667: 七夕に 2007/07/07(土) 05:01:36 ID:???
今日は7月7日、七夕の日なのよね、願い事を笹につるすと願いが叶うっていうそういう日
それにしても日本人ってのはクリスマスにはサンタに願うくせに、今は織姫とか彦星って意外と節操ない性癖よねぇ
アタシには理解しがたいし、そう全然理解出来ないわね、だからこれは偶然
そう、ここにたまたま赤い紙と赤いマジックが有るのはそういう事!
赤に赤ってところがまさに偶然、上手く行かないところねぇ、うんこれなら見られても分からない、いや違う
これは偶然、そう偶然。
だったらまぁ書いて見てもいいわけよね、うん、むしろ書け、こーーーライトだわっ

いつものマンションのいつものリビングで赤い髪を揺らせた少女は、テーブルに置かれた赤い紙と赤いマジック
を難しい顔をしながら見つめ続けていた
ときおり溜息をついたかと思えば、急に勢いいさんでマジックを手に取り魂を刻むかのように紙に向かおうとすると
「はぁー」
また溜息でマジックをテーブルに置く、そんな行動を実に2,3時間繰り返している
日頃の彼女をしる少女が見たら苦笑し、その少女の思い人が見たら爆笑し殴られる、そんな状況がいつものマンションで
いつものように繰り広げられていた。

668: 七夕に 2007/07/07(土) 05:02:41 ID:???
「はぁー」
何度目かは分からない彼女の溜息に呼応したわけではないだろうが、それに答えるように彼女の視界の先
窓の向こうに有るベランダで一人の少年が楽しそうに何かをしていた。

高層マンションのベランダに繋がれる笹は現代的な建物のなかで妙に似合うオブジェ
そのオブジェにかいがいしく短冊を括りつけている少年は晴れ渡った夜空の星を見ながら、少しこのまやかしな風習が
現実になるんじゃないかと期待していた。

「アンタもう願い事書いたの?」
カラカラっと窓が開くと同時に掛けられた声に笑顔で頷くと
「うん、こっちはねアスカはどう?」
「こっちはそれ所じゃないわよ」
「え?」
「いっいや何でも無い!」

簡単なやり取りにまでうろたえてる自分を叱りつけ、彼女は努めて冷静に話しを進めた
顔は赤い・・・うるさいっ

「で、シンジは何て書いたの?」
既に何枚か笹に掛かっている短冊の一枚を手に取り眺めた

669: 七夕に 2007/07/07(土) 05:04:24 ID:???
『皆の笑顔をいつまでも』

「何これぇぇ、こんなんならあんたの場合『世界平和』だの『無病息災』だのの方がしっくりくるんじゃないの?」
「むびょうそくさいって・・・アスカよく覚えたね、そんな言葉」
少々呆れながら少年は目の前の短冊を指にとって見つめた
「やっと戻って来たじゃない、ミサトさんや青葉さんとか加持さんとかさ
そういうのずっと続いて欲しいって思うんだ」
つまんだ短冊を手から離し、星空を見上げたシンジの顔を月明かりがやさしく照らす

670: 七夕に 2007/07/07(土) 05:05:16 ID:???
そんな横顔を見ながらコイツらしい、確かにコイツらしい、しかしこれでは不味いんではないだろうか、これでは、これだけでは!
こういう所が良い、そこがシンジのつぼだ・・・しかし、こぉーもうちょっと、つかガッツリ個人的な所で!

『あの子とずっと居られますように』なんて書いてぇ
「あ、あの子って誰よっ?」
「あっあの子ってあの子だよ!」
「あの子じゃ分かんないでしょっ!」
「そんなの目の前じゃ言いづらいよ・・・」
「なんで言いづらいの?」
「それはね、」
シンジがアタシの目を優しく見つめながら、やがて覚悟したような光をやどして
「それは?」
急に大人びた眼差しを見せるアタシは期待と不安に揺れながらシンジの目を見つめ返すのよ・・・そしたらアイツがさ

「短冊に君への思いを込めたからだよ」

かぁぁぁぁぁ
来たっエナジーと楽園と絶頂、まじインパクト!
もう来い!シンジ来いっ!むしろシンジ恋っ!
そんな風に熱く語られちゃぁアタシはもう止められないはっ、しっかり確定モード突入、人生のドル箱積み上げちゃうのよ!!!
アタシは親指をぴっと上に突き上げてシンジに最高の笑顔を送ってやったは

「シンジっぱーーーーふぇくとよ!」


「・・・えっと、何が?」

671: 七夕に 2007/07/07(土) 05:06:43 ID:???
あのジェスチャーって便利ね、だって親指しまえば即拳の完成じゃない
お陰で躊躇置かずに行動がとれて少し溜飲が下がったってもんだわ

結局突然殴られた少年は、
「なっなんだよっ急に殴ることないじゃないか」
痛い、すんごい痛いです、そりゃそうじゃないですか?
急にバッチグー(古い?)なサインを出して得意げに頷かれたって訳が分からないと思うんだよね、うん絶対不信だって
そしたら今度はバッチグーがグーになって、飛んで来たんだよっ?訳分かんないと思いません!?
だからこうやって怒ってるのに彼女は平然っていうか、さも当然な感じでさ

「アンタってのは馬鹿よバ、カ、はぁ最悪だわ」

672: 七夕に 2007/07/07(土) 05:07:26 ID:???
そう言って殴られたこっち以上に痛そうな顔して塞ぎ込んじゃうんだよ、世の中ってのは先制攻撃する人が被害者になるのかなって
少しそんな訳の分からない法則を考えちゃったんだけどさ、
でも、本当に悲しそうな顔を彼女がするもんだから、それ以上何も言えなくて、本当は何か気が効くことを言いたいんだけど
結局言葉が浮かばない僕は少し悲しかった
こういう時、あの人なら何て言うんだろう
「女ってのは彼岸の彼方の存在さ、だからいつも探し続けるんだよ、彼女の本心をね」
そんな格好良いことを言いながらきっと今の彼女に気の効いた事を言えるんだろうな・・・でも真面目に探してるのかな?
はぁ後で短冊追加しよ・・・

673: 七夕に 2007/07/07(土) 05:08:30 ID:???
いや、まいったは、いきなり妄想と現実が繋がっちゃうんだもん
何でよりによってバッチグー(古いわね・・・)だけ現実に出ちゃうのかしらね・・・
お陰で願い事を叶えるどころか、自分で破り捨てっちゃったじゃないっ
結局、昔っからアタシはいっつもそう、こうやって大事な物を自分で傷つけていって、それで自分が傷ついて
繰り返す度に辞めたいのに、やっぱりやっちゃうのね
アタシ本当に反省してるのかな、もう、無理なのかな

見上げる夜空はこの時期には珍しく雲が無いため視界には星が散乱している
どこが天の川かは分からない、だけどその夜空に向かって彼女は願う

『私は笑える様になりたい、何にも意識せず、何かをねだるわけでもなく笑いたい
たまにはアタシにだってそういう笑い方が出来てたかもしれない、でも、自分の記憶にそんな笑顔は無い
自分が笑った時を振り返ってみた時、そういう笑顔ばかりのそんな未来が欲しい』

隣のこのニブチンが見せるようなさ、、、

「アスカ」
「はいっ!?」

674: 七夕に 2007/07/07(土) 05:09:21 ID:???
な、何よ急に驚くじゃないっ
思わず自分の手を確認した彼女は、自分の妄想が外に出てなかった事を確認すると、少し怒った表情で彼に向き直り少年を睨んだ

えっとアスカ、あのね
「アスカ、あのね」
短冊に書きながら思ったんだよ
「笑顔で居て欲しいんだ」
君が嬉しいと思う時に笑って欲しい、嬉しい事がこれから多く多く起こって欲しい
「君の笑顔が一番見たい」
その時僕が傍に居れたら、それが僕の願い事なんだ
「それがずっと続いて欲しいって、」

「シンジ?」

「アスカ、僕は・・・」

時間が止まり、紡がれた言葉に笹が揺れた

675: 七夕に 2007/07/07(土) 05:10:09 ID:???
き、き、来たっ彦星来た!!!織姫来たっ!!!
嘘?冗談?妄想?
あっちょっと抓ってみよ
「いっ痛っなんだよ!」
あ、これ現実みたいじゃないっ何々ありあり??
かぁぁぁぁぁぁぁ

ゴチンッ「くはっ」

頭蓋骨と胸骨が激突した音を表現するとしたらこんな感じでしょうか?

シンジの胸に飛び込んだ少女は、今の自分の気持ちを言葉にだそうと必死に天才脳を動かすんだけどね
だけど、そう簡単には無理なわけですよ
だってずっと願ってた事が叶った瞬間を言葉に出来たら、それはトンデモナイ偉業なわけです
有史史上それを言葉にしようと数多くの文豪達が努力し、その殆どが結局成し得なかった偉業なんです
でも、ほんの僅かな人たちが作り出した数少ない言葉の一つ、そこに落ち着くしかない彼女は

「シンジ、好き」

676: 七夕に 2007/07/07(土) 05:11:08 ID:???
短冊に綴られたそれぞれの願いは、天の川を登って落ちて、また登って
1年に1度の逢瀬を紡ぐ二人の下に静かに落ちた欠片
欠片を二人は紡いで下界に振りまいた奇跡
その奇跡の欠片が二人の上に降り注いだ、
そんな七夕の夜が更け、本当は結構当り前に訪れるはずの嬉しい場面が現実になった、今はそんな日常です。

677: 七夕に 2007/07/07(土) 06:01:58 ID:???
「もう一度言いなさい!」
「えっ?えぇーーー」
「仕方ないじゃない、聞こえなかったのよ、はいもう一度」
「い、いや、、えっと」
「もう一度」
絶対言わす!もう一度どころか後1000回言わす!!そしてアタシの胸に刻みこんで
アイツの海馬にも刻み込んで、アンタの一生を確実に絶対にアタシの物にするのよっさぁ!!
「言ってっ」

逃げちゃだめだ(棒読み)逃げちゃだめだ(引き気味)逃げてたいな(切実)
よしっ(暴走)

「アスカ!僕は君が好きなんだぁぁぁぁぁ」(夜空に突き刺さればかやろぉぉぉぉ)

「シンジィィィィ」(よっしゃぁぁぁぁぁ)


シュポッ、ガラガラ(ブルトップが開いて、窓が開いて)

「あーら、あんた達、随分素敵なスタントかましてるじゃな~い、今リツコも呼んだからふかーく話しましょ♪」


・・・・ミサトが居たのは計算外ね・・・・

678: 七夕に 2007/07/07(土) 06:02:52 ID:???
結局少女の願いは短冊に書かれる事は無かった
ただ、その日大騒ぎしている今の喧騒を見ていた笹に一枚だけ過去形を含んだ短冊が結ばれていた

『笑顔をありがとう、この笑顔はずっとあなたに届く、そう一生!』

まぁ笹だしね、七夕だしね、多少はね

そんな彼女の我侭を月と星と少年は何時までも優しく見守るんでしょう





元スレ:https://anime3.5ch.net/test/read.cgi/eva/1136117791/