235: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2009/09/27(日) 21:03:22 ID:???
保守がてら。
近親相姦な上に、LASなのにレイとカヲルが絡むのが嫌な方は
NGワード 有心論 でお願いします。

236: 有心論 2009/09/27(日) 21:05:12 ID:???
僕達は生まれたときから、一緒だった。
僕とアスカは二卵性双生児としてこの世に生まれた。
母は、僕達を生んだ後にすぐ子宮の病気で死んでしまった。
一度に男の子も女の子も生めて嬉しいと、言っていたそうだ。

父親は母が死んだ後、子供をほったらかしにしながらも、何人も彼女を作っているらしかった。
今も彼女がいるみたいだが、僕は詳しくは知らない。
男の僕から見ても、最低な父親だと思う。


僕はそんな父親にそっくりで、アスカは母親にそっくりだ。
僕は髪も目も真っ黒だがアスカの髪は赤茶色で、目の色も日に透けるとたまに青っぽく見える時があった。
僕と同じ遺伝子が入っているようには見えなかった。


セカンドインパクト直後に生まれた僕達の世代は、もちろん子供の数も少なく学年に1クラスしかない。
普通は兄妹なら別々のクラスにされるところだが、どうしようもないので僕達は同じクラスに在籍している。
そんな訳で、僕とアスカは同じ家で眠り、同じごはんを食べ、一緒に登校し、同じクラスで授業を受け、一緒に下校していた。
ほぼ丸1日一緒だった。
アスカと一緒にいるのが当たり前だった。
僕達は生まれた時からいつもそばにいたので、アスカがいないとどこか落ち着かなかった。
父さんはろくに家にいなかったし、母も記憶に残るほど一緒にいなかったので、僕達は二人で寄りそうようにして生きてきたのだ。

僕の世界はほとんどアスカで構成されていた。

237: 有心論 2009/09/27(日) 21:07:34 ID:???
毎日変哲もない生活が続き、それは変わることがないと信じきっていた。
退屈な学校も終わり、家に帰り今日もリビングで昼寝をしていると、アスカが寄ってきた。
「寝てるの?」
そう言うと、僕の前髪をかきあげた。
「こんな昼間っから寝てると、夜寝れなくなるわよ」
自分でそう言ったくせに、僕の隣に寝転んだ音がした。
僕はようやく目を開ける。
「自分こそ」
言ってから、意外と顔が近くにあって少しびっくりした。
キスできるくらい近くに。
あわてて身体を起こす。

「じゃー今から寝て、夜起きてゲームでもしよっか」
アスカが提案する。
親が一緒にいない二人暮らしだと、いつも好きな時に寝て、好きな時に起きてやりたいことをするようになるのは目に見えている。僕たちも例外じゃなかった。
こんな風に今まで僕達は、二人だけのリズムで好きなようにやってきていた。


とりあえず昼寝をすることにして、僕達は眠った。
僕の肩にアスカの額がくっついている。
暗闇が怖いアスカと昔はいつも一緒に寝ていた。
いつから別々の部屋になったんだっけ。

眠るアスカ。
その姿をまだ誰も他の男は知らないだろう。
優越感。
誰にも渡したくない。
独占欲。

この感情は何だ?
この感情に名前をつけるとしたら。

238: 有心論 2009/09/27(日) 21:13:05 ID:???
…僕はアスカが好きなのか?
今更思いついて愕然とする。
兄妹なのに。
血がつながってるのに。

本当は自分でも知っていた。
夜の行為の妄想の相手は必ずアスカだった。
背徳的だとはわかっていたけど、やめられなかったんだ。

今更自分で認めて自覚して何になるんだ。
決して許されない恋。他の女の子じゃどうしてだめなんだろう。
アスカは決して僕なんかを好きになることはないのに。

239: 有心論 2009/09/27(日) 21:14:50 ID:???
そんな中、今日も退屈な授業の終了の鐘が鳴り響いた。

「アスカー、帰るよ」いつもの様に言い、
「鞄とってくるからちょっと待って!」いつものように返事がくる。
二人で帰ろうとしたその時、
「碇さん、今日日直だよ」
とクラスメイトのカヲルくんがやってきた。

「あっ忘れてた!ありがと、渚。ごめん、シンジ先帰ってて」
「でも、一人じゃ大変だろ?」
手伝うよ、と言おうと思った瞬間、
「手伝ってあげるよ」
とカヲルくんに先に言われてしまった。
「悪いからいいわよ、シンジに手伝ってもらうから」
「僕が手伝いたいんだ」
「何で?」
「いつも君は碇くんとべったりだろ?君とゆっくり話してみたかったんだ」
「臆面もなく、そんな恥ずかしいことよく言えるわね!」
真赤になるアスカ。
「そういうことだから、先に帰っていいよ。じゃあね、シンジくん」
と、追い出され、疎外感を感じる僕。
その後やいやい言い続ける二人をしばらく見ていたが、
トウジに声をかけられ帰ることにした。

240: 有心論 2009/09/27(日) 21:16:22 ID:???
「とうとう渚が声をかけとったなー」
「何が?」
「渚、前からお前の妹ねらっとったみたいやぞ」
「えええ!!!」
「シンジもそろそろ妹離れする頃ちゃうんか?」


変わらない日常。
今日は昨日のただの延長。
そうだったはずなのに。
この日から思いもよらない方向に変わっていってしまった。
いや、こうなるべき方向だったとでもいうのか。

あの後、家に帰り落ち着かない気分で待っていると、アスカが帰ってきた。
なんだか様子がおかしい。
頬が赤い。
何だ?カヲルくんと、何があった?
「シンジー、あたし、彼氏ができちゃった。渚に、好きって言われたの」
好きなんて言われたの初めてで、思わずOKしちゃったと続けた。

アスカは僕の瞳が揺れたのを見ただろうか。

君は僕の妹で、いつかこんな日がくるのは当然で、僕がショックを受けているのは、
妹が離れていく寂しさのせい。
そう思い込もうとする。

「…そっか、よかったね、おめでとう」
「ありがとう」
いつもとは違うはにかんだ顔でアスカがほほ笑んだ。

241: 有心論 2009/09/27(日) 21:18:06 ID:???
それからアスカは帰りはカヲルくんと帰るようになり、
僕達はバラバラに帰宅するようになった。

今日も僕は、茶色の髪と銀の髪が隣に並んで歩いていく後姿を見送る。
時々銀の髪がかがむと、茶色の髪と重なり、金色になる。
僕はそれを見ていることしかできない。
お互いに見つめ合うまなざしは優しい。
アスカがあんなにかわいいと感じたことは今までなかった。
カヲルくんはかっこいいから並んでも絵になるよね。
僕なんかよりお似合いだ、なんて思ってみて兄なのになんなんだと我にかえった。

こうやって違う世界をお互い作っていくんだろう。
僕とアスカはずっと一緒だと思ってた。
何て独りよがり。思いこみも甚だしい。

僕にもいつか、アスカより大事な人が?

気がつくと他の女の子とアスカを比較している自分に気づく。
僕は最低だ。


(本当に僕たちは兄妹なんだろうか?)
戸籍謄本で証明済みです。
どうして兄妹として生まれてきたんだろう。

242: 有心論 2009/09/27(日) 21:19:23 ID:???
今日も僕たちは別々に帰る。
もういつものことになっていた。


でも今日は、こんな時間なのに何で帰ってこないんだ!
何をしていても時計が気になる。
今までこんなに遅くなることはなかったのに。
カヲルくんといるの?
こんな時間まで何してるんだろう。

アスカは暗闇が怖いのに。
カヲルくんはちゃんと家まで送ってくれるんだろうか。
送ってくれるとは思う。思うけど。

心配なのか嫉妬なのかもう僕にはわからない。
ただ、いてもたってもいられないということだけ。

僕は家を飛び出した。
カヲルくんの家は電車で1駅向こうだと知っていた。
だからいつも電車で帰ってるとアスカが言っていた。
すれ違いになるかもしれない。
でも、駅まで迎えに行こう。
怖がってるかもしれないから。

243: 有心論 2009/09/27(日) 21:21:17 ID:???
ロータリーのガードレールに腰かけ、電車を眺めていた。
もう何本見送っただろう。
やっぱり今日は電車を使わずに帰ってくるのかもしれない。
すれ違ったのかもしれない。
まさか事故とか…。
そうだったらどうしよう。
アスカがいなくなったら、僕はどうしたらいいんだろう。
僕にはアスカしかいないのに。

後1本、と思いながらもうどれだけ時間がたったのか。
「次が終電か…」
これで最後、と思って改札を眺めていると、アスカが出てくるのが見えた。

「アスカ!!」
「…へ?何でここに?」
「こんな夜遅くに危ないじゃないか!心配したよ!」
「ごめん!ついカヲルんちで寝ちゃってて。ってなんでこの電車に乗ってるってわかったの?
双子のテレパシー?すごーい!」
アスカは楽しそうに笑った。
「本当に心配したんだよ!どっかで事故にあったんじゃないか、とか。
アスカがいなくなったらって考えたらすごくすごく怖かった…」
「ごめんね、シンジ。心配してくれてありがとう」


そう言うとアスカは僕の頭を抱き寄せた。
兄弟愛として。

僕にはアスカしかいない。
だから、僕はアスカしかいらない。
他の誰もいらない。
アスカさえいてくれればよかったのに。

244: 有心論 2009/09/27(日) 22:00:50 ID:???
二人で並んで歩く、花の香りが漂う夜道。
何て名前の花なんだろう。
街灯に照らされる横顔。
夜は人を酔わせる。

「今日は随分と遅かったね、カヲルくんちで何してたの?」
「別に何もー。映画見てたら寝ちゃったみたい」
「寝てたって、何かされてない?大丈夫?」
「何かって何よ?」
「そ、それは…いろいろだよ…カヲルくんも男だし」
「なっ何言ってんのよ!キスしかしてないわよ!」


…キスしたんだ。
カヲルくんと。

この言葉が、僕を絶望のどん底に落とした。
君はどんどん先に行ってしまう。
僕はこのまま置いていかれる。

僕は、ひとりぼっちだ。

僕の中に眠っていた暗い衝動がゆれ動く。
心は手に入れられなくても、身体だけなら僕のものにできるかもしれない。
いや、手に入れてやる。
エゴでもいい。
キスが手に入らなかったなら、それ以外の初めてを僕が奪ってやるよ。

…君が好きだから。

245: 有心論 2009/09/27(日) 22:34:58 ID:???
でも僕は本当にそんなことができるのか?
アスカに抵抗されるに決まってるのに。

…じゃあ意識がなかったら?
父親が、不眠症なのか、睡眠薬を飲んでいることを知っていた。
それを使えば。
起きてるアスカには無理かもしれないけど。
寝ているなら。

(卑怯者だな)

でも、君を手に入れるためには一つしかない方法。

「アスカ、お茶を煎れたよ」

246: 有心論 2009/09/27(日) 22:36:38 ID:???
そうして、僕は誰にもいえない秘密をもった。

僕の初体験を君に捧げます。
だから、嘘でもいいから君の全てをください。


僕は薬が足りなくなると、不眠症だと偽りいろいろな病院に通い、少しずつ睡眠薬をためていった。

そうやって取り返しのつかない秘密を重ねていった。
僕が欲しいのはこんな君じゃないのに。君の感じてる声を聴かせてよ。

しかしやはり、偽物の幸せは永遠には続かない。

「あんた、自分が何してるかわかってるの」

ある日の夜中、冷たい声が部屋に響いた。

僕の聴きたい声はこんな無機質な声じゃない。

こうして僕の秘密は終わりを告げた。

247: 有心論 2009/09/28(月) 18:44:58 ID:???
あの日から僕達の関係は変わってしまった。
まあ無理もない。
僕のやったことはとても許されることではないから。
アスカは口もきいてくれなくなり、僕のそばに寄ってくることはなかった。
僕達はそれぞれひとり暮らしのように暮らしていた。
たまに父さんが帰って(というか家に寄って)くることはあったが、
あの人は僕達の関係に気づくことすらなかっただろう。
たまにアスカは帰ってこない日もあった。
カヲルくんの家にでもいるのだろうか。

もう僕には心配する権利すらない。

そんな時僕にできるのは、どうか、どこかで怖がっていないように祈るだけ。

後悔なんていくらしても足りない。
でもやってしまったことは消えない。
償うことすらできない。
僕は君を想うだけで傷つけてしまう。

僕は自分で自分を地獄のような日々に陥れてしまったのだから。


ぎすぎすした家に帰りたくなくて、最近は教室で時間をつぶしてから帰るようにしていた。
すると気がつくことがあった。
今までは気づかなかった。
綾波もどうやら時間をつぶしているのか、毎日一人で本を読んで遅くまで残っていた。
毎日一緒に残っていると親近感がわいてくる。
話しかけると、少しずつ少しずつ、彼女の返事が増えるようになってきていた。

248: 有心論 2009/09/28(月) 18:46:07 ID:???
「碇くんは、まだ帰らないの?」と珍しく綾波が話しかけてきた。
「うん、あんまり帰りたくなくて。別に心配する親もいないしね」
「そう」
綾波は本から目をあげると僕をじっと見つめた。
「え、何?何かついてる?」
「いえ、別に。…あなたはお父さんに似ているわね」
「父さんを知ってるの?」
「ええ」
そう答えると綾波はまた本の世界に戻っていってしまった。
一体なんだったんだろう。

僕は彼女の考えていることが少しもわからなかった。
けれど、そばにいると何故か落ち着く気がして、一緒に並んで座って時間を過ごすのは嫌いじゃなかった。
そんな放課後をここのところ過ごしていた。


今日もだらだらと、放課後教室に残っていると、葛城先生が慌てて走ってきたのがみえた。
「どうしたんですか?そんな慌てて」
「シンジくん探したわ、家にもいないし、とにかく落ち着いて聞いて、
あなたのお父さんが爆発に巻き込まれたって今知らせがきたの、病院に運ばれたそうよ、
今から急いで行ってあげて!」

父さんの仕事はよくしらないが、生命工学の研究所で働いていた。
爆発?
事故?
巻き込まれた?

249: 有心論 2009/09/28(月) 18:48:48 ID:???
横を見ると綾波が目を見開いていた。
彼女の細い手は震えていた。
こんな感情を表す彼女を僕は初めて見た。

私も行く、と何故か言い張る綾波と一緒に病院に急いで向かうと、
もうアスカが先に着いて病室の前で待っていた。

「シンジ!!!!パパが…、パパが…どうしよう、うわああああああん!!」
泣きじゃくるアスカを抱きしめながら、病室に入っていくと、

父さんの顔には白い布がかかっていた。

だめ、だったのか。
間に合わなかった。
汗が顔からしたたり落ちる。
アスカの涙と入り混じる。
僕達を庇護してくれる存在は消えた。

ふと隣を見ると、綾波は涙を流さないかわりに、目をいつも以上に真赤にしていた。
涙はでないの。
代わりに眼が赤くなるの。
彼女そう呟いた。

250: 有心論 2009/09/28(月) 18:50:37 ID:???
僕達は幼すぎて、悲しむことしかできない無力なガキだった。
周りがお通夜や葬式の準備をしてくれ、僕達をかわいそうな遺児として世話をやいてくれた。
気がつくと彼を見送る行事はほとんど終わっていた。
僕は父親が焼かれる煙を眺めながら、父さんにさよならを告げた。


父も母もいなくなり、僕の家族はアスカしかいなくなった。
僕には妹しかいなくなった。
家族をもうこれ以上失うわけにはいかない。

僕はアスカへの想いを心の底に、封印した。



すべてが終わった後、アスカがそっと僕に見せてくれたものがあった。
アスカとは父親の死がきっかけで、また話せるようになっていた。
僕がぼーっとしている間に、アスカは父さんの遺影の写真を探してくれていたらしく、
父親のアルバムをあさったそうだ。
その中から、2枚、写真を見せてくれた。
1枚は古い写真だった。
若い父親と、茶色の短めの髪の若い女性だった。
僕達が生まれるよりずっと前の日付だった。
もう1枚は、最近の写真で、僕は思わず目を奪われた。
父さんと、綾波だ。
二人とも寄り添って微笑んでいる。
2枚の写真の構図は、そっくりだった。
「この人とレイ、そっくりだと思わない?」
確かに、似ている。そう思った。
「あの子のショックの受け方は尋常じゃなかったわ。
下衆な想像でしかないけど、もし本当だとしたらパパは本当に最悪な男だけど、
昔の彼女に似てて、とかそういう話があったのかもしれない」

251: 有心論 2009/09/28(月) 18:52:22 ID:???
そういえば、病院で見かけた後、綾波を見ていない。
葬式には来ていなかった。
僕は自分のことでいっぱいで、綾波に何もしてあげれなかった。
忌引き明けに僕達が登校するようになっても、綾波は休んだままだった。
今頃どうしているんだろう。

心配だったので、ある日学校の帰り道住所録に載っている住所を頼りにし、
僕は綾波の家に行ってみることにした。
どこからするのかわからないが、工事の音が響く薄暗いマンションの廊下を歩く。
部屋のドアの郵便受けには数日分の郵便物がたまっていた。
いないのかもしれない。
ブザーを鳴らしても反応がない。
ノックをして、ノブを握りドアを引っ張ってみると、鍵があいていた。
悪いと思いつつ、奥をのぞくと綾波がベッドに座っているのが見えた。

「綾波!大丈夫?調子でも悪いの?学校に来てないから心配したんだよ」
彼女は駆け寄る僕を見つめていた。
しかし、反応がない。
「綾波、大丈夫?」とゆさぶってみると、
「あ…碇くん?」やっと目に焦点があった。

「大丈夫?ちゃんとご飯食べてるの?顔色が悪いみたいだけど」
「…食べたくないから、いい」
「だめだよ!何か食べないと。倒れちゃうよ。
今からおかゆでも作るから。ちょっと待ってて」
僕の父さんのせい?
だとしたら息子の僕にも責任がある。
急いで買い物に行き、手早く料理を作った。

252: 有心論 2009/09/28(月) 18:53:41 ID:???
「はい、どうぞ」
「……ありがとう……」

迷惑だったかもしれないが、綾波は何口か食べてくれた。
僕はぼうっとその様子を眺めていた。

「あの人がいなくなって、もうどうでもいいって思えたの」
綾波が独り言のように言った。
「僕の、父さん?」
「ええ。あなたのお父さんが好きだったの。初めて大事だと思える人ができたの。
でも、もういないのね…」

綾波は辛そうにつぶやく。
この数日で華奢だった身体がさらに細くなってしまっていた。

「僕じゃ、だめかな?」

思わず、僕は綾波に言った。
綾波が僕を見る。
僕はその赤い目を見つめ返す。

「似てるって言ってたよね。代りにはならない?」

支えてあげたいと思ったのは事実だった。

253: 有心論 2009/09/28(月) 18:54:45 ID:???
綾波はかなり長い間僕を見つめていた。
しばらくして、彼女は僕にこう言った。

「最初は似ているかと思ってた。
でもやっぱり、あなたは、お父さんと似ていないわ。だから、代わりにはなれない。
私はあの人が好きだった。一緒にいれて嬉しかった。
でも、私も代わりだったの。初恋の人に似てると言われた。
その人に近付こうと頑張ってみたけど、やっぱり代わりにしかなれなかった。
本物になれないって辛いのよ。
私はこれ以上、そんな想いを誰かに味わってほしくない。
碇くんもこれ以上、誰かの代わりを求めるのはやめたら?
本当にあきらめてもいいの?」
「何、言って…」
「妹が好きなんでしょう?
碇くんのことは、あの人と似てるかずっと観察してたから。見てたらわかっちゃったの」

死んだら、もう二度と会えないのよ。
私は大丈夫だから。
心配してくれてありがとう。

そう言って僕の背中を押した。

そう言われても、僕は妹を失いたくないと決めたのに。

254: 有心論 2009/09/28(月) 18:55:56 ID:???
とぼとぼと帰り道を歩く。
ふと前を見ると、カヲルくんが道の傍らに僕を待っていたかのように、立っているのが見えた。
「ひどい顔をしているね。大丈夫かい?」
「うん…、カヲルくんこそ、どうしてここに?」
「君を待っていたんだ、話がしたくてね」
「え?」
「アスカと別れたんだ、だから君に謝りたくて」

アスカとカヲルくんが別れた?僕がずっと願っていたことだけど…。

「な、何で僕に謝るの?」
「君に、辛い想いをさせたから」
「…そんなにわかりやすいかな、僕。綾波にも言われたんだ」
「そうだね、君の心は繊細だからね。それを知ってたのに、傷つけてしまってごめん」
「どうして別れることになったの?」
「ふられたんだ。アスカも、自分の気持に正直にすることにしたらしいよ。
何やら君に許せないことをされたとずっと悩んでいたけれど、父親の死をきっかけに考え直したらしい。
今更だと思うけどね。
傍から見たら君達の想いほどわかりやすいものはなかったのにね」
「え?」

どういう事?

255: 有心論 2009/09/28(月) 18:57:22 ID:???
「僕も君の代わりだったんだよ。まあ、僕も同じようなものだったから、何も言えないかな。
傷のなめあいだったんだよ、お互いにね」
「…アスカは、アスカでしかない。だから代わりにはならないよ」
「そうだね。みんな儚い期待に裏切られて勝手なものだ、僕も含めて」
「アスカもカヲルくんも?」
「アスカはいつも君と僕を比べていたよ。
言葉、性格、髪の色、目、どれを比べても違うのに。
君が誰かにとられる前に、依存をやめたいともがいていたよ。
好きなら好きって言えばいいのにね。
そこに現れたのが僕だったというわけさ。
僕もアスカと君が少しは似てるかと思って期待してたけど、君達は双子なのに全然違うものだね」
そう言うと彼はここにいないアスカと僕を比較するかのように、目を細めた。

「カヲルくんの言ってる意味がよくわかんないよ…」
「要するに、君が幸せになってくれたら僕も嬉しいってことだよ。君達は僕の希望だからね」
「え?」
「僕はね、見てわかるようにアルビノなんだ」
「アルビノ?」
「遺伝子異常の一種だよ。まあ、兄妹から生まれた子供だからね。
そういう疾患も起こり得る可能性は十分あっただろう。
つまり、近親相姦の子供ってことさ。大きい声では言えないけれどね」

僕は近親相姦という単語を聴き、びくりとする。
誰かに言われることを最も恐れていた言葉。

256: 有心論 2009/09/28(月) 18:58:52 ID:???
「それでも僕は幸せだよ。両親はたくさんの愛情をくれたから。
もう死んでしまったけれどね。でもとても仲がよかった二人だったよ。
まあ、今はそう思えるけれど、最近までわからなかった。
だから邪魔してみようかと思った。君の代わりが手に入るなら、と。
でも今ならわかる気がする。
君達を見ていたら、僕も救われる気がしてね。
どうして僕が生まれたのか。
君達に証明してほしくなったんだ。存在理由を」

勝手な言い分だけれどね、と彼は続けた。

「でも、僕は…」
「僕の両親は反対されて駆け落ちしたけれど、君にはもう反対する親もいないし、
誰にも気兼ねがいらないじゃないか?」
「……」
「君のしたいようにすればいい。アスカならまだ学校にいるよ」

カヲルくんの言っている言葉が頭を駆け巡る。
アスカも僕を好きだって?
カヲルくんの両親も兄妹だって?
だからってそれが免罪符になるわけでもない。

257: 有心論 2009/09/28(月) 19:05:50 ID:???
でも。
父さんは死んでしまった。
死んだらもう会えないんだ。
僕は今死んで後悔はしないのか?

死、という言葉と同時に、アスカの映像が頭に流れこんできた。
アスカ。
アスカで頭がいっぱいになる。

避けられている時も、父親が死んだ時も、どんな時でも僕の世界の中心にはアスカがいた。

アスカに伝えたい言葉。
僕は今のままではいつかきっと後悔するだろう。
彼女にひどいことをしてから逃げ続けていた。
きちんと逃げずに自分の行為を謝って、気持ちを伝えなきゃ。

僕にもアスカにも代わりはいないんだから。

「ありがとう、カヲルくん!」


カヲルくんとわかれ、僕は学校に向かう。
最初はゆっくりとした歩みで進んでいたが、だんだん気持ちが急いていき、
最後の方は地面を蹴り、駆けていた。

258: 有心論 2009/09/28(月) 19:06:59 ID:???
昇降口のげた箱にはまだ靴があった。校舎の中にいるはずだ。
僕は学校中を走りながらアスカの姿を探す。
教室。
階段。
廊下。
特別教室。
中庭。
渡り廊下。
校庭。
どこにもいない。
もう息も絶え絶えだ。
どこにいるんだろう。
少し考え、僕はふらふらの足で階段を駆け上がった。

屋上の扉を開ける。


そこには、夕日を背に受けたアスカがいた。

259: 有心論 2009/09/28(月) 19:07:41 ID:???
「アスカ」
僕は彼女の名前を呼ぶ。
アスカが振り返る。

僕は妹を失うことになるかもしれない。
それでも、いいんだ。
そのかわりに得られるかけがえのない存在があるから。

神様、僕はあなたの存在を信じることはありません。
あなたにご加護を願うこともありません。
僕はどうなってもかまわないから。
だからアスカに罰を与えることはしないでください。

「シンジ」
彼女が僕の名前を呼ぶ。
逆光の中でも彼女がほほ笑んでいるのがわかるのは、遺伝子がつながっているからかもしれない。
一歩一歩僕は近づいていく。

光を浴びて金色に光る長い髪に触れた後、アスカを強く強く抱き締めた。



終わり。



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