
「アスカから…?」
「シンジ…私達も淋しいのよ…アスカちゃんもきっと…」
ユイの話を最後まで聞かずシンジは自屋へと走っていった。
「シンジ大丈夫かしら…」
「あいつももう子供ではない。自分で立ち直るしかない。」
「あなた…私達にとってはずっと子供よ…」
「………」


114: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/17(月) 15:17:43 ID:???
シンジは涙を拭いながら、アスカからの手紙を読み始めた
『シンジへ
アンタの事だから今頃泣きじゃくってるんじゃない?昔、私がドイツ行く事になった時も「アスカがいないと駄目なんだ!」って空港で泣き叫んでたもんね~。
何年か後に再会した時も泣いててさ。コイツ全然成長してないじゃんって思った。ちょっとは逞しくなってるんじゃないかって期待してたのにさ。それからもアンタは成長しない。ずっとアタシに頼りっぱなし。
でも、本当は私がシンジに頼って欲しかったのかも。ずっと側にいたかったから。本当はね。シンジと離れたくない。一緒にいたいよ。でもね、醜くくなっていく私を見られたくないの。シンジには綺麗な私を覚えてて欲しいの。もしこのまま私が死んでしまっても…
シンジ、綺麗な私を覚えていてね。忘れないでね。もう会えないかもしれないけど、私はシンジを死ぬまで好きよ。
PS.幸せになりなさいよ!強くなりなさいよ!バカシンジ!
バイバイ
惣流 アスカより』
「……アスカ…死ぬとか悲しい事言うなよ…アスカがいないと幸せになれないよ…」
シンジは手紙を握り締め泣いていた

116: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/18(火) 01:42:21 ID:???
夏休みが明け学校が始まった。
シンジは重い足取りで学校への道を歩いていた。もうこの道をアスカと歩けない。これからは一人なんだと痛感する。
教室へ着くと久しぶりに聞くさわがしい皆の声がシンジには耳障りだった。
チャイムが鳴り担任のミサトが教室へ入ってくると、生徒たちに告げる。
「おはよ~!え~皆に話があります。アスカが家庭の事情でドイツに行ってしまいました。」
「「え~!!」」
「突然決まった事なのでみんなにはお別れを言えなくて残念だって言ってわ。淋しくなるけど離れてもアスカの友達でいてあげてねん!じゃあ始業式あるから体育館に集合!」
生徒たちは驚きの余韻を残して教室を出ていく。
シンジはずっと机に伏せたまま動かなかった。
「おいシンジ?式出ないのか?」
「ケンスケ。そっとしといたれ…」
二人はそう言うと教室を出て行った。一人なったと思い顔を上げたシンジ
「碇君…」
目の前にはレイがいた
「綾波…」
「知ってたの?アスカの事…止めなかったの?」
「本当に…突然だったんだ…気付いた時にはもうアスカはいなかったんだ…」

117: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/18(火) 02:14:41 ID:???
レイは複雑な気持ちだった。シンジの事が好きだからアスカいなくなって良かったと心のどこかで思う。けどそのせいでシンジに元気がなくなるのは辛い。
「元気出してよ…ね?」
かける言葉が見つからない。でもレイは少しでもシンジに元気になってもらいたかった。
「うん…ごめん。」
無理して笑っているレイにシンジは申し訳ない気持ちになった。
放課後シンジはヒカリと屋上にいた。
「話って…?」
「あのね…ドイツに行く前にね。アスカと話したの。」
ヒカリは唯一アスカの事を知っている友達。
「なんて?!」
「碇君弱いからアスカが居なくなったらいつまでもウジウジしてるんじゃないかって心配してた。
アスカはドイツで頑張って病気治して、絶対帰りたいって…碇君にもう一度会いたいって言ってたわ…だから…アスカが頑張ってるんだから碇君もいつまでも落ち込まないで!」
手紙にはもう会えないよな事が書いていたから不安だった。ヒカリの言葉を聞きシンジは前を向いた
「ありがとう!委員長!(アスカは頑張ってるんだ…会いたい…)僕ももう一度会いたいと思う!笑って会いたい!」

120: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/19(水) 01:34:36 ID:???
それからシンジは少しずつ変わっていった。朝は自分でちゃんと起き、勉強も一人でもするようになった。毎晩アスカの手紙を読みながら泣いていたが、それも時が経つにつれなくなった。
そして、アスカと離れてから6度目の夏が訪れた。
二十歳になったシンジは身長も伸び、体もたくましくなっていた。
毎年夏のある日にシンジは海へ来ていた。アスカと初めてキスを交したあの日あの海。
今日も朝から海で一人たたずむ。
空を見上げながらシンジは思う。
(この空はアスカに繋がってる…アスカ…元気かな?今でも好きだよ…届けてよ…アスカに…早く会いたいよ…)
アスカの温もり、声、笑顔…アスカと一緒にいた事を思い出す。
今までずっとアスカの事を考えない日はなかった。
シンジは潮風を感じながら、目を閉じた。

121: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/19(水) 02:02:33 ID:???
「ヘロォ~シンジ!グーテンモルゲン!」
「!!」
後ろから急に声がし、シンジは一瞬外人に話かけられたと思いドキッとする。
しかし、自分の名を呼ぶ聞き覚えのある声に、まさかと思い振り返った。
高台の上に人の足、少しずつ見上げていくと太陽の光が眩しく目を背ける。だんだんはっきりしていく視界。
太陽の光に包まれてその人の姿がはっきりとシンジの目に映った。
「あ…あ…ぁ」
声にならない驚きと喜び。シンジが口をパクパクさせていると、アスカはそこからピョンと飛び降りシンジの目の前に立った。
「朝からな~に一人黄昏てるのよ~」
「ア…ス…カ?」
目を見開いてアスカを見る。
「何よその顔。このアタシと久しぶりに会ったんだから、もっと嬉しそうな顔しなさいよ!」
軽くシンジにデコピンをする。
シンジ喜びもあったがそれよりも驚きを隠せなかった。
心のどこかでアスカとはもう会えないかもしれない、もしかしたらアスカは…最悪の事態を考えた事もあったのは事実。
でもずっと信じてた。いつか会えると。
シンジの目には涙が浮かんでいた。

122: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/04/19(水) 02:23:10 ID:???
「またぁ、泣くの?相変わらずね。」
「うっ…」
シンジは溜まった涙を零さないように上を向き拭う。
そして満面の笑みでアスカを見た。
「アスカ…おかえり!」
笑顔で会いたい。ずっと思ってた。
「た…ただいま…」
代わりにアスカの瞳から涙が零れた。シンジの笑顔と言葉。やっと会えた事。アスカはシンジの頬を優しく撫でる。シンジの存在を確かめるように。あの時同じ目線だったのに、今は見上げるほどに高くなったシンジ。
シンジは自分の頬を撫でるアスカの手を取るとそのままアスカを抱き寄せた。
「ずっと…この時を待ってた。やっと会えた。アスカ。」
「待っててくれたんだ…」
アスカは不安だった。もしかしたらシンジは自分の事忘れてしまってるかもしれない。覚えていても好きじゃなくなってるかもしれない。
今優しく自分を包んでくれる温もりに不安は消えていく。
アスカはたくましく成長したシンジの胸に顔をうずめて呟いた。
「ありがとう…シンジ…」





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