419: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/11/06(月) 19:42:55 ID:???
Do you love me?

いつの頃か私達―は求め合うようになっていた…。

きっかけはよく覚えていない。もしかしたら私も、シンジもただ、一人が嫌だった
だけなのかもしれない。
EVAのパイロット選ばれた、特別な子供達―だけど本当は、特別になれないことを感じていた。
だから私達は―お互いの『特別』になった。
耳元にかかる吐息が気持ちよかった。すごく近くに、シンジを感じられた。
シンジの手が私の体をなぞる度に頭の中まで熱くなるのが分かった。
そして―シンジの鼓動が高まっていくのが分かった。
少しずつ服を脱がされ、指や、舌が敏感になった体を刺激する。
恥ずかしいのと気持ちいいので頭が狂っちゃいそう…。
ただ、快感へとのめり込んでゆく…。
そして私は―シンジと一つになる。
シンジが動くたびに体がはじける、声が…抑えられなくなる。
押し寄せる快感の中、私はただ、シンジの名を呼ぶ。
シンジも私の名を呼ぶ。
自分にとって大切な相手を、相手にとっての大切な自分を―
どちらからともなくお互いに確認しあうように…。
私は何度も達し、シンジの体にしがみついた。
そして、シンジも私の中で―
“Do you love me?”
答えは聞かなくてもよかった。
握った手のぬくもりが、教えてくれたから。
私の気持ちと、同じだって。



132: 無題 2006/05/12(金) 21:40:57 ID:???

「暑さ」とは何だろうか、と。
しっとりと肌に絡みつくような大気を掻き分けながら考える。

どうせなら、からりと乾いた砂漠のような暑さならいいのに。

けれど空気は湿度を含み、心なしか重くさえあるようだ。
圧し掛かられている。
不快な熱に吐き出したため息さえ、熱い。

時刻は午後をはるかに回り、西日が長く影を作る。

オレンジの光は忌々しいほどに鮮やかで、アスカは僅かに目を細めた。



彼女と碇シンジとは、長い付き合いがあるとは言えない。
実際、現在同居人の一人である彼とは、微妙な緊張感を伴う関係にあると言うほうがいい。

側に居る分、距離を縮めることは容易いが、まだはっきりしない感情を持て余すことも多い。

分裂すると言ういかさま技を繰り出した使徒に対する対抗策として、二対のエヴァによる多重攻撃と言う

案を持ち出されたのは記憶に新しい。
当然のことながら実行者に選ばれた人間としては、最善を尽くすしかない。

たとえ、出会って一ヶ月と経っていない男が相手でも。

133: 無題 2006/05/12(金) 21:41:48 ID:???

行動を重ね、時間を重ね、嗜好、思考、決断のスピード、その反射に至るまで。
トレースするということの意味を、発案者は考えていたのだろうか。

シンジ、シンジ、シンジ、シンジ………、シンジ一色である。

今考えれば、いささか気持ち悪い。

そして、使徒戦を勝利で飾った後の染まった意識を引き剥がすことはさらに、骨の折れる仕事だった。

どこまでが自分の考えで、どこからがシンジのものなのかわからなくなることがあるのだ。
自我を持つ人間として、畸形な一卵性双生児にも似た精神状態はいただけなかった。


いっそ多少の距離があったほうが、もっと簡単に上手く行ったかもしれない。


好きとか嫌いとか、青臭くはあるものの相手に対する気持ちをそれなりに確認した上で、向き合うことが

できたなら。

シンジが自分についてどう思っているかはわからないのに、彼が次にやりそうなことはわかるのだ。
まるで、もう何十年と連れ添った夫婦のように。
無言のまま手を出されても、そこに乗せるのが胡椒なのか醤油なのかは考えるまでもなく。
パスタにかけるチーズ、親子丼には青海苔…、etc、etc。

喉が乾いたなと思った瞬間に、目の前に飲みたい飲料が差し出されると言う状態。

居心地のいい相手。

錯覚しているのではないかと思いたくもなる。………好意を。

134: 無題 2006/05/12(金) 21:43:32 ID:???

この混乱の製作者の一人でもあり、本来なら裁定者であるべきはずの保護者「葛城ミサト」は、終わらぬ仕事に今日も不在だ。

部屋にいれば嫌でもシンジの存在を感じ、まるで世界に二人しか居ないとでも言うようなその空気に負けて、言い訳を探した。
冷蔵庫を覗けば殆ど空のような有様に、何故か安堵のため息をつき、「買い物に行く」と言って出てきた。
シンジが聞いていたかどうかは知らない。

食欲はさほど感じない。
コンビニで見つけた冷やし中華を二つほど籠に突っ込み、飲み物を物色する。
あっさりした物がいいだろう。
安物の中華ドレッシングと言うのは、舌に残るから。
それを洗い流せるような、きつい匂いのしないもの。

朝からずっと暑いのに、日も傾いた今になってもまだこんなに熱が残っている。


アトヲヒク。
ヒキズルネツ。


毎日毎日、どうしてこんなにも暑いのだろう。
手に提げたコンビニのビニールが照り返しに染まっている。

その色は安っぽいキャンディにも似た―――。



アスカはくるりと踵を返し、50メートルほど後方になったコンビニに再び向った。

135: 無題 2006/05/12(金) 21:44:26 ID:???

「あー、…つめたぃ」

変な声。
アイスを舐めながら、喉の奥で笑う。
正直な発言だが、独り言を言うのはかっこ悪いとも思う。
見る限り他に人はいないが、溶けたようなゆるい声は自分で聞いていても恥ずかしい響きだった。

舌先が冷やされ、火照った体から熱が逃げていく。

ただ、単純に、

「…気持ちィィ」

頬の内側。舌の裏側。
やわらかな、喉の奥。

冷ややかな塊を、そっと押し当てる。

ぬるりと溶けて、甘く染み出すそれを嚥下する。

胸を降る頃にはもう、冷たさは感じない。

136: 無題 2006/05/12(金) 21:48:13 ID:???
暑いから、…アツイカラ。 アイスを舐める。
欲求に率直な行為は、ひどく貪欲な感じがしてアスカは赤くなった。
引いたはずの熱が、また戻ってくる。

シンジの顔が浮かぶ。
口内に残る甘さ。

ゆっくりだった足取りが、早まる。彼が、待っているかもしれない。

何故か、シンジの顔が見たいと思った。
緊張にいたたまれず、逃げ出したのは自分だけれど。
成り行きではなく自分の意思で、たまにはシンジと関わってみてもいい。

大気と、夕日と、アスカの熱にさらされて溶けていくアイス。

雫を舌で受け止めながら、アスカはシンジを思い浮かべる。

彼も感じているのだろうか、このネツを。
ならば、この気持ちのまま貪欲に、率直に、わけあえるだろうか?
このアイスのように。

溶け出した甘さが、全身に広がる。
熱に、浮かされているのかもしれない。

………錯覚が嫌なら、触れてみればいいのだ。

舌で感じてみればわかるだろう。
それは冷たいものなのか、それとも甘いものなのか。

段々と小さくなってきたアイスを尚も貪欲に舐めながら、アスカはシンジが待つ部屋へと更に足を急がせた。       fin






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