436: Handy Tiger Strike! 2009/08/27(木) 00:28:42 ID:???

にゃあ…
「あんたどこの子?」
 帰り道にブロック塀の上から声をかけてきた子猫は、尻尾をピンと立てて
私と見つめ合った。
 手を差し出す。前足をかがめて虎毛の子猫が身軽に腕に飛び乗った。
「ちょ…危ないわよ!」
 慌ててしゃがみこんで左手で子猫を抱きかかえた。目の前をトラックが掠める。
「あんたは世の中の恐さをもっと知るべきね」
 一言にゃあと答え、一通り撫で廻しているうちに左手をすり抜けた虎毛は、
忠告なんてどこ吹く風で、しゃがんだ太腿にやたら体をこすりつけてくる。
「あれ?アスカどうしたのその子猫」
 遊んでいるうちに週番を終えたシンジがどうやら追いついたらしい。
「なついちゃった」
「へぇーえ、可愛いなこいつ」
「なんかすっごい甘えんぼさんだにゃあ」
 バカか私は。
 心の奥底でそう思いつつ、顔はかつてないほど腑抜けていたことだろう。
 子猫は抱き上げた腕をすり抜けると、左肩から頭の上によじ登る。
「ああんもう、人を登るなぁ!」
「あっはは、可愛いよ二人とも。ほらアスカ、写メ撮るからこっち向いてよ」
 そう言いつつ携帯を構えるシンジは、ほぼお父さんだった。
「ねえシンジ、この子飼おうよぉ」
「えぇー、でもペット禁止だしミサトさん何て言うか…」
「ちゃんと面倒見るから、ね?」
「んー、仕方ないなぁ。二人で説得する?」
「するする」
 私の頭の上に居座る虎毛を二人でからかいながら、ペンペンも忘れてもう
すっかり飼うつもりでいた。

437: Handy Tiger Strike! 2009/08/27(木) 00:29:42 ID:???

 その目論見は子猫の母親に破られる。
 母猫の呼びかけに虎毛はすぐに応えて走り去った。
 呆然と見送り、虎毛の去った方向を暫く見詰めた。
「アスカ…」
 シンジが心配そうに差し出す手を掴まえて立ち上がる。
「なんか……」
「うん?」
 言いかけた言葉にシンジが反応する。寂しさは多分二人とも同じだ。
「アンタの子供欲しくなった」
「………………へ?」
 シンジは鳩が豆鉄砲食らったような顔をしていた。半分込めた本気も、今は
はぐらかす冗談に掻き消されてもいい。
 虎毛に去られた寂しさを誤魔化しながら、シンジにかけた呪文を解く。
「冗談よ。ホラ、買い物あるんでしょ?一緒に行こ」

ende



705: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/13(土) 02:45:33 ID:???
 あれから、しばらく経って僕も21歳になった。
あの赤い海から戻ってきたみんなは、今では何事もなかったかのように暮らしてる。
アスカはドイツに帰った。7年間、連絡はとってない。
トウジは関西の大学に行ってる、もちろん委員長も一緒に…
ケンスケは…
ケンスケは1年前に死んだ。
ケンスケは戦場カメラマンになってた。ある時、カメラを取り出そうとしたところを
勘違いされ、撃たれて死んだ。
そのカメラには、血まみれになりながらも笑ってるケンスケが最後に写ってた。
『なに笑っとんねん』とトウジは泣きながら笑った。
僕は、ケンスケの部屋にあったカメラの1つを形見にもらった。
 そして今日、ふと「写真を撮ってみよう」そんな気になった。この街は
サードインパクトが起きる前とほとんど変わらずに復興されてる。けど
前に比べて自然が多くなってる、人工的なものなんだけれど。僕は
とりあえずシャッターをきる。
「こんなんで、いいのかな…」
 1時間ほど経ったとき、あることに僕は違和感を感じた
さっきから、外国の人の後姿が写りこんでいる気がする…
「そんなことないか」
僕はカメラをかまえた……………いる、やっぱり、いる
カメラを左右にふってみたけど、全部に入ってた、しかもサマになってる
「上なら!!」
きれいな青空だけがファインダーごしに見える
「くぅぉの、バカシンジ!!」
ドシッ!!
外人はいなかったけど、背中に蹴りをいれられた。


706: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/13(土) 03:15:43 ID:???
倒れながらも、カメラは死守

…………バカシンジ?こんな呼び方をするのは、僕は一人しか知らない。後ろをふりかえる

そこには、大人になったアスカがいた
「ア、ア、アスカ?」
「あんたは、相変わらずねバカシンジ」
不敵に笑うアスカ
「なんでココに?」
「なによ?ここに来るのにはアンタの許可がいるわけ?」
「そんなこと…ないけど…、もうここには来ないと思ってたから…」
「やり残したことが、あるのよ…」
アスカの顔が赤くなった様な気がした
「あ、あんたこそ、なにしてんのよ!写真なんか撮って」
「ああ、これ?」
そう言って、僕はカメラを見る
「もしかして…」
「そうだよ、ケンスケのなんだ」
「そう…」
アスカもケンスケの事は知ってたみたいだった。
「ねえ」
「なに?」
「連れて行きなさいよ」
「何処へ?」

707: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/13(土) 03:33:20 ID:???
「ほんとバカね」
あきれながら、アスカはカメラを指差す
「お墓参り」

ケンスケのお墓についた時には、もう夕暮れだった
「ケンスケ、アスカがきたよ…」
「ひさしぶりね」
僕は、手を合わせて目を閉じる
「ああ、なるほどね」
パン、パン
アスカは手をたたいて、手を合わせる
「アスカ、神社じゃないんだから」
「うそ、ちがうの?」
「はやくいいなさいよね!」恥ずかしそうに目を閉じる

『ケンスケ(メガネ)、ありがとう。このチャンス必ずいかしてみせるよ(わ)』

僕たちはケンスケに別れをつげ、お墓を後にする



708: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2005/08/13(土) 03:59:14 ID:???
「あ、あのアスカ?」
「な、何よ?」
「まだ、日本にはいるの?」
「なに?帰ってほしいわけ?」
「ち、ちがうよ!……ただ、もしアスカがよければ、今から食事にでもどうかなって…」
「私をデートに誘ってるわけぇ?」
「デ、デートっていうか、あ、あの…」
「いいわ、分かってると思うけど、アンタのおごりよ!」
「うん!」
そのときのアスカの顔はとてもうれしそうだった
 かるいあしどりで僕の前を歩くアスカ、夕日を背にしてこっちにふりかえった
アスカをみて、僕は思わずシャッターをおした
パシャッ

この写真は、5年たった今でも、僕たち二人の家に飾ってある…



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