602: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/01(金) 11:29:20 ID:???
放課後、シンクロテストが終わり、一人で帰路に着く。
昨日までの雨がまるで嘘のように、西の空は赤く染まっていた。
いちゃついてるカップルを横目に公園を横切る。
信号は都合よく青だ。
家の前に一枚の、赤いMDを見つけた。
夕日にまじって消えてしまいそうな赤。
それが二週間前の話。

604: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/01(金) 12:17:19 ID:???
次の日、同じようにシンクロテストからの帰り道、公園の片隅にMDを見つけた。
前の日と同じ赤いMDだった。
気になって少し立ち止まったが、結局見なかったことにした。
その日は信号に引っかかった。
家までの距離が長く感じる。
アスカはその日も帰らなかった。

605: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/01(金) 12:26:04 ID:???
その次の日は雨が降った。
急な雨だったので傘も差さず僕は走って帰ってきた。
その日MDは家の郵便受けの中に入っていた。
自然に手が伸び、濡れないように気を配りながらそのMDをうちに入れた。
部屋に行きプレーヤーに差込み、何も考えず再生ボタンを押した。

608: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:25:03 ID:???
「おい。」
男の声が聞こえた。
「昨日無視したろ。その前の日も。」
「あ・・・、あ、すみませんでした。」
僕はびっくりして、そう答えることしか出来なかった。
「危なかったよ。今日雨降ったろ?もうちょっとで濡れるところだったよ。」
「あ、ほんと・・・ごめんなさい・・・」
「いや別にお前が悪いわけじゃないけどよ。」

609: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:29:19 ID:???
「や、でもすみさせんでした。やっぱり濡れるとまずいんですか?」
「あー?・・・まぁ一応電化製品だしな。精密機械じゃないから多少は大丈夫かもな。」
「僕以前CD雨で濡らしちゃったことありましたけど、なんともありませんでしたよ。」
「あー、んじゃあ俺も大丈夫なのかもな。」

610: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:33:27 ID:???
「なあ、おまえこれチェロでも弾くのか?」
「あはい、小さい頃からやっていて、今はもう惰性でやってるようなもんで・・・」
「あー、聴かせてくれよ。これこっちのプレーヤーに接続したりできるか?」
「あ、いえ、そういうことが出来るのもあるかもしれないですけど、僕のは無理です。」
「あーしょうがないな。んじゃいいわ。」

611: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:36:34 ID:???
「あ、じゃぁ何かクラシックのCDでもかけましょうか」
「あーうん、そうしてもらおうかな。お前結構いいやつだな。」
彼の声は単調で、ほとんど変化がない。

612: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:41:22 ID:???
曲も終わりに近づいてきた。
彼は「あー、もうそろそろ時間だ。俺行くわ」と言った。
どうすればいいか分からない。
「とりあえず、同じように郵便受けに入れといてくれよ。ディスク面やわらかいから取り出すとき気をつけてな。」
「あ、はい。じゃぁすいません、失礼します。」
僕はディスクを取り出すと、雨に濡れないように気をつけて郵便受けに戻した。

613: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/02(土) 17:47:32 ID:???
彼を送り出すと、途端に天気がひどくなった気がした。
僕は布団に寝転んだ。
雨が降ると、世界は静かになるな。

615: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 10:46:49 ID:???
6日は僕の誕生日だった。
アスカは最新のポータブルMDプレイヤーを買ってきてくれた。
テストが終わり一緒に帰ると、郵便受けの上にMDがあった。
「お、おかえり。彼女?」
「あ、はい。彼女です。」
「ねぇ、なによそれ?」
「あーじゃあ俺今日は邪魔かな、出直すよ。」
「あ、いや、そんなことないですけど、すみません」
「ねぇ、どこで知り合ったのよ?」
「じゃぁまたな。」
彼がそれっきりしゃべることは無かったので、僕は彼を送り出した。

616: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 10:51:20 ID:???
彼が帰った後、アスカに彼のことを少し説明をした。
アスカは興味深そうに聞いた。
その後は、僕はチェロ、アスカはヴァイオリン。二人で弾いた。
一緒に弾くのはどれぐらいぶりだろう。
アスカがヴァイオリンを抱いたまま寝てしまった。
ネックに悪いと思い、そっとヴァイオリンを取り上げてケースにしまった。

617: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 10:53:58 ID:???
アスカが寝てしまったので、僕は夜の散歩に出かけた。
すぐそこに彼を見つけた。
「今日はすみませんでした。」
「んー、いいよ」
彼をと一緒に小さな公園へ向かった。

618: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 10:57:03 ID:???
「夜の公園って静かだな。」
「そうですね。昼の騒がしさが余計夜の寂しさを引き立てますね」
「・・・名前聞いていい?」
「シンジです」
「しんじ。何歳?」
「18」
「あー」
「えっと、あなたの名前なんていうんですか?」
「名前は無いよ。」
彼の声は終始単調だ。

619: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:00:47 ID:???
「お」
「あ、また雨降ってきましたね」
「降ってきたね。」
「傘持ってますし大丈夫ですよ。」
「あんま長いこと留守にすると彼女が怖がるし、帰りな」
「や、寝てますよ。」
「風邪ひいてもつまんないし、帰りな。」
「あ、・・・あはい。じゃぁまた」
彼がそこでいいと言ったので、彼を公園の土管の中へ送り出して帰った。

620: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:02:48 ID:???
部屋に戻ると、アスカは布団を跳ね除けて寝ていた。
布団をかけたら「茶!」と言った。
お茶をコップに注いで飲ませた
「アスカ、お茶飲んだらトイレいっといで」
「ん」
明日も雨は降るのかな

621: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:07:59 ID:???
10日夜、アスカを迎えに駅までいった
帰ってきたアスカは疲れ切った顔をしていた。
「お帰り。お疲れ様。早く帰ろう」
「うん・・・今日はネルフの他の研究員の人と飲み会だったんだけど」
「飲んできたの?じゃぁご飯いらない?」
「んーん。ほとんど飲んだり食べたりしなかった。」

622: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:16:27 ID:???
「あ、じゃぁトマトのパスタ作ってあげるよ。」
「今日も、飲み終わったらみんな何も言わず自分の家に帰ってって」
「・・・うん」
「ひどいわよ。飲んでるときは『惣龍さんすごいよね、なんでも率先してやっててさ』とか言っちゃってるの」
「うん」
「自分たちは準備も何にもせずに飲むだけ飲んで」
「うん」

623: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:18:23 ID:???
「テストの時だってそうよ。みんな自分の実験が結果として表れるか。興味があるのはそこだけ。」
「・・・」
「パイロットのことなんて何も考えてない。シンジの安否に胃が痛むような思いをしてるのもあたしだけ」
「アスカ・・・」
「だから最終チェックとしていつもあたしが一から十までチェックしなおさなきゃいけないの。」
「うん」
「もう無理よ。一人で全部やるなんて。何であたしばっかり・・・!」
「・・・アスカ辛いね。ごめんね」
部屋に帰って僕が遅い夕食を作っている間もアスカは愚痴を言っていた。
そしてごはんを食べるとすぐに寝てしまった。

624: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:20:17 ID:???
アスカが寝たのを見て、パソコンに向かった。
お気に入りに入れていた掲示板は、些細なことでひどい言い争いをしていた。
嫌になってブラウザを閉じ、ヘッドホンをして大音量で音楽をかけた。
変な声、つまらない曲。

625: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:24:44 ID:???
土日は特に用も無かったのでアスカと二人で過ごすことが出来た。

ここ数日彼を見なかった。

626: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:27:21 ID:???
昨日、アスカは仮病を使って仕事を休んだ。
僕は学校へ行ったが、荒れ狂った学級崩壊が嫌になって昼で帰った。
ちょうどアスカが起きたところだったので、無料のインターネットテレビで映画を見て、二人で演奏会をして過ごした。

627: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:29:48 ID:???
アスカは、明日もまた仕事だ、イヤだイヤだイヤだといいながら寝た。
僕はパソコンに向かい、掲示板が大荒れなのを見て電源を切った。
そして卵が切れていたのを思い出すと、外に買いに出かけた。
郵便受けの上に彼がいた。

628: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:36:49 ID:???
「疲れた顔だね」
「…献身的な人が少なすぎるんです。みんな自分のことしか考えてない」
「怒ってるのか」
「人を傷つけて平気でいられる奴らは狂ってるとしか思えない」
「………」
「…言い過ぎました、でも、ただ、わけがわからない。頭の中、どうなってるんだろう」
「………」
「すごく悲しいです」
「………」
「アスカみたいな子には生きにくい世の中です」
「あんまり悲しみすぎると、俺みたいになるよ」
「………」
「優しくて弱い奴らは絶望してこの世に未練を残す。」
「………」
「シンジはどうしたい?何が出来る?」
「………」
「………」
「………ぼくはアスカを支えてあげたいです」
「いいね。強い気持ちは力を生み、世界を抱きしめるんだ。」
初めて彼の声の調子が変わった

「とりあえず結婚しろよ。」

629: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/07/04(月) 11:37:37 ID:???
      終わり






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