732: 転載するか。 2005/08/27(土) 04:33:51 ID:???
僕とアスカのにちようび

「センセ、これもろてくれや。」

昼休み。
トウジが封筒を差し出す。
「何?これ…」
「今度な、委員長でも誘おうか思たんやけどな…ワシに用事出来て、いけそーも無いねん」

封筒の中身は…新聞屋が配ってるらしい、水族館のチケット。2枚。
「トウジ…悪いけど僕じゃ、誘う相手も居ないよ…」
「何言うとんのや!お前の知り合いにはぎょーさん女の子おるやんか!!」
「そ、そんなこと言ったってさぁ…」
「かぁ~っ!なっさけない…碇、この機会に男になれや?」
トウジが僕の背中をバンバン叩く…
「…分かったよ。でも、もし行けなくても文句いわないでよね?」
トウジが嬉しそうに頷く。
「まぁ、そんときはそんときや。ケンスケでも誘ったり!」

…そういう訳で、帰り道に早速考えてみた。
トウジはあぁ言ったけど…僕に誘える人なんて、2人しか居ないじゃないか…
ミサトさんもリツコさんも大人だし、少し近い年でもマヤさんとはあんまり喋らないし…
「ゲームじゃあるまいし、あり得ないよな…」

結局のトコ、2択。
僕は綾波かアスカのどちらかを誘おうと、思う。


733: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:35:13 ID:???
次の日の昼休み、僕は早速誘ってみることにした。
「…居た。」
いつも通り、席に着いてお弁当を食べてる…

(確か、もうそろそろ…)

彼女はいつも通りに席を立つ。
僕も少し遅れて席を立つ…トウジ。
待ってましたってポーズは、やめて欲しいんだけど…
廊下で僕は一人、そわそわして待つ。
(考えたら、僕今までこんな事したことないや…)
…来た。
「あ、」

「綾波っ!」

僕は、綾波を誘った。

734: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:35:45 ID:???
「…ごめんなさい」

僕は、真っ白になった。
「次の日曜日は、定期検診で一日ネルフに行くの。」
「だから、ごめんなさい。」

…2回も、言わなくてもいいじゃないか…
「あ、うん…そっか、お大事にね。」
僕は放心状態のまま、教室に戻る。
初めてのデートの申し込みは、失敗に終わった…
こんな時、どうすれば良いんだろう…
その日は、家まで放心状況で帰った…

リビングのテーブルに、チケットを並べる。

もしかしたら、今はもう一枚だけだったかもしれない、ペアチケット。
「…そういや、お昼も食べてないや…」
落ち込んでても、お腹はペコペコだ。
何か作って、食べる事にした。

735: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:36:26 ID:???
丁度その時、アスカが帰って来た。
「ただいまー。シンジ、帰ってんの?」
冷凍のチャーハンに火を入れた所に、アスカの明るい声が響く。
「あら?もうそんな時間?」
僕が何か作ってるのを見て、ミサトさんの帰宅時間が近いのかと思ったらしい。

「違うよ、コレは僕の分だけだし。」
素早く火を通す為に、フライパンを返す。
何かしてる方が、よっぽど気も紛れるし…
「ん?なにこれ。」

アスカがチケットを手に取る、チャーハンも温まった。
「トウジがくれたんだけどさ…どうしようかこまってるんだ。」
皿に盛って席に着く。
「良かったらアスカ、もらってよ?」
「そうねぇ…あ、今度の日曜まで?」
アスカが考える様な仕草をする。

「いいわよ、行きましょ。」

えっ?

「たーだーし、交通費とお昼はアンタ持ちだからね!」
僕はチャーハンを食べようとして、口に持って来たとこで固まってしまった…
「分かったの?」
「…ぁ、うん!」

今日は金曜日、明後日には…初めてのデートが、待っている。

736: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:37:05 ID:???
 土曜日。

明日の事を考える…と、何だか今でも信じられなかった。
正直な話、僕はアスカを誘いたかった。
…でも、アスカが…僕何かを相手にするとは、思わなかったし。
だから、綾波なら…そう思って誘ったら、断られて…とても悲しかった。

…でも、きっと神様って見てるんだよね。
自分の気持ちに、嘘付いちゃいけないって…チャンスをくれたんだと思う。
だから、明日は失敗出来ないんだ…
帰りに、ネルフに寄って加持さんに…相談してみようかな?

「よぅセンセ、昨日はナンギやったなぁ…」

3時間目が終わった頃、
トウジが僕の肩を叩く、ケンスケも一緒だ。
「…そ、そうでもないよ…」
「いや!分かる。分かるでぇ?しゃあないな…失恋から始まる大人の一歩や、元気出しぃ!!」
「いや、それはいきなり言い過ぎだと思うし…ほんと、大丈夫なんだって!」
そう。
僕は念願叶って、結果的にアスカを誘えたんだ。
「ハァ…碇ぃ、何もワシらに強がるこたぁないで?」
手を組み、ケンスケがやっと口を開く。
「碇…これでもトウジの奴、心配してんだぜ?」
「何やソレ!見れば分かるっちゅー話やろ!!」
トウジがケンスケにど突く。
「…まぁ、何や。明日は俺ら3人、仲良うしよや?」
いや。だから僕は、アスカと行くことになったんだってば…

737: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:37:36 ID:???
放課後。

あの後、何とか事情を話した。
トウジもケンスケも、驚いてた…誰より驚いてたのは、僕なんだけど。
帰り道、一緒に服屋に行って明日に備える。
二人ともそれぞれ好みが違ってて、多少時間がかかったけど…
二人のおかげで、なかなか良い買い物になった。
ファーストフードをかじりつつ、少し作戦を立てた。
別れ際に二人に激励されて、少しだけ勇気が出て来た。

僕はその足で、ネルフに向かう。

「加持さん…」
ミサトさんに聞いてみたら、「スイカに水でもやってんでしょ?」だって…

…あ、ほんとだ。

鼻歌を交えて、水をやる加持さん…僕に気付くと、振り向いてニッと笑う。
「やぁシンジくん、どうしたんだい?こんなとこに。」
僕は、明日の為にデートの知識が欲しいと言った。
…も、もちろんアスカの名前は出さない。
加持さんは上呂を置くと、僕の肩に手を置いた。
「シンジ君…男と女は台本の無い芝居さ。その時の雰囲気で、結構セオリーは無視される。大事なのは、ここさ。」
そう言って加持さんは、僕の左胸に握り拳を当てる。
「恋愛の女神の祝福あれ、だ。」
それだけ言うと、加持さんは上呂を拾い上げる…

なんだか、さらに勇気が沸いた。
加持にお礼を言って立ち去る僕に、加持さんはこう付け加える。

「赤い…イヤリングを、持って行くと良い。」

738: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:38:04 ID:???
僕は町中を走り回って、加持さんの言ってた赤いイヤリングを探した。
空がとてもどす黒い…
早く探さなきゃ!雨降って来そうだ…

腕に、何かを感じた。
「あ…」
…うっすらと降り始めたみたい。
思い当たる所は、全部回った…なのに…
見つからないや…
雨が次第に強くなる…
ダメか…。
僕はこういうとこでツイて無いんだ…
残念だけど、諦めて帰ろう…明日のお弁当もあるし。

日曜日。

アスカは寝しなに
「寝坊するんじゃないわよ?もし寝坊したんなら、アンタとは一生出掛けないんだから!!」
とか言ってたな…
僕は今日の準備でクタクタだったから、思いの他すぐに寝られた。
うん、昨日雨に濡れたけど体調も良い。

739: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:38:36 ID:???
顔を洗って早速お弁当を作る。
アスカの、ハンバーグ多めに入れとこうかな。
僕のはその分、卵焼きでも入れれば…うん、いい感じ。

8:30過ぎ…おかしいな、まだアスカが起きる気配は無い。
いつも、僕より早く起きるのに…

取りあえず、着替えよう…昨日買った服に袖を通す。
青い半袖の上着に、
ポケットの多いハーフパンツ。
今日は、予報通り晴れたみたい…良かった。
帽子も、持って行こう。
準備は万全。
でも、アスカはまだ起きてないみたい…
アスカの部屋の扉をノックしようとしたその時。
「あぁぁぁぁぁっ!?」

び…びっくりした。
アスカの悲鳴。
「ど、どうしたの!?アスカ?」
途端に部屋の中から、バタバタと物音がする。

「…アスカ~?」
「アタシとした事が寝過ごしたわ…シンジ、悪いけど先に行って待ってなさい!」
…昨日は僕に寝坊するなって言ったくせに…
「…分かったよ、アスカ。入口に居るからね?」「えぇ、できるだけ早く行くわ。」

なんだか、大変そうなので先に行って待つ事にした…

740: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:39:28 ID:???
昨日の空が嘘みたいに、今日は晴れた。
雲は疎らで、空の青さが気持ちいい。

電車に乗ると意外にも早くて、30分位で着いた。
結構前からある所らしいんだけど、看板とかの塗装は剥げてない。
あんまり人は居ないみたい…
最近出来たゲームセンターとアトラクションがくっついた様な所が、人気だからかな?
自販機の脇にあるベンチに座って、しばらく考え込む…
アスカ、どんな格好かな?とか…昨日トウジとケンスケと一緒に考えた作戦だったり…とか。
時間の事は、あんまり気にして無かった。

「シンジ!」

「わぁっ!?」
見ると、アスカが覗き込んでいた。
「さ、早く行きましょ!」
入口へと小走りするアスカ。
初めて会ったあの日と同じ、黄色のワンピース。

僕も入口へと、駆けて行く。

741: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:40:02 ID:???
外の看板は、何か古臭いものだったけど…
中は何度も改装が重ねられたらしく、目新しい感じがした。

色とりどりの熱帯魚や、大型の水槽の天井から差し込む太陽光の乱反射…
オブジェや海草に見え隠れする小さな魚は、子供が無邪気に走り回る様な可愛さがあった…

中でもアスカは、真っ赤な体に白い足先がポイントの、小さなエビを気に入ったみたいだ。
「シンジ、この子なかなか可愛いわね?」
「…ホワイト、ソックス?う~ん、名は体を言うしね…」
「弐号機も、こんな風にしたらどうかな?」
いや…いくら何でもソレは…
困る僕を見て、アスカがくすくす笑った。
「…冗談よ。」

お腹も空いてきたので、一度外に出てお昼にした。
屋根の付いたイスとテーブルの立ち並ぶスペースで、お弁当を広げる。
水槽だとかさ張るから、飲み物は近くで買った。

「てっきりレストランで食べるものだと思ってたわ。」
アスカがハンバーグを口に運びながら、そんな事を言う…
「…僕だって、お金があればそうしてたさ。」
「ここのレストランにオリジナルのケーキがあるって話だから、楽しみだったのよ。」
「…ケーキだけなら大丈夫だよ?」
アスカはプチトマトを摘む。
「…いいわよ、また来ればいいし。」

742: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:40:32 ID:???
僕がお弁当箱をしまう傍らで、アスカはパンフレットを広げている。
「…ねぇ、ココってこの裏?」
アスカの指差す所、それは…

「へぇ…こんな山の中にイルカなんて、珍しいね。」
「そぉ?ペンギンでも温泉に行く時代なんだから、そうでもないわよ。」
…いや、ペンペンが特別なだけだし…
そんなことを話つつ、イルカショーの会場入口に向かう…ん?

「…アスカ、何か違和感無い?」
少し声を落として尋ねてみる。
「ふん、あらかたネルフの差し金でしょ?身辺警護の。」
「…それだったら僕が分かる訳無いじゃないか。」
「…まぁ、それもそっか。いつもよりチラチラうざったいのは、気になるの通り越してうざったいしね…」
アスカが僕の腕をとり、ずかずか歩き始める。
「い、痛いよ…何だよいきなり!」
「ハァ?決まってんじゃ無いの!」
アスカは僕も見ずに、そこから声を潜めた。
「その顔、拝んでやるのよ…」
アスカと僕は、そうしてイルカショーの会場に入った…

「…おい、気付かれたんちゃうんか?」
「まだ、肝心のとこが撮れてないんだよ。もう少しだからさ!」
シンジ達が見えなくなったので、ケンスケとトウジが出て来る。
「…やっぱ、こういうんはワイ好きや無いわ…」
うなだれるトウジにケンスケが溜め息を漏らす。
「大体…言い出したのトウジだろ?行くよ!」

743: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/27(土) 04:41:03 ID:???
会場の中に入ると、どこから集まったのか…席はそこそこに埋まっていた。
「あ、アスカ…何処まで行くんだよ!!」
半円型の席の半ばまで来ても、座る気配は無い…以前僕は腕を掴まれてるので、アスカに引かれるまま。
「う、腕が…痛いんだよ…」
アスカがようやく足を止めてくれた…
「じゃあ、これでいいでしょ!?」
と、腕の代わりに手を引っ掴まれてまた歩き出す…やっぱり痛いよ…
しょうがなくそのまま引きずられると出口の近く、前寄りの空いた所に座る。
「会場に入口と出口は一つずつ、アタシだけなら中央上が良いけど…あんたも居るからこっちに座るのよ。」
あ…さっきの誰かを気にしての事なのか…
「あ、でも僕が居るからこっちってのは?」
アスカはこっちも見ない。
始まるステージを見ながら、小さく告げた。
「アンタじゃ、いざって時に人を盾に出来無いでしょ…」
そう言ったアスカは、笑っても悲しんでもいなかった。
「…」
「…」
僕らは、しばらく何も話せずに芸をするイルカを見ていた…

その頃、トウジとケンスケは…
「何でココだけ別料金やねん!?」
「このショーは始まってからずっと、そうなっております。」
係員がなだめる気も無く淡々と返す。
「はい。」
「…確認しました。どうぞ、お急ぎ下さい…」
「ケンスケぇ!!」
「トウジは待っててよ。」
こうして、ケンスケの単独作戦が始まった…

750: 僕とアスカのにちようび 2005/08/27(土) 12:31:14 ID:???
「…アスカは、冷たいね。」
余計な事を、言ってしまった…
「何よ?アンタ死ねって言われたら本当に死ぬの!?」
アスカが突然立上がり、僕に拳を振り上げる!

〈はーい!それじゃそこの黄色いワンピースの女の子、ステージへどうぞ!〉
「ふぇ?」
…どうやらイルカショーの観客を選ぶ瞬間に、勢い良く立上がり手を振り上げたので選ばれた様だった…
「…シンジ、もし何かあったらアンタだけでも逃げなさい。」
僕は立上がり、反論する。
「何言ってんだよ!逃げるんだったら一緒にだよ!?」
「なっ、何言ってんのよ!?大体そんな…」
〈…うーん、よし!お隣りのお兄さんも一緒にどうぞ!!〉
「あ…」
「あ…」

僕らは思わず、顔を見合わせてしまった…

〈さぁ!それではまずお姉さんがお手本を見せます!!〉
「…アンタもよーく周り見てなさいよ?」
「分かってるよぉ…」
係員のお姉さんが、イルカを跳ねさせる。
〈じゃあやってみましょう!!〉
アスカはプールに一歩近付く。
合図を送った、その時…見覚えのある人影?

「あれは…ケンスケ!?」「えっ!?何っ!!」
振り向いた時に丁度イルカが跳ねて、飛沫が盛大に上がる…
「ひゃあっ!?」
飛沫に驚いたアスカが足を滑らす!

「アスカッ!!」

754: 僕とアスカのにちようび 2005/08/27(土) 16:02:14 ID:???
「あたたた…あ、アスカ…大丈夫?」

アスカがこっちに向かって倒れ込み、勢いで僕は尻餅をついた…お尻が痛い…
「…あれ、アスカ?」
僕のお腹辺りに顔を埋めたまま、反応が無い…
「アスカ!?アスカッ!?」「…るさいわよ…」
「…あ、なんだ!大丈夫だっ…」

「もうッ、びしょ濡れじゃない!」
アスカが途端に立ち上がる。
〈はぁーい!元気一杯のフィン君から、皆さんも元気を分けて貰えましたかぁ?〉
…何か言ったみたいだけど、司会の人の声にかき消されてしまった。
「僕もびしょ濡れだよ…タオルがリュックにあるから、早く拭こう。」
「はぁ…ほんっと災…」〈最後に、この若いカップルにも拍手を!〉
「え!?」

観客達がいたる所で拍手をする…
僕もアスカも真っ赤になって、そそくさと外に出た…


「…う~ん、なかなか良い絵にはなったんだけどなぁ…」
ケンスケが、今撮った映像を再生する。
「…やっぱ、あと一歩だよなぁ…」
ぶつくさ言いながら出て来たケンスケの元に、トウジが駆け寄る。
「ど、どないやったん?」
「まだ、こうバシッと決まらないね…」
トウジがうなだれて、近くの植え込みの縁に腰掛ける。
「かぁ~!!センセは何もたついとんねん!?サクッとチューの一発もカマさんのかなぁ?」
「…」
ケンスケは、むしろ洞木にそうしてやれ…と思った。

778: 僕とアスカのにちようび 2005/08/28(日) 00:35:55 ID:???
僕らは会場を出て、少し離れたベンチに座っていた。

「…は、…ひっ、くしゅっ!!」
アスカは後ろ半分、僕は前半分にズボン…はぁ…パンツまでびしょびしょだ…
「…風邪ひくといけないし、そろそろ帰る?アスカ…」
「…」
アスカの返事はない…

ふと、アスカの手が止まる。
「…ファーストの奴を誘ってれば、こんな事にもならなかったでしょうね。」
僕はその言葉を聞いた瞬間、背筋に冷たい刃物でも当てられてる気がした。
「な…何、言ってるの?綾波は…関係無いよ。」僕は動揺してた。
思わず「なんで知ってるの」と、言ってしまいそうだった…
「アイツがダメだから、アタシを誘ったんでしょ?」
アスカは、髪が濡れているせいか…うつむくと、とても悲しそうに見える…
「違うよ…僕はアスカを始めに…」

「…いいわよ、どうでも。アンタの事何てどうでもいいし。」

背筋の刃物が、音も無く僕を真っ二つにした。
「…そんなのって…無いよ…」
「それはアンタのセリフじゃないわよ!!アタシの…アタシの方がよっぽど惨めじゃないッ!!」
「アスカッ!?」
タオルを僕に投げ付けて、アスカは何処かに行ってしまった…
「僕は…僕はさ…誘いたかったんだよ…誰よりも先に…」

涙を浮かべる自分が、情けなかった。もっと酷いのは…追い掛ける勇気も最初に声を掛ける勇気も、無かった事だ…

779: 僕とアスカのにちようび 2005/08/28(日) 01:38:17 ID:???
僕は、園内を探し回った。
どこかですれ違ったのかもしれないと思ったから、同じ所も何度か探した。
そんなに、広い場所じゃない筈なのに…走り回り…息を切らし…何時まで経ってもアスカには追いつけない。
足がもつれて、転びそうになる。
汗は僕のシャツを重くする…
次第にリュックがガチャガチャうるさいのも、気に障った。
日が、落ちてしまう。

…まだだ。
「…そうだ、まだだ…ッ!!」
ここであきらめたりしたら、僕は一生いくじなしだ。弱虫だ。
息を整えてまた、走りだす。

…でも、結局閉園時間になっても…僕はアスカを見つけられなかったんだ。
照明が、落ちて行く。
明日から…一体どうすれば良いんだろう?
アスカは僕を許さないだろうし、トウジ達にも何て言えば…

「…最低だ、僕って…」

「…そうね、アンタって最低よ。」

「アスカ!!」

アスカは、僕が朝待っていたあのベンチで…待っていてくれた。

780: 僕とアスカのにちようび 2005/08/28(日) 01:42:09 ID:???
「女の子を待たすなんて、最低よ。」
「…ごめんアスカ!!」

僕は、嬉しかったけど…まず謝らなきゃならなかった。

「僕は…僕なんか相手にされないと思ってた!!恐かったんだ!!」
勇気を、ふり絞らなきゃダメだ。

「だから始めは綾波を誘ったんだ!!でも後から気付いたんだ!!」
そうじゃなきゃ僕は、また負け犬だ。

「アスカじゃなきゃダメなんだ!!今日だってアスカと来たからこんなに楽しかったんだ!!」

「僕はアスカと居たいんだ!!」

「…ぷっ…あは…アハハハハ…」
アスカが、笑い出す。
僕は、笑われるなんて思わなかったから…何が起きたか分からなかった。
「はー…アンタ、今のは冴えてたわ。今日一番面白かったわよ。」
少し涙を浮かべたまま、アスカが僕に近寄る…
「…もう、いいわよ。アンタの顔見てたら、怒る気も失せちゃった。」
アスカは、優しく笑ってくれた。
「それから…今日のお礼ね?」

アスカはそう言うと、僕の頬にキスをした…

「ほーら、早くしないと置いてくわよ!」

僕は、慌てて先に走るアスカを追い掛けた…

782: 僕とアスカのにちようび 2005/08/28(日) 02:26:36 ID:???
その時の事から、何日かたったある日。

僕の家にはトウジ、ケンスケ、洞木さん、綾波、アスカ、そして僕が集まって居た。
「…何なのよ一体、シンジはともかく…ヒカリとアタシはアンタらに用は無いわよ?」
…トウジとケンスケは、何だかそわそわ…いや、ニヤニヤしてる。
「おーおー、エラい言われ様やわ。まぁ、今日用事っちゅーんは他でも無い…」
トウジが勢いよく僕に向き直る。
「他でも無い…親友碇シンジ君の為や!!」
「…まぁ実際頑張ったの、僕なんだけどね。」
ケンスケがテレビとハンディカムを繋ぎながら突っ込む。

「…まーま、コレ見たらそないな事も言わんようなるわ。」
トウジが勝手に部屋の明かりを落とす。
「さぁ、始まるでぇ!!」ケンスケが、スイッチを押して写し出されたもの…それは。

「あぁ~~~ッ!?」
「あぁーーーッ!?」
アスカと僕が声を揃える…

783: 僕とアスカのにちようび 2005/08/28(日) 02:27:38 ID:???
そりゃそうだ、画面に映ったのは…この間の僕とアスカのデート。
「アンタ!こんな事してタダじゃ済まさないわよッ!!」
「なっ、何でや!?シンジがしょぼくれとるからワイは最高の思い出ときっかけを…」
「トウジ、僕…これはちょっと…酷いと思うよ」
…さすがに僕も、怒りたくなってきた…
「鈴原!!あなたこんな事する為に、私の誘いを断ったの!?」
「い、委員長~…無二の親友の恋路の為やんか…」
「問答無用!!」
「鈴原ぁ!!」
「あひょ~~~ッ!?」

「…だから俺は、やめとけって言ったんだ。」
騒ぎの外で。ケンスケは溜め息をつく。

バタバタと騒ぐトウジ達の傍ら…ブラウン管は、編集されてトウジによるナレーション入りのデートを延々流していた。

「…帰って、良いのかしら?」

…そう言いつつも綾波は出されたお茶とお菓子を食べつつ、デートの様子を最後まで見るのだった。

おしまい。


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