880: 4月1日の計画 2008/03/28(金) 04:55:39 ID:???
「ふーん、平和ねぇー」
久し振りに日のあるうち、しかもまだ昼過ぎと言える時間に仕事を終えた
彼女にとって、まだ明るい部屋の中でビールを片手に過ごす時間は幸福では
あるも若干の物足り無さを感じている自分に驚きを覚えた

帰って一人なんて当り前だったのに寂しく思うなんてアタシも慣れちゃった
もんねぇ
暇つぶしに揺らした視線が壁掛けのカレンダーに止まったのは幸か不幸か・・・

そうかぁもうすぐ4月か、これは使えちゃうじゃないのぉ~

そんな彼女に答えるかのように、一人の少女がエアサスの軽い排気音を背に
玄関を開けたのは、やはり持って生まれた役回りじゃないかと結論するに忍びない

「ただいまぁって暑いわねぇー、あっミサト珍しいじゃない」
蜂蜜色の髪を外気を纏いながら揺らせる少女はリビングの家主を見て思わず声をもらす

「まぁねぇ~、最近忙しいんで逃げてきたのよぉ」
適当に答えるも、そのタイミングの良さに顔の緩みを隠しきれないのは困ったもんだ
そんな事も知らず少女は久方ぶりに見かける家主を脇目に、冷蔵庫を開き目標をセンターに
ロックオン
「あ、アスカ、ちょっちいいかな?」
牛乳パックを直接口にあてながら、中の液体を流し込んでいる少女からの返答は無い

881: 4月1日の計画 2008/03/28(金) 04:57:10 ID:???
はぁこれがかのセカントチルドレンって公表したらドイツの人達驚くでしょねぇー
「あーすーかーー!」
少し声を張り上げた声に渋々、何よと少女は答える

「もうすぐ4月1日ってのは知ってるわよね?」

何を言うのかと思えば、当り前のセリフに牛乳を飲みながらどうしたんだと表情で答えると
「あれってバレンタインと同じで、こっちって少し違うから気をつけ無さいよぉ~」
「ん?何がよ」
冷え切った牛乳の喉ごしが心地よい

「シンちゃん告るわよ」
「ゴホッ」
むせ返す少女の反応の何と心地よいことか
「4月1日は特別だからねぇ~覚悟必要だと思うのよねぇ~」
持っていた牛乳パックを握り潰し顔を赤らめる少女を十分堪能できたがせいか、
それとも以前よりも心地よい気持ちのせいか
「4月1日は嘘って事にして男の子が大事な気持ちを声にする日なのよ」
「そ、そんな」
慌てだす少女は愛をしく、改めて自分に冗談だと言い聞かせながら
「まぁどちらにしても口元が牛乳まみれってのはいただけないんじゃないのぉ」
にやけた表情でつげる彼女に

それほんとう?

顔を赤らめながら彼女は洗面所に消えていった

882: 4月1日の計画 2008/03/28(金) 04:59:22 ID:???
再び流し込んだビールの酸味は苦くもあり、懐かしくもある
自らが撒いてみた種だが、意外に伸びそうだと思う彼女を待ってたかのように
黒髪の少年が玄関の向こうより現れる

「ただいまぁ、あっミサトさんおかえりなさい」

自分を見つけた少年が掛けた言葉は、何かこそばゆい
「ただいま&おかえり」
心地よく返す言葉に笑いながら少年は帰ってくる
=計画に誤差は無い=
「しんちゃーん、もうすぐ4月1日ねぇ」
「あー、確かにもうすぐそうですね」
帰り際だからなのだろうか、普段より無防備な少年に今日最大の罠をかける

「4月1日は特別よ、知ってた?」
「何がですか?」
「嘘と真、内気な彼が愛を語ってもいい日よ♪」

それっきり答えてやらずに放置してると、シンジの方から怒り出した
「からかうんだったら後にしてくださいよ」
自前のエプロンを胸にキッチンに目をそらそうとする彼に向かって今日ダメ押しを

「シンちゃん、4月1日の告白は特別だからね」

そう投げかけたシンジの背中に反応は無い、必死で隠しているんだろう

883: 4月1日の計画(ラスト) 2008/03/28(金) 05:03:49 ID:???
「あたしが加持に気持ちをぶつけたのも1日よ」
本当はアイツから言わすつもりだったんだけどねぇ~っと照れ笑いする彼女を
見つめながら、でもいまだ自信がわかない・・・・まったく困ったもんね

呆れながらも言わなければなるまい、この少年の姉であり、この少女の姉なのだから

「シンちゃん、待ってるわよ、あの娘、4月1日ってのはね、正直に喋っていい日なの
シンちゃんやアスカ、あ、あと、アタシやリツコみたいにねw」

思い切り強く弟の背中を殴ったミサトは
「ゴフッ。やり過ぎですよ・・・」
そんなシンジを見ながら、はっきりと呟く、

「悔いのないようにね、」


=嘘を言っていいといわれた、あの日から、彼女は本当の言葉を口にすることになる
 少年からの真摯な気持ちに・・・=




ってなるはずよねぇ
葛城みさと、お気に入りの酒と、お気に入りの肴、そして得ることの無い
そう諦めていた温もりに酔いながら、今日もユックリとその日を待っている

ま、来週だけどね!

902: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 02:57:26 ID:???
休日の昼下がり、騒音とも取れる人混みのメロディーを聞きながら男性はほとほと困り果て、後悔していた。
誘うべきでは無かったと。
カラコロと鳴るアイスティーの氷が、眩しい太陽の光を浴びて幻想的に輝いている。
その太陽に負けないほど、少女の笑顔もまた眩しい。

「ねぇ、ねぇ、加持さん。次はどこ連れてって来れるの?」
「いや、まぁ……そうだな……」

男性にしては珍しく、何とも歯切れの悪い回答だった。
それほどまでに男性はこの状況に身震いするほどの悪寒を感じているのだ。
ただ久しぶりに誘ってみるのも悪くない、そう思っただけで他意は無い、本当に。
しかし、如何に本人に悪気など無かろうが第三者はそんなこと知ったことではないし、堪ったものではない。

「どっか行きたいところある?……シンジ君は?」
「……別に……僕はどこでも良いですよ……」

好意を抱く相手を休日に連れ回されたとあっては第三者はやはり黙ってなどいられないのだ。
少年は珍しく不機嫌な態度を露ほども隠そうとせず、心成しか頬を、ぷくっ、と膨らませている。
なんでこうなるかなー、と心の中で溜め息を吐く。
時期的にそろそろ問題無いと思ったのだが、その考えがどれほど甘いのか良く解った。

「なによ、アンタ、その態度は。ってゆーか、アンタは何時まで着いて来るつもりよ?」
「……むぅ、なんだよそれ。僕が居て何が悪いって言うのさ」
「空気読みなさいよね、アタシと加持さんのふたりっきりにさせるのが道理ってもんでしょ」
「アスカの我が儘……」
「むかっ! 言いたいことがあるならはっきりと言いなさいよ!」
「ヤダ。どうせ言っても怒るし、言わなくても怒るでしょ。だったら言わない方がよっぽどマシ」
「なーまぁーいーきぃー!」

903: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 02:58:40 ID:???
懇々と繰り返される言い合い。
自分がこの出来事を招いた張本人となれば、それを黙って見過ごすわけにもいかず、大人として、男としてこの事態の収拾をさせなければならない。
できることなら自分に火の粉が降り掛からない様に。

「まぁまぁ、ふたりともそこまでにしておけ。折角のお出掛けなんだ、喧嘩ばかりしてても詰まらないだろ?」
「……加持さんがそう言うなら……」
「判ってるなら誘わなければ良いのに……」

ぼそりと男性だけに聞こえる台詞があったがここは聞かなかったことにする。
そういうことにしておく。

「ふたりとも何処でも良いって言うなら映画でも行くか? 丁度見たいのがあるんだ」

出来る限り会話が発生しない場所が良いということでこの選択肢を提示する男性。
見たかった、という気持ちも嘘ではないのだが、大人としての、男としての役割は当に捨てて、保身に走っているのは人間として仕方ないのかもしれない。
平和な日常が続く世界なら尚のこと。

「見るとしたら何をですか?」
「面白いって評判の恋愛もののやつ。正直、苦手なジャンルなんだが、こうも話を耳にするとね、年甲斐も無く気になるもんさ」
「あ、それ僕も見たかったんですよ。ひとりで行くのも何だか恥ずかしかったし、丁度良いです!」
「そりゃあ良かった。じゃあ、映画で決定―――」
「あっ!」

突然声を上げる少女。
きょとんとする少年とビクッと体を強張らせる男性。

「どうしたの?」
「ごめん、シンジ! 何も聞かずにここのフロアをぐるっと一周して来て!」
「何ソレ? 何かあったの?」
「見間違いじゃなければ……アンタにも判る筈! だからここは何も聞かず、ねっ?」

904: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 03:00:11 ID:???
普段の少女とは違った態度。
これが何時も通り強気な命令口調だったならば少年も反論し、その願いは却下していただろう。
だが、ぱんっ!と両手を合わせて必死にお願いするその姿から察するに余程の訳有りと感じ取り、男性と少女がこのままどこかへ消えてしまうかもしれないという可能性を疑いもせず、
戸惑いながらも承諾し、歩を進めた。
ちらちらとこちらに振り返りながらも、少年の姿はどんどん小さくなる。
それに反して男性の鼓動は大きくなる。
それは何故かと問われたら、答えは簡単。

「……さて、シンジもちょっとの間だけですけど席を外したことですし、ゆーっくりお話しましょうか、加持さん?」

にっこりと天使の笑顔を曝け出す少女がいたから。

「……いや、あの、たまにはさー、いいかなーと思ったわけです……はい……」
「ほぉー」
「……ゆっくり話したいなぁー、とそう思った次第です……ええ……」
「へぇー」
「い、良いじゃないか、弟みたいに慕ってるんだから、シンジ君を遊びに誘っても」

天使の笑顔を崩さずにいる少女。
男性にとっては悪魔。
如何なるものでも貫けない盾と、如何なるものをも貫く矛を対決させるよりもそれは矛盾していた。

「今日はですね、ある乙女はある少年をデートに誘おうとしてたんですよねー」

まだまだ笑顔を崩さずに語り出す少女。
もう当日なのにまだ誘えてなかったのか!?なんて言葉はぐっと喉元で押し潰す。

「いーろいろショッピングなんかしたり、今いるようなカフェで楽しく談笑したり、極めつけはどっかの誰かさんが行こうとした映画を観に行こうとしたり、
 それはもう夢心地だったんですよねー、その乙女的には」
「それは、まぁ、その乙女も難儀だな……」

905: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 03:01:47 ID:???
あっはっはっは、とふたりして笑う。
だが両者、目は笑っていない。なんだこれ。

「加持さん、邪魔してる?」

極上の笑顔でニッコリと。しかし、左手に握られているグラスはピシッと悲鳴を上げる。
白衣の女性がいれば「ATフィールドを物理的に破った音」と比喩するほど素晴らしい悲鳴だ。

「滅相もございません」

その光景を見て誰がこの少女に反論する返事を返せるのか、それほど広くない世界で彼はそんな人物を見てみたいと思った。少年以外で。

「なら、答えはお判りですね?」
「了解です、お嬢様」
「はい、結構。…………あ、シンジ、どうだった?」

冷汗を拭いながら少女が声を掛けた方を見れば首を傾げる少年の姿。

「別に何も無かったよ? 何だったの?」
「んー、やっぱり見間違いかー。実はね、ユキそっくりな子がいたの」
「同じクラスの?」
「そそ。で、何か彼氏っぽいのといたからちょっと見て来て欲しいと思ったのよ」
「アスカが行っても問題無いんじゃない?」

ガタガタと音を立てながら椅子をひく少年。
そんな少年を見ながら、昔は自分がそのポジションだったのになぁ、と少し感傷にふける男性。

「仮にユキだったら正直に彼氏って言わないわよ。だからってこそこそ様子を窺うのも恥ずかしいし。その分アンタなら、ユキに見つかってもスルーされるだろうし」
「そんなもの?」
「そんなものよ。で、アンタから見たそのふたりの様子がどうだったか知りたかったのよ、事前情報を与えずに。アンタってそういうのに疎いでしょ?」

906: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 03:03:21 ID:???
「そんなアンタからでも恋人同士に見えたら、それはもう疑う余地もなく恋人同士ってなるわけ」

良くもまぁ、咄嗟に思いついた言い訳にしては壮大な物語になったものだ。
嘘っぽさはどうしても拭い切れていないが、真実味もそれなりに滲み出ているのが素晴らしい。特に少年には効果的だったに違いない。
ふーん、なんて言いながら全然疑っていないのだから。自分自身のことを少々小馬鹿にされたと言うのに。

「それにしても無駄足だったわけね。ごめんね」
「んーん、別に良いよ。じゃあ、気を取り直して映画行きましょうか」
「あっ、そのことなんだが……」

ギラリと光る眼光。形容し難い威圧感が圧し掛かるほどの鋭さ。
判ってる、判ってるから、そんな眼で俺を見ないでくれよ……。

「ついさっき連絡があってな、ちょっと仕事が入ったみたいなんだ」

少女に比べて自分の嘘は何と薄っぺらいものだろう。まぁ、太けりゃ良いものじゃないのだが。

「えっ……そうなんですか……、残念ですね……」

心底残念そうにしている少年。その姿を見ると良心が痛んでしまう。

「そうなのよー、ほんっと残念よねー!」

片や少女はこたばとは裏腹に嬉々とした感情を言葉から消去しきれていない。
本当に昔は慕われていたのか、その過去さえ怪しく思えてくる。

「じゃあ、今日はもう帰りましょうか?」
「なぁーに言ってんのよ、アンタ映画見たかったんでしょ? アタシが付き合ってあげるわよ」
「えっ? あっ、でも加持さんも見たがってたし、やっぱりみんなで行こうよ」

907: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 03:04:52 ID:???
その言葉が少年の口から出たと同時にまたしてもギラリと光る眼光。
判ってる、判っております!

「ははっ、気にするな。まだ帰るにも早い時間だろ? のんびりと過ごして行けば良い。大体、子供が大人の事情に気を使うもんでもないさ」
「だってさ、加持さんもこう言ってるし、行こ!」

先ほどの自分といることに対して嬉しそうにしていた仮面を脱ぎ去って、自然な感情で少年を誘う少女。
アスカ、そんなのだと、さすがのシンジ君でも怪しんでしまうぞ、なんて言葉を心の中で語りかける。苦笑付きで。



「それじゃあ、加持さん、また誘って下さい」
「加持さん、またね!」

デパート前で別れの挨拶。
ああ、と笑顔で男性はそれに答える。
ふたりはゆっくりと右手を振って前へと進み出した。
ふぅー、と溜息をついて胸ポケットに仕舞い込んでいた煙草を取り出す。
しゅぼっ、とライターに火を点け、口に銜えた煙草を近付けようとした時、何かが視界内で動いているのに気付いた。
ふとそちらに目をやれば、むっとした表情の少年と少女がこちらを凝視している。
どうやら煙草に関して異議を唱えているようだ。
ははっ、ともう一度だけ苦笑を零し、銜えていた煙草を折り曲げ、右手を軽く挙げてその異議に了承の合図を送る。
その光景に満足したのか、ふたりは笑顔でもう一度だけこちらに手を振り、また歩を進める。
が、少女がぴたりと足を止め、踵を返してこちらに振り返り、少し困った顔でゆっくりと口を動かした。

ゴメンネ

それはこの出来事に関しての謝罪なのだろう、だが、男性は同じように、気にするな、と口を動かす。
その言葉に安心したのか、少女は先ほどみせた天使の笑顔を浮かべる。だが、悪魔の部分は感じられなかった。
少女が踵を返したことを疑問に思ったのだろう、困惑顔をしながら少年もこちらへと視線を向ける。
ここでばれてしまったら全てが水の泡になるのもそれはそれで難儀である。

908: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2008/05/15(木) 03:06:05 ID:???
それを悟られないように、今度はふたりに対して、いってらっしゃい、と口を動かし、何も無かったことをアピール。
どうやらそれは悟られずに済んだようで、少年はまたしても笑顔で、いってきます、と口を動かしていた。傍らで同じように少女も。
そして、ふたりの姿は人混みの中に消えていった。

ふたりの姿を見届けた後、男性は余った時間をどうしたものかと考えて、取り敢えずまずは約束を果たすことが先決と、折り曲げた煙草、そしてまだ何本か入っている煙草の箱をゴミ箱へと放り込む。

「まぁ、恋する乙女に敵う奴なんていないってわけだな」

昔のように慕われていないのは少し寂しいと思う気持ちは少なからずあったが、何よりもふたりがこれからも幸せでいてくれるなら男性にとってもそれが一番素敵な世界になる。
そんなことを考えながら、男性は携帯を取り出し、余りに余った時間をどう有効に使うべきか手っ取り早い解決法を実行する。

「よぉ、葛城、今暇?」

そんな昼下がり。



「よぉ、葛城、今暇? ん? ああ、見事に振られたよ。ってお前も随分不機嫌そうだな。 なに? 誰かさんに家族をふたりも奪われたから?
 勘弁してくれ、さっきアスカにこってりと絞られ……何!? 腹いせにふたりの邪魔をする!? おい、なんだそりゃ! 意味が……
 あっ、お前、ふたりがひっついたら自分だけのけものにされそうで寂しいんだろ? 怒鳴るな! 怒鳴るな! 冗談だってば。
 って、本気で邪魔するのか? マジで次はアスカに殺されるって……。……拒否すればお前に殺されるのかよ……。
 前門の虎、後門の狼だな……、いや、ホント、止めろ! 止めろって! 止めて下さい!」

そんな葛城家と愉快な仲間達。





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