914: パッチン 2008/05/23(金) 01:41:09 ID:???
草木も眠る丑三つ時。
資料やら空き缶やらが散乱した散らかり放題の部屋の中。
そんな空間にピッタリなグシャグシャのシーツの上、唯一この部屋の中で美しいといえる存在がだらしない姿で眠っていた。
そんな何事も無い部屋に外部から微かな足音。

…ぺたり

そんな小さな小さなフローリングと裸足が奏でる音色に、彼女はゆっくりと両目を開き、半開いていた怠け口をキュッと閉める。

ぺたり…ぺたり…

こちらに来る

徐々に近づく足音に対して彼女は音も無くベッドの上に座り直し、
枕元に用意された『人殺しの道具』を手にする。

ぺたり…ぺたっ

部屋の前で足音が止まると、彼女はベッドの上で木製の扉を睨みつけながら、そっと銃口をそちらに向けた。
・・・しばしの沈黙が続き、足音は弱々しい少女の声に変わった。

「み、ミサト?起きてる?」

「・・・・・ふぅ。起きてるわよ」

彼女は右手に持った拳銃を枕元に戻す。
そして扉を睨みつけていた両目を細め、小さく自笑した。

なにを怖がってるんだろうあたしは・・・

915: パッチン 2008/05/23(金) 01:43:02 ID:???
『1つ掛け布団の下で』

部屋に入ってきたのは、ピンクのパジャマ姿のアスカ。
胸にはしっかりと大きな枕を抱きしめながら、ジッとミサトを睨むようにしている。
「なに怖い顔してんのよアスカ?」
「だって…なんかさ…」
そう言うとアスカは恥ずかしそうに顔を伏せ、左足を床にグネグネと擦りつけながらプゥっと膨れる。

今更なにを照れてるんだろうかこの娘は…

「ほら、おいで」
自分の枕を左に移動させたミサトは、ポンポンと布団の右側を叩く。
「・・・うんっ」
ミサトの一言に少し表情を崩したアスカは、ゴミの海を飛び石の要領でピョンピョンと移動し、そのままベッドの上に上陸した。
「よし。・・・ねぇ、もうちょっとつめなさいよ!ただでさえ狭いベッドなんだから!」
「なんですってぇ!人のベッド使っといて最初のセリフがそれか!」
枕を『ボフ』っとベッドの上に置くと、アスカは自分の陣地いっぱいに寝ころんだ。
その隣でミサトも同様に寝ころぶ。

「どーせ甘えん坊のアスカちゃんは、またあたしのおっぱい枕で寝たくて来たんでしょ?
だったらベッドが狭くても問題ないじゃない」
「う…うっさいわね!アンタそんなこと大声で言ってんじゃないわよ!」

916: パッチン 2008/05/23(金) 01:45:04 ID:???
ミサトの一言に顔を赤くしたアスカはそれを隠すように、隣で寝ているミサトのタンクトップを押し上げる膨らみに、鼻から思い切り突っ込んでいった。

「ちょ、ちょっと!
・・・ったく、ホントこの子は何なのかしら…?」
「んぅ~…。何の意味も無いアンタの巨乳を使ってあげてんだから、有り難く思いなさいよ…」
「なんですってぇ!?あんた人の胸を何だと思ってんのよ!」

憎まれ口を叩きながらも、アスカは仰向けに寝転ぶミサトの上に全体重を預け、柔らかい2つの膨らみにとても安心した表情で頬ずりし始める。
「あんたのおっぱいって気持ちいいのよ…温かくて柔らかくて…」
そして、熱っぽい吐息がミサトの胸を包む。

そんな甘えん坊をいじらしく感じ、ミサトはアスカの長く伸ばされた髪をゆっくりと撫でてやる。
「ぅん…」
すると気持ち良さそうに目を細め、アスカは小さく鳴く。

「でもアスカ?そんな事言いながら、ホントはもっと顔を押し付けたい胸があるんじゃないの?」
「ん…?」
「も~っと甘えん坊になりたい相手がいるんじゃないの?って言ってんのよ」
「ん~…?」
「誰か当ててあげよっか?」
「ん…??」

「シンちゃん」
「ば、バカ!」

917: パッチン 2008/05/23(金) 01:47:13 ID:???
ミサトがドイツ支部にいた頃、セカンドチルドレンであるアスカと訓練で遠征に出かけたことがあった。

その頃の2人の関係はあまり良いモノでは無く、ミサトがどんなに話しかけたりご機嫌取りをしても、全くアスカが心を開かなかった。
数少ない笑顔を向ける相手であった義理母や父に対しても、どこか本音をこらえている感じ。
ドイツ支部内には、そんなアスカを手懐けられる者は1人もいず、彼女はいつも周りを凍りつかせていた。
毎日のように、アスカの冷たい瞳がミサトを貫いていた。

しかし事件が起こったのが、遠征先のホテルの一室。
アスカの護衛を任されたミサトは、もちろん彼女と同室で身体を休めていた。
遠征先の訓練がかなり過酷だったこともあり、ミサトはグッタリとソファーの上に寝転んでいた。

そして完全に眠りの世界に墜ちて一時間後



目を覚ますと、あのセカンドチルドレンが絶対零度の碧い瞳から涙をボロボロと流しながら、自身のおっぱいに顔を擦りつけていたのだ。

あまりの驚きに声も出なかったミサトだが、それが幸いしてかアスカはミサトが目を覚ましたことに気付かず、そのまま小さな涙声をあげていた。

『ママ…ママ…』と・・・

918: パッチン 2008/05/23(金) 01:49:04 ID:???
あの後、泣いてるアスカの頭撫でたら、絶叫しながら殴られたっけ?
・・・でも、あれから少しずつ心を開いていってくれたのよね…。

「なに笑ってんのよミサト…?」
「ん?あたし笑ってた?」
おっぱい山からヒョコっと顔を出したアスカが、ミサトをジッと見つめている。
「笑ってたわよ!言っとくけどアタシはシンジのことなんか何とも思ってないんだからね!」

(あぁ、確かその話だっけ…)

ちょっと昔にタイムスリップしていた頭を現在に戻したミサトは、再びアスカをおちょくるため、過去を思う笑顔から悪戯を企む子供のような笑顔に切り替えた。

「あら、本当にシンちゃんのこと何とも思ってないの?」
「はんっ!なんでアタシがあんなヤツのことを、何とか思わないといけないのよ!」
「ふ~ん、じゃあシンちゃんが誰かのモノになってもいいんだ?」
「べ、別に関係ないわよ!アイツが誰のモノになろうと!
ま、あんな冴えないヤツをどうにかしたい女なんかいないと思うけどね」
「あら、シンちゃんって可愛いから好きだけどな~
誰も買い手がいないんなら、あたし貰っちゃおうかしらん?」
「な、なに言ってんのよ!アンタには加持さんがいるでしょ!」

919: パッチン 2008/05/23(金) 01:51:01 ID:???
「あら、ていうことはアスカは加持のこと、もうあきらめちゃったの?」
「う…うるさいわね!」
「はは~ん。さては加持が占領していた心の乙女を、愛しのシンちゃんが横取りしちゃったのね?」
「ち、違うわよ!」
「素直になんなさいよバカたれ♪」
「知んない!!」

言い争いのために上げていた顔を再びミサトの胸に押し付け、アスカは必死に否定するようにグリグリと動かす。
「ふふっ、あんたバカぁ?」
そんな恥ずかしがり屋の頭をミサトは慈しむように両手で抱き締め、アスカの得意技をポツリと呟く。
顔は微笑みを作っているが、けしてアスカを言い負かした喜びからではない。

「そんなに意固地にならなくていいじゃない。なんでシンちゃんが好きな自分を隠しちゃうの?」
「…だって」
「人を好きになるのって当たり前のことだと思うわよ?それは恥ずかいことなんかじゃないわ」
「シンジは家族としか思ってないわよ…」
「そんなことないわ。ちゃんと1人の可愛い女の子として見てるわよ
お風呂上がりの時なんかセクシーすぎて、シンちゃん見とれてんじゃない?」
「…えっち」

誰にむかって呟いたのやら?
アスカの髪の間からヒョッコリ出た2つの耳が赤く染まっていく。

920: パッチン 2008/05/23(金) 01:52:41 ID:???
「あとは同居中の可愛い女の子から、大好きな女の子にステップアップするだけよ」
「べ、別にアタシは…」
「例えば、シンちゃんに見せたことのない自分を見せてみるとか」
「・・・・・む」
何か言いかけたアスカだったが、ミサトの言葉に興味を示したのか、黙って赤く染まった耳をミサトに傾ける。

「そんなちょっとしたことでも、男の子ってドキドキしたりするのよ?
あんた髪型とかいつも一緒でしょ?ポニーテールとか似合うんじゃない?」
そう言うとミサトは、アスカの髪を両手でひとまとめにしてポニーテールの形を作ろうと試みる。
が、アスカはそれを拒むように首をフリフリ動かし、ミサトの指を嫌う。

「イヤ?」
「・・・別に変える必要なんかないもん…」
未だに意固地な態度をとる彼女に苦笑いを浮かべたミサトは、両手をアスカの頭から背中に移動させ、そのままギュッと抱きしめる。

「シンジくんを好きな自分を受け入れられないのね?」
「・・・・・」
「でもね、いずれ受け入れなくちゃいけない時がくるわ」
「・・・わかってる」
「じゃあ大丈夫。シンちゃんのこと逃がしちゃダメよ?」
「…うるさいバぁカ」

その言葉を最後に、部屋は寝息に包まれた。

921: パッチン 2008/05/23(金) 01:54:16 ID:???



カーテンの隙間から漏れる光が朝を告げた。

「んぅ・・・まぶし」
そんな小言を呟きながら目を覚ましたミサトは、見慣れた天井をボンヤリと見上げる。
睡魔と理性の戦いを脳内で繰り広げながら、欠伸を1つ。
そして、のそのそとベッドから這い出ようとしたミサトの寝ぼけた耳をつんざく悲鳴がキッチンから・・・

「いったぁーーーーーーーいっ!!!!」

「ちょ、ちょっとアスカ大丈夫!?」
「なによこの包丁切れすぎじゃないの!?ち、血が出てんじゃないのよ!!」
「アスカが慣れてないのに急いで切るからだろ!」
「いいから早く絆創膏とって来なさいよぉ!アンタ出血多量で殺す気!?」
「もう…。ほら指出しなよ」
「え…!い、いいわよ自分で巻くから」
「そんな濡れた手で絆創膏触ったらすぐ剥がれちゃうだろ。あ、ネギに血が付いちゃうよ!早く指出して!!」
「う、うん」
「うわぁ痛そう…大丈夫?」
「・・・・・」
「はい出来上がり。もうテーブルで待ってる?あとは僕がやるから…」
「な、なに言ってんのよ!アタシが手伝ってやるって言ってんだから、アンタは黙ってアタシの優しさに酔ってればいいのよ!」
「逆に邪魔してるだけじゃないか…」

922: パッチン 2008/05/23(金) 01:55:55 ID:???
「おはろ~2人共♪」
「ふぁ…おふぁひょうごらいまふぅ」
キッチンにやって来たミサトが見たのは、アスカに口を横に伸ばされているシンジの姿だった。

「アンタ最近生意気なのよぉ!」
「ご、ごみぇんなしゃいぃ…」
そんな2人を見ながらクスリと笑うミサト。
「アスカ~そんなに怒ったらシンちゃん可哀想よん?」
「うるさいわね!事情も知らないクセに、しゃしゃり出てくんじゃないわよ!」

「なんにせよ怒り過ぎは体に良くないわよ?
ほら怒り過ぎで『ツノ』生えてるじゃない」
「痛っ!や、やめてよミサト!」
ミサトに頭から大きく伸びた『一本角』を掴まれ、顔中を真っ赤にしながらアスカは暴れだす。

「あ、ミサトさんも気付きました?これ『ポニーテール』っていうんですよね」
「違うわシンジくん。ただのツノよこれは♪」
「ツノじゃないわよ馬鹿!サッサと離しなさいよ酔いどれババア~!」
「はいはい、じゃあ酔いどれはビールでも飲むとしますか!」

キーキーわめくアスカのツノを解放して、冷蔵庫のえびちゅを取り出すミサト。
一方アスカは、ミサトに馬鹿にされたことがよっぽど恥ずかしかったのか、髪を留めていたヘアゴムを外しにかかる。

923: パッチン 2008/05/23(金) 01:59:55 ID:???
「あ、外しちゃうのそれ…?」
「うるさいわね!どうせアンタも馬鹿にしてんでしょ!」
青い目にはうっすらと涙。けしてミサトに掴まれた痛みで泣いているワケではない。
そんなアスカを見ながら、少し頬を赤く染めたシンジはポツリと呟く。

「僕は好きだけどな…」
「え…!?」
「み、ミサトさんに馬鹿にされるのが嫌だったら、ミサトさんがいない時だけ…でも…。
・・・ご、ごめん!」
恥ずかしそうに俯いていたシンジは、エプロンをモジモジ弄りながら、火のかかるフライパンの元に逃げていく。

何かを誤魔化すように懸命にフライパンを振り続けるシンジの真っ赤な横顔を、ポカンとした表情で見つめるアスカ。
そんな彼女にビール片手に忍び寄ってきたミサトは、アスカの耳元で
「よかったわね♪」
と、囁きかけた。

すると思い出したようにアスカは顔・・・いや、全身を真っ赤に変化させていく。

更にミサトはアスカの左手をむんずと掴むと、その赤く染まりきった顔の前に持っていく。
そこには五本ならんだ白い指があり、その中の絆創膏が巻かれた『薬指』を見つめ、トドメの一言を放った。

「結婚指輪みたいねコレ」

おわり

940: パッチン 2008/06/06(金) 20:41:38 ID:???
嫌い・・・大嫌い。
なんであんなのと一緒に住んでるんだろ?
作戦上仕方なく始まった同居。でも男と女が一緒に暮らすなんて異常だ。

嫌い・・・大嫌い。
朝から夜までずぅっと一緒。だからずぅっと顔を合わせなければいけない。
確かに外見は悪くない…。クラスの人間からの評判も良い。
でも周りの評価なんて関係ない!

嫌い・・・大嫌い。
時々見せる笑顔…。コチラを見つめる瞳…。
たまにそんな様子が愛し・・・くない!!

違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!

あんなのを好きなワケがない!
最近、身体の調子がおかしい。いつも胸の奥がドキドキしている。
四六時中一緒だから…?

ち、違う違う違う!!!
まるでこんな表現をしたら、あんなのに『恋』してるみたいになってしまう!

胸がドキドキするのは、嫌い過ぎてどうしようも無いくらい腹が立つからに違いない!
ホッペが赤くなるのも、イライラが溜まり過ぎだから!

絶対にそうだ・・・そうに違いない・・・

あんなのを好きになるハズがない!

嫌い・・・大嫌い。

僕はアスカなんか大嫌いだ!

941: パッチン 2008/06/06(金) 20:43:18 ID:???
『好きと嫌いの狭間』

2人きりの葛城家の夕げ
「シンジおかわりちょうだい」
「あ…。う、うん」
「頼んだわよぉ下僕のシンちゃん♪」
そうやってヘラヘラとアスカは笑う。
やっぱり嫌いだ、こんなヤツ。

「はい、これで炊飯器ラストだから」
「さんきゅっ、じゃあ半分やるわ。ラストなんでしょ?」
「え…?い、いいよ」
「情けないアンタが早く大きくなれるように、このアスカ様が半分やるって言ってんのよ!ほら、茶碗貸しなさい」
そう言うとアスカは僕の青いお茶碗を分捕り、赤いお茶碗から3分の2ほどの御飯を自らの箸で移動させ、満足気な表情で手渡してくる。
「ほら、優しいアスカ様に感謝しながら食べなさい」
「・・・うん」

すると何ともなかった僕の身体に異変が起きる。
まただ…キュルキュルと胸が痛い。
僕はアスカから差し出されたお茶碗を手に取ろうと左手を伸ばす。

「「あ…!」」

小さいお茶碗に2つの手が僅かに重なる。

途端に異変が身体中に広がっていく…
心臓がバクンと跳ねて、頬がカァっと熱く燃え、肩がビクンチョする。

「あ、アスカごめ…」
「ご、ご馳走さま!」
言うが早いか御飯を残したまま、アスカは自室に飛び込んでいった。

942: パッチン 2008/06/06(金) 20:44:44 ID:???
葛城家、命の洗濯場

「ふぅぅ…」
あの後自室に逃げ込んでしまい、ずっと出てこないアスカ。
そしてダイニングに取り残された僕も御飯を残したまま、お風呂に飛び込んできてしまった。
何故か火照って仕方ない身体を冷ますため、少しぬるめのお湯に浸かりながら、小さく溜め息。
「…ちょっと触れただけなのに、あんなに嫌がるなんて」

やっぱり僕のこと嫌いなのかなぁ…

「・・・ん」
目についたのは、さっきアスカの手と重なった左手。
またしても小さく小さく、心臓が跳ねた。
「ばか…」
誰にともなくそう呟くと、僕はそのまま目を閉じて左手にそっとキス・・・

「!!!!?」

唇が軽く触れた瞬間、僕は一気に沸点に達し、急激に熱くなった顔をぬるま湯に思いきり沈めた。

な、何をやってるんだよ僕は!!別に嫌われたっていいじゃないか!!なんでアスカが触った手にキスしなきゃいけないんだよぉ!!

熱くて熱くて…身体中が全く冷めない。
「ぷはぁっ!の、のぼせちゃったのかな…?ちょっと長湯だったし…」

自分に言い訳するように呟いた僕は、急ぎ足でパジャマに着替えると、風呂上がりの牛乳も飲まず自室に駆け込んで行った。

943: パッチン 2008/06/06(金) 20:46:19 ID:???
『たっだいまぁ~!葛城家の女王、ミサトさまのおかえりよ~ん♪』

締め切った扉越しに聞こえるミサトさんの酔っぱらった声も遠く、僕はベッドの上で掛け布団代わりのタオルケットにくるまる。
「はぅ…もうヤダよ。なんなんだよこれぇぇ…」
枕をギュッと抱きしめるように胸に押し付け、ドクドクと必死になって働く心臓を落ち着かせようとする。

『シンちゃ~ん?この御飯残してるのって、あたしの分~?』

心の何処かからくる急激な恥ずかしさに、たまらず目を瞑ると『アスカの笑顔』が瞼の裏に張り付いているかのように、僕の感覚を支配してしまう。
もちろん異変はそれらの部分だけではなく、熱く燃える頬は、未だ鎮火してくれない。

『じゃあ、お風呂入ってから食べるわよ~?』

お風呂…。
そうだお風呂のせいだ…!
ぬるめに沸かしたハズなのに、かなり熱くしてしまっていたのかもしれない!
「・・・そうだよ、アスカ相手にこんなに身体が熱くなっちゃうワケないじゃないか。
そうだよお湯のせいなんだ…熱すぎたお湯のせいだ…」


『つっめたーーーーーい!!!シンちゃん何よこのお風呂、氷水じゃない!!なんかの罰ゲームなのコレは!?』

「・・・・・」

944: パッチン 2008/06/06(金) 20:48:02 ID:???



「・・・デート?」
「そ、明日ね。だから昼御飯いらないから」

お風呂冷水事件の翌日、この日はミサトさんも参加しての、3人での夕飯だった。
久しぶりのミサトさん一緒と食べる夕飯ということで、僕も張り切って料理を作ったのだが、
ちょうど僕が肉じゃがに手を伸ばした瞬間、アスカから明日デートに行くことを聞かされた。

取り損ねたじゃがいもがコロリとテーブルの上を転がった。

「あら、前のデート途中退場でこりたんじゃないの?」
「ん~。でもヒカリからのお願いだしねぇ」
「ふぅん。また遊園地?」
「ううん、なんか新しく出来たデパートだってさ。なんかボンボンらしくって、欲しい物あったら何でも買ってくれるとか言ってたらしいし、ちょっと今回は楽しみかな」
「ひゅ~ひゅ~♪そのまま恋仲とかになっちゃったりするんじゃない?」

ガタンッ!!!

「ごちそうさま…」

アスカとミサトさんの浮かれた会話を聞いた僕は、自分でも驚くような勢いで席を立ち、驚くほど覇気の無い言葉を吐く。
「ごめんなさい…寝ます。食器は明日…ごめんなさい」

自分でも何を言ってるのかわからない状態に陥りながら、僕はフラフラと自室に入っていった。

945: パッチン 2008/06/06(金) 20:50:04 ID:???
リビングにイヤホンをつけた僕と、テーブルに突っ伏すアスカが見える。

キスしよっか?
『え?』
キスよキス。したことないでしょ?
『う、うん』
じゃあしよう
『な、なんで?』
退屈だからよ
『退屈だからってそんな・・・』

アタシが他の男の子とキスするのイヤ?

え…?

舞台が歪み、知らない場所になる。
僕の知らない物しかない、何なのかもわからない、とても居心地の悪い気持ち悪い場所。
知ってる姿はアスカしかない。でもアスカは、とてもこの空間にウットリした様子だ。
僕の見たことのない表情がそこにあって、僕はまた激しい疎外感に襲われる。
アスカはそんな表情を、ある一点に集めながらそちらに行ってしまう。
そこには僕じゃない誰かがいて、アスカはソイツに向かって両手を伸ばしながらフラフラ歩いてゆく。
『行かないでよアスカ!』と、僕は叫ぼうとした。
叫?ぼ?う?と?し?た?
なんで叫ばないといけないの?僕はアスカが嫌いじゃないの?
アスカがソイツの手を握りしめる。

やだやだやだやだやだやだやだやだやだやだ…!!
心がグチャグチャになっていく・・・
なんでこんなことになるの・・・

僕は…僕はアスカが好きなの・・・?

946: パッチン 2008/06/06(金) 20:51:42 ID:???
「な、なんて夢見るんだよ僕はぁ…」

早朝5時。おぞましい夢によって叩き起こらされた僕は、ジットリと汗に濡れた髪をグシャグシャとかき乱しながら深いため息を吐く。

「僕はアスカが好き…」

夢の中で出てきた言葉をポツリと呟き、僕は心の中が虚しさでいっぱいになるのを感じた。
「違う、絶対に違うよ…」
僕はその言葉を否定しながらゆっくりとベッドから降り、異様なほどの喉の渇きを癒やすためキッチンに向かった。


「まだ起きてたの…?」
「ん?なによ。休みなのにえらく早いじゃない」
先程まで暗い部屋で眠っていた僕には、眩しすぎるリビングの光。
その蛍光灯の下でさっき夢に出てきて僕を困らせたアスカが、懸命にテレビゲームに熱中しているのだった。
・・・今日デートのハズじゃないの?
「ちょっとアンタこのゲーム、クリアしてたでしょ!この鰻の化け物どうやって倒すのよ!?」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ!」
麦茶をコップに注ぎ始めていた僕は慌ててアスカの元にむかい、ソファーの隣に腰掛けた。
「いい?今日中にクリアするからアンタ付き合いなさいよ!」

そして、とても今日デートに行くとは思えない台詞をアスカは吐くのだった。

949: パッチン 2008/06/06(金) 23:24:07 ID:???
そして朝10時。
すっかりゲームにのめり込んでいたアスカは、クリアした解放感からか、グーッと伸びをして眠そうに目を擦る。
「…眠いの?」
「あったり前でしょ~朝まで寝ずにやってたんだからぁ」

じゃあ今日はデートなんか行かないで、一緒にお昼食べて昼寝しよ?
何故かそんな言葉が喉の奥に絡まって離れない。

「ふぅ、じゃあそろそろ寝よっかな?」
「えぇ!?」

「えぇ!?って何よ。アタシ今日一睡もしてないのよ?」
いきなり僕の喉に引っかかる一言を、ズバリ言い放ったアスカは、欠伸を一つ漏らすと、そのままソファーの上にコロリと寝転がる。
そんな様子を眺めていた僕は『デートはどうするの?』と、いう言葉が飛び出そうになった。

・・・そう。『出そう』にはなったんだけど、何故か僕はその言葉を静かに飲み込んでしまう。

これを言うとアスカがデートに行ってしまう気がする…
いや、行って構わないハズなんだけど…
あの悪夢のように、アスカがどこかに行ってしまう気がして…
どっかに行ってほしかったんじゃないの?こんなやつ…

あの夢を見てから、アスカがデートに行くと聞いてから…
ううん、それよりずっと前から、変な気持ちが止まらなくて…

950: パッチン 2008/06/06(金) 23:25:52 ID:???
マッタリとした時間が流れる午後の休日。
ホントは1人で過ごすハズだったリビングには、小さな寝息をたてる人がもう1人いて…。
それは僕が嫌いな人。大嫌いな人。
だけど僕は今、その大嫌いな人をボーっと見つめながら小さく笑っている。

「ア、ス、カ…」

自分でも恥ずかしくなるくらいの優しい声で呼びかけてみる。
「・・・すぅ」
そんな僕になんか気付かないアスカは、すっかり眠ることに夢中になっている。
その寝顔は、今日のデートのことや学校のこと、そしてエヴァのことですら忘れてしまったみたいで…。
ダラリとソファーの上で仰向けに寝るアスカの、ダラリとこちらに伸びた右手をソッと握ってみる。

トクトクッと、僕の胸が小さく急ぎだす。

「柔らかいんだね…」
いつも僕をひっぱたく恐怖の右手。
その手を今僕は自らの意志で握りしめ、そしてその手は僕の手を受け入れてくれたかのように、軽く握り返してくれる。
そんなことが、たまらなく嬉しくて、嬉しくて…。
何でそんなことが嬉しいのか全然わからなくて、わからなくて…。
「僕…変だよねアスカ?・・・バカシンジだよね」

自分の気持ちの答えも見つからない…ホント、バカシンジだよね…。

951: パッチン 2008/06/06(金) 23:27:31 ID:???



夕焼けがベランダから射し込む午後5時半。
昼前から先程まで、飽きることなくずっとアスカの手を握っていた僕の右手は、今包丁を握りしめ、トントンと人参を切っている。
「・・・カレー?」
「あ、おはよう。カレーだよ」
包丁がまな板を叩く音に反応したのか、ソファーの上にのそりと起き上がったアスカは、寝ぼけ眼でこちらを見ている。

「・・・・・」
トントントン…
「・・・・・」
トントントン…
「・・・・・デート断ったから気にしなくていいから」
トントン…
「断ったの?」
「アンタ昨日怒ってたでしょ?だから断ったのよ」
「え…」

意外な理由に驚く僕に対して、アスカは立ち上がってゆっくりコチラに向かって来る。
「あ、アスカ…?」
「・・・・・」
そのままキッチンに入ってきたアスカは、無言のまま調理場にいる僕の隣に立つ。
「なにビクついた顔してんのよ?」
「だ、だって…」
「アンタは今日からアタシより年上でしょ!ピシッとしなさい!」
「は…?」

今日から年上?
・・・そっか今日は…。

「6月6日だ…」

952: パッチン 2008/06/06(金) 23:29:06 ID:???
「はぁ~あ、自分の誕生日忘れるなんてアンタらしいわね」
「そっか…誕生日だったんだ今日」

最近はエヴァのことやアスカへの悩みに頭を働かせすぎたせいか、全く気付かなかったみたいだ。
・・・まぁ誕生日をお祝いしてもらったことなんてほとんど無かったし、僕にとって毎年この日は…
「何シケた面してんのよお兄ちゃん?」
「ふざけないでよ…別に誕生日とか言われても」
「ま、確かにアタシもプレゼントとか用意してないんだけどね」
「ううん、いいんだよ。誕生日だからってお祝いしてもらうつもりなんて…」
「おっと、勝手にネガティブになるんじゃないわよ?ホントはアタシ、ちゃんとプレゼント決めてたのよ」

そう言うとアスカは、調理場の隣の料理本等が積んである棚から一枚のパンフレットを取り出した。
「この圧力鍋欲しがってたでしょアンタ?」
そこには2015年が産んだ科学の結晶。最新圧力鍋が、圧力鍋とは思えない値段で表示されていた。
「うん。でも高いからダメだってミサトさんが・・・・・ま、まさかアスカ!」
「買ってないわよ」
「・・・はぁ、そうだよね…。僕と同じお小遣いだもん」

953: パッチン 2008/06/06(金) 23:30:51 ID:???
「でもさぁ同居人である、碇シンジ君にはアタシも何とかプレゼントしてあげたいな、と考えてたのよ」
「でも高いよ?これ」

「だから今日のデパートデートで相手の男に買わせようと思ってたのよ」
「・・・はぁ!?」

あっけらかんと言い放ったアスカは、少し赤らんだ頬をポリポリと指で掻きながら、僕から少し目を逸す。
「ぼ、僕へのプレゼントを他の人に買わせようとして、デートに行く約束したの!?
そんなことのために…他のヤツとデートを…」
「だってそうでもしなくちゃ、こんな高い物買えないんだもん!!」
「そんなプレゼントで僕が…僕が喜ぶと思ったの!?」
「・・・だって」

一気に訳の分からないワケのわからない感情に包まれた僕は、ひとしきり声を荒げると、床にへたり込んでしまった。

なんか…ドッと疲れた…。

「でも昨日夕飯の時にその話したら、アンタ怒って出てっちゃうし…。なんか間違ってたのかな?って気がして、あの後電話で断ったのよ…」
「うん…」
「ねぇ、怒ってんの?」

そう言うとアスカは僕の目線までしゃがみ込み、覗きこむように僕の表情を伺ってくる。

「・・・な、泣いてんのアンタ!?」

うん…泣いてた…。

954: パッチン 2008/06/06(金) 23:32:12 ID:???
「うっ…ひっく…」
「な、なにも泣くことないでしょバカ!」

僕の心の中にあった悪夢の中で見た光景が…崩れていって…。
そしてアスカが僕のためにしようとしたこと…。
それがすごく…すごく…嬉しくて…切なくて…。

涙がボロボロと両目から止めどなく流れ落ちてしまう。
変な泣き癖が止まらなくて、必死で呼吸しようとすると、よりいっそう『ひんっ、ひっく…』と変な声が出てしまう。

「悪かったわよ!一緒にミサトに圧力鍋買うようにお願いしてあげるから、泣き止みなさいよ!」
「ふぇっ…。ば、ばかぁ…!」
この期に及んで素っ頓狂な事を言ってくるアスカに対して、僕はエプロンで顔全体を隠すように涙を拭う。
そして・・・叫んだ。

「ぼ、ぼくは…僕はアスカが好きだから泣いてるんだよ!!」

「え…」
「あ…」

とんでもないことを聞いてしまい、目を見開いてコチラを見つめるアスカと、
とんでもないことを叫んでしまい、目を見開いでアスカを見つめてしまう僕。

僕の瞳から涙が…止まった…。

アスカの瞳から…涙がこぼれた…。

『僕はアスカが好き…』

その言葉が、今朝とは全く違う言葉のように僕の心を駆け巡っていった。

おわり

955: パッチン 2008/06/06(金) 23:36:46 ID:???
ツンデレなシンジを書いてみたくて…まあデレ分がかなり多めでしたがw
シンジ誕生日おめでとう!今の年くらいならちょうど貞で自転車盗んでるくらいでしょうか?
一番ツラい時期ですね…






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