36: パッチン 2008/08/17(日) 22:25:40 ID:???
2025年
ネルフが超法規的特務機関から、科学研究所となった。
僕碇シンジが24歳になり、ネルフ職員となった。
そして、惣流アスカラングレーが『碇アスカ』…つまり僕の奥様になった。
そんな、ある日のネルフ研究所にて

『電話あい』

「碇く~ん、お電話入りましたよ」
「あっハイ!」
デスク上の書類に目を通していた僕は一旦その作業を中断し、受話器を取る。
その様子を楽しそうに眺めている、電話を教えてくれた先輩の女性研究員さん。
「ふふ、奥さんからですよ♪ごゆっくりね」
「えっ…アスカから、ですか…」
思わずボタンに伸ばした手を止めてしまう
が、さすがに出ないワケにもいかないので、「はぁ…」という溜め息と共に、電話を繋いだ。

「もしもし?」
『あ、シンジ…。今大丈夫よね…?』

受話器の向こうから聞こえるスゴく聞き慣れた声。
「うん、一応大丈夫だけどさ。会社の電話で話すのって恥ずかしいから、出来ればやめてほしい…です」
そう言いながら僕は、上司であり元保護者のミサト課長を見やる。

ほら…ニタニタ笑いながら、両手でハートマークなんか作ってる。

『し、仕方ないでしょ!ネルフって携帯の電波入らないんだからさぁ!』

37: パッチン 2008/08/17(日) 22:27:11 ID:???
「で?用件は何なの?」
ミサトさんからの好奇の視線にグッと耐えながら、僕は受話器を両手で握りしめてコソコソと話す。
『うん。夕飯は何がいいかな?・・・とか思ったりして…』

「は?」

僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。
「ま、まさかそんな理由で電話かけてきたの?」
『え!あ…いや…』
リビングで、子機片手に焦っているアスカが目に浮かぶ。
『それだけじゃないわよバカ!そのぉ…えっと…』
「・・・今日カレーでいいよ。バイバイ」
そう言うと、僕は通話終了のボタンに手をかける。
『ま、待ちなさいよ!切っちゃダメ!
あっ!今日ミライが幼稚園で粘土作ったらしいのよ!』
「その話は夜、ミライ本人から直接聞くからさ。じゃあバイバイ」
僕は再び通話終了ボタンに手をかける。
『ヤダっ!切っちゃダメって言ってるでしょぉ!!』
「もぉ…だって用事無いんだろ」
もう一度僕は、ミサトさんの方をチラリと見る。

すると、先程までコチラを眺めてニタニタしていたミサトさんは、
何故か今はイヤホンを耳にぶら下げて、両手で顔を覆うようにして必死に笑いを堪えていた…。

・・・間違いなく盗聴されている。

38: パッチン 2008/08/17(日) 22:28:42 ID:???
『アンタは今日何かあった?』
「イヤ何かはあるけど、会社の電話で話さなくていいでしょ…」

『・・・ねぇ。・・・そんなにアタシと話すのイヤ?』

そんな弱々しい言葉の後に、ズズッという鼻をすする音が聞こえる…。
「ちょっ、ちょっと泣くことないだろ」
『だって、すんごい鬱陶しそうな感じじゃないのよぉ…
ミライもお昼寝中でヒック…アタシすっごい寂しかっエック…たんだからぁ…』
「ぷくくっ!」
完全に泣き虫モードに突入し、変な泣き癖までついてきたアスカ。
そして、そんな彼女の意外な一面を垣間聞いてしまったミサトさんは、デスク下の足をバタバタさせながら、声を出して笑うのを必死で堪えている。
「わ、わかったよ。わかったから、とりあえず一旦電話切っていい?談話室の公衆電話から、かけ直すから…」
『やっヤダぁ、ダメよダメ!!シンジ絶対電話かけない気でしょ!!
大体なんでソコじゃダメなのよ!談話室だって人多いでしょぉ!』
「だ、だって…」
まさか盗聴されてるなどと言えるワケが無いので、僕はそのまま押し黙ってしまう。

当の盗聴犯は、逆探知してる刑事さんのように、話を伸ばすジェスチャーなんかを僕にして、凄く楽しそうだ。

39: パッチン 2008/08/17(日) 22:30:25 ID:???
『ね、ねぇ…もしかしてアタシからの電話が不都合な理由とかが
・・・あるの?』
「え…」
自分がかけた電話を迷惑そうにあしらう僕に、アスカは少しイラついてきたのか、今度はダークサイドに片足入れたような声で僕に問いかけてきた。

「いや、僕は会社でプライベートの電話はちょっと…と、思って」
『じゃあさっきの女誰よ!!』

うわぁ、かなりキテる…。

「さ、さっきのは先輩の研究員さんだよ」
『なによその女!!いっつもアンタの近くにいるの!?
まさか、さっきまでソイツと乳繰り合ってたんじゃないんでしょうね!!』
その言葉と同時に、メキメキッという破壊的な音が受話器から聞こえた。
ヤバい…このままでは子機がアスカの握力に耐えられない…!
『電話出た時だって「あっ碇君の奥さんですね。今代わりますから、ちょっと待ってて下さい」
とか何とか言っちゃって!どんだけヤラシイ女なのよソイツ!!』
さっきの応対内容のどこにヤラシさが含まれていたのかがよくわからないが、とにかくアスカが暴走モードに入ったことは、ハッキリとわかった。

一方そんな修羅場を盗聴しているミサトさんは、『えらやっちゃ♪えらやっちゃ♪』と呑気に踊っている。

40: パッチン 2008/08/17(日) 22:32:10 ID:???
このままでは通話を終わらせるどころか、僕の人生すら終わらせかねない…。

僕はヒステリック満載の声を発し続ける受話器を耳にあてながら、コソコソと自分のデスク下に入っていく。
これで、課内の人達には僕の声が聞こえないハズ。
・・・まあ盗聴してる人には丸聞こえだけど、この際仕方ない。

「ねぇアスカ…?」
『なによ浮気不倫の馬鹿男!!』
「あ、愛してるよ…世界で一番」
『ぅあ!?』

10年一緒にいるから知ってる、アスカが一番大好きな言葉。

「アスカは僕のこと嫌いになったの?」
『あ、アンタ馬鹿ぁ!?』

・・・なんで僕、職場でこんな会話してるんだろ…

「ねぇ、僕がアスカ以外の人とそんな関係になるようなヤツだと思ったの?アスカは僕のこと信じてないの?」
『だ、だってアタシっ!アンタが…その…』
「心配してくれたんだよね?」
『あ、いやっ!その…

・・・うん』

机の下という世界の外から「キャーキャー背中が痒いわ~んっ♪」などの声が聞こえるが、ここはグッと耐える。

「落ち着いた?」
『うん、あのぉ疑って・・・その・・・』
「ごめんね」
『う、うんっ!アタシも…ごめんね』

41: パッチン 2008/08/17(日) 22:33:47 ID:???
アスカもだいぶ落ち着いたようなので、僕はゆっくりデスクから這い出し、自分の椅子に座った。
さっきから急にデスク下に潜り込んだり、出てきたりと、かなりおかしな行動をとっていた僕だったが、職員の人達(盗聴犯以外)は全く気にした様子が無く、自分の仕事に各自没頭している。

僕そんなに影薄いのかな?

『…ねぇ、ねぇシンジ?』
「ん?なに?」
ちょっと気持ちが凹みかけていた僕だったけど、やっぱりアスカの声を聞くと少し安心してしまう。

きっとこういうのを家族っていうんだろうね。

『なんかありがとね…アタシちょっと馬鹿だったわ』
「ううん、もういいよ。わかってくれたんならさ」
『・・・・・』
スッキリした様子のアスカだったけど、今度は何故か黙り込んでしまう。
ホントにこの人は何を考えてるのかわからない…
『・・・ねぇ、明日休みだよね?』
「ん?まあね」
『そっか…休みなんだよね』
電話のむこう側で、なにか言いたげにモゴモゴしてるアスカ。

でもこちら側はこちら側で変な雰囲気。
だって、課内の職員さんみんなが無言で机に向かっていて、喋ってるのは僕だけという状況なわけで・・・。
さすがにそろそろ終わらせた方がいいかな…?

42: パッチン 2008/08/17(日) 22:35:37 ID:???
「ねぇ、そろそろ…」
『わ、わかってるわよ!今言うから、ちょっと待ちなさいよ!
その…明日休みなのよね?』
「そうだよ。さっきも言ったじゃないか」
「ほほほっ…それもそうね」
「まさか、またどっか行きたいの?この前遊園地行ったばかりなのに」
「そ、そうじゃなくてぇ…。簡単に言うと…」
「・・・なに?」
「久しぶりにさぁ…」
「・・・ん?」
「せ…!・・・その…せせっ…!」

静まり返った課内。
僕の耳に入るのは、いつもよりオドオドしたアスカの声だけだったのだが…
次のアスカの一言によって

「せせせ?」

次の一言によって・・・

「・・・せ、セックスしない?」
「ば、馬鹿…!」

ミサトさんに盗聴されてることに気が焦る僕の声をかき消すように…


「「「「「「うおーーーーー!!!!」」」」」」「「「「「「きゃーーーーー!!!!」」」」」」


・・・課内全体がお祭り騒ぎとなった

43: パッチン 2008/08/17(日) 22:38:21 ID:???
「シンジ君やるじゃないか!!」
「今夜は寝かさないよ?ってか!?おい」
「ふ、不潔よシンジ君!!」

「え…?え!!」
いきなりの課内丸ごと大フィーバーに、僕は目を白黒させながら周りを見渡す。
・・・そして見えたのは、ハシャぎ倒す先輩職員さん達の耳にぶら下がるイヤホン。

ま、まさかっ!?

『ちょっと何よ!後ろの騒ぎは!』
「ご、ごめんアスカ、電話が…その…盗聴されてたみたい…」

まさかの課内全員に・・・

『な゛っ…!?』
あまりのことに絶句するアスカ。受話器の向こうで彼女の顔が赤くなっていく音が聞こえた気がした。
「アスカ~?今晩は可愛がってもらっちゃうのよぉん♪」
僕の背後からニュ~っと顔を出して、ミサトさんが大声を出す。
『み、ミサトまで聞いてたの!?』
「ごめん…」
『バカ!信じらんないわよ!なんでアンタは・・・』
『ママぁ、声おっきいよ』
『み、ミライ!起きてたの!?』
あぁ・・・もう、なにがなんやら・・・
『ねぇセックスってなに?』
『あ、アンタいつから起きてたのよ!!
とりあえずシンジ!アンタ帰って来たら酷いんだから、覚悟しときなさいよね!!』
「ちょっ、ちょっと待っ・・・」

ガチャン!!

44: パッチン 2008/08/17(日) 22:39:32 ID:???
「あぁ・・・」

電話がきれた後も祭りが終わらない課内で、1人死んだような目で受話器を下ろす僕。
「あら~どうしたのよシンちゃん?せっかくアスカからのお誘いがあったのに♪」
「うぅ…」
職場のどこに隠していたのか、何故かえびちゅを片手に装備し、ガハハと笑うミサトさんの声。
その声から逃れるように僕は両手で頭を抱える。

ぷるるるっ

と、その時、僕のデスクの電話が内線ランプを点滅させながら騒ぎ始めた。
「あ…?」
僕は一瞬ためらいながら、再びゆっくりと受話器を手に取った。
聞こえてきたのは、アスカの声とは真逆をいくように低い声。

『シンジか』
「と、父さん!」
『ミライは俺が預かるから、安心して今日は早退しろ』
「は…?」
『次は男の子がいいな。一姫二太郎ともいうしな』
「ま、まさか父さんも盗聴してたのかよ!?」
『問題ない』
「なにがだよぉ!!」

その日、仕事を早退した僕がネルフとアスカのご希望に答える『お仕事』をしたのは、いうまでもないことでした…。

おわり

108: パッチン 2008/12/04(木) 21:11:05 ID:???
夕焼け小焼けで日が暮れて。
アタシは1人、リビングで買い置きのダイエットコーラをグビグビと飲みながら、テレビから流れる夕方番組にありがちな馴れ合いのような会話をぼんやり眺めている。
…と同時に、アタシはチラチラと時計を見やる。

「・・・5時半が過
が過ぎたらコブラツイストに変更ね」

『今日は掃除当番だから先に帰って』
そう言ったアイツに背をむけてからどれくらいたっただろう…。
さっきからイラつくとわかりながらアイツのことを考えてしまう。そのたびイライラがつのるつのる。

そもそも掃除にこんなに時間がかかる?…どっかに寄り道?…寄り道ならぶっ飛ばすわよ?…四の字固めよ?
…それとも事故?…パイロットを狙った誘拐?…んなわけないわよね?…・・・・・…んなわけないわよね?…やっぱり寄り道よ
…5時半が過ぎたらコブラツイストに変更ね

今に至る

「・・・ミサトに連絡しようかな…。アイツどんくさいし…さらわれたら…」

ぷるるるるる
「…っ!!」

波打っていた思考が、再び下降しかけてきた途端に電話がそれをストップした。

『もしもし?○×スーパーですが碇シンジ君の保護者の方はおられま…』
「アタシよ!!」

109: パッチン 2008/12/04(木) 21:12:49 ID:???
「あの…今日は…ごめんねアスカ」
「・・・・・」
スーパーからの帰り道。三歩先を歩くアタシに、なぜシンジが「今日はごめん」と言ったのかを考え、小さく苦笑いを浮かべる。
やっぱりコイツは馬鹿シンジだ。



万引きGメン24時のような番組でしか見たことのないスーパーの事務所にて、営業スマイルとは程遠いしかめっ面をした店長と、世界の終わりのような顔をしたシンジがそこにいた。
「ん?保護者の方が来るときいてたんだけど…君のお姉さんか?」
「あ、アスカ!?」
おそらくミサトが来ると思ってたのだろうシンジは、アタシを見て目を白黒させた。
「見たところ保護者とは言えない年のようだけど…?」
アタシはシンジと店長を無視して、2人の間に置いてある買い物カゴの中身に目をうつす。
カゴからニョキッと飛び出た『赤ワイン』と諸々の商品を見て、だいたいのことを察知できた。
「馬鹿シンジ…」
アタシは小さく呟く。

「おい、いい加減にしないか!この子の保護者じゃないんだろう君は!?」
「うっさいわね!そんな話どうでもいいのよ!」
アタシはポケットから財布を取り出し、中からカードを投げつけた。

「痛っ…あ!このカード…!?」

110: パッチン 2008/12/04(木) 21:14:41 ID:???


「ね、ネルフカードって凄いんだね。あんなに怒ってた店長さんが急にペコペコしだして…」
「・・・・・」
「…アスカ怒ってる?」
うかがうようにアタシの背中に話しかけてくるシンジ。
そろそろかまってやらないと可哀想だし、アタシはクルリと振り返り、ポケた顔したシンジにビシッと人差し指をむける。

「2つ質問するわ!まず、今日が何の日か知ってるわね!」
「う・・・」
真っ赤になって、頭をガクリと下げるシンジ。
「知ってるととるわよ!誰に聞いたの!?」
「み、ミサトさんに…けっこう前にききました」
「質問その2!アンタがスーパーで中学の制服着たままワインを買うなんていう暴挙に出た理由はなに!?」
「・・・言えません」

もう死にそうなほどに顔が真っ赤ねw

「答えろって言ってんのよ!」
「…あ、アスカわかっててきいてるだろ!」
「当たり前でしょ!アンタの口からきいて、改めて笑ってやんのよ!」
「お、鬼!悪魔!僕に恥ずかしい思いさせてそんなに楽しいのかよ!」

目にはうっすら涙。そんなシンジがバカらしくて楽しかった。
手にぶら下げた買い物袋。そこにはシンジの想いが詰まっているような気がして・・・なんだか嬉しかった。

おわり?

111: パッチン 2008/12/04(木) 21:16:26 ID:???
『すれ違い』

アタシはシンジが好きだ。
もう流石に付き合いだして2年も経つし、それぐらいのことは恥じらいなく自覚している。
アタシはコイツのことなら何でも知ってる自信がある。

「ねえアンタってさぁ…もうちょっと気の利いたこと言えないのぉ?」
「え…でも…」
「ったく!たまにはアタシのこと『綺麗だよ』とか『素敵だね』とか言えないもんかしらね!」
「うぅ…」

ほら、こう言われたらいつも顔を真っ赤にして俯いてしまう。

コイツは『大好きな人に綺麗と言ってほしい』女心がわかってない。

アタシがそんなことを考えながらシンジの方を見ると、必ず『ごめんね』の一言と共にキュッと抱きしめてくる。
そうされると、アタシが何も言えなくなるのを知ってるから…。

結局そのままアタシ達は無言のまま固まってしまう。

ホントはシンジの言葉が欲しかったのに、アタシは結局いいように誤魔化されてしまうのだ。

・・・でも、こうしてる時間は嫌いじゃない。
言葉に出来ないシンジが・・・そんな恥ずかしがり屋のシンジが愛しいのかもしれない。

「ねぇ、アンタってズルいわよね…」
「アスカの方がズルいよ…」

112: パッチン 2008/12/04(木) 21:19:11 ID:???
僕はアスカが好きだ。
もう付き合いだして2年目だし、流石の僕だって迷わず言い切れる。
僕はアスカのことなら何でも知ってる自信がある。

「ねえアンタってさぁ…もうちょっと気の利いたこと言えないのぉ?」
「え…でも…」
「ったく!たまにはアタシのこと『綺麗だよ』とか『素敵だね』とか言えないもんかしらね!」
「うぅ…」

ほら、こう言うとすぐにホッペを膨らしてプイッとそっぽを向く。

アスカは『大好きな人に綺麗と言えない』男心がわかってない。

アスカはいつもその後で何かをせがむように僕の顔を真っ赤な顔で睨みつける。
そうされると、僕が彼女を抱きしめなきゃいけないことを知ってるから…。

結局僕はアスカをギュッと抱きしめてしまう。

ホントはアスカがこうしたかったクセに、僕は結局恥ずかしい役を押し付けられるハメになる。

・・・でも、こうしてる時間は嫌いじゃない。
想いを行動に出来ないアスカが・・・そんな恥ずかしがり屋なアスカが愛しいのかもしれない。

「ねぇ、アンタってズルいわよね…」
「アスカの方がズルいよ…」

おわり

113: パッチン 2008/12/04(木) 21:20:48 ID:???
トイレから帰ってきたアタシは、ギョッと目をむいた。
「あすかぁ…誕生日プレゼントありがとぉぉ…」
いつもよりも少しだけ豪勢な料理が振る舞われたテーブルの足元に、本日のパーティーの主役はいた。
「ぼくねぇ~アスカにプレゼントのおかえしあげたいんだぁ…」
今日初めて飲んだアルコールにより、思考回路は完全に空を飛んでいるらしい。
バカの真っ赤な顔の下は、ず~っと足の先まで肌色が続いていて…何故か所々にゴミ捨て用ロープが巻き付いている。
「えへへぇ…」
緩みきった顔をコチラに向けると、右手に持ったロープの端をクイクイ引っ張る。
そして一言
「ひっく…今日で17さいになった僕…たべて♪」



「~と、これが今年のアンタの誕生日だったわよね」
「お、思い出す必要ないだろ!」

『おかえしに』

朝からせっせと12月4日を祝うためのディナーをこしらえているシンジ。
まあ一生懸命作るのはいいんだけど、初っ端から本日の主役をほったらかしというのは、いただけない。
ということでわざわざキッチンにむかい、先程のエピソードを披露してあげた。

相変わらずこの話を出すたびに良いリアクションをくれるシンジには実に満足する。

114: パッチン 2008/12/04(木) 21:22:28 ID:???
「酔うと大胆よねぇウチのシンちゃんは♪」
「な、なんだよ。あの後アスカだって『うぉー!』って襲いかかってきたクセに!」
「あら、アタシはシンちゃんからの大事なプレゼント断るような意地悪したくなかっただけよ。
ところで今年もビールは用意してるの?ん?」
「無いよ!!」

ぷぅっと頬を膨らませたシンジはアタシに背を向けると、調理に逃げてしまった。
ふん、耳まで真っ赤にして…かぁいいヤツめ。

「ところでアンタしっかりプレゼント用意してんでしょーね」
「まあ一応…」
「ふーん。・・・あ」
「どしたの?」
「ちょっと…部屋で待ってるわ。プレゼント楽しみにしてるからね」


「ったく!動くとすぐ解けるのが面倒くさいわね!」
部屋に戻ったアタシは、着ていたパジャマを脱ぎ捨てて、体中に巻いていた真っ赤なリボンをスルスル調節する。
「・・・ホントちゃんとしたプレゼント用意しなさいよね…。おかえしにこんな良いモノあげるんだから」

私がプレゼント♪みたいなのがあんなに興奮するなんて知らなかったもん…。

絶対に酔いから生まれた事故なんかで終わらせない…。

来年も再来年も誕生日の度に行う恒例イベントにしてやるんだから…。

おわり

115: パッチン 2008/12/04(木) 21:24:17 ID:???
2025年。10年ぶりに現れた使徒にネルフは不安と混乱に包まれていた。
葛城ミサトはこの状況を打破するため、現在は夫婦である碇シンジと碇アスカを召集することを決めた。

『世界の未来のために…』

ぷるるるる・・・がちゃ
「もしもしシンジくん!?それともアスカ!?」
『・・・・・』
「もしもし!?」

『・・・パパ、ママぁ…』

「はぁ!?」

『…ミライ、はいもしもし碇です。だよ?』
『…ほら、頑張りなさいミライ』
受話器の片隅からひそひそと元世界を守るチルドレン2人の話声がきこえる…。

「ちょ、ちょっと2人とも隣にいるの!?代わりなさい!!」
『はぁい、もしもしいかりです…』

『や、やったわシンジ!きいた?』
『う、うん!ミライ偉いよ』
たどたどしい応対の後に、きゃっきゃとハシャぐ2人の声…。

「いやいや、そんな場合じゃないのよ!!み、ミライちゃん?パパかママに代わってくれるかしら!?」
『パパぁ、代わってって…』

『…だめだよミライ、まずは相手の人のお名前をきかなきゃ』
『…どちら様ですか?って、きかなきゃダメよ?変な人だったら大変だからね』

世界を守る仕事真っ最中の人間も『変な人』呼ばわりである。

116: パッチン 2008/12/04(木) 21:25:45 ID:???
『あの、どちらさまで…』
「葛城ミサトよ!!葛城ミサト!!早く後ろにいる2人に代わってくれる!?」

『…す、すごいやミライ!初めてのお電話なのに、完璧じゃないか』
『…うんうんっ、やっぱりこの子はアタシの子よね。天才だわ』

ドカーーーーーン!!!!

ミサトの背後から爆発音が響き、同時に発令所全体が慌ただしい動きに変わる。

「み、ミライちゃんお願い!!早くパパとママに代わって!!」
『パパママぁ~、かつらぎみさとさんからだよ?』

『…あ、ミサトさんからだって』
『…ちょっと待ってシンジ、せっかくだから呼びにいくとこまで練習させない?』
『…あ、うん!それがいいよ。どうせミサトさんからの電話だし焦ることないもんね』

バカ親2人のとんでもない会話に唖然とするミサト…。

『…じゃあミライ、パパとママはキッチンで待ってるから、一旦保留ボタンを押してから、呼びにくるのよ?』
『…頑張ってねミライ!』
『うん!ミライがんばるね!』

「ちょ、ちょっと待ってミライちゃん!!」

『えっと…えっと…しょうしょうおまちください♪』
『『うん、ミライGJ!!』』

ぴろりろりろ…♪
「う…うがあああ!!」

おわり

117: パッチン 2008/12/04(木) 21:28:20 ID:???
ある日の葛城家…午後7時

「アスカ、夕飯出来たよ」
「ん~?今日なにぃ?」
リビングのソファーで寝んゴロリするアスカと、エプロン姿におたま片手のシンジ。
「えっと…唐揚げとサラダとお味噌汁」
「はぁ~…いつものメニューね相変わらず」
「むっ!」
「たまには手の込んだディナー作れないのかしらねぇ~。テレビタレントは羨ましいわ、高級料理なんかをパクパク食べたりできて」
アスカの視線の先では牛肉のIT革命が起こっていた。
「あっ!あのソース美味しいのよぉ、ドイツのレストランで食べたことあんの。赤ワインベースでねぇ♪」
「ご飯冷めるよ!」
「はいはい」
ヒョイとソファーから立ち上がり、ダイニングへと移動する。

「・・・アスカはそんな料理が食べたいの?」
「ん?そりゃたまにはね。アンタ作ってくれるの?」
「・・・・・」
「はは~ん、さては愛しのアスカちゃんがその料理恋しさにドイツに帰っちゃうかもぉぉ…とか心配しちゃったのね?」
「な゛っ!だ、誰がそんなこと!」
「くっくっくっ、可愛いとこあんじゃない」
「勝手に決め付けるなよ!」
「ほら、ご飯冷めるから食べるわよ」

そんな他愛もない会話が続いた。12月2日
…あの日の2日前の出来事でした。

おわり





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