826: 対抗意識燃やしつつ① ◆YjsWqh8B4w 05/02/14 03:05:42 ID:???
2016年2月14日(日)23:52
 バカシンジは、朝からソワソワしてた。ほんっと分かりやすいわよねあのバカ。
アタシと目が合うと、ジーッと見つめてきたりして。
「……あ、あのさ、アスカ?」とかどもっちゃったりなんかして。露骨過ぎだってば。
で、アタシが笑い堪えて「なに?」ってそっけなく言ってやったら、
「い、いやなんでも無いんだ。うん」だって。ばーか。
でも、いい加減焦らすのも可愛そうよね。そろそろ、あげよっかな♪
――――――――――――――――――――――――――――――
 アスカは朝から変だった。あれは、また何か変な事企んでるに違いない。
だって、折角の日曜日なのに遊びにも行かないで、家事仕事してる僕を
ずーっとタンスや冷蔵庫や襖の陰から覗いてるんだもんな。すっごいニヤニヤしながら。
視線が気になって「……あ、あのさ、アスカ?」とか話し掛けてみたら、
ますますものすっごく意地悪な顔でニヤニヤして「なぁにぃ?」とか言ってくる。
もう何されるか分かったモンじゃない雰囲気だったので、「なんでもない」って言って逃げた。
そろそろ日付が変わる時間だけどまだニヤニヤしてる。怖い。僕は何されるんだろう?

827: ② ◆YjsWqh8B4w 05/02/14 03:06:55 ID:???
2016年2月14日(日)23:55
「シンジ!」
「(びくッ!)な、なに? アスカ」
「ほれ、これあげるわ。バレンタインでしょ、今日」

アスカが投げて寄越したのは、たった一つのチロルチョコ。

「……え? あ、ありがとう。……チロル1個?」
「バカシンジにはソレで十分よ! ふふん、アンタが今日一日あんまり物欲しそうな目で見るからさ~。特別だからね」
「(……これの事だったのか)うん、ありがとうアスカ」

「たっだいまー。ふー、何とか日付変わる前に間に合った!
 お、アスカにももらえたのね? ……ってチロル1個? ……アスカ、あなたねぇ。
 ほい、シンちゃん! ゴディバのチョコよん! 結構するんだからねコレ。お返しヨロシク~」

やたらハイテンションなミサトに、高級そうな包装の箱を押し付けられるシンジ。
苦笑しながら、一応礼を言う。

「あの……やっぱこれって、お返しは3倍?」
「モチよ。ヱビチュ1ケースで手を打ちましょう! 期待してるわん♪♪」
「……3倍? ナニソレ?」

そこまでミサトとシンジのやり取りを面白く無さそうに眺めていたアスカが、怪訝な顔で尋ねた。

「あらアスカ? 知らないの? 日本では男性は貰ったチョコの3倍相当の贈り物を、
 ホワイトデーにお返ししなければならないと民法に……」
「ありませんよそんな法律! アスカに嘘教えるのやめて下さい」

シンジは苦笑しながらミサトを遮り、アスカの方へ振り向く。

828: ③ ◆YjsWqh8B4w 05/02/14 03:09:39 ID:???
「……でもまあ、そんなような習慣というか、暗黙の了解というか、あるんだよ」
「そんな! 卑怯よ! 今更そんな事言われても! 20円のチロルじゃ、3倍しても60円じゃん!」
「……あー……そう、だねぇ」

いきなり叫び、そして地団駄踏むアスカと、心底疲れたようなシンジ。

「ちょっとシンジそのチロル返しなさい。今からスゴイの買ってくるから!」
「無理よアスカ。もうお店閉まってるわ。コンビニまで行くのも間に合わないわね。日付変わるまであと3分だし」
「え゛~ッ! ちょっと、嘘、マジで?! あーもう! こうなったら!」
「いや、アスカ……、別にそこまで……って、うむぅ!?」

先程もぎ取ったチロルを口に放りこみ、やおらシンジと唇を重ねるアスカ。
唇をずらし、擦り、舌で唇をこじ開け、溶けかかったチョコを口移しで流し込み、
そのままフレンチキスを続ける事3分。居間の時計が、日付の代わりを12回に分けて告げた。

「…ちゅぴ…ぷはぁッ! はぁ……ふう」
「……あ、あす……あすか?」
「……さ、3倍よ!? このアタシの3分キスはNERVの年間予算規模の値打ちモンなんだから! その3倍だからねッ!
 絶対返しなさいよバカシンジ! 何ポケーッとしてんのよ! ってかじろじろ見るな、ばかぁ!」

呆然としたシンジと笑いを必死に堪えるミサトを置き去りに、顔を真っ赤にしてそのまま部屋に逃げ帰るアスカ。

「ミサトさん。NERVの年間予算って、どのくらいなんでしょう?」

真っ赤になって俯いたまま、ポツリと尋ねるシンジ。
ミサトはさも「いいモン見たわぁ~」ってな表情で笑いながら、

「そぉねぇ。純真少年シンちゃんのキス1回分位じゃない? あ、チロル3つ買うのも忘れないようにね?
 さて、おねーさんは、お風呂入ってこよっかな!♪♪」

(注意)なんかキスのシーンがエロくなりました。ごめんなさい。

833: こっそりと・・・ 05/02/14 05:23:52 ID:???
 今日が終わろうかという時間帯。
 歯磨きを終えたシンジが部屋に戻るためにリビングを通ると
「うううぅぅぅ」
 アスカが頭を抱えて唸っていた。
「・・・ばかばかばか」
 しかもブツブツ言っていて、少し怖い。
 
 機嫌が悪いのかもしれない。
 でもなんとなく、アスカが落ち込んでいるような気がして、シンジは声をかけた。

「あの、アスカ?」
「……何よ」

 努めて優しく穏やかに。
 アスカの神経を逆なでしないように極力注意して声をかけたはずなのに、アスカは
まるで親の仇かのようにシンジを睨みつける。
 それはもう、殺さんばかりの勢いで。

「……えっと、その」

 心配だったと言えば怒られそうで、かといって他の話題もなく。
 シンジはあたふたと視線を漂わせる。

(そういえばアレは ――― )

834: こっそりと・・・ 05/02/14 05:25:19 ID:???
 アスカの前の机に置かれた物体。
 それは朝からアスカが大事そうに抱えていた、手のひらサイズの四角い箱。
 綺麗にラッピングされていたはずなのに、今はもう見る影もなく皺くちゃになっていた。

「その箱は?」

 ぴくり。
 アスカの眉が、物凄い角度に跳ね上がる。

(あ、やばい)
 シンジは密かに死を覚悟して、

「……目、閉じて」
 アスカの予想外に穏やかな声に驚きながらも、条件反射で瞼を閉じる。

 暗転した世界の中に響く音。
 びりびり。
 がさごそ。
 何事かと思いながらも決して目は開けない。……後が怖いから。

「……口。開けなさい」
「なんで」
「いいから。とにかく、口開けなさいよ」

 仕方なく口を開けるシンジ。
 そして。

835: こっそりと・・・ 05/02/14 05:28:36 ID:???
 何かを咥えさせられた。
 板みたいなそれは、甘く、口の中で溶けて広がってゆく。
 
「全部食べるまで、見たらダメだからね!」
 全部食べたら見れないじゃないか、なんて思いながらもシンジは律儀に目を
閉じたまま、無言でそれを食べ続けた。

 ぽりぽり。ぽりぽり。ぽりぽり。

 そして食べ終わったところで、そっと目を開く。
 アスカは満面の笑みを浮かべていた。

「チョコだ」
「うん」

 何でアスカはこんな事したんだろうとか、さっきまで機嫌が悪かったはずなのにとか、
 疑問はたくさんあったが何を聞こうか迷っているうちに

「じゃあ、アタシもう寝るから」
 と、アスカは部屋に行ってしまった。
 その足取りはとても軽く、今にもスキップをしそうなくらい。

 シンジには何が何だかよくわからなかったけれど、アスカの機嫌が直った
ことだけはわかったのでほっと一息つく。
 それとあともう一つだけわかった事があった。それは ――― 。

「もう一回歯磨きしなきゃ……」


 ちなみにシンジがそのチョコの意図するところに気づいたのは、翌日の朝、
2月15日の日付をカレンダーで見たときだったりする。




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