400: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:15:10 ID:???
今日の日付は2月13日。
惣流=アスカ=ラングレーはちらりと部屋の壁に掛けてある時計を見ると、
時刻は夜の十時少し前を指していた。
アスカは親友の洞木ヒカリが教えてくれた、
日本にある翌日のイベントに必要なある物を作るため
ダイニングに置いてある食卓の椅子から立ち上がった。
今度はリビングでくつろいでいる、家主の葛城ミサトと
同居人の碇シンジを見遣った。
ミサトは手に持っている缶ビールを時折、口に運びながら、テレビ画面に向かい、
絨毯の上で、両足の裏をくっつけ、胡坐に似た体制で座りバラエティー番組を見ている。
シンジもミサトからほんの少し離れた位置に体育座りをして、一緒にテレビを見ていた。
テレビ画面から笑い声がすると、二人も、同時に笑う。
アスカは二人をまるで本当の姉弟のようだと思うと同時に、
内心、仲の良い二人を見て胸がチクリと痛んだ。
(な、何よ、コレ…)
アスカは痛んだ胸に手をやる。
どういうことよ、とアスカは自分の胸を訝しげに見据えた。
別段、あの二人が仲が良かろうが、自分にはなんら支障は無い。
むしろ、二人がくっつけば自分の憧れの人物の加持さんの
最大のライバル、ミサトがいなくなるので好都合だ。
そう思うアスカだったが、二人が付き合う想像をしただけで
胸が締め付けられ更に痛みが倍増した。
(イタタタタ…)
おかしい。もしかして、悪い病気かもしれない。
危ぶむアスカだったが、その時、掛け時計からカチリと音がした。
アスカは再び時計を見ると時刻は十時を指している。
時間がない。せっかく明日必要な物を作っても、寝不足で酷い顔であったならば
目も当てられない。胸の痛みの原因は後でネルフに調べてもらう事とした。
とにかく、アレを作るためアスカはリビングにいる二人に声をかけた。

401: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:16:45 ID:???
「ちょっと、シンジ、ミサト!」

アスカは気付かなかったが声は怒りが少し混じった物となっている。
その声で驚いたシンジは慌てて、振り向き、
ミサトはワンテンポ遅れて、缶ビールの飲み口に口をつけながら振り返った。

「な、何、アスカ?」

シンジが言う。ミサトはテレビよりこっちの方が面白いと言わんばかりに
顔を綻ばせ、観察するようにアスカとシンジを見遣る。

「二人とも、今日は遅いからもう寝なさい」
「え、遅い?」

シンジは掛け時計を見た。もちろん時計は十時の少し過ぎを指している。

「遅いって、まだ十時じゃないか」
「いいから、子供はもう寝る時間よ! 早く寝なさい!」
「子供って…」

シンジが少しムッとした顔をする。

402: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:17:33 ID:???
「ま、ま、ま。たまには早く寝るのもいいもんよ、シンちゃん。
 今日はもう寝ましょうか」

ミサトはアスカの言葉にすぐに何かを察してシンジに対して諭すように言う。

「はぁ…」
「それに今日早く寝たら、明日、いいことがあるかもしれないわよ」

納得できないシンジの顔を見て、ミサトはすかさず言葉を紡ぎ、
笑いを含んだ表情でアスカを見た。

「ち、ちょっと、ミサト、アンタ勘違いしてるようだから言うけど、
 あたしは別にシンジのことなんて───」
「そうだ、シンちゃん。眠くないなら寝付くまでお姉さんが添い寝してあげようか?」

アスカが言いかけると、ミサトはシンジに向かって微笑みながら、話す。
するとシンジは「え、あの!?」と言い、顔を赤く染め、俯く。

「それはダメェ!!」

アスカの大きな声が飛んだ。
シンジはその声に驚き、アスカの方を振り向いた。

「ダメって、なんでダメなのよ、アスカ?」

ミサトは先程から表情を変えずに微笑みながら言う。

「あぅ、それは…その…」

今度はアスカが俯き、目を臥せる。自分の足の指を見ながら拳を軽く握ると、
汗が滲み出してくるのがわかった。

403: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:18:32 ID:???
(なんで汗が出てくるのよ)
今のこの焦り具合をミサトのみならず、シンジにも見られていると思うと、
アスカの手の平からはますます汗が染み出してきた。
ミサトの考えがなまじ分かってしまい、うまく言葉を紡ぐことが出来ない。

「とにかく、ダメだったらダメなのよ! シンジも照れてないで、
 断りなさいよ!」

アスカは顔を上げると、キッと前を見据えて叫ぶ。
とにかくミサトの質問をうやむやにしよう。
そのためには声のボリュームと迫力が大事だとアスカは本能的に知っていた。

「おー、怖」

ミサトはアスカの怒声を聞き、立ち上がると、自分の部屋の襖を開け、
中に入った。

「シンちゃん、これ以上アスカが怒る前にわたしは寝るわね…」

襖に顔が通るぐらいの隙間を開け、ミサトはそう言った。
閉める際、ミサトは「おやすみ、シンちゃん。アスカ無理しちゃ駄目よ」
と付け加えた。パタリと音がして襖が閉まる。
リビングにアスカとシンジが取り残された。
また部屋内に沈黙が流れたが、それは一瞬のことで、
アスカはいつの間にか隣りに立っているシンジを見遣った。

「シンジも寝る!」

アスカが言うとシンジは「アスカは寝ないの?」と訊いた。

404: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:19:30 ID:???
質問するシンジの顔は先程のアスカの言葉で不機嫌になったことをすっかり忘れ、
あっけらかんとしていた。さっきまでのアスカとミサトのやり取りを見て
笑みまで零れている。
それがミサトの計算だと思うとアスカはいたたまれない気持ちになる。

「何よ、そんなこと訊いて、シンジのH」
「Hって、そんな…」

シンジはやや狼狽した。

「いいから、早く寝る。寝る子は育つ!」

アスカはシンジの背中を押し、彼の部屋に移動させるように促す。
シンジは「押さないでよ」と笑いながら言った。
短い廊下を歩くとすぐにシンジの部屋の前に到着した。

「はい、おやすみ」
「うん、おやすみ」

シンジはアスカに背を向けると襖の取手に掌を触れさせた。

「あの、シンジ…」

そこでアスカはシンジに声をかけた。

「え、何、アスカ?」

シンジがアスカの方へ向き直る。

「こんな時間じゃ、やっぱ寝れないでしょ?」
「う、うん。まぁ」

405: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:20:42 ID:???
確かにシンジはまだ眠たくはなかった。
寝むれないという程ではなかったが、これから布団の中に入っても、
寝付けるまで数十分、下手をすれば小一時間かかりそうだ。

「だから、眠くなるように…」

アスカはちらちらとすぐ後ろにある自分の部屋を見ながら話す。
そんな様子のアスカを見ていると先程のミサトの言葉が脳裏をよぎった。
『そうだ、シンちゃん。眠くないなら寝付くまでお姉さんが添い寝してあげようか?』
まさか、アスカが添い寝を? シンジはそんなことを頭の中で考えた。
ゴクリと唾を飲み込む。だが、シンジは軽くかぶりを振り思い直した。

「だ、だめだよ、アスカ! ぼ、僕には早すぎるよ」
「え、まぁ。確かに早いけど、何事も経験だし」
「け、経験って、そんな。僕ら中学生だよ!」
「大丈夫よ、何事も慣れだから…」

アスカはそう言うと、自分の部屋に入っていき、
机の引き出しを開ける音がするとアスカは部屋からすぐに出てきた。

「はい、これ」

アスカは手に持っている本をシンジに手渡す。

「え、これは?」
「大学にいた頃、使ってた参考書よ」

アスカはシンジの手の中で参考書を開くと、
「ほら、ちゃんと日本語で書かれてる、読めるでしょ」と付け加えた。
あ、そういうことか、とアスカと添い寝を想像したシンジは恥ずかしくなり、
誤魔化すため、シンジは本に書かれている文章へと視線を落とした。

406: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:21:29 ID:???
確かに日本語で書かれている。だが、その文字は日本語を冠していたが、
数行読む限り、シンジには内容は全く理解できない、
まさしくチンプンカンプンという言葉が今の彼にはふさわしかった。

「あ、ありがとう。これは眠れそう」

一応、シンジが礼を言うと、アスカはニコリと笑って、「でしょ」と言った。
その笑顔にシンジは胸をドキリとさせ、シンジはその心境を悟られないよう、
慌ててアスカから視線を逸らし、「おやすみ」と言って部屋に戻った。


アスカはシンジが寝静まった頃合をみて、今日の内に買っておいた、
市販のチョコレート、スチール製のハートの形をした型を台所に用意した。
明日はバレンタインデー。アスカは手作りチョコレートを作ろうとしていた。
手作りといっても、チョコを溶かし、型に嵌めるだけの簡単なものだ。
ヒカリならば、凝った物、例えばチョコレートケーキなどを作れるのだろうけど
アスカの技術ではこれが精一杯だった。
刻み、溶かしたチョコが銀色のボウルに入れる。
チョコをハートの型に流し込み、収めるとアスカは冷蔵庫へとしまった。

「はい、おしまい」

後は冷えてから、表面にデコレーションをするだけだ。
アスカは口を開け、手で押さえると小さくあくびをした。
ふとボウルの中に視線を向ける、中には溶けたチョコレートが残っていた。
アスカはボウルの中身を人さし指と中指の二本の指で掬い上げると、
それを舐め取った。甘い、チョコの味が口内に広がる。
まだ残っている。アスカは少しはしたないかな、と思ったが、
誰も見てないことだし、とまた二本の指で掬うと口元へと持って行った。

407: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:22:14 ID:???
「アスカ!」

その時、アスカの背後から声がした。聞き覚えのある少年の声だ。
アスカは振り向く。そこにいたのはもちろんシンジだった。
背後から急に声をかけられたことも然ることながら、
シンジの焦っているというか、驚いている声質に面を食らい
チョコがついた指がそのまま口の近くで宙をさまよう体制となっていた。

「な、なによ、シンジ」
「その指、どうしたんだよ!?」

シンジはツカツカとアスカの方へ近づく。
彼の瞳は何処か虚ろで寝ぼけているように見える。

「血、出てるじゃないか!」

どうやら、シンジは寝起きのぼやけた頭というフィルターを通した結果、
茶黒い色を血と勘違いしたらしく、慌ててアスカの手首を握ると、
チョコの付いた指を自らの口元へと持っていった。

「これは血じゃなくて、チョ───」

アスカが言うが早いか、シンジはアスカの指を口の中に含んだ。

「ん…」

急な事態にアスカは声を漏らすだけで、
シンジの自分の指を舐める行為を
漫然と眺めているだけとなった。
シンジの寝ぼけている中でも真剣な瞳を見ていると、
自然とアスカの頬が赤く染まってきた。

408: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:23:36 ID:???
(これって、もしかして間接キス?)
頭の片隅でそう考えていると、
シンジの舌はアスカの指先に付いたチョコを拭うように舐め、
アスカが怪我をしたと思い込んでいたため、
傷口から血を出すように口をすぼめて吸い上げた。

「ぅん…、んん」

シンジは不思議そうな顔をする。いくら吸っても、
血が持っている独特の鉄の味は一向にしてこない。
それどころか甘い味覚が口に広がってくる。

「あえ? あまひ…」

指を口に含んだままなので、言葉が篭っていたが、
アスカにはなんとか「あれ? 甘い…」と聞き取れた。
(当たり前でしょ、血じゃなくてチョコなんだから)
そう思ったが、アスカはシンジの舌の感触に頭を熱くしてしまい、
喋り方を忘れてしまったのか、
思うだけで言葉に出すことができなかった。

「あ、ほっか…」

アスカの手首はまだ握られたままだったが、
ちゅぱっ、と音を立てながらシンジは一旦、指を口から出す。
(気付くのが遅い!)
心中毒づくアスカだが、
シンジが勘違いとわかり指を離してくれたことに、
アスカはホッと胸を撫で下ろした。
彼女の指先は痺れ、シンジの唾液でじっとりと濡れていた。
しかし、アスカにはそれに対しての不快感はなく、逆に胸が早鐘を打っていた。

409: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:25:39 ID:???
「夢か、コレ…、それなら…」

安心したのも束の間、シンジはそう呟くと再び、
持っていたアスカの手首を口に近づける。
(え? ちょっと! 何するのよ、バカシンジ!)
血が甘いはずがない、これは夢だと勘違いをしたシンジは
そのまま、ちゅっとアスカの指先に軽くキスをした。

「んん…」

アスカは唇が指の先に触れると、シンジの体熱が直接伝わるような気がして、
火のような息と共に甘い声で呻き、それと同時に身体を軽く揺らした。

「あは、アスカ、かわいい」

シンジが普段なら決して言わないことを
満面の笑みを浮かべて小さく呟く。
その言葉と表情でアスカの身体はかぁっと熱くなり、
思わず、俯いてしまう。しかし、耳まで赤くなり、
顔が紅潮しているのを隠すことができなかった。
ドキドキと胸の鼓動は早まり、身体の芯が痺れる感覚。
まさか、指がこんなにも感じるとはアスカは知らなかった。
未知の快感にアスカは驚き、羞恥を覚えるが抵抗できないでいた。
アスカは今、シンジがどのような顔をしているか上目遣いでチラリと伺う。
(あっ)
シンジは口を小さく開けると、アスカの指の第一関節まで口に含み、
人差し指と中指の腹をペロペロとアイスを舐めるように、舌を這わし、
爪の間を先端で探るように小さく左右に数回動かした。

410: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:26:22 ID:???
「あんっ!」

弾力のありそうな唇からアスカは喘ぐ声を出した。
意思とは関係なく口から漏れた声にアスカは驚き、
咄嗟に空いているもう一方の手で自分の口を塞いだが、遅かった。
シンジは呆気に取られた面持ちでアスカを見ていたが、
すぐに表情を変え、微笑んだ。
夢だと思っているので遠慮が無い。
シンジはアスカの細い指を第二間接まで含むと、
指と指の間を舌でつついた。

「ん、ん、んん…」

直接的ではないゆっくりとした快感がアスカに打ち寄せる。
アスカが手の平に意識を集中していると、
不意にシンジの手がアスカの腰に伸び、引き寄せた。

「あぁ…」

いつもの状態ならば、触れられてもたいした感覚は受けないが、
知らない間に昂ぶった自分自身と突然の強引な刺激にアスカは天井を仰ぎ、
その白く柔らかそうな喉をシンジに見せることとなった。
アスカは天井に付けられている、明るく光る蛍光灯を見つめながら、
シンジはいつも夢の中で自分にこんなことをしているのだろうか、と疑問に思い
いつの間にか、酔ったようにほんのりと赤く染まった顔でシンジを見遣った。
ふと、視線がかち合う。
シンジはアスカの膜を張ったように潤んだ瞳と
恥ずかしそうに桜色の頬を見ていると少し意地悪をしたくなった。
シンジはアスカの指を唇で押さえ、手首を握ると
そのままゆっくりとアスカの指を口から引き抜く。

411: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:28:20 ID:???
「ぅ、ぅ、ぁん…」

アスカは解放されていく自分の指を見ながら小さく喘ぐ。
先程からの嬌態を見て、シンジの下半身は敏感に反応し、
ズボンで盛り上がりを作り上げていた。
抱き寄せられているアスカは布越しとはいえ、
初めて感じるその熱い物体に戸惑っていた。
第一関節まで抜かれると、シンジは指を軽く噛んだ。

「きゃうん!」

背中に電流に似た感覚が流れる。
アスカは犬のような声を上げてしまったことに羞恥を感じ、
シンジを睨んだつもりだったが、当のシンジは軽く受け流すように
指を最後まで引き抜き、少しふやけてしまった指にもう一度、
口付けをした後にニコリと微笑んだ。

「指で感じちゃったの?」

夢だと勘違いしているシンジは強気だ。
アスカはその問いに何も言わずにシンジの強い視線から
逃げるように顔を逸らす。
(いつもと立場、逆じゃない)
アスカはそう考えていると、シンジはまたしても、
握っていたアスカの手首を口元に近づけると、
指の腹、爪先、根元に何度もキスをした。
唇が密着させられる度に頭の中が熱く茹る感覚に陥った、
アスカはその襲いかかる執拗な責めに驚き、
慌てて首を数回、縦に振る。

412: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:29:08 ID:???
「やっぱり、指で感じたんだ…」

改めて言葉にされると恥ずかしくなる。
アスカはどうにかしてシンジにこれは夢ではないと
伝えたかったが、うまく思考がまとめられない。
シンジの頬をはたき、もみじの形を作ってあげれば、
すぐに片がつくのだが、最早アスカにはそんなことを
考える余裕はなかった。

「でも、感じてる時のアスカの顔、凄くかわいかった…」
「あうぅ…」

矢を放ったような真っ直ぐなシンジの視線にアスカはよろめいた。
そのまま、後ろへと進み台所の洗い場へ腰を付けた。
(ちょっと、かっこいいじゃない)
普段がなよっとしたシンジとは考えられないぐらい
今のシンジは凛々しかった。
その瞳に見られていると思うと身体が溶けるぐらい熱くなり、
そしてそれに耐えられなくなると視線を横後方へと落としていった。
(あっ!)
視界の端に銀色に光る物体を捉えた。
さっき作りかけのチョコの入ったボウルだ。
これだ、と思ったアスカは身体を捩じらせ、指で掬うと、
シンジの前に突き立てた。シンジはきょとんとした顔でそれを見入る。
アスカはすぅー、と息を深く吸う。

「チョコ。さっきのはチョコよ」

乱れた息を交えながら、なんとかその言葉を言えた。
(これでさっき、あたしの指が甘かったのがチョコだったと気付くはず。
夢じゃないのよ、これはシンジ)

413: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:30:14 ID:???
「うん、ありがとう、アスカ」

しかし、夢だと一度断定したシンジはそんなことでは気付かなかった。
シンジは目の前に出された細くチョコの付いた指を口に咥える。

「あ、あ、んん。ちが…う、シンジ…、そうじゃなくて…」

チョコよりも甘い声でアスカは囁き、左右にかぶり振ると、
長いアスカの紅い髪が乱れる。
シンジもずいっと台所に一歩近づき、ボウルに指を入れ、
チョコを掬い取る。

「甘いよ。アスカも食べる?」

シンジは咥えていた指を抜くと、自分の指をアスカの口元に差し出す。
(甘いのは知ってる。さっき、食べたから)
しかし、異性の、しかも、シンジの指から
それを食すのは抵抗を覚える。
アスカが躊躇っているとシンジはまたアスカの指にキスを始めた。
中指と人差し指の根元の間に唇を付けると、舌先でチロチロと舐める。

「ん、あぁぁあぁぁ…」

アスカはたまらず声を漏らす。
目の前でシンジの指が揺れる。
アスカはゴクリと喉を鳴らし、口を小さく開く。
ピンク色のアスカの舌が口内のくらがりから見えだす。
アスカはゆっくりとシンジの指に近づくと、
爪先だけパクリと口に含んだ。
甘い味覚が広がる。しかし、それだけではなく
シンジの味もしたような気がアスカにはした。

414: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:31:23 ID:???
シンジはよくできましたと言わんばかりに
アスカの髪をそっと撫でる。

「あ…」

身体の芯がとろんと溶け出すように気持ち良くなる。
もっと、舐めたくなりアスカはシンジの指を更に口の中へと入れた。
ちゅぱちゅぱと何やら卑猥な音がアスカとシンジ、二人の耳に絡みつく。

「アスカの口、気持ちいいよ」

シンジはアスカの耳元でそっと呟く。
その言葉でアスカの身体はカッカと灼けるように熱くなる。
(ほんとに?)
シンジにそう言われて喜んでいる自分に
アスカは何がなんだかわからなくなってきた。
なぜこのような事態になったのか、
考えようと思っても、シンジの笑顔を見るとどうでも良くなってくる。
シンジはぐいっと強引にアスカの腰を掴むと自分の身体に抱き寄せた。
シンジと目が合う。その優しそうな瞳に魅入られていると、
思わずぽーっと見惚れてしまう。
シンジはアスカの唇に自らの唇を接近させた。
(あ、キスされる)
アスカはシンジの行動に身を委ねることにした。
目を瞑り、シンジの唇の到着を待つ間、
アスカはシンジとのキスは甘いだろうなぁ、とか、
ファーストキスはチョコ味か、などと考えていた。

「痛っ!!」

その時、シンジの悲痛な叫びがした。

415: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:32:55 ID:???
アスカは目を開ける。シンジは泣きそうな顔をしていた。

「クエェ!!」

何処からか鳴き声がする。アスカは下方へと視線を落とした。
そこにはペンペンがオレにもチョコをくれ~、と言いたそうに、
シンジの脚を黄色の嘴でつついていた。

「痛いよ。ペンペン…」

シンジは脚をさすり、ペンペンに向かい文句を言う。

「ん? 痛い?」

シンジは凛々しい顔からみるみるいつものなよっとした顔へと戻りだす。
ギギギと音がしそうなぐらい、錆付いたブリキ人形のようにゆっくりと
アスカへと目を向ける。

「もしかして、コレ、夢じゃない?」

シンジが恐る恐る訊くと、アスカはただ黙って頷く。

「ア、ア、アスカ、ゴメン! 夢だと思って…」

シンジの頭を下げて謝るさまをアスカは呆けた顔で見ていた。

416: アスカの甘い指 ◆N3KfCzebuQ 05/02/10 07:34:48 ID:???
(な、な、何よそれ~)
徐々に怒りが込み上げてくる。
(終わり? これで終わり?)
散々、火照ったこの身体はどうするのか、
しかし、シンジのこの様子を見るとこれ以上は望めそうにない。

「さいってー!」

あんな辱めを受けさせて、絶対にシンジを許すわけにはいかない。
アスカはそう思った。

「アスカ、あの…」
「この受けた屈辱は倍にして返すわよ、シンジ、覚えてなさい!!」

アスカはそう言うと自分の部屋へと戻っていった。
残されたシンジはアスカの復讐に恐れおののいたが、
次の日、普段どおり接してくるアスカに内心ホッとした。
そして、アスカからハート型のチョコを貰い喜んだが、
一ヵ月後のホワイトデーでアスカに仕返しをされることとなった。
仕返しをされる中、シンジは一ヶ月前の自分を責めることはしなかった。
むしろ、その日寝ぼけていた自分自身を褒め称えた。

おわり





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