195: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:00:13 ID:???
いつもより少し早めの朝。
アスカは目を覚ました。
アスカの目覚めは決して悪くはない。
それでも、昨夜の疲れが残っているのだろうか、僅かに倦怠の気配を残して彼女は体を起こした。
独り寝にはいささか広すぎるベットの上、遮るものなくシーツを滑ったアスカの指が感じる熱は一人分。
それは別に珍しいことでもないので気にもせず、くつろいだ猫のようにしなやかに伸びをひとつする。
後は乱れた髪を手櫛で軽くまとめ、年寄り並みに早起きな恋人が作ってくれているだろう朝食を目当てに、ベットを降りた。
寝室とキッチンはドア一枚。
けれど、アスカが開けた扉の向こうは、無人だった。
アスカは朝、あまり重い食事を取る習慣がない。
そのため、ダイニングではなく、キッチンにある備え付けのコーヒーテーブルでの朝食が常だった。
いつものようにコーヒーと朝刊、サラダとヨーグルトが並んでいる。
しかし、肝心のシンジは居ない。
向かい合って座っていてもキスできてしまうくらいに細いコーヒーテーブルは、アスカが選んだものだ。
朝ごはんがそろっていても、彼が居なければ意味がない。
テーブルをはさんでシンジが座る。
それで初めて、アスカの朝が始まるのだから。
アスカはキッチンの扉を閉め、シンジの探査を始めることにした。
アスカは目を覚ました。
アスカの目覚めは決して悪くはない。
それでも、昨夜の疲れが残っているのだろうか、僅かに倦怠の気配を残して彼女は体を起こした。
独り寝にはいささか広すぎるベットの上、遮るものなくシーツを滑ったアスカの指が感じる熱は一人分。
それは別に珍しいことでもないので気にもせず、くつろいだ猫のようにしなやかに伸びをひとつする。
後は乱れた髪を手櫛で軽くまとめ、年寄り並みに早起きな恋人が作ってくれているだろう朝食を目当てに、ベットを降りた。
寝室とキッチンはドア一枚。
けれど、アスカが開けた扉の向こうは、無人だった。
アスカは朝、あまり重い食事を取る習慣がない。
そのため、ダイニングではなく、キッチンにある備え付けのコーヒーテーブルでの朝食が常だった。
いつものようにコーヒーと朝刊、サラダとヨーグルトが並んでいる。
しかし、肝心のシンジは居ない。
向かい合って座っていてもキスできてしまうくらいに細いコーヒーテーブルは、アスカが選んだものだ。
朝ごはんがそろっていても、彼が居なければ意味がない。
テーブルをはさんでシンジが座る。
それで初めて、アスカの朝が始まるのだから。
アスカはキッチンの扉を閉め、シンジの探査を始めることにした。
196: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:01:01 ID:???
次にアスカが開けた扉は、バスルームだった。
窓を開けて湿気を払ってはいるが、まだ床が乾ききっていない。
シンジが朝から入ったのだろう。
ボディシャンプーのボトルも濡れている。
シャンプーや洗顔具は別々だが、ボディボトルは兼用だ。
ユニセックスで、あまり匂いのつよくないものがいい。
そして、………苦くないもの。
初めてそれを口にしたときの情動と味覚を思い出し、アスカは眉を寄せた。
味覚の記憶のほうが、まだ勝っているらしい。
―――ちゃんと流してから舐めれば、問題なかったのよね。
若さと言うものは時に暴走する。
いい思い出とだけ笑うには、もうちょっと時間がかかるのも仕方ないかもしれない。
そのまま居ると朝から不都合なことが浮かんできて収拾がつかなくなりそうだと思い、アスカは手早くドアを閉めた。
窓を開けて湿気を払ってはいるが、まだ床が乾ききっていない。
シンジが朝から入ったのだろう。
ボディシャンプーのボトルも濡れている。
シャンプーや洗顔具は別々だが、ボディボトルは兼用だ。
ユニセックスで、あまり匂いのつよくないものがいい。
そして、………苦くないもの。
初めてそれを口にしたときの情動と味覚を思い出し、アスカは眉を寄せた。
味覚の記憶のほうが、まだ勝っているらしい。
―――ちゃんと流してから舐めれば、問題なかったのよね。
若さと言うものは時に暴走する。
いい思い出とだけ笑うには、もうちょっと時間がかかるのも仕方ないかもしれない。
そのまま居ると朝から不都合なことが浮かんできて収拾がつかなくなりそうだと思い、アスカは手早くドアを閉めた。
197: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:01:50 ID:???
バスルームの隣、トイレにも居ないのは確認済み。
廊下に出ると、左は書室という名の倉庫、右は玄関になる。
念のために覗いてみた玄関のたたきには、二人の靴が行儀よく並んでいる。
シンジが外に出た様子はない。
そういえば…と、アスカは思う。
シンジの靴は、昔から大きかった。
出会ったばかりの頃、シンジの身長はアスカとあまり変わらなかった。
正規の訓練を受けていたアスカは、少女の丸みを残しながらも腕などは確りと筋肉が張っていた。
だから、腕相撲を挑んだときも、アスカが全戦全勝で勝てたものだった。
アスカは性格的におしとやかとは言いがたい言動で彼を振り回し。
時には文句を言いつつも、シンジはそれにいつも付き合ってくれていたから。
彼が、アスカとは異なる性を持ち、アスカとは異なる成長をすることに、彼女は長い間気がつかなかった。
玄関先に並んだ、大きさの違う靴。
アスカが、その差に気付いたのはいつのことだったろう?
指の長さ、首から肩の線、………視線の高さに、気がついたのは?
いつの間にかアスカを置いて、一人でシンジが行ってしまうような気がして。
苛立ちとは異なる胸のざわめきに、アスカは前とは違う場所に自分が居ることに気がついた。
ライバルとして競い合い、友として隣にいるだけでは足りなくなっていた自分に。
廊下に出ると、左は書室という名の倉庫、右は玄関になる。
念のために覗いてみた玄関のたたきには、二人の靴が行儀よく並んでいる。
シンジが外に出た様子はない。
そういえば…と、アスカは思う。
シンジの靴は、昔から大きかった。
出会ったばかりの頃、シンジの身長はアスカとあまり変わらなかった。
正規の訓練を受けていたアスカは、少女の丸みを残しながらも腕などは確りと筋肉が張っていた。
だから、腕相撲を挑んだときも、アスカが全戦全勝で勝てたものだった。
アスカは性格的におしとやかとは言いがたい言動で彼を振り回し。
時には文句を言いつつも、シンジはそれにいつも付き合ってくれていたから。
彼が、アスカとは異なる性を持ち、アスカとは異なる成長をすることに、彼女は長い間気がつかなかった。
玄関先に並んだ、大きさの違う靴。
アスカが、その差に気付いたのはいつのことだったろう?
指の長さ、首から肩の線、………視線の高さに、気がついたのは?
いつの間にかアスカを置いて、一人でシンジが行ってしまうような気がして。
苛立ちとは異なる胸のざわめきに、アスカは前とは違う場所に自分が居ることに気がついた。
ライバルとして競い合い、友として隣にいるだけでは足りなくなっていた自分に。
198: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:02:39 ID:???
今は、この靴たちのように、静かに並んでいられるけれど。
―――ここまで来るのは、そんなに簡単なことじゃなかったな。
アスカの視線は、玄関の扉に向かう。
あのドアを開けて、二人で靴を脱いだときの、一番最初のあの興奮。
歓喜というものが、あんなにも静かに溢れることがあるなんて知らなかった。
訓練で得たシンクロの実感よりもずっと深いところで、共振し共鳴する感情。
シンジが自分と同じようにその思いに浸っていることが、何の疑いもなくアスカには感じ取れた。
時には回り道をし、背を向けあったこともあったからこそ、得られた、喜び。
傷つくいたことも、泣いたこともあったけれど、あきらめず手放さなかった自分を褒めたい。
つい緩みそうになる表情を、アスカは強く引き締める。
アスカはシンジにまだ「おはよう」と言っていないことに気がついたからだ。
玄関に背を向け、足早に廊下を進む。
ここで暮らすことになってアスカが手に入れたもの。
目が覚めて一番に挨拶する権利を勝ち取ったのに、これを行使しないなんてもったいない。
―――ここまで来るのは、そんなに簡単なことじゃなかったな。
アスカの視線は、玄関の扉に向かう。
あのドアを開けて、二人で靴を脱いだときの、一番最初のあの興奮。
歓喜というものが、あんなにも静かに溢れることがあるなんて知らなかった。
訓練で得たシンクロの実感よりもずっと深いところで、共振し共鳴する感情。
シンジが自分と同じようにその思いに浸っていることが、何の疑いもなくアスカには感じ取れた。
時には回り道をし、背を向けあったこともあったからこそ、得られた、喜び。
傷つくいたことも、泣いたこともあったけれど、あきらめず手放さなかった自分を褒めたい。
つい緩みそうになる表情を、アスカは強く引き締める。
アスカはシンジにまだ「おはよう」と言っていないことに気がついたからだ。
玄関に背を向け、足早に廊下を進む。
ここで暮らすことになってアスカが手に入れたもの。
目が覚めて一番に挨拶する権利を勝ち取ったのに、これを行使しないなんてもったいない。
199: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:03:27 ID:???
パタパタと、自分の立てる足音がやけに廊下に響く。
この音に気がついて出てくればいいのに…。
はやく、はやく、と。
訳もなく急いだ気持ちになって、アスカは突き当たりのドアを開けた。
「シンジ?」
「…えっ、ああ、アスカ?
もう、そんな時間だっけ?」
首をかしげて振り向く仕草は、昔と変わらない。
アスカを見つめて、少し目を細める様も。
「うん。
………おはよ」
「おはよう、アスカ」
落ち着いたシンジの応えに、急いだ自分が恥ずかしくなり、アスカの声は萎む。
シンジは特に気にした様子もなく、いつものようにアスカを見ている。
シンジは、ボタンの止まった白いシャツとスーツのズボンを身に着けていた。
ネクタイも締めようとしていたのか、片手には解けたそれを持っている。
正装とまでは行かなくとも、揃えたジャケットも椅子に掛けてある。
この音に気がついて出てくればいいのに…。
はやく、はやく、と。
訳もなく急いだ気持ちになって、アスカは突き当たりのドアを開けた。
「シンジ?」
「…えっ、ああ、アスカ?
もう、そんな時間だっけ?」
首をかしげて振り向く仕草は、昔と変わらない。
アスカを見つめて、少し目を細める様も。
「うん。
………おはよ」
「おはよう、アスカ」
落ち着いたシンジの応えに、急いだ自分が恥ずかしくなり、アスカの声は萎む。
シンジは特に気にした様子もなく、いつものようにアスカを見ている。
シンジは、ボタンの止まった白いシャツとスーツのズボンを身に着けていた。
ネクタイも締めようとしていたのか、片手には解けたそれを持っている。
正装とまでは行かなくとも、揃えたジャケットも椅子に掛けてある。
200: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:04:15 ID:???
いつものジーンズでも、軽い服装でもない格好のシンジ。
寝起きのパジャマのまま、上着すら羽織らず彼を探した自分。
アスカは、困惑ともつかない胸の靄に眉を寄せる。
まるでアスカばかりが、シンジを求めているような気がして。
しかし、
「どうしたの?
えーと…、お腹すいた?
……ジュースのほうがよかったかな?
あっ、今日はリンゴしかないんだ。
もしかして、オレンジジュースが飲みたかった?」
慌てたように重ねられる言葉と、こちらを覗き込むような視線。
些細な変化を察してくれるシンジの声に、アスカの気鬱はすぐに晴れる。
人によったらシンジのその腰の低い態度を、卑屈だと思う者もいるかもしれない。
確かに昔のシンジは、人の顔色を伺うようなところがあった。
嫌われたくなくて。
自分に自信がなくて。
でも、それも昔の話だ。
不特定の誰か。
誰でもいい、そんな「誰か」に嫌われたくない様は、臆病者にしか見えないけれど。
今、シンジが気にするのは、アスカだけだから。
寝起きのパジャマのまま、上着すら羽織らず彼を探した自分。
アスカは、困惑ともつかない胸の靄に眉を寄せる。
まるでアスカばかりが、シンジを求めているような気がして。
しかし、
「どうしたの?
えーと…、お腹すいた?
……ジュースのほうがよかったかな?
あっ、今日はリンゴしかないんだ。
もしかして、オレンジジュースが飲みたかった?」
慌てたように重ねられる言葉と、こちらを覗き込むような視線。
些細な変化を察してくれるシンジの声に、アスカの気鬱はすぐに晴れる。
人によったらシンジのその腰の低い態度を、卑屈だと思う者もいるかもしれない。
確かに昔のシンジは、人の顔色を伺うようなところがあった。
嫌われたくなくて。
自分に自信がなくて。
でも、それも昔の話だ。
不特定の誰か。
誰でもいい、そんな「誰か」に嫌われたくない様は、臆病者にしか見えないけれど。
今、シンジが気にするのは、アスカだけだから。
201: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:05:03 ID:???
アスカに嫌われたくないのは、アスカが「好き」だからだ。
アスカにやさしくしたいから。
それをお互いにわかっているから、シンジの態度はアスカを喜ばせるばかりだ。
自分が特別に思われていることを実感して、アスカはくすぐったげに笑みほころぶ。
恥ずかしげに、でも嬉しさを隠し切れずに緩むアスカの表情は特別製で。
シンジにしか与えられることがないのだから、シンジの自信もつこうというものだ。
素直にそれを理解するには、時間もかかったけれど。
今は不器用ながらも、アスカとシンジは、少しずつお互いを補い合えていた。
相手を探りあうように、見合うこと暫し。
シンジの一言で容易く機嫌が直ってしまったことを隠すように、アスカは口を開いた。
「別に…。
お腹、すいてないけど。
ねぇ、何でアンタそんなかっこしてるの?
どこか行くの?」
不安が緩めば、好奇心が生まれる。
アスカはシンジに近寄り、彼の姿を間近でまじまじと見つめた。
アスカにやさしくしたいから。
それをお互いにわかっているから、シンジの態度はアスカを喜ばせるばかりだ。
自分が特別に思われていることを実感して、アスカはくすぐったげに笑みほころぶ。
恥ずかしげに、でも嬉しさを隠し切れずに緩むアスカの表情は特別製で。
シンジにしか与えられることがないのだから、シンジの自信もつこうというものだ。
素直にそれを理解するには、時間もかかったけれど。
今は不器用ながらも、アスカとシンジは、少しずつお互いを補い合えていた。
相手を探りあうように、見合うこと暫し。
シンジの一言で容易く機嫌が直ってしまったことを隠すように、アスカは口を開いた。
「別に…。
お腹、すいてないけど。
ねぇ、何でアンタそんなかっこしてるの?
どこか行くの?」
不安が緩めば、好奇心が生まれる。
アスカはシンジに近寄り、彼の姿を間近でまじまじと見つめた。
202: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:05:51 ID:???
「うわっ、そんな見ないでよ。
なんか、恥ずかしいから。
たいしたことじゃないんだけどさ。
…今日、研究室にお客さんが来るんだ。
別に研究を見せるわけじゃないけど、挨拶はしないといけないから」
「アタシの知ってる人?」
「知らない…、と思う。
関係があったら、アスカにも連絡が行くだろ。
なにも言われてないのなら、関係もないんだと思うけど…」
「ふーん」
…使徒戦が終息し、補完計画とやらが失敗に終わっても。
アスカとシンジがネルフから解放されるわけもなく、保護義務という名の下に留めおかれている。
失った人を思い出される辛さに対する反発もないわけではなかったが、行く当てもなかった。
部署は異なるが、二人は今もネルフに所属している。
「制服じゃないってことは、個人的な相手でしょ?
まぁ、大体想像はつくけどね」
なんか、恥ずかしいから。
たいしたことじゃないんだけどさ。
…今日、研究室にお客さんが来るんだ。
別に研究を見せるわけじゃないけど、挨拶はしないといけないから」
「アタシの知ってる人?」
「知らない…、と思う。
関係があったら、アスカにも連絡が行くだろ。
なにも言われてないのなら、関係もないんだと思うけど…」
「ふーん」
…使徒戦が終息し、補完計画とやらが失敗に終わっても。
アスカとシンジがネルフから解放されるわけもなく、保護義務という名の下に留めおかれている。
失った人を思い出される辛さに対する反発もないわけではなかったが、行く当てもなかった。
部署は異なるが、二人は今もネルフに所属している。
「制服じゃないってことは、個人的な相手でしょ?
まぁ、大体想像はつくけどね」
203: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:06:39 ID:???
「………。
ごめん」
「気にしないで。
アタシだって、『会わせろ』って言われてもすぐには無理だもの。
心の整理って、そんなに簡単につくものじゃないでしょ?
お互い様、ってコト。
いつか、でいいわ。
いつか、…シンジの覚悟が決まったら」
「ありがとう。
まだ、本当は、…会うのも迷ってる。
………もう、先生しか、いないんだけどね。
でもっ。
アスカのことは、覚悟がないとかそんなんじゃ」
手にしたネクタイをジャケットの上に落として、シンジは椅子の背を握り締める。
その手の下で、きつく皺のよった上着が彼の真剣さを物語るようだ。
アスカはその手をなだめるように、自分の手を重ねた。
「わかってる。
わかってるから。
…。
ネッ、なんか、新鮮。
ネルフの制服って、ネクタイしないじゃない。
せっかくだもん、アタシに締めさせてよ。
ほら、こう、日本の古いドラマとかにあったでしょ。
『あなた、いってらっしゃい』とか言っちゃって?」
ごめん」
「気にしないで。
アタシだって、『会わせろ』って言われてもすぐには無理だもの。
心の整理って、そんなに簡単につくものじゃないでしょ?
お互い様、ってコト。
いつか、でいいわ。
いつか、…シンジの覚悟が決まったら」
「ありがとう。
まだ、本当は、…会うのも迷ってる。
………もう、先生しか、いないんだけどね。
でもっ。
アスカのことは、覚悟がないとかそんなんじゃ」
手にしたネクタイをジャケットの上に落として、シンジは椅子の背を握り締める。
その手の下で、きつく皺のよった上着が彼の真剣さを物語るようだ。
アスカはその手をなだめるように、自分の手を重ねた。
「わかってる。
わかってるから。
…。
ネッ、なんか、新鮮。
ネルフの制服って、ネクタイしないじゃない。
せっかくだもん、アタシに締めさせてよ。
ほら、こう、日本の古いドラマとかにあったでしょ。
『あなた、いってらっしゃい』とか言っちゃって?」
204: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:07:27 ID:???
明るくおどけて見せて、アスカはネクタイに手を伸ばす。
アスカもネクタイを締めたことは数えるほどしかない。
それも、自分のためだけにだ。
人のネクタイを締めるのは当然初めてで、アスカはちょっとどきどきした。
Yシャツの襟を立て、首の後ろからネクタイをまわす。
シンジが自然に背を屈めたのがわかって、アスカは上目ににらんだ。
シンジは苦笑いをする。
キュっと、絹の滑る音。
「んっ」
締まりすぎたのか、シンジが小さく声を洩らす。
「あっ、ごめっ。
きつかった?」
「大丈夫」
そう言われても心配だ。
アスカはネクタイの隙間に指を入れて緩める。
とくとくと脈打つシンジの鼓動を、指先に感じる。
体温と、鼓動。
力を入れたら、―――止まる。
ネクタイを締めるのは首を絞めるのと似ている。
命を殺める、ことと。
アスカもネクタイを締めたことは数えるほどしかない。
それも、自分のためだけにだ。
人のネクタイを締めるのは当然初めてで、アスカはちょっとどきどきした。
Yシャツの襟を立て、首の後ろからネクタイをまわす。
シンジが自然に背を屈めたのがわかって、アスカは上目ににらんだ。
シンジは苦笑いをする。
キュっと、絹の滑る音。
「んっ」
締まりすぎたのか、シンジが小さく声を洩らす。
「あっ、ごめっ。
きつかった?」
「大丈夫」
そう言われても心配だ。
アスカはネクタイの隙間に指を入れて緩める。
とくとくと脈打つシンジの鼓動を、指先に感じる。
体温と、鼓動。
力を入れたら、―――止まる。
ネクタイを締めるのは首を絞めるのと似ている。
命を殺める、ことと。
205: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:19:58 ID:???
「ごめんね」
そう言いながら、アスカはシンジの首を撫でた。
撫でて思う。
苦しいときの顔は、ちょっとだけ、あのときの顔に似ている。
シンジがアスカの中で、イク時の顔に。
エクスタシーは「小さな死」とも言うなと、アスカは思う。
何だ、シンジを手に入れられたという喜びだけが共通点じゃないんだ、とも。
咽元にされる愛撫。
特にキスマークをつけられるときに感じる倒錯した喜び。
それが、あの混乱の最中、シンジに首を締められた感覚に似ているとアスカは思っていたけれど。
もしかしたら、自分だけじゃないのかもしれない。
眉を寄せて息を継いだシンジの顔が、…同じなら。
命を握られた感覚は、快感ととてもよく似ているということだ。
だって、あの時、本当に終わりにしてもいいと、アスカは思っていた。
気持ちが通じ合っていなくても、二人の世界は二人きりで閉じていた。
けれど、シンジは最後まで力をこめることはできず。
アスカもまた、シンジと終わらせることはできなかった。
そう言いながら、アスカはシンジの首を撫でた。
撫でて思う。
苦しいときの顔は、ちょっとだけ、あのときの顔に似ている。
シンジがアスカの中で、イク時の顔に。
エクスタシーは「小さな死」とも言うなと、アスカは思う。
何だ、シンジを手に入れられたという喜びだけが共通点じゃないんだ、とも。
咽元にされる愛撫。
特にキスマークをつけられるときに感じる倒錯した喜び。
それが、あの混乱の最中、シンジに首を締められた感覚に似ているとアスカは思っていたけれど。
もしかしたら、自分だけじゃないのかもしれない。
眉を寄せて息を継いだシンジの顔が、…同じなら。
命を握られた感覚は、快感ととてもよく似ているということだ。
だって、あの時、本当に終わりにしてもいいと、アスカは思っていた。
気持ちが通じ合っていなくても、二人の世界は二人きりで閉じていた。
けれど、シンジは最後まで力をこめることはできず。
アスカもまた、シンジと終わらせることはできなかった。
206: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:20:53 ID:???
アスカはネクタイを締めたシンジを一歩はなれて見つめる。
シンジは照れくさそうに「ありがとう」と言った。
新婚さんごっこがよほど恥ずかしかったのか、耳が赤い。
「変じゃないかな?」
「いいかんじ、いいかんじ」
言いながら、アスカは一歩分の距離をもう一度つめた。
シンジの体温を感じる。
変わったこともあれば、変わらないこともある。
以前の二人なら、交わせない会話があり、縮まらない距離が埋まる。
過去を繰り返すだけではない、新しい関係を築きかけている。
二人だけで暮らし始めたことも、新しい試みだ。
何かを始めることには勇気がいるが、そこには痛みとともに喜びもある。
こうして生きている。
いつか、あの選択を後悔することがあっても。
今、二人がいることを否定しないで生きていきたい。
シンジは照れくさそうに「ありがとう」と言った。
新婚さんごっこがよほど恥ずかしかったのか、耳が赤い。
「変じゃないかな?」
「いいかんじ、いいかんじ」
言いながら、アスカは一歩分の距離をもう一度つめた。
シンジの体温を感じる。
変わったこともあれば、変わらないこともある。
以前の二人なら、交わせない会話があり、縮まらない距離が埋まる。
過去を繰り返すだけではない、新しい関係を築きかけている。
二人だけで暮らし始めたことも、新しい試みだ。
何かを始めることには勇気がいるが、そこには痛みとともに喜びもある。
こうして生きている。
いつか、あの選択を後悔することがあっても。
今、二人がいることを否定しないで生きていきたい。
207: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2006/06/20(火) 06:21:41 ID:???
アスカはシンジの首筋に顔を寄せた。
シンジが自然に回してくれる腕が、あたたかい。
きちんと締められたネクタイのせいで見える部分は少し。
アスカはその少しの場所に唇を寄せ、きゅっと吸い付いた。
驚いたシンジが体を動かしても、拘束は緩めない。
鼓動を確かめるように肌を摺り寄せる。
視界の隅に映る赤い花は、命の証。
生きている。
アスカも、シンジも。
この部屋から出て社会に歩き出しても、絆は消えない。
「んー、痕つけちゃった。
これで、公認ね」
悪戯気に、嬉しそうに笑うアスカを、シンジは深く抱きしめてくれた。
~fin
シンジが自然に回してくれる腕が、あたたかい。
きちんと締められたネクタイのせいで見える部分は少し。
アスカはその少しの場所に唇を寄せ、きゅっと吸い付いた。
驚いたシンジが体を動かしても、拘束は緩めない。
鼓動を確かめるように肌を摺り寄せる。
視界の隅に映る赤い花は、命の証。
生きている。
アスカも、シンジも。
この部屋から出て社会に歩き出しても、絆は消えない。
「んー、痕つけちゃった。
これで、公認ね」
悪戯気に、嬉しそうに笑うアスカを、シンジは深く抱きしめてくれた。
~fin
539: 為 2007/03/03(土) 13:06:48 ID:???
第一章
普段なら見えないような暗い星々も今日はくっきりと瞬いている。
砂浜に打ち寄せる紅い波。
心なしか、空気も血の臭いと味がする。
横たわる1人の少女。
紅い髪、紅いプラグスーツを着た彼女は、その蒼い瞳で天空をじっと見つめる。
何を見ているのかは、わからない。
右腕には包帯が巻かれ、左目には眼帯。
何も言わずに、ただ、空を見ている。
隣には、少年。
うずくまり、泣いている少年。
その手は砂をかきむしり、肩は打ち震えている。
普段なら見えないような暗い星々も今日はくっきりと瞬いている。
砂浜に打ち寄せる紅い波。
心なしか、空気も血の臭いと味がする。
横たわる1人の少女。
紅い髪、紅いプラグスーツを着た彼女は、その蒼い瞳で天空をじっと見つめる。
何を見ているのかは、わからない。
右腕には包帯が巻かれ、左目には眼帯。
何も言わずに、ただ、空を見ている。
隣には、少年。
うずくまり、泣いている少年。
その手は砂をかきむしり、肩は打ち震えている。
540: 為 2007/03/03(土) 13:11:35 ID:???
>>539
第一章その2
ここは、どこ?
私は、死んだはずではなかったの?
最後の記憶はどこにあるのか、それもよくわからない。
陵辱され、カラダを切り刻まれ、想像を絶する激痛の中、意識を失った。これで死ぬんだと思った。
死ぬのは嫌だったけど、ママと一緒ならそれでもいいと思っていた。
だが、気がつけば、ここに寝ている。
私は、生きているの?それともここは、天国?
いや、天国じゃなさそうだ。だって、あいつがいるから。
気がついたのは、あいつが私の首を絞めたから。
なぜかわからないけど、この期に及んでまだあいつはバカをやっている。そう思った。
そう思ったら、なぜか急にあいつが可哀想になった。動くはずのない右手が動き、あいつの頬に触れた。そしたら、あいつは泣き出しやがった。女々しいったらありゃしない。
私が憎いんでしょ、だったら殺せばいい。なぜもっと力を入れないの?なぜ最後までやろうとしないの?私もあんたが死ぬほど憎い。私があんたなら、迷わず殺しているわ。いいよ、やりな。その意味での右手。
それを、泣き出しやがった。こっちは無抵抗なのに。思わず口に出た「気持ち悪い」の言葉。でも、その瞬間、あいつの気持ちがなんとなく分かった気がしたの。
第一章その2
ここは、どこ?
私は、死んだはずではなかったの?
最後の記憶はどこにあるのか、それもよくわからない。
陵辱され、カラダを切り刻まれ、想像を絶する激痛の中、意識を失った。これで死ぬんだと思った。
死ぬのは嫌だったけど、ママと一緒ならそれでもいいと思っていた。
だが、気がつけば、ここに寝ている。
私は、生きているの?それともここは、天国?
いや、天国じゃなさそうだ。だって、あいつがいるから。
気がついたのは、あいつが私の首を絞めたから。
なぜかわからないけど、この期に及んでまだあいつはバカをやっている。そう思った。
そう思ったら、なぜか急にあいつが可哀想になった。動くはずのない右手が動き、あいつの頬に触れた。そしたら、あいつは泣き出しやがった。女々しいったらありゃしない。
私が憎いんでしょ、だったら殺せばいい。なぜもっと力を入れないの?なぜ最後までやろうとしないの?私もあんたが死ぬほど憎い。私があんたなら、迷わず殺しているわ。いいよ、やりな。その意味での右手。
それを、泣き出しやがった。こっちは無抵抗なのに。思わず口に出た「気持ち悪い」の言葉。でも、その瞬間、あいつの気持ちがなんとなく分かった気がしたの。
541: 為 2007/03/03(土) 13:14:04 ID:???
>>540
あいつは、バカだ。バカだから、不安なんだ。
私の気持ちも分からずに、私のココロの奥底を覗いたこともないくせに。
直感的に感じるが、今、この世の中には私たち2人だけしかいない。
そんな中、唯一の他人、私が怖いんだ。怖くて泣いている、ただの赤ん坊だ。
独りはもっと怖いくせに、駄々をこねるただのガキんちょだ。
私には、信じられるものができた。あいつには多分まだないんだろう。
だから、ちょっと優しくしてやっただけなのに、もう混乱している。
…。なんか言いなさいよ。いつまで泣いてるの!
わかったわよ、もう。だからいい加減に泣きやみなさいよ、バカシンジ。
あいつは、バカだ。バカだから、不安なんだ。
私の気持ちも分からずに、私のココロの奥底を覗いたこともないくせに。
直感的に感じるが、今、この世の中には私たち2人だけしかいない。
そんな中、唯一の他人、私が怖いんだ。怖くて泣いている、ただの赤ん坊だ。
独りはもっと怖いくせに、駄々をこねるただのガキんちょだ。
私には、信じられるものができた。あいつには多分まだないんだろう。
だから、ちょっと優しくしてやっただけなのに、もう混乱している。
…。なんか言いなさいよ。いつまで泣いてるの!
わかったわよ、もう。だからいい加減に泣きやみなさいよ、バカシンジ。
542: 為 2007/03/03(土) 13:16:41 ID:???
>>541
第一章その3
気がついたら、僕はここにいた。
母さんに別れを告げ、戻ってきた。はずだった。
けど、ここはどこだ?ここは、ついさっきまで僕が知っていた場所じゃない。
海は紅いし、量産型の屍があちこちに立っている。
みんなはどこ?みんなも戻ってきているんじゃないの?
せっかくみんなともう一度会いたいと思ったのに、誰もいないの?
ふと横を見ると、そこに1人。
アスカ。
最初は嬉しくて飛び上がりそうだった。僕は独りじゃなかったんだ、そう思った。
けど、アスカのカラダの傷を見たら、色々思い出した。
そうだ、僕はなんてことをしてしまったんだろう。僕がしっかりしていなかったから、サードインパクトが起きちゃったんじゃないのか?
いつまでもメソメソしていたから。もう嫌だ、と肝心な所で逃げ出そうとしたから。だからミサトさんは撃たれ、弐号機は悲惨な最期を遂げたんじゃないのか?僕がもっとしっかりしていれば、ミサトさんも撃たれずに済んだし、弐号機だってやられずに済んだかもしれない。
罰が下ったんだ。これ以上ない罰が。
第一章その3
気がついたら、僕はここにいた。
母さんに別れを告げ、戻ってきた。はずだった。
けど、ここはどこだ?ここは、ついさっきまで僕が知っていた場所じゃない。
海は紅いし、量産型の屍があちこちに立っている。
みんなはどこ?みんなも戻ってきているんじゃないの?
せっかくみんなともう一度会いたいと思ったのに、誰もいないの?
ふと横を見ると、そこに1人。
アスカ。
最初は嬉しくて飛び上がりそうだった。僕は独りじゃなかったんだ、そう思った。
けど、アスカのカラダの傷を見たら、色々思い出した。
そうだ、僕はなんてことをしてしまったんだろう。僕がしっかりしていなかったから、サードインパクトが起きちゃったんじゃないのか?
いつまでもメソメソしていたから。もう嫌だ、と肝心な所で逃げ出そうとしたから。だからミサトさんは撃たれ、弐号機は悲惨な最期を遂げたんじゃないのか?僕がもっとしっかりしていれば、ミサトさんも撃たれずに済んだし、弐号機だってやられずに済んだかもしれない。
罰が下ったんだ。これ以上ない罰が。
543: 為 2007/03/03(土) 13:18:11 ID:???
>>542
僕のせいだ。みんな僕のせいだ。僕がみんなを殺したんだ。
そう思ったら、怖くなった。僕は何をしたらいいんだろう?
僕が居てもいい場所はここだったの?
そして、隣で横になっているこの少女に対して、僕はなんて言ったらいいの?
わからない。わからない。わからないよ。どうしたらいいの?!
誰か教えてよ。誰か助けてよ。
でも、その「誰か」はどこにもいない。綾波もどこかへ行ってしまった。
自分でもなぜだかわからない。けど、気がついたら僕はアスカの首を絞めていた。
アスカは生きていた。暖かかった。首に手をかけると、ドクン、ドクンと彼女の命を直に感じた。
けど、絞めた。力一杯。
アスカは抵抗しなかった。それどころか、ケガをしている右手で僕を受け入れてくれた。僕のココロに触れてくれたんだ。
次の瞬間、力が抜けた。涙が自然に出た。バカだ、僕は本当にバカだ。これじゃ今までとおんなじだ。繰り返しじゃないか。また僕は逃げようとした。アスカというかけがえのない人を殺そうとしたんだ…。
涙が出るのを、泣くのを止めることはできなかった。
ごめんよアスカ。ごめん。本当にごめん。
みんなも、ごめん。本当にごめん。僕のせいでこんなになっちゃった。ごめん。
僕のせいだ。みんな僕のせいだ。僕がみんなを殺したんだ。
そう思ったら、怖くなった。僕は何をしたらいいんだろう?
僕が居てもいい場所はここだったの?
そして、隣で横になっているこの少女に対して、僕はなんて言ったらいいの?
わからない。わからない。わからないよ。どうしたらいいの?!
誰か教えてよ。誰か助けてよ。
でも、その「誰か」はどこにもいない。綾波もどこかへ行ってしまった。
自分でもなぜだかわからない。けど、気がついたら僕はアスカの首を絞めていた。
アスカは生きていた。暖かかった。首に手をかけると、ドクン、ドクンと彼女の命を直に感じた。
けど、絞めた。力一杯。
アスカは抵抗しなかった。それどころか、ケガをしている右手で僕を受け入れてくれた。僕のココロに触れてくれたんだ。
次の瞬間、力が抜けた。涙が自然に出た。バカだ、僕は本当にバカだ。これじゃ今までとおんなじだ。繰り返しじゃないか。また僕は逃げようとした。アスカというかけがえのない人を殺そうとしたんだ…。
涙が出るのを、泣くのを止めることはできなかった。
ごめんよアスカ。ごめん。本当にごめん。
みんなも、ごめん。本当にごめん。僕のせいでこんなになっちゃった。ごめん。
548: 為 2007/03/03(土) 22:41:12 ID:???
第二章
「ちょっと…、いい加減泣きやみなさいよ…。」
苦しい息の下で、アスカが呟くように言う。その声はシンジに届かない。
「…バカシンジ…」
アスカはありったけの力で体勢を少しずつ変え、右足でシンジを蹴飛ばす。
蹴飛ばす、と言っても今の彼女にはつつく、くらいが精一杯だが。
シンジが気づく。
「ごめん…ごめんよアスカ…ごめん、本当にごめん」
「ごめんって…謝ってもしょうがないでしょ…。
今の…あたしたちに…出来ることをまず…考えなさいよ…」
苦しそうに目を閉じる。
(いやはや、こりゃ生き残ったと言っても瀕死の重傷だわ)
エヴァに乗っていたとは言え、あれだけの目に遭ったのだ。
右腕は痺れて動かない。左目は眼帯がされているが、見えている感じはしない。
他にも、肋骨が何本かやられている。足も自由が利かない。
(まあ、折れた骨が肺に刺さってないだけマシか…。)
とりあえず、優先事項としては、このカラダの治療。
「シンジ…、ここ、どこだかわかる?」
鼻をすすりながら、シンジ、アスカににじり寄る。
「いやわからないけど…。アスカ、大丈夫?」
「大丈夫なわけ…ないでしょ、バカ」
「どこかに病院はないのかな?」
「言ってる暇、あったら…探しなさいよ」
「う、うん」
シンジ、駆け出す。とりあえず、高いところへ。常にアスカが視界に入るように、
慎重に砂浜を突っ切り、崖を駆け上る。
「ちょっと…、いい加減泣きやみなさいよ…。」
苦しい息の下で、アスカが呟くように言う。その声はシンジに届かない。
「…バカシンジ…」
アスカはありったけの力で体勢を少しずつ変え、右足でシンジを蹴飛ばす。
蹴飛ばす、と言っても今の彼女にはつつく、くらいが精一杯だが。
シンジが気づく。
「ごめん…ごめんよアスカ…ごめん、本当にごめん」
「ごめんって…謝ってもしょうがないでしょ…。
今の…あたしたちに…出来ることをまず…考えなさいよ…」
苦しそうに目を閉じる。
(いやはや、こりゃ生き残ったと言っても瀕死の重傷だわ)
エヴァに乗っていたとは言え、あれだけの目に遭ったのだ。
右腕は痺れて動かない。左目は眼帯がされているが、見えている感じはしない。
他にも、肋骨が何本かやられている。足も自由が利かない。
(まあ、折れた骨が肺に刺さってないだけマシか…。)
とりあえず、優先事項としては、このカラダの治療。
「シンジ…、ここ、どこだかわかる?」
鼻をすすりながら、シンジ、アスカににじり寄る。
「いやわからないけど…。アスカ、大丈夫?」
「大丈夫なわけ…ないでしょ、バカ」
「どこかに病院はないのかな?」
「言ってる暇、あったら…探しなさいよ」
「う、うん」
シンジ、駆け出す。とりあえず、高いところへ。常にアスカが視界に入るように、
慎重に砂浜を突っ切り、崖を駆け上る。
549: 為 2007/03/03(土) 22:42:27 ID:???
>>548
「うわっ…」
目の前に広がる廃墟。サードインパクトの爆風の影響で、主立った建物はみな倒壊している。看板などを見るに、ここはとりあえず日本のようだ。
(でも街があるということは、どこかに病院があるはず)
とりあえずアスカをここまで連れてこよう。そう思ったシンジは急いで駆け戻る。
「アスカ、大丈夫?」
アスカは返事をしない。意識がない。
(大変だ!急がなきゃ。)
病院に行けば、予備電源はあるだろうし、簡単な検査や治療なら機械がやってくれる。
とにかく急がなければならない。シンジはアスカを抱き上げる。
「ぐっ…」痛みでアスカの顔が歪む。まだ、生きている。
シンジが見たところでは、右手、左目の他、頭部に裂傷、鎖骨と肋骨が何本か折れているようだ。左足も膝の靱帯が切れている。
(とにかく急がなきゃ)
とは言っても乱暴に扱えば、折れた骨が内臓を傷つける。そうなったらシンジにはお手上げだ。
「ごめんよ、アスカ。ちょっと我慢してね。」
シンジはアスカを背負い、ゆっくりと歩き出した。
「うわっ…」
目の前に広がる廃墟。サードインパクトの爆風の影響で、主立った建物はみな倒壊している。看板などを見るに、ここはとりあえず日本のようだ。
(でも街があるということは、どこかに病院があるはず)
とりあえずアスカをここまで連れてこよう。そう思ったシンジは急いで駆け戻る。
「アスカ、大丈夫?」
アスカは返事をしない。意識がない。
(大変だ!急がなきゃ。)
病院に行けば、予備電源はあるだろうし、簡単な検査や治療なら機械がやってくれる。
とにかく急がなければならない。シンジはアスカを抱き上げる。
「ぐっ…」痛みでアスカの顔が歪む。まだ、生きている。
シンジが見たところでは、右手、左目の他、頭部に裂傷、鎖骨と肋骨が何本か折れているようだ。左足も膝の靱帯が切れている。
(とにかく急がなきゃ)
とは言っても乱暴に扱えば、折れた骨が内臓を傷つける。そうなったらシンジにはお手上げだ。
「ごめんよ、アスカ。ちょっと我慢してね。」
シンジはアスカを背負い、ゆっくりと歩き出した。
550: 為 2007/03/03(土) 22:45:32 ID:???
>>549
第三章
「…ママ」
「ママ、ごめんね、ママ」
はっと目が覚める。
(ここはどこ?)
アスカはベッドに寝かされている。カラダ中ギプスで固定され、左手には点滴まで射されている。
遠くでうなるディーゼルエンジンの音。白い壁に無機質な天井。
(病院?誰かいたの?)
首を起こそうとして、痛みに顔をしかめる。そのしかめた顔が捉えたモノは、
シンジの寝顔。
ベッドに突っ伏して眠っている。横には血まみれの包帯と、ガーゼと洗面器。
(こいつ…看病してくれてたの?)
唯一まともに動く左手でナースコールを探し、押す。が、何の反応も返ってこない。
と、その気配にシンジが気づく。
「アスカ!アスカ!良かった、良かった…。」
後は涙で声にならない。
「バカ、何また泣いてんのよ。それより…」
「うん、ここには誰もいないよ。ここに来てもう一週間になるけど、誰も現れない。」
シンジの答えはある程度予想していたものの、やはりショックだった。
第三章
「…ママ」
「ママ、ごめんね、ママ」
はっと目が覚める。
(ここはどこ?)
アスカはベッドに寝かされている。カラダ中ギプスで固定され、左手には点滴まで射されている。
遠くでうなるディーゼルエンジンの音。白い壁に無機質な天井。
(病院?誰かいたの?)
首を起こそうとして、痛みに顔をしかめる。そのしかめた顔が捉えたモノは、
シンジの寝顔。
ベッドに突っ伏して眠っている。横には血まみれの包帯と、ガーゼと洗面器。
(こいつ…看病してくれてたの?)
唯一まともに動く左手でナースコールを探し、押す。が、何の反応も返ってこない。
と、その気配にシンジが気づく。
「アスカ!アスカ!良かった、良かった…。」
後は涙で声にならない。
「バカ、何また泣いてんのよ。それより…」
「うん、ここには誰もいないよ。ここに来てもう一週間になるけど、誰も現れない。」
シンジの答えはある程度予想していたものの、やはりショックだった。
551: 為 2007/03/03(土) 22:46:17 ID:???
>>550
アスカの顔色に、その気持ちを読みとったシンジが慌てて続ける。
「予備電源が生きていたのが幸いだったよ。ここは、大学病院だったみたいで、
大半は壊れちゃってたけど、それでも使えそうな機械はまだ残ってた。
完璧とはいかないけど、検査もしたよ。内臓に傷はないみたいだから、大丈夫。」
「何が大丈夫よ…、何が…」
「ごめん、アスカ…」
「だからなんで謝るのよっバカ!」
「うっ、ごめん」
「本当に誰もいないの?本当に2人だけなの?」
「うん。ここに来てからも見晴らしのいいところに登って様子を見たりしているんだけど…。」
「…」
「アスカ?」
「…。」
シンジが心配そうにのぞき込む。
「やめてよ、ちょっと疲れただけだから。少し寝るわ。」
「…そう、わかったよ。早く良くなってね。」
シンジはアスカの頬を伝わる涙を見てしまったが、気づいていないふりをした。
そしてそのままアスカが眠りにつくまで、ずっと彼女の動かない右手を握っていた。
アスカの顔色に、その気持ちを読みとったシンジが慌てて続ける。
「予備電源が生きていたのが幸いだったよ。ここは、大学病院だったみたいで、
大半は壊れちゃってたけど、それでも使えそうな機械はまだ残ってた。
完璧とはいかないけど、検査もしたよ。内臓に傷はないみたいだから、大丈夫。」
「何が大丈夫よ…、何が…」
「ごめん、アスカ…」
「だからなんで謝るのよっバカ!」
「うっ、ごめん」
「本当に誰もいないの?本当に2人だけなの?」
「うん。ここに来てからも見晴らしのいいところに登って様子を見たりしているんだけど…。」
「…」
「アスカ?」
「…。」
シンジが心配そうにのぞき込む。
「やめてよ、ちょっと疲れただけだから。少し寝るわ。」
「…そう、わかったよ。早く良くなってね。」
シンジはアスカの頬を伝わる涙を見てしまったが、気づいていないふりをした。
そしてそのままアスカが眠りにつくまで、ずっと彼女の動かない右手を握っていた。
552: 為 2007/03/03(土) 22:48:01 ID:???
>>551
第四章
1ヶ月でアスカは車椅子に乗れるほどに回復した。
日々、少しずつ良くなっていく、その様子を見ているだけでシンジは嬉しいようだ。
「良かった、良かった」を連発する。
(最近の専売特許ね。)
アスカも半ば呆れるくらい、シンジは彼女の一挙手一投足に感激をする。
そのくせ、時折とんでもなく悲しそうな、辛そうな顔をして、
どこかをぼんやりと眺めているのをアスカは知っている。
(まだ気に病んでるんだわ)
まあ、あいつの性格からして、そうそう思い切れるわけはない。
いつかはその気持ちと対決しなくてはいけない時が来るのだろう。
(その時まで、私が逃げ場所、か…。)
アスカはなんとなくわかっている。シンジが自分の看病、介護に集中することで、
今の自分の負い目とも言うべきものから逃げ出していることに。
(はぁ、まあしょうがないわよね。世界はここだけにしかないんだもの。)
彼女はふと、溜め息をつき、それからシンジを探した。
「バカシンジィ、いつまで私をほっとく気?風が冷たいわ。そろそろ戻りましょうよ」
ここは、おそらく以前公園だったであろう場所。
シンジは晴れていれば毎日アスカをここに連れてきている。
「ごめんアスカ、お待たせ」
シンジが現れる。浮かない顔をしている彼を見て、彼女は気づく。
(だから今、それを考えるのは止めなさい。もうちょっとしたら、私も付き合ってあげるから)
彼女はまだよく動かない自分の右手をちら、と見、それから彼を見上げる。
「帰ろ。お腹、空いちゃった」
第四章
1ヶ月でアスカは車椅子に乗れるほどに回復した。
日々、少しずつ良くなっていく、その様子を見ているだけでシンジは嬉しいようだ。
「良かった、良かった」を連発する。
(最近の専売特許ね。)
アスカも半ば呆れるくらい、シンジは彼女の一挙手一投足に感激をする。
そのくせ、時折とんでもなく悲しそうな、辛そうな顔をして、
どこかをぼんやりと眺めているのをアスカは知っている。
(まだ気に病んでるんだわ)
まあ、あいつの性格からして、そうそう思い切れるわけはない。
いつかはその気持ちと対決しなくてはいけない時が来るのだろう。
(その時まで、私が逃げ場所、か…。)
アスカはなんとなくわかっている。シンジが自分の看病、介護に集中することで、
今の自分の負い目とも言うべきものから逃げ出していることに。
(はぁ、まあしょうがないわよね。世界はここだけにしかないんだもの。)
彼女はふと、溜め息をつき、それからシンジを探した。
「バカシンジィ、いつまで私をほっとく気?風が冷たいわ。そろそろ戻りましょうよ」
ここは、おそらく以前公園だったであろう場所。
シンジは晴れていれば毎日アスカをここに連れてきている。
「ごめんアスカ、お待たせ」
シンジが現れる。浮かない顔をしている彼を見て、彼女は気づく。
(だから今、それを考えるのは止めなさい。もうちょっとしたら、私も付き合ってあげるから)
彼女はまだよく動かない自分の右手をちら、と見、それから彼を見上げる。
「帰ろ。お腹、空いちゃった」
553: 為 2007/03/03(土) 22:55:33 ID:???
>>552
第五章
アスカは変わった。
「こんな状況になって、変わらない方がバカでしょ」
と彼女なら言うかもしれない。
どこが変わったのか。一言で言えば、以前より自分に素直になった。
弐号機の中にいた母の魂に触れ、守られることの暖かさを知った。
独りで意地を張ることのつまらなさを知った。
シンジに首を絞められ、相手の気持ちを慮ることを知った。
そして、今、彼がいなければ生きていけない状況下で、人の温かさを知り、
人を信じることの美しさを知ろうとしている。
第五章
アスカは変わった。
「こんな状況になって、変わらない方がバカでしょ」
と彼女なら言うかもしれない。
どこが変わったのか。一言で言えば、以前より自分に素直になった。
弐号機の中にいた母の魂に触れ、守られることの暖かさを知った。
独りで意地を張ることのつまらなさを知った。
シンジに首を絞められ、相手の気持ちを慮ることを知った。
そして、今、彼がいなければ生きていけない状況下で、人の温かさを知り、
人を信じることの美しさを知ろうとしている。
554: 為 2007/03/03(土) 22:57:04 ID:???
>>553
(それが罪の意識からだとしても)
シンジがどのような気持ちでアスカに接しているか、彼女にはまだよくわからない。
ここへ来てからの最初の数週間は、まさに寝たきり老人介護だった。
最初の一週間、意識がない彼女の体調管理、カラダの清拭、
下の世話、体位変え、全てシンジがやった。
それに気づいた時、アスカに沸き上がった感情は、まず怒り。
(私のカラダを勝手に!おまえ殺されたいのか!いや殺してやる!)
でもすぐにその怒りは諦めへと変わる。
(いや、でも私のカラダの管理をする人間は目の前のバカしかいないんだわ…)
(そう、今のこいつのおかけで私は生きているんだ)
諦念は、感謝へ。そして今は半ば同情へと昇華している。
意識が戻り、ある程度話もできるようになった頃、シンジに訊いたことがある。
「あんた、なんでここまでできるの?」
シンジはおかゆの入った匙をアスカに向けたところできょとんとした顔をする。
「え…、だってほら、ネルフにいた頃、応急救護とか怪我の処置とか、
講習受けたじゃないか。それを実践してるだけだよ。
あーそうか、アスカはバカらしいとか言って受けなかったよね…。」
…質問の意味が分かっていない。
「あんた、バカぁ?」
思わず口に出る。
「あはっ。久しぶりに聞いたよそのセリフ。なんか嬉しいな。」
「…バカ」
「え?何?」
「…早く寄こしなさいよ、冷めちゃうでしょ!」
「あ、ごめん」
「…あんた、優しいよね…。」
アスカの呟きはシンジには届かない…。
(それが罪の意識からだとしても)
シンジがどのような気持ちでアスカに接しているか、彼女にはまだよくわからない。
ここへ来てからの最初の数週間は、まさに寝たきり老人介護だった。
最初の一週間、意識がない彼女の体調管理、カラダの清拭、
下の世話、体位変え、全てシンジがやった。
それに気づいた時、アスカに沸き上がった感情は、まず怒り。
(私のカラダを勝手に!おまえ殺されたいのか!いや殺してやる!)
でもすぐにその怒りは諦めへと変わる。
(いや、でも私のカラダの管理をする人間は目の前のバカしかいないんだわ…)
(そう、今のこいつのおかけで私は生きているんだ)
諦念は、感謝へ。そして今は半ば同情へと昇華している。
意識が戻り、ある程度話もできるようになった頃、シンジに訊いたことがある。
「あんた、なんでここまでできるの?」
シンジはおかゆの入った匙をアスカに向けたところできょとんとした顔をする。
「え…、だってほら、ネルフにいた頃、応急救護とか怪我の処置とか、
講習受けたじゃないか。それを実践してるだけだよ。
あーそうか、アスカはバカらしいとか言って受けなかったよね…。」
…質問の意味が分かっていない。
「あんた、バカぁ?」
思わず口に出る。
「あはっ。久しぶりに聞いたよそのセリフ。なんか嬉しいな。」
「…バカ」
「え?何?」
「…早く寄こしなさいよ、冷めちゃうでしょ!」
「あ、ごめん」
「…あんた、優しいよね…。」
アスカの呟きはシンジには届かない…。
555: 為 2007/03/03(土) 23:01:43 ID:???
>>554
第六章
セカンドインパクトによって傾いた地球の地軸がサードインパクトによって更に傾いたらしい。
ここ数日、とんでもない量の雨が続く。
この病院はある程度の高台に位置しているからまだ大丈夫そうだが、
下の方はかなり水没してきている。
倒壊した建物もこの数日の雨で更に傷んだらしく、あちらこちらで崩壊が始まっていた。
アスカ。只今歩行訓練中。
第六章
セカンドインパクトによって傾いた地球の地軸がサードインパクトによって更に傾いたらしい。
ここ数日、とんでもない量の雨が続く。
この病院はある程度の高台に位置しているからまだ大丈夫そうだが、
下の方はかなり水没してきている。
倒壊した建物もこの数日の雨で更に傷んだらしく、あちらこちらで崩壊が始まっていた。
アスカ。只今歩行訓練中。
556: 為 2007/03/03(土) 23:03:50 ID:???
>>555
第六章その2
人間様のカラダってスゴイわね。我ながら笑っちゃうわ。
あんなにひどいケガをしたのに、たかだか1ヶ月ちょっとでここまで回復している。
まあ、このカラダについた傷跡は一生残るだろうけれどね…。
3日前、シンジがトイレに行っている隙にベッドを抜け出して鏡を見たわ。
ひどい顔だった。これじゃあシンジが部屋中の鏡を隠すのも無理ないわ。
そのくせ女子トイレには立ち入れないところもシンジらしいけど。
数ヶ月前までは自慢だった白い肌。シミひとつない綺麗な肌。
今は、傷だらけ。傷跡はおそらく一生消えない。
他にもあちこちにアザやどす黒い跡が残っている。
これじゃあ、みんなが戻ってきても私だとはわからないんじゃないかしら?
でも、不思議と平静だった。
今までの自分であれば、自分のアイデンティティを失うような事態に発狂していたかもしれない。
確かに最初は頭が真っ白になったわ。
予想していたとはいえ、ここまでひどいとは思わなかったもの。
思わず、涙が出た。
でも、同時に思えたの。
これは、ママと一緒にいたという証。
第六章その2
人間様のカラダってスゴイわね。我ながら笑っちゃうわ。
あんなにひどいケガをしたのに、たかだか1ヶ月ちょっとでここまで回復している。
まあ、このカラダについた傷跡は一生残るだろうけれどね…。
3日前、シンジがトイレに行っている隙にベッドを抜け出して鏡を見たわ。
ひどい顔だった。これじゃあシンジが部屋中の鏡を隠すのも無理ないわ。
そのくせ女子トイレには立ち入れないところもシンジらしいけど。
数ヶ月前までは自慢だった白い肌。シミひとつない綺麗な肌。
今は、傷だらけ。傷跡はおそらく一生消えない。
他にもあちこちにアザやどす黒い跡が残っている。
これじゃあ、みんなが戻ってきても私だとはわからないんじゃないかしら?
でも、不思議と平静だった。
今までの自分であれば、自分のアイデンティティを失うような事態に発狂していたかもしれない。
確かに最初は頭が真っ白になったわ。
予想していたとはいえ、ここまでひどいとは思わなかったもの。
思わず、涙が出た。
でも、同時に思えたの。
これは、ママと一緒にいたという証。
557: 為 2007/03/03(土) 23:04:42 ID:???
>>556
誰かが、囁いた気がした。
びっくりして後ろを振り返ったけれど、勿論誰もいない。
でも確かに聞こえたの。
「私はあなたのそばにいるわ」
それは、ママの声。
「大丈夫、全て受け入れなさい。今のあなたになら、それができるはずよ。」
確かにママはそう言ってくれたわ。
もう戻れない。戻れないから、受け入れるしかない。
私はもう一度、自分の顔を眺めた。
うん、覚悟を決めた顔って意外と凛々しくていいじゃない。
そう思えたから、私は私を捜すバカシンジの声に答えてあげた。
「ちょっとバカシンジ!紙がないじゃない!持ってきてよ」
困ったような奴の返事に私は声を出して笑った。
またちょっと涙が出た。
カラダの傷は残るかもしれないけれど、
ココロの傷は消すことが出来そうだわ。
ありがとう、ママ。
誰かが、囁いた気がした。
びっくりして後ろを振り返ったけれど、勿論誰もいない。
でも確かに聞こえたの。
「私はあなたのそばにいるわ」
それは、ママの声。
「大丈夫、全て受け入れなさい。今のあなたになら、それができるはずよ。」
確かにママはそう言ってくれたわ。
もう戻れない。戻れないから、受け入れるしかない。
私はもう一度、自分の顔を眺めた。
うん、覚悟を決めた顔って意外と凛々しくていいじゃない。
そう思えたから、私は私を捜すバカシンジの声に答えてあげた。
「ちょっとバカシンジ!紙がないじゃない!持ってきてよ」
困ったような奴の返事に私は声を出して笑った。
またちょっと涙が出た。
カラダの傷は残るかもしれないけれど、
ココロの傷は消すことが出来そうだわ。
ありがとう、ママ。
558: 為 2007/03/03(土) 23:06:34 ID:???
>>557
第六章その3
アスカに見られちゃった。
アスカに自分の顔を見られちゃった。
包帯を代えるたびに目にした紫色の傷跡。
カラダを拭くたびに網膜に焼き付くどす黒いアザ。
彼女が自慢してきたものが失われてしまった。
それも僕のせいで。
僕はどうしたらいいかわからなかった。
だからとりあえず部屋中の鏡を隠した。
今はまだアスカには見て欲しくなかったし。
でも、アスカは僕がちょっと席を外した隙に、
女子トイレに駆け込んで自分の今の姿を見ちゃったんだ。
僕は呼ばれてトイレットペーパーを持っていくまで、それに気づかなかった。
おずおずとトイレに入って、そこに並んでいる鏡を見て
初めてアスカがわざわざここまで来た意味を知った。
そして、彼女の頬に流れた涙の跡に、アスカがどんな思いで今を見つめていたかを。
僕には「ごめん」としか言えなかった。
あれから3日、アスカは何も話してくれない。
やっぱり僕を許してはくれないんだろう。
僕はただ、黙って食事を作り、身の回りの世話をするだけ。
雨がひどくて散歩にも出られない。
アスカから逃げるつもりはないけれど、でも、彼女になんて言ったらいいのかわからない。
こうしていると、つらい。
第六章その3
アスカに見られちゃった。
アスカに自分の顔を見られちゃった。
包帯を代えるたびに目にした紫色の傷跡。
カラダを拭くたびに網膜に焼き付くどす黒いアザ。
彼女が自慢してきたものが失われてしまった。
それも僕のせいで。
僕はどうしたらいいかわからなかった。
だからとりあえず部屋中の鏡を隠した。
今はまだアスカには見て欲しくなかったし。
でも、アスカは僕がちょっと席を外した隙に、
女子トイレに駆け込んで自分の今の姿を見ちゃったんだ。
僕は呼ばれてトイレットペーパーを持っていくまで、それに気づかなかった。
おずおずとトイレに入って、そこに並んでいる鏡を見て
初めてアスカがわざわざここまで来た意味を知った。
そして、彼女の頬に流れた涙の跡に、アスカがどんな思いで今を見つめていたかを。
僕には「ごめん」としか言えなかった。
あれから3日、アスカは何も話してくれない。
やっぱり僕を許してはくれないんだろう。
僕はただ、黙って食事を作り、身の回りの世話をするだけ。
雨がひどくて散歩にも出られない。
アスカから逃げるつもりはないけれど、でも、彼女になんて言ったらいいのかわからない。
こうしていると、つらい。
568: 為 2007/03/04(日) 00:36:29 ID:???
ではご厚意に甘えて再開させて頂きます。
あまり一気に投下はせず、ゆっくりとやっていきますので、
よろしくおねがいします。
第七章
「ねえ、今日は外に出れそうよ」
朝、突然アスカが言った。
「え?う、うんそうだね。雨も止んでるみたいだし。」
シンジはちょっと驚く。久々に聞く彼女の声。思わず涙ぐむ。
「はぁ?あんた何泣いてるの?バカぁ?」
アスカ節が帰ってきている。
「ご、ごめん。すぐに支度するから」
シンジ、大あわてで食事の後かたづけ。
あまり一気に投下はせず、ゆっくりとやっていきますので、
よろしくおねがいします。
第七章
「ねえ、今日は外に出れそうよ」
朝、突然アスカが言った。
「え?う、うんそうだね。雨も止んでるみたいだし。」
シンジはちょっと驚く。久々に聞く彼女の声。思わず涙ぐむ。
「はぁ?あんた何泣いてるの?バカぁ?」
アスカ節が帰ってきている。
「ご、ごめん。すぐに支度するから」
シンジ、大あわてで食事の後かたづけ。
569: 為 2007/03/04(日) 00:38:34 ID:???
>>568
第七章その2
あれからしばらく考えたわ。
今までの私は、臆病な自尊心に固められた幼い子供だった。
誰かに見ていて欲しい、誰かに認めて欲しい。
そのためにエヴァに乗ったし、それだけが生き甲斐だったわ。
加持さんを好きだったのも、彼が私の傍にずっといてくれたからだったのかもしれない。
私は多分お父さんを求めていたのね…。
だけど、シンジと会って、私の臆病な自尊心、高慢な虚栄心は粉砕された。
使徒との戦いで私はそれを暴かれ、汚された。
私は二度、死んだの。戦自が攻めてきた時、私のココロは死んでいたの。
それを蘇らせてくれたのは、ママ。
ママが弐号機にいて、ずっと私を見ていてくれた。
私がATフィールド、ココロの壁を開くとママが抱きしめてくれて。包み込んでくれて。
ママのATフィールドがずっと私を守っていてくれた。
私は、生まれ変わった気がした。
探していたモノが、そこにあったような気がしたの。
もう、誰かを求めなくてもいい。ここにママがいてくれるから。
量産型と戦っている時、私は幸せだったわ。
でも、その時間は呆気なく悪夢に変わった。
私はここでもう一度死んだの。
そして、あの砂浜でまた生まれ変わった。
第七章その2
あれからしばらく考えたわ。
今までの私は、臆病な自尊心に固められた幼い子供だった。
誰かに見ていて欲しい、誰かに認めて欲しい。
そのためにエヴァに乗ったし、それだけが生き甲斐だったわ。
加持さんを好きだったのも、彼が私の傍にずっといてくれたからだったのかもしれない。
私は多分お父さんを求めていたのね…。
だけど、シンジと会って、私の臆病な自尊心、高慢な虚栄心は粉砕された。
使徒との戦いで私はそれを暴かれ、汚された。
私は二度、死んだの。戦自が攻めてきた時、私のココロは死んでいたの。
それを蘇らせてくれたのは、ママ。
ママが弐号機にいて、ずっと私を見ていてくれた。
私がATフィールド、ココロの壁を開くとママが抱きしめてくれて。包み込んでくれて。
ママのATフィールドがずっと私を守っていてくれた。
私は、生まれ変わった気がした。
探していたモノが、そこにあったような気がしたの。
もう、誰かを求めなくてもいい。ここにママがいてくれるから。
量産型と戦っている時、私は幸せだったわ。
でも、その時間は呆気なく悪夢に変わった。
私はここでもう一度死んだの。
そして、あの砂浜でまた生まれ変わった。
570: 為 2007/03/04(日) 00:39:45 ID:???
>>569
リンネテンセイ、って言葉があるんだってね。
人は死んでも生まれ変わる。生きて、死ぬ。それを繰り返す。
色々な罪を犯しながら、周りを許し、許されながら、人生を繰り返す。
シンジがいて、首を絞められて、それがわかった。
今、私にはココロの中にママが、
目の前にはシンジがいる。
シンジの事は憎んでいたし、大嫌いだった。
私をこんな目に遭わせたのもシンジ。
だけど、私はシンジを許そうと思う。
ココロの奥底に、私のそばにいたシンジを思い浮かべることができるから。
今のあいつの気持ち、なんとなく分かる。
あいつは私ほど変わってはいない。というか、全く変わっていない。
きっと今でも自分を責め続けている。
シンジ、独りで背負わなくてもいいんだよ。
あんたにも心の中であんたを見守ってくれている人、
目の前であんたを見続けている人がいるんだから。
リンネテンセイ、って言葉があるんだってね。
人は死んでも生まれ変わる。生きて、死ぬ。それを繰り返す。
色々な罪を犯しながら、周りを許し、許されながら、人生を繰り返す。
シンジがいて、首を絞められて、それがわかった。
今、私にはココロの中にママが、
目の前にはシンジがいる。
シンジの事は憎んでいたし、大嫌いだった。
私をこんな目に遭わせたのもシンジ。
だけど、私はシンジを許そうと思う。
ココロの奥底に、私のそばにいたシンジを思い浮かべることができるから。
今のあいつの気持ち、なんとなく分かる。
あいつは私ほど変わってはいない。というか、全く変わっていない。
きっと今でも自分を責め続けている。
シンジ、独りで背負わなくてもいいんだよ。
あんたにも心の中であんたを見守ってくれている人、
目の前であんたを見続けている人がいるんだから。
571: 為 2007/03/04(日) 00:41:11 ID:???
>>570
第七章その3
今日、久しぶりにアスカが話しかけてくれた。
ここ数日は何を話しかけても生返事ばかりだったから、すごく嬉しい。
嬉しい。けど、不安だ。はっきり言えば、怖い。
アスカは自分の状況を的確に把握しているだろう。
自分のケガの状態、もう元には戻らないカラダ。
みんな、僕のせいだ。
僕は泣き虫で卑怯者で、素直になれなかった。
今の世界は僕が作ったと言ってもいい。
みんな死んじゃえ、と思った。
そしたらみんな死んじゃった。
僕も死んじゃえ、と思った。
それなのに僕は帰ってきてしまった。
みんなともう一度会いたい、そう願ったから僕は戻って来れた。
けど、みんなは戻って来れなかった。
ミサトさん、綾波、リツコさん、ケンスケ、委員長、伊吹さんに日向さんに青葉さん、副指令。
そして父さん。それにトウジや加持さん。
みんなみんな、僕の大切な人だったんだ。
僕はみんなを殺してしまった。
それなのにここで生きている。
今まではアスカの傷の手当てとかしなくちゃいけなかった。
けど、アスカももうだいぶ良くなった。
きっとアスカは僕のしたことを許してくれないだろう。
僕には謝ることしかできない。
いや、謝る以上のことをしなくちゃいけないと思う。
でも、向こうに行っても誰も許してくれないだろうな…。
僕は世界を破滅させた悪魔なんだから。
第七章その3
今日、久しぶりにアスカが話しかけてくれた。
ここ数日は何を話しかけても生返事ばかりだったから、すごく嬉しい。
嬉しい。けど、不安だ。はっきり言えば、怖い。
アスカは自分の状況を的確に把握しているだろう。
自分のケガの状態、もう元には戻らないカラダ。
みんな、僕のせいだ。
僕は泣き虫で卑怯者で、素直になれなかった。
今の世界は僕が作ったと言ってもいい。
みんな死んじゃえ、と思った。
そしたらみんな死んじゃった。
僕も死んじゃえ、と思った。
それなのに僕は帰ってきてしまった。
みんなともう一度会いたい、そう願ったから僕は戻って来れた。
けど、みんなは戻って来れなかった。
ミサトさん、綾波、リツコさん、ケンスケ、委員長、伊吹さんに日向さんに青葉さん、副指令。
そして父さん。それにトウジや加持さん。
みんなみんな、僕の大切な人だったんだ。
僕はみんなを殺してしまった。
それなのにここで生きている。
今まではアスカの傷の手当てとかしなくちゃいけなかった。
けど、アスカももうだいぶ良くなった。
きっとアスカは僕のしたことを許してくれないだろう。
僕には謝ることしかできない。
いや、謝る以上のことをしなくちゃいけないと思う。
でも、向こうに行っても誰も許してくれないだろうな…。
僕は世界を破滅させた悪魔なんだから。
572: 為 2007/03/04(日) 00:43:03 ID:???
>>570
第七章その4
シンジは片づけを終えた。
彼の性格からして、部屋の中は綺麗に片づいている。
そこの机の引き出しには、食料の貯蔵場所、医療機器の簡単な操作方法などが描かれたメモが入っている。
彼は、その引き出しを二度、トントンと軽く叩いてから、隣室のアスカの部屋に声をかけた。
「準備できたよ。まだそんなに天気も良くないし、早めにすまそう」
「だったらもうちょっと早くしなさいよ、レディーを待たせるなんてサイテーよバカシンジ」
シンジは微笑みを浮かべて、アスカのところへ向かった。
第七章その4
シンジは片づけを終えた。
彼の性格からして、部屋の中は綺麗に片づいている。
そこの机の引き出しには、食料の貯蔵場所、医療機器の簡単な操作方法などが描かれたメモが入っている。
彼は、その引き出しを二度、トントンと軽く叩いてから、隣室のアスカの部屋に声をかけた。
「準備できたよ。まだそんなに天気も良くないし、早めにすまそう」
「だったらもうちょっと早くしなさいよ、レディーを待たせるなんてサイテーよバカシンジ」
シンジは微笑みを浮かべて、アスカのところへ向かった。
576: 為 2007/03/04(日) 22:57:55 ID:???
>>572
第八章
雨は止んだとは言え、雲はまだ多く、風も強い。
「んー、これは今日もちょっと無理か…」
珍しくアスカがそう思ったくらいに。
「いや、今日を逃すとまたしばらく缶詰になりそうだから、
行けるところまで行ってみようよ」
珍しくシンジが決めた。出発。
病院の廃墟からシンジの介助でアスカが進み出る。
アスカ、この頃はもう松葉杖。
まだ早い、というシンジの声を無視してこれに決めた。
なにより、シンジをぶっ叩くのにちょうどいい。
そのたびによろめいて、今叩いた相手に支えてもらうのだが。
ゆっくり、ゆっくりといつもの公園に向かう。
一週間以上続いた大雨で、海抜の低いところは完全に水没している。
あの砂浜も今は見ることが出来ない。
「あ、アスカ、今日はこっちの方へ行かない?」
シンジがアスカの答えを聞く前に坂を下り始める。
「ちょっ、どーしたのよ待ちなさいよバカシンジ!」
アスカ、慌ててついていこうとするも、松葉杖だけになかなか進まない。
第八章
雨は止んだとは言え、雲はまだ多く、風も強い。
「んー、これは今日もちょっと無理か…」
珍しくアスカがそう思ったくらいに。
「いや、今日を逃すとまたしばらく缶詰になりそうだから、
行けるところまで行ってみようよ」
珍しくシンジが決めた。出発。
病院の廃墟からシンジの介助でアスカが進み出る。
アスカ、この頃はもう松葉杖。
まだ早い、というシンジの声を無視してこれに決めた。
なにより、シンジをぶっ叩くのにちょうどいい。
そのたびによろめいて、今叩いた相手に支えてもらうのだが。
ゆっくり、ゆっくりといつもの公園に向かう。
一週間以上続いた大雨で、海抜の低いところは完全に水没している。
あの砂浜も今は見ることが出来ない。
「あ、アスカ、今日はこっちの方へ行かない?」
シンジがアスカの答えを聞く前に坂を下り始める。
「ちょっ、どーしたのよ待ちなさいよバカシンジ!」
アスカ、慌ててついていこうとするも、松葉杖だけになかなか進まない。
577: 為 2007/03/04(日) 22:59:11 ID:???
>>576
15分ほど大汗をかきながらシンジにおいつくと、そには黒く焦げた棒、
鉄パイプ、コンクリートブロックなどが整然と並んでいる。
「何よこれ…?」
答えを半ば予期しつつ、アスカが答える。
「うん、お墓だよ。これがミサトさん、これがリツコさん、これが綾波で…」
シンジが淡々と説明する。
「お父さんが前言っていたんだ。ココロの中にいればそれでいい、って。
だから僕の母さんのお墓も形だけのもので、実際に母さんがそこにいるわけじゃない。
けど、僕は自分たちの心の中で生きているみんなと会うために、ここへこういうものを作った。
石が見当たらないから、そのへんは適当なものなんだけど…。」
アスカは一瞬呆気にとられたが、すぐに反発する。
「あんた、バカぁ?どうしてミサトやファーストを死んだものとして決めつけるのよ!
きっと帰ってくるわよ!」
シンジは無言でアスカを見つめる。涙をためた目。アスカをじっと見る。
「な、なによ…」
シンジは何も言わず、しばらくアスカを見つめた上で、微笑んだ。
「ごめんね。」
アスカは、シンジの気持ちの重さをなんとなく理解した。
そうしたら、やっぱり、何も言えなくなった。
2人は無言で坂を上る。
今度はシンジがアスカに肩を貸して。
15分ほど大汗をかきながらシンジにおいつくと、そには黒く焦げた棒、
鉄パイプ、コンクリートブロックなどが整然と並んでいる。
「何よこれ…?」
答えを半ば予期しつつ、アスカが答える。
「うん、お墓だよ。これがミサトさん、これがリツコさん、これが綾波で…」
シンジが淡々と説明する。
「お父さんが前言っていたんだ。ココロの中にいればそれでいい、って。
だから僕の母さんのお墓も形だけのもので、実際に母さんがそこにいるわけじゃない。
けど、僕は自分たちの心の中で生きているみんなと会うために、ここへこういうものを作った。
石が見当たらないから、そのへんは適当なものなんだけど…。」
アスカは一瞬呆気にとられたが、すぐに反発する。
「あんた、バカぁ?どうしてミサトやファーストを死んだものとして決めつけるのよ!
きっと帰ってくるわよ!」
シンジは無言でアスカを見つめる。涙をためた目。アスカをじっと見る。
「な、なによ…」
シンジは何も言わず、しばらくアスカを見つめた上で、微笑んだ。
「ごめんね。」
アスカは、シンジの気持ちの重さをなんとなく理解した。
そうしたら、やっぱり、何も言えなくなった。
2人は無言で坂を上る。
今度はシンジがアスカに肩を貸して。
578: 為 2007/03/04(日) 23:08:26 ID:???
>>577
第九章
「はぁ、ようやく着いたわ。」
もう昼時になる。普通に歩けば、墓のある丘を経由しても病院からは徒歩30分ほどであろう。
けれども今のアスカのカラダにはそのペースでの移動は無理だ。
たとえ驚異的な回復をしているとしても。
「ねえシンジ、何か食べるもの持ってきていないの?」
アスカの問いにシンジは答えない。
ベンチ(と言っても、噴水が崩れた後に残ったコンクリのブロックなのだが)
に腰掛けているアスカからちょっと離れて背を向けている。
「ねえ、アスカ」
「ん?まさか弁当忘れたんじゃないでしょうねぇ」
アスカはゆっくりと松葉杖をそばに引き寄せながらシンジを睨み付ける。
第九章
「はぁ、ようやく着いたわ。」
もう昼時になる。普通に歩けば、墓のある丘を経由しても病院からは徒歩30分ほどであろう。
けれども今のアスカのカラダにはそのペースでの移動は無理だ。
たとえ驚異的な回復をしているとしても。
「ねえシンジ、何か食べるもの持ってきていないの?」
アスカの問いにシンジは答えない。
ベンチ(と言っても、噴水が崩れた後に残ったコンクリのブロックなのだが)
に腰掛けているアスカからちょっと離れて背を向けている。
「ねえ、アスカ」
「ん?まさか弁当忘れたんじゃないでしょうねぇ」
アスカはゆっくりと松葉杖をそばに引き寄せながらシンジを睨み付ける。
579: 為 2007/03/04(日) 23:09:19 ID:???
>>578
「僕、色々考えたんだ。」
シンジはアスカの問いかけを無視して続ける。
「どうしてサードインパクトが起きたのかを。」
(知っているわ。)
アスカは分かっている。が、返事をせず、彼を見つめる。
「結局、僕がだらしなかったから、こうなったんだ。
アスカが苦しんでいる時に僕はアスカにひどいことをした。
アスカが戦っている時、僕は逃げようとしていた。
ミサトさんが撃たれたのは僕がぐずぐずしていたせいなんだ。」
「…」黙って聞く。左手は松葉杖を握りしめたまま。
「人類補完計画は僕が壊れたことで始まってしまった。
みんな大きくなった綾波のようなものに吸い込まれ、帰ってこなかった。
僕は母さんに出逢い、みんなと再び会いたい、
他人の恐怖が再び始まろうと、みんなともう一度会いたい、そう思った。
そうしたら、僕はここに戻ってきた。」
アスカはうなづく。シンジに気づかれないように寄りかかっていた背中を若干前屈みにする。
「けど、誰も戻ってこない。アスカ以外は。正直に言うよ。
僕はアスカが戻ってきて、嬉しかった。けど、次の瞬間は怖くなったんだ。
僕はアスカにひどいことをした。僕のせいでみんな死んじゃった。
僕は悪魔だ。アスカの看病をずーっとしていたのだって、
自分の罪の重さから逃げていただけなんだ!」
さらに右足に重心を移動させ、腰を若干浮かせる。
「それで、シンジは何を考えているの?何をしたいの?」
「アスカはきっと僕を許してはくれないだろうし、なにより僕は僕を許せないんだ。
全てから逃げ、曖昧なままで過ごしてきたせいで、僕はこれ以上ない罪を犯したんだよ。
僕にはもうこれくらいしか残されていないんだ」
「僕、色々考えたんだ。」
シンジはアスカの問いかけを無視して続ける。
「どうしてサードインパクトが起きたのかを。」
(知っているわ。)
アスカは分かっている。が、返事をせず、彼を見つめる。
「結局、僕がだらしなかったから、こうなったんだ。
アスカが苦しんでいる時に僕はアスカにひどいことをした。
アスカが戦っている時、僕は逃げようとしていた。
ミサトさんが撃たれたのは僕がぐずぐずしていたせいなんだ。」
「…」黙って聞く。左手は松葉杖を握りしめたまま。
「人類補完計画は僕が壊れたことで始まってしまった。
みんな大きくなった綾波のようなものに吸い込まれ、帰ってこなかった。
僕は母さんに出逢い、みんなと再び会いたい、
他人の恐怖が再び始まろうと、みんなともう一度会いたい、そう思った。
そうしたら、僕はここに戻ってきた。」
アスカはうなづく。シンジに気づかれないように寄りかかっていた背中を若干前屈みにする。
「けど、誰も戻ってこない。アスカ以外は。正直に言うよ。
僕はアスカが戻ってきて、嬉しかった。けど、次の瞬間は怖くなったんだ。
僕はアスカにひどいことをした。僕のせいでみんな死んじゃった。
僕は悪魔だ。アスカの看病をずーっとしていたのだって、
自分の罪の重さから逃げていただけなんだ!」
さらに右足に重心を移動させ、腰を若干浮かせる。
「それで、シンジは何を考えているの?何をしたいの?」
「アスカはきっと僕を許してはくれないだろうし、なにより僕は僕を許せないんだ。
全てから逃げ、曖昧なままで過ごしてきたせいで、僕はこれ以上ない罪を犯したんだよ。
僕にはもうこれくらいしか残されていないんだ」
580: 為 2007/03/04(日) 23:10:10 ID:???
>>579
全てが一瞬だった。シンジがこちらを振り向きざま、ナイフを取り出し喉を貫こうとするのと、
アスカの右足での跳躍から左手に握られた松葉杖が彼の右腕を打ち付けるまで、
おそらく1秒もかからなかったのではないか。
右手をしたたかに打たれ、ナイフを取り落とすシンジ。
地面に落ちたナイフを、手を打ち付けたその勢いで遠くに飛ばすアスカの松葉杖。
「バカ!バカバカバカバカ!バカシンジ!」
真っ赤になって叫ぶアスカ。
「あんただけじゃないのよ!ここにもう1人、同じ思いを抱いている人間がいるのよ!」
最後の方は涙で声にならない。
「アスカは違うよ。みんな僕が悪いんだ!僕はこの世界で生きてちゃいけないんだ!」
そういうと、シンジはアスカに背を向けて走り出した。
「ごめんアスカ。さよなら」
アスカは必死に追いかけるが、追いつくはずもない。
「神様!シンジを死なせないで!」
足を引きずりながら懸命に追うアスカ。
ふいに光につつまれた気がした。
「ママ?」
「アスカ、早くお行きなさい。そして、あなたの愛する人を救いなさい。
あなたしかいないのよ、彼を救えるのは。」
母の声に敢然とした表情で頷くアスカ。
彼女は松葉杖を投げ捨てると絶叫をあげ、シンジの後を追った。
全てが一瞬だった。シンジがこちらを振り向きざま、ナイフを取り出し喉を貫こうとするのと、
アスカの右足での跳躍から左手に握られた松葉杖が彼の右腕を打ち付けるまで、
おそらく1秒もかからなかったのではないか。
右手をしたたかに打たれ、ナイフを取り落とすシンジ。
地面に落ちたナイフを、手を打ち付けたその勢いで遠くに飛ばすアスカの松葉杖。
「バカ!バカバカバカバカ!バカシンジ!」
真っ赤になって叫ぶアスカ。
「あんただけじゃないのよ!ここにもう1人、同じ思いを抱いている人間がいるのよ!」
最後の方は涙で声にならない。
「アスカは違うよ。みんな僕が悪いんだ!僕はこの世界で生きてちゃいけないんだ!」
そういうと、シンジはアスカに背を向けて走り出した。
「ごめんアスカ。さよなら」
アスカは必死に追いかけるが、追いつくはずもない。
「神様!シンジを死なせないで!」
足を引きずりながら懸命に追うアスカ。
ふいに光につつまれた気がした。
「ママ?」
「アスカ、早くお行きなさい。そして、あなたの愛する人を救いなさい。
あなたしかいないのよ、彼を救えるのは。」
母の声に敢然とした表情で頷くアスカ。
彼女は松葉杖を投げ捨てると絶叫をあげ、シンジの後を追った。
581: 為 2007/03/04(日) 23:12:43 ID:???
>>580
第九章その2
バカシンジ!
バカシンジ!
バカシンジ!
あんたはいつもいつも自分の気持ちだけで自己完結を計ろうとしていたわ。
私も昔はそうだったからわかる。
でも私はサードインパクトで変わることが出来た。
シンジにいてもらって変わることが出来た。
私にできて、あんたにできない筈はないのよ!
あんた何をしてほしいの?
何が欲しいの?
私が持てるものなら全てくれてやるわ!
私はまだあなたを憎いと思っている。
けど、その気持ちを上書きするかのように、
シンジを想う気持ちが大きくなっている。
ここで死なせやしないから!
私、まだ変わるんだから!
私、まだ伝えていないんだから!
だから、待ちなさいよバカシンジ!
頑張れアスカ、ここであいつに死なれたら、私は一生自分を許さないからね!
足が折れても筋が切れてもまた治るわ。
けど、あいつを失ったら、もう私のココロの傷は治らない。
絶対死んでも追いつけバカアスカ!!
第九章その2
バカシンジ!
バカシンジ!
バカシンジ!
あんたはいつもいつも自分の気持ちだけで自己完結を計ろうとしていたわ。
私も昔はそうだったからわかる。
でも私はサードインパクトで変わることが出来た。
シンジにいてもらって変わることが出来た。
私にできて、あんたにできない筈はないのよ!
あんた何をしてほしいの?
何が欲しいの?
私が持てるものなら全てくれてやるわ!
私はまだあなたを憎いと思っている。
けど、その気持ちを上書きするかのように、
シンジを想う気持ちが大きくなっている。
ここで死なせやしないから!
私、まだ変わるんだから!
私、まだ伝えていないんだから!
だから、待ちなさいよバカシンジ!
頑張れアスカ、ここであいつに死なれたら、私は一生自分を許さないからね!
足が折れても筋が切れてもまた治るわ。
けど、あいつを失ったら、もう私のココロの傷は治らない。
絶対死んでも追いつけバカアスカ!!
582: 為 2007/03/04(日) 23:42:17 ID:???
>>581
第九章その3
シンジは廃墟と化したビル、おそらくデパートか何かであった建物の中に駆け込んだ。
痛みが激しい。すぐにでも崩れそうだ。
上に上れそうなルートを探る。
ここは地下駐車場があった関係で、崩れた建物は地上二階程度の高さだが、
下は地下四階程度まで穴が空いている。
ナイフを奪われたらここにしよう、と以前から決めていた。
店内のほぼ中央にエスカレータの残骸がある。だがここは完全に埋まっている。
奥の階段に若干のスキマがあり、そこから上れそうだ。
「…バカ!バカシンジ!」
奥の階段に顔を突っ込もうとした時、後ろから泣き声ともつかぬ絶叫が彼を貫いた。
シンジの動きが、止まる。
「バカ!バカシンジ!」
見てなくても肩をふるわせているのが分かる。
泣き顔を人に絶対見せたがらない女が肩を震わせて泣いている。
「弱虫!意気地なし!なんでそこでまた逃げるのよ!」
「アスカに僕の気持ちなんてわからないよ!」
思わず口に出た言葉。瞬間、シンジのココロに浮かぶのは
アスカにまたひどいこと言っちゃった、という罪悪感。
だが、その答えはシンジには予想外だった。
「よく分かるわよ!だってシンジは私だもの!」
「アスカが僕?」思わず振り返ってアスカを見る。
「そうよ、何が僕のせいよ!この世界に生き残ったのはあんた1人だとでも言いたいの?
私もいるのよ!あんたがサードインパクトを引き起こしたというのなら、
弐号機で量産型を止められなかった私だって同罪よ!」
「そんなことはないよ!僕がもっとしっかりしていればよかったんだ!」
「あんたバカぁ?私たちはエヴァのパイロットよ!初号機だけ特別扱いは許さないわ!
私たち、一蓮托生だったのよ、運命共同体だったのよ!一緒に戦ったじゃない、仲は良くなかったけど。」
「…。」
第九章その3
シンジは廃墟と化したビル、おそらくデパートか何かであった建物の中に駆け込んだ。
痛みが激しい。すぐにでも崩れそうだ。
上に上れそうなルートを探る。
ここは地下駐車場があった関係で、崩れた建物は地上二階程度の高さだが、
下は地下四階程度まで穴が空いている。
ナイフを奪われたらここにしよう、と以前から決めていた。
店内のほぼ中央にエスカレータの残骸がある。だがここは完全に埋まっている。
奥の階段に若干のスキマがあり、そこから上れそうだ。
「…バカ!バカシンジ!」
奥の階段に顔を突っ込もうとした時、後ろから泣き声ともつかぬ絶叫が彼を貫いた。
シンジの動きが、止まる。
「バカ!バカシンジ!」
見てなくても肩をふるわせているのが分かる。
泣き顔を人に絶対見せたがらない女が肩を震わせて泣いている。
「弱虫!意気地なし!なんでそこでまた逃げるのよ!」
「アスカに僕の気持ちなんてわからないよ!」
思わず口に出た言葉。瞬間、シンジのココロに浮かぶのは
アスカにまたひどいこと言っちゃった、という罪悪感。
だが、その答えはシンジには予想外だった。
「よく分かるわよ!だってシンジは私だもの!」
「アスカが僕?」思わず振り返ってアスカを見る。
「そうよ、何が僕のせいよ!この世界に生き残ったのはあんた1人だとでも言いたいの?
私もいるのよ!あんたがサードインパクトを引き起こしたというのなら、
弐号機で量産型を止められなかった私だって同罪よ!」
「そんなことはないよ!僕がもっとしっかりしていればよかったんだ!」
「あんたバカぁ?私たちはエヴァのパイロットよ!初号機だけ特別扱いは許さないわ!
私たち、一蓮托生だったのよ、運命共同体だったのよ!一緒に戦ったじゃない、仲は良くなかったけど。」
「…。」
583: 為 2007/03/04(日) 23:44:39 ID:???
>>582
「あれから私はあんたにプライドを傷つけられ、使徒に自我を崩壊させられ、
廃人同様になったわ、けど、そうなったことで、
ママが弐号機で私を守ってくれていたってことがわかったし、
弐号機は死んだけど、ママは私の心の中にいて、私を見守ってくれているわ。
シンジ、初号機にあんたのママもいたんでしょ?」
「でも母さんは初号機に残ったよ。遠くへ行ってしまった。」
「でもそれはシンジが望んだことなんでしょ?」
「…そうだ。そうだよ。みんなに会いたかったから。けど…」
「けど、じゃないのよ。確かにみんな戻ってこないわ。
そしてあんたはそれを自分のせいだと責め続けている。
自分が殺したんだと責めている。
じゃあ、私たちは今まで何人の人間を殺してきたの?
私はこの前の戦自との戦いでおそらく数百人単位の兵士を殺したわ。
でも、悔やんではいない。そうしなければ私が殺されていたから。
そして、私はそのことを忘れない。
私の命は、その数百の命によって守られたものである、ということを。」
「で、でも…」
「シンジだってそうでしょ!あんたの命は、
あなたの大切な人たちが守ってくれたから、いまそこにあるんでしょーが!
それを何?捨てるの?それこそ欺瞞、偽善だわ。
ミサトやリツコがそんなこと望むと思うの?あんたの母さんがそれを望むと思うの?」
「あれから私はあんたにプライドを傷つけられ、使徒に自我を崩壊させられ、
廃人同様になったわ、けど、そうなったことで、
ママが弐号機で私を守ってくれていたってことがわかったし、
弐号機は死んだけど、ママは私の心の中にいて、私を見守ってくれているわ。
シンジ、初号機にあんたのママもいたんでしょ?」
「でも母さんは初号機に残ったよ。遠くへ行ってしまった。」
「でもそれはシンジが望んだことなんでしょ?」
「…そうだ。そうだよ。みんなに会いたかったから。けど…」
「けど、じゃないのよ。確かにみんな戻ってこないわ。
そしてあんたはそれを自分のせいだと責め続けている。
自分が殺したんだと責めている。
じゃあ、私たちは今まで何人の人間を殺してきたの?
私はこの前の戦自との戦いでおそらく数百人単位の兵士を殺したわ。
でも、悔やんではいない。そうしなければ私が殺されていたから。
そして、私はそのことを忘れない。
私の命は、その数百の命によって守られたものである、ということを。」
「で、でも…」
「シンジだってそうでしょ!あんたの命は、
あなたの大切な人たちが守ってくれたから、いまそこにあるんでしょーが!
それを何?捨てるの?それこそ欺瞞、偽善だわ。
ミサトやリツコがそんなこと望むと思うの?あんたの母さんがそれを望むと思うの?」
584: 為 2007/03/04(日) 23:49:05 ID:???
>>583
シンジの動きが止まった。ここからが勝負。アスカが身構える。
足場の悪いここからシンジのいる場所まで一足飛びで2秒半。
シンジが階段脇のスキマから上に姿を消すことができるまで1秒ほどだろう。
ここで追いつけなければ、今のアスカに瓦礫の山を登る体力はない。
チャンスは一度。彼の反応を遅らせられれば…。
アスカは覚悟を決めた。シンジを見つめる。左目はまだほとんど見えないが、
澄んだ蒼い瞳がシンジの心を射抜き、包み込む。深呼吸をして、一気に吐き出した。
「それに、私は、シンジがいなくなっちゃったら、生きていけない!」
シンジが慌てた表情で、こっちへ突進してくる。
(何?じゃあ私を殺して自分も死ぬってか?ハッそれでもいいわよ。
私は少なくともこの世界に1人で残るつもりは毛頭ないから。)
「アスカ!危ない!」
声が聞こえるのと、シンジが彼女を抱きかかえて外に飛び出そうとするのがほぼ同時。
そして、天井が崩れてアスカの頭上に落下したのも、ほぼ同時。
シンジの動きが止まった。ここからが勝負。アスカが身構える。
足場の悪いここからシンジのいる場所まで一足飛びで2秒半。
シンジが階段脇のスキマから上に姿を消すことができるまで1秒ほどだろう。
ここで追いつけなければ、今のアスカに瓦礫の山を登る体力はない。
チャンスは一度。彼の反応を遅らせられれば…。
アスカは覚悟を決めた。シンジを見つめる。左目はまだほとんど見えないが、
澄んだ蒼い瞳がシンジの心を射抜き、包み込む。深呼吸をして、一気に吐き出した。
「それに、私は、シンジがいなくなっちゃったら、生きていけない!」
シンジが慌てた表情で、こっちへ突進してくる。
(何?じゃあ私を殺して自分も死ぬってか?ハッそれでもいいわよ。
私は少なくともこの世界に1人で残るつもりは毛頭ないから。)
「アスカ!危ない!」
声が聞こえるのと、シンジが彼女を抱きかかえて外に飛び出そうとするのがほぼ同時。
そして、天井が崩れてアスカの頭上に落下したのも、ほぼ同時。
585: 為 2007/03/04(日) 23:51:58 ID:???
>>584
第九章その4
まさか、あんなこと言われるなんて思わなかった。
アスカは絶対僕のことを恨んでいると思っていた。
僕もアスカのこと、恨んでいたかもしれない。
助けて欲しい時に、助けてくれなかったから。
でも、今になって思える。彼女が一番ココロを開いていてくれたのは、この僕だった。
僕は、自分しか見ていなくて、彼女のサインに気づかなかったんだ。
なんて僕はバカなんだろう。
バカシンジって言われるのも無理ないや。
突然の告白を受けて、頭が真っ白になった。
その分、反応が遅れた。
天井が崩れ、2トンはあろうかというコンクリの角材がアスカの頭上へ。
瞬間叫んで走り出しながら、それをきっかけに次々と崩れていく建物を感じた。
ダメだ、いけない、アスカを死なせちゃいけないんだ。
僕ってつくづくバカだよな。
彼女を抱きかかえ、光の見える方向へ滑り込むように身を投げ出しながら、そう思った。
こんな時になって自分の気持ちに気づいても、死んじゃったら伝えられないじゃないか。
第九章その4
まさか、あんなこと言われるなんて思わなかった。
アスカは絶対僕のことを恨んでいると思っていた。
僕もアスカのこと、恨んでいたかもしれない。
助けて欲しい時に、助けてくれなかったから。
でも、今になって思える。彼女が一番ココロを開いていてくれたのは、この僕だった。
僕は、自分しか見ていなくて、彼女のサインに気づかなかったんだ。
なんて僕はバカなんだろう。
バカシンジって言われるのも無理ないや。
突然の告白を受けて、頭が真っ白になった。
その分、反応が遅れた。
天井が崩れ、2トンはあろうかというコンクリの角材がアスカの頭上へ。
瞬間叫んで走り出しながら、それをきっかけに次々と崩れていく建物を感じた。
ダメだ、いけない、アスカを死なせちゃいけないんだ。
僕ってつくづくバカだよな。
彼女を抱きかかえ、光の見える方向へ滑り込むように身を投げ出しながら、そう思った。
こんな時になって自分の気持ちに気づいても、死んじゃったら伝えられないじゃないか。
586: 為 2007/03/04(日) 23:52:57 ID:???
>>585
思えば、第一印象は最悪だった。なんだこの高飛車女は、と思った。
けど、イスラフェル戦、あの数日間で僕の見方は少し変わった。
アスカは、普通の女の子で、むしろ弱い部分を隠すために、ああいう態度を取っているのじゃないかな、って。
でも、とりあえず、そう思ったからって何かが変わるわけじゃない。
普通の戦友として、友人の1人として、つきあえるようになっただけだ。
でも、あのディラックの海から帰ってきた頃から、
ミサトさんとの3人での共同生活がうまくいかなくなったころから、
僕はアスカを見ていた。
いや、アスカに甘えていた。だってアスカしかいなかったから。
アスカしかいなかったから。まだまだお互い子供だったけど、
ああ、今でもまだ子供さ、
けど、今、アスカは死なせちゃいけないんだ。
僕を見ていてくれた、僕を許してくれた、僕のココロに触れてくれた、
そんなアスカを死なせちゃいけないんだ…。
あれ、でもこれってなんだか走馬燈のようだよね…。
死ぬのかな…?
嫌だ、死にたくない。
アスカにもう一度、会いたい…。
思えば、第一印象は最悪だった。なんだこの高飛車女は、と思った。
けど、イスラフェル戦、あの数日間で僕の見方は少し変わった。
アスカは、普通の女の子で、むしろ弱い部分を隠すために、ああいう態度を取っているのじゃないかな、って。
でも、とりあえず、そう思ったからって何かが変わるわけじゃない。
普通の戦友として、友人の1人として、つきあえるようになっただけだ。
でも、あのディラックの海から帰ってきた頃から、
ミサトさんとの3人での共同生活がうまくいかなくなったころから、
僕はアスカを見ていた。
いや、アスカに甘えていた。だってアスカしかいなかったから。
アスカしかいなかったから。まだまだお互い子供だったけど、
ああ、今でもまだ子供さ、
けど、今、アスカは死なせちゃいけないんだ。
僕を見ていてくれた、僕を許してくれた、僕のココロに触れてくれた、
そんなアスカを死なせちゃいけないんだ…。
あれ、でもこれってなんだか走馬燈のようだよね…。
死ぬのかな…?
嫌だ、死にたくない。
アスカにもう一度、会いたい…。
591: 為 2007/03/06(火) 00:30:52 ID:???
>>586
第十章
轟音とともに、その建物は崩れ落ちた。
あたり一面の埃は直後に再び降り出した雨で、すぐに収まった。
「死なせるもんか死なせるもんか絶対死なせないから!」
アスカが泣きながらシンジにすがりつく。
「バカシンジ!起きなさいよ!死んだら一生あんたを許さないわよ!」
「ねぇ、ダメよ、置いていかないで、イヤよ死んじゃイヤ。」
シンジの半歩の踏み出しの遅れが、まさに半歩差で彼だけを瓦礫の下に押しとどめた。
腰から下がコンクリの角材の下敷きになっている。
アスカ1人の力では抜けない。頭でも打ったのか、本人の意識は既にない。
「ダメよ、ダメ、バカぁ、一緒に帰って晩ご飯作ってよ!」
アスカは半ば半狂乱でシンジの頭を抱きしめて泣いている。
「神様お願い、私の命を半分あげてもいい、シンジを助けて!」
「私がようやく見つけた愛する人を奪っていかないで!」
第十章
轟音とともに、その建物は崩れ落ちた。
あたり一面の埃は直後に再び降り出した雨で、すぐに収まった。
「死なせるもんか死なせるもんか絶対死なせないから!」
アスカが泣きながらシンジにすがりつく。
「バカシンジ!起きなさいよ!死んだら一生あんたを許さないわよ!」
「ねぇ、ダメよ、置いていかないで、イヤよ死んじゃイヤ。」
シンジの半歩の踏み出しの遅れが、まさに半歩差で彼だけを瓦礫の下に押しとどめた。
腰から下がコンクリの角材の下敷きになっている。
アスカ1人の力では抜けない。頭でも打ったのか、本人の意識は既にない。
「ダメよ、ダメ、バカぁ、一緒に帰って晩ご飯作ってよ!」
アスカは半ば半狂乱でシンジの頭を抱きしめて泣いている。
「神様お願い、私の命を半分あげてもいい、シンジを助けて!」
「私がようやく見つけた愛する人を奪っていかないで!」
592: 為 2007/03/06(火) 00:31:46 ID:???
>>591
次の瞬間、シンジに光が差した。
呆気にとられるアスカ。
「シンジの…ママ?遠くに行っちゃったんじゃなかったの?」
その光は人の形をつくりだす。
「人?いや、これはエヴァだわ、初号機だわ。」
その光は、大きさはアスカよりやや高いくらいとは言え、
初号機のシルエットそのままだった。
なぜ?という疑問を考える余裕はない。
アスカとエヴァ初号機は手近に転がっている長めの鉄材を隙間に押し込む。
テコの原理を使おうという考えだ。
そんな中、アスカは気づく。
ああ、今になって気づく。
普通に動いているこの右腕。
(私の右手は、シンジを離さないために、
離れてほしくなかったから、動かなかったんだ…。)
次の瞬間、シンジに光が差した。
呆気にとられるアスカ。
「シンジの…ママ?遠くに行っちゃったんじゃなかったの?」
その光は人の形をつくりだす。
「人?いや、これはエヴァだわ、初号機だわ。」
その光は、大きさはアスカよりやや高いくらいとは言え、
初号機のシルエットそのままだった。
なぜ?という疑問を考える余裕はない。
アスカとエヴァ初号機は手近に転がっている長めの鉄材を隙間に押し込む。
テコの原理を使おうという考えだ。
そんな中、アスカは気づく。
ああ、今になって気づく。
普通に動いているこの右腕。
(私の右手は、シンジを離さないために、
離れてほしくなかったから、動かなかったんだ…。)
593: 為 2007/03/06(火) 00:32:33 ID:???
>>592
「シンジのママ、助けて!」
今や初号機となった光の陰は、ゆっくりと鉄材を掴むと、
やがて渾身の力で角材を持ち上げ始めた。
「お願い、お願い、あと少し!」
シンジをゆっくりと引っ張り出す。
「シンジ!シンジ!」
頬をひっぱたく。反応がない。
「はやく帰らなきゃ!」
光のエヴァ初号機は、シンジを引っ張り出すと、そのままアスカの方を向く。
「え?」
アスカがとまどっているうちに、光は消えた。
「うっ」
シンジが叫ぶ。意識が一瞬戻ったらしい。
「シンジ!ぜったい助けるからね!」
今度こそ私の番だ!
アスカはシンジを背負いながら思った。
「シンジのママ、助けて!」
今や初号機となった光の陰は、ゆっくりと鉄材を掴むと、
やがて渾身の力で角材を持ち上げ始めた。
「お願い、お願い、あと少し!」
シンジをゆっくりと引っ張り出す。
「シンジ!シンジ!」
頬をひっぱたく。反応がない。
「はやく帰らなきゃ!」
光のエヴァ初号機は、シンジを引っ張り出すと、そのままアスカの方を向く。
「え?」
アスカがとまどっているうちに、光は消えた。
「うっ」
シンジが叫ぶ。意識が一瞬戻ったらしい。
「シンジ!ぜったい助けるからね!」
今度こそ私の番だ!
アスカはシンジを背負いながら思った。
594: 為 2007/03/06(火) 00:34:02 ID:???
>>593
第十一章
ここは、どこだろう?
アスカを抱きしめて、外に向かって突進したのは覚えている。
後は、轟音がして、目の前が真っ暗になった。
ここは、どこ?天国?それとも地獄?
僕は、死んだのかな?死んだんだろうな…。
僕は、アスカを愛していた。大好きだった。
でも、今それに気づいても遅い。
もうこの口で僕の気持ちを彼女に伝えることはできない。
今まで、逃げてばかりいた。不安で、怖くて、人が信じられなかった。
僕の両手は血で染まっている。
いくらみんなのためとは言え、僕はたくさんの人を殺したんだ。
その罪を償うことはできない。
「…」
え?誰?
「シンジ…」
「…母さん?」
「シンジ、まだよ。あなたはそうやって自分を責め続ける。
それであなたが救われるなら、それでもいいわ。けど、そうではないの。」
あなたは、優しい子。優しいから、人を傷つけるより、自分が傷つく方を選ぶ子。」
でも、母さんは、そんな思いやりのあるシンジが大好きよ。」
「…そんなことないよ、母さん。僕は、アスカを1人にしてしまった…。
アスカを1人にしてしまうことの意味に気づかなかった。
アスカを愛しているという真実からも逃げ出してしまった…。
結局自分勝手なだけなんだ…。」
第十一章
ここは、どこだろう?
アスカを抱きしめて、外に向かって突進したのは覚えている。
後は、轟音がして、目の前が真っ暗になった。
ここは、どこ?天国?それとも地獄?
僕は、死んだのかな?死んだんだろうな…。
僕は、アスカを愛していた。大好きだった。
でも、今それに気づいても遅い。
もうこの口で僕の気持ちを彼女に伝えることはできない。
今まで、逃げてばかりいた。不安で、怖くて、人が信じられなかった。
僕の両手は血で染まっている。
いくらみんなのためとは言え、僕はたくさんの人を殺したんだ。
その罪を償うことはできない。
「…」
え?誰?
「シンジ…」
「…母さん?」
「シンジ、まだよ。あなたはそうやって自分を責め続ける。
それであなたが救われるなら、それでもいいわ。けど、そうではないの。」
あなたは、優しい子。優しいから、人を傷つけるより、自分が傷つく方を選ぶ子。」
でも、母さんは、そんな思いやりのあるシンジが大好きよ。」
「…そんなことないよ、母さん。僕は、アスカを1人にしてしまった…。
アスカを1人にしてしまうことの意味に気づかなかった。
アスカを愛しているという真実からも逃げ出してしまった…。
結局自分勝手なだけなんだ…。」
595: 為 2007/03/06(火) 00:34:53 ID:???
>>594
「そうね、確かに死のうとしたのは勝手だわ。けれどもまだ遅くはないの。
あなたは死んでもいないし、アスカちゃんを1人にしてもいないわ。」
「え?じゃあ僕は…生きているの?」
「戻りなさい、彼女のいる世界へ。そして、いろんな経験をしなさい。
戦いや苦悩ではなく、触れ合いや喜びを経験なさい。
人を嫌い、避けるのではなく、人を愛し、信じることをしてみなさい。
そうすれば、あなたはきっと素敵な大人になれるわ。」
「経験?」
「そう。色々な経験をすることで、あなたの世界への扉が1つずつ開かれるわ。
あなたは戦いばかりを経験してきた。それじゃあダメ。
まだまだ他の経験という栄養が足りないのよ。
何もしないで傷つくなら、何かをして傷つきなさい。
それはとても怖いことかもしれないけれど、必ずあなたを大きくするから。」
「母さん…」
「わかっているわ、さあ、早く目を覚まして、アスカちゃんに伝えなさい。
あの子が人一倍寂しがり屋だったこと、あなたは知っているはずよ。
そして、今のあなたなら彼女に自分の気持ちをおそれることなく、伝えられるはず…。」
そして、アスカちゃんと一緒に、その一歩を踏み出しなさい。
彼女もあなたと同じ。喜びや愛を2人で経験しなさい。2人ならそんなに怖くはないわ。」
「…うん、わかったよ。ありがとう、母さん。」
「私は、あなたのココロの中にもいるわ。
忘れないで、私はいつも見守っているから。シンジを、アスカちゃんを。
さあ、早く彼女を安心させてあげなさい。わかったなら、さあ、いきなさい。」
「うん。…ありがとう、母さん。」
「そうね、確かに死のうとしたのは勝手だわ。けれどもまだ遅くはないの。
あなたは死んでもいないし、アスカちゃんを1人にしてもいないわ。」
「え?じゃあ僕は…生きているの?」
「戻りなさい、彼女のいる世界へ。そして、いろんな経験をしなさい。
戦いや苦悩ではなく、触れ合いや喜びを経験なさい。
人を嫌い、避けるのではなく、人を愛し、信じることをしてみなさい。
そうすれば、あなたはきっと素敵な大人になれるわ。」
「経験?」
「そう。色々な経験をすることで、あなたの世界への扉が1つずつ開かれるわ。
あなたは戦いばかりを経験してきた。それじゃあダメ。
まだまだ他の経験という栄養が足りないのよ。
何もしないで傷つくなら、何かをして傷つきなさい。
それはとても怖いことかもしれないけれど、必ずあなたを大きくするから。」
「母さん…」
「わかっているわ、さあ、早く目を覚まして、アスカちゃんに伝えなさい。
あの子が人一倍寂しがり屋だったこと、あなたは知っているはずよ。
そして、今のあなたなら彼女に自分の気持ちをおそれることなく、伝えられるはず…。」
そして、アスカちゃんと一緒に、その一歩を踏み出しなさい。
彼女もあなたと同じ。喜びや愛を2人で経験しなさい。2人ならそんなに怖くはないわ。」
「…うん、わかったよ。ありがとう、母さん。」
「私は、あなたのココロの中にもいるわ。
忘れないで、私はいつも見守っているから。シンジを、アスカちゃんを。
さあ、早く彼女を安心させてあげなさい。わかったなら、さあ、いきなさい。」
「うん。…ありがとう、母さん。」
596: 為 2007/03/06(火) 00:36:15 ID:???
>>593
×光の陰
○光の影
です。誤字すいません。
×光の陰
○光の影
です。誤字すいません。
597: 為 2007/03/06(火) 00:38:15 ID:???
>>595
第十一章その2
目をうっすらと開ける。無機質な白い天井。
あれからどれくらいの時が流れたんだろう…。
顔をあげる。
「痛っ…」
全身が軋む。首を起こすのがとりあえず精一杯。
だが、今のシンジにはそれよりも…。
「アスカ…」
ベッドに突っ伏して眠るアスカに声をかける。
「ひゃっ!」
アスカ、飛び起きる。目が赤い。まぶたが腫れぼったい。
「ごめんよ、アスカ。もう大丈夫。もう死んだり…」
シンジの言葉はアスカの抱擁によって遮られた。
「…シンジ、よかった…。」
泣くアスカの顔に自分の顔を付き合わせる。
澄んだ瞳が綺麗だ。こんな美しいアスカは初めて見る。
「ごめんねアスカ。でもアスカが無事で本当に良かった…。」
アスカ、声にならない声で頷く。
「夢の中で母さんに会ったよ。母さんは僕に教えてくれた。
僕にはまだまだ色々な経験が足りないって。
僕はそう言われて気づいたんだ。僕の気持ちに。
アスカと一緒に色々な経験をしていきたいっていう僕の気持ちに。」
アスカは泣きじゃくりながらシンジにしがみつく。
「ダメ、もう絶対どこにも行かないで…。」
「うん。行かないよ。
僕の中の臆病で我が儘な暗闇はあの時死んだんだ。
僕はアスカと共に生きる。」
アスカの髪を撫でながら、シンジは窓の外を見た。
雨は止み、青空が広がっていた。
第十一章その2
目をうっすらと開ける。無機質な白い天井。
あれからどれくらいの時が流れたんだろう…。
顔をあげる。
「痛っ…」
全身が軋む。首を起こすのがとりあえず精一杯。
だが、今のシンジにはそれよりも…。
「アスカ…」
ベッドに突っ伏して眠るアスカに声をかける。
「ひゃっ!」
アスカ、飛び起きる。目が赤い。まぶたが腫れぼったい。
「ごめんよ、アスカ。もう大丈夫。もう死んだり…」
シンジの言葉はアスカの抱擁によって遮られた。
「…シンジ、よかった…。」
泣くアスカの顔に自分の顔を付き合わせる。
澄んだ瞳が綺麗だ。こんな美しいアスカは初めて見る。
「ごめんねアスカ。でもアスカが無事で本当に良かった…。」
アスカ、声にならない声で頷く。
「夢の中で母さんに会ったよ。母さんは僕に教えてくれた。
僕にはまだまだ色々な経験が足りないって。
僕はそう言われて気づいたんだ。僕の気持ちに。
アスカと一緒に色々な経験をしていきたいっていう僕の気持ちに。」
アスカは泣きじゃくりながらシンジにしがみつく。
「ダメ、もう絶対どこにも行かないで…。」
「うん。行かないよ。
僕の中の臆病で我が儘な暗闇はあの時死んだんだ。
僕はアスカと共に生きる。」
アスカの髪を撫でながら、シンジは窓の外を見た。
雨は止み、青空が広がっていた。
598: 為 2007/03/06(火) 00:41:45 ID:???
>>597
最終章
翌朝、目を覚ましたシンジは、
珍しくアスカが自分より先に起き出していることを知った。
「アスカ?どこにいるの?」
アスカはここにはいない。
彼女は先日シンジと訪れたお墓に来ていた。
友人や、ミサト、リツコ、ネルフの仲間たち、そして綾波。順番に花を手向ける。
最後に、碇ゲンドウと、碇ユイのところへ。
「ありがとうございました。」
深々と礼をする。
あの時、近づいてきた光はアスカにこう言ったのだ。
「2人で生きなさい。息子を頼むわね。」
確かに心の中にそう響いた。
エヴァとシンクロしている、ということは、アスカのママやシンジのママも
少しずつ私たちに取り込まれていたのではないか、アスカはそう感じている。
特にシンジはゼルエル戦で400%という空前絶後のシンクロ率を叩きだし、
エヴァに取り込まれ、結果、LCLに1ヶ月間溶け込んでいた。
その間に、碇ユイの、エヴァ初号機の魂を、若干でも取り込んだのではないか、
そんな気がしている。だから、あの時、エヴァが現れた。アスカはそう思っている。
「また来ます、おかあさん。」
そういうと、アスカは、シンジの待つ病室に向かった。
最終章
翌朝、目を覚ましたシンジは、
珍しくアスカが自分より先に起き出していることを知った。
「アスカ?どこにいるの?」
アスカはここにはいない。
彼女は先日シンジと訪れたお墓に来ていた。
友人や、ミサト、リツコ、ネルフの仲間たち、そして綾波。順番に花を手向ける。
最後に、碇ゲンドウと、碇ユイのところへ。
「ありがとうございました。」
深々と礼をする。
あの時、近づいてきた光はアスカにこう言ったのだ。
「2人で生きなさい。息子を頼むわね。」
確かに心の中にそう響いた。
エヴァとシンクロしている、ということは、アスカのママやシンジのママも
少しずつ私たちに取り込まれていたのではないか、アスカはそう感じている。
特にシンジはゼルエル戦で400%という空前絶後のシンクロ率を叩きだし、
エヴァに取り込まれ、結果、LCLに1ヶ月間溶け込んでいた。
その間に、碇ユイの、エヴァ初号機の魂を、若干でも取り込んだのではないか、
そんな気がしている。だから、あの時、エヴァが現れた。アスカはそう思っている。
「また来ます、おかあさん。」
そういうと、アスカは、シンジの待つ病室に向かった。
599: 為 2007/03/06(火) 00:42:54 ID:???
>>598
後日談は短い。アスカは少し素直になり、色々な事を学んだ。
だが、あの口の悪さと手の早さだけは直ることがなかったのはご愛敬。
シンジが、アスカに改めて自身の気持ちを告白した時、
彼女の反応は、そっぽを向いた上で
「ハン、しょうがないわねぇ。あんた私に一生尽くすのよ」
だった。そのくせ、デコピンでもしようとシンジに向き直った時には泣いていた。
シンジはそんな彼女を抱きしめ、キスをした。
そこにユイがいたら、その美しいキスに微笑んだことだろう。
そして、その年のアスカの誕生日に、2人は病院を出て、どこかに向かった。
2人が、新世界のアダムとイヴになったのかどうかは、この際どうでもいいこと。
了
後日談は短い。アスカは少し素直になり、色々な事を学んだ。
だが、あの口の悪さと手の早さだけは直ることがなかったのはご愛敬。
シンジが、アスカに改めて自身の気持ちを告白した時、
彼女の反応は、そっぽを向いた上で
「ハン、しょうがないわねぇ。あんた私に一生尽くすのよ」
だった。そのくせ、デコピンでもしようとシンジに向き直った時には泣いていた。
シンジはそんな彼女を抱きしめ、キスをした。
そこにユイがいたら、その美しいキスに微笑んだことだろう。
そして、その年のアスカの誕生日に、2人は病院を出て、どこかに向かった。
2人が、新世界のアダムとイヴになったのかどうかは、この際どうでもいいこと。
了
600: 為 2007/03/06(火) 00:47:53 ID:???
長い間無駄にレスを消費しまして失礼致しました。
これで終わりです。
新参者が不届きなことをしでかしたと今になって恐縮しております。
暖かい目でお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
元スレ:https://anime3.5ch.net/test/read.cgi/eva/1136117791/
これで終わりです。
新参者が不届きなことをしでかしたと今になって恐縮しております。
暖かい目でお付き合い頂きまして、ありがとうございました。
元スレ:https://anime3.5ch.net/test/read.cgi/eva/1136117791/
コメント
管理人さん、いい作品に出会わせてもらってありがとうございます。
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