<管理人注>

このssは貞本エヴァからの最終話分岐LASです。

元スレでは、同じ作者のSSがバラバラになっていたので再構成しています。

あとかなりの量があるので分割して出していきたいと思います。

編集に時間がかかりますので、もしかしたら後の話の掲載が遅くなるかもしれませんが
了解頂けると幸いです。





250: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 02:15:30.30 ID:???
試験会場到着、8:20。試験開始40分前。ここまでは予定通り。
雪は雨に変わろうとしていた。
1000人は入るんじゃないかという大きな講堂が僕の戦場、決戦の地。
単身敵地に乗り込む気分で勢い込んで鞄を開ける。
最後の駆け込みとばかりに参考書を出す。
最初は英語。僕にとっての大きな山場だ。

最初の小さな奇跡はその直後に起こった。
左手前方のドアから勢いよく飛びこんできた女の子が1人。
僕はその瞬間、その子に目が釘付けになる。
あの子だ。駅で僕が助けた女の子。やっぱりあの子も受験生だったんだ。
彼女は黒板の前で受験票と座席表を睨めっこした後、まっすぐこっちに向かってきた。
さっきよりも明らかに緊張した面持ちで、なんと通路を挟んで僕の斜め前に座る。
こんなのってあるんだろうか。運命?
これから大事な大事な試験前だというのに、妙にドキドキしてしまう。
焦りか緊張からか、バサバサと派手な音を立てて
筆記用具やら参考書やらを鞄から取り出す彼女。
その拍子に机の上に置いた受験票がふっ、と通路に舞う。
通路は雪や雨で湿っている。濡らしちゃ可哀想だな、とか思う前に
反射的に僕はその受験票をキャッチしていた。
受験番号2501、名前、惣流・アスカ・ラングレー。
瞬間的に目に焼き付いたその名前に、僕の心はなんとなく懐かしい響きを感じ取る。
なんでだろう?さっきも初めて会った気がしなかった。

251: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 02:16:39.66 ID:???
>>250
「あ、ありがとうござ…」彼女がこちらを振り向いて、そのまま表情が固まる。
「…なんであんたがそこにいるのよ?さては、あたしのことつけてきて…」
「違うよ、僕もここ受けるんだよ」僕は慌ててそう言う。
「ふーん…そうなんだ…で、いつまであたしの受験票握りしめてるわけ?」
「あ…、ごめん」反射的に出た言葉に彼女は反応する。
「謝ることないじゃない。またお礼を言わなきゃね。ありがとう」
受験票を手渡してそれでおしまい、と思った瞬間、彼女の手が僕の受験票に伸びてきて。
あっ、と思ったら彼女は僕の受験票を手にとっていた。
「へー、あんた、碇シンジっていうんだ…ま、せいぜい頑張んなさい」
この女、随分高飛車だよな…ちょっと可愛いからって、と少しむっとしたんだけれど、
「碇…シン…ジ…?どこかで聞いたことがある気がするわね…」
その独り言を僕は聞き逃さない。
やっぱり、僕と彼女はどこかで会っているのかもしれない。
あるいはそれが前世の邂逅であったとしても。そんな気がした。
試験開始、15分前。

252: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 02:19:01.62 ID:???
>>251
彼女はドイツ語受験だった。
そう言えばこの学校は、外国語は英語の他に、中国語、ドイツ語、
フランス語での受験が可能で、実際僕がいた席から通路を挟んで向こう側は、
英語以外の受験者の席だったようだ。
ざっと見たところ、中国語受験者が10人、ドイツ語が彼女を入れて3人、
フランス語が5人。人数的に、やる意味があるのかと思えるほど少ない。
まあ、これがいわゆる「グローバル化を目指す」っていうことなんだろう。
肝心の試験は…可もなく不可もなく、といったところ。
自信があるわけじゃないけれど、かといって絶望するような出来でもない。
つまり、合否はこれからの4科目で決まる。
次は数学だ。インターバルは30分。

最後の追い込みを、と参考書を開いてみたが、何か気になる。
何か、って具体的に言えば、彼女だ。斜め前に座る彼女の姿を目で追っている自分がいる。
くそっ、この大事な時に、と自分の弱さを叱咤しようとして、気がついた。
彼女も参考書を開いてはいるけれど、あれは…どうみても国語のものだ。
次は数学の筈で、国語は午後イチの筈なのに…。

彼女、惣流さんは、イライラした様子で何かブツブツ呟きながら、
参考書に書き込んでは消しゴムでそれを消し、また何か書いては消し、というのを繰り返していた。
そのうち消しゴムがこっちに飛んでくるんじゃないかと思ったその瞬間に、
本当に消しゴムが飛んできた。これも小さな奇跡かもしれない。

253: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 02:22:59.96 ID:???
>>252
「…また厄介になったわね、悪かったわ」明らかに焦りと緊張が入り交じった表情で、
彼女は僕から消しゴムを受け取った。
「あの…次は数学だよ。国語じゃない筈…なんだ…けど…」と僕。なんでびびってんだw
「はん?知ってるわよそんなこと!」「ご、ごめん」
「だからすぐに謝るなっちゅーの、イライラすんじゃない」「…ご、ごめん」
呆れた表情で僕を見下ろす彼女。何かを言おうとして、はーっと息を吐き、
「国語、苦手なのよ…」と呟く。
「…そうなの?」
「だってあたし、去年までドイツにいたのよ。そりゃ家の中では日本語も使っていたけど、
試験とはまた違うじゃない。特に古文!なんなのよこれ、こんなの生きていてこれから先に役に立つの?
これで飯が食えるの?なんとか物語とかかんとか物語とか、わけわかんないわよ!」
半ば八つ当たり気味に感情をぶつけられた僕だけど、不思議と嫌な感じはしなかった。
どうしてだろう?
「…確かにそうかもね。でも昔の人達の生活というか、
心の持ちようを知るっていうのも、大切なんじゃないかな…」と僕は言う。
若干、好きな分野にケチを付けられたのにムッとしたというのもあるけれど。
「何よそれ、あんたが何言ってるのかわけわかんないわよ」と惣流氏。
「例えばさ、伊勢物語っていうのがあって、これは在原業平って人の物語だって
言われてるんだけど…」「アリワラノナリヒラ?」「そう、在原業平」
僕は数学の参考書の空いたスペースに漢字で在原業平と書き付ける。
数学と何千年前の歌人のミスマッチ。

254: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 02:23:53.42 ID:???
>>253
「この在原業平とされる人が、ある日恋に落ちる。相手は身分の高い、
それこそ将来帝の妃となることを約束されたような、高貴な女性と。
2人は燃えるような恋に落ち、駆け落ちをするんだ」
「へー、ロミオとジュリエットみたいじゃん」
「2人は隠れ家を見つけて、そこで束の間の幸せを味わうのだけど、
それはみつかってしまう。ある日男が帰ってくると、女はいない。
連れ戻されてるわけ。それに嘆き悲しんでいるうちに一年が経ち、
男はその隠れ家から見える月を見て、こう歌を詠む。
月やあらぬ 春や昔の 春ならぬ 我が身ひとつは 元の身にして
一年経って、月や春はもう昔の春じゃないけれど、僕はあの時から時間が止まったままだ、
っていう歌だと思うんだけど、そういう悲しい美しい物語が、
昔の日本にはたくさんあったんだよ…」
「1年も引きずってる男もどうかと思うけど…でもなかなかロマンチックじゃない、
そういうことが書いてあるんだ。」感心したように彼女は言う。
「え、ま、まあね…違ってるかも知れないけど…」と僕。
「教師って、そういうのをもっと分かりやすく教えなさいよね…、
何よあの助動詞だとかいうのとかさ、そんなものばかりクドクドクドクドやりやがって…」
「ちょっとすいません、静かにしてくれませんか?」
僕達のやり取りは前にいたお下げ髪の女の子の苦情によって断ち切られる。
「あ、すいません…」
僕と彼女のこの言葉が完全にハモっていたことを、僕は覚えていない。
だって、今日最大の奇跡は、この後に起こったんだから。

261: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 22:51:38.20 ID:???
>>254
その奇跡は、国語の試験の時に起きた。
現代文の大問を2つ終えてページをめくった時にそこにあったのは、
僕がさっき言っていた伊勢物語の1章。
それを見た瞬間、思わず「えっ」と声が漏れる。
少しの間を置いて、前後左右の席からも「えっ」とか「あら」とか「おっ」
とかいう声が漏れる。聞いてたのかな、このへんの人達w
惣流さんはどうだろう?と思って、試験官の隙を見て斜め前に目をやる。
まだそこまで行っていないのか、彼女の背中は動くことはない。
僕が半分くらいの時間で試験を終えて、見直しをしようかと言う頃、
唐突に「嘘っ!」という声が響く。彼女の声だ。周りが驚いて一斉に彼女を見る。
試験官もいぶかしげに彼女を窺う。その視線に気づいた彼女は「…すいません」と
そばに来ていた試験官に謝り、再び問題用紙に目を落とす。
その背中に動揺とか焦りとかは窺えない。僕が安心して自分の答案用紙に目を移そうと
した時に、彼女の左手の親指がぐっと上がっていることに気がついた。
GJ!とか言ってるんだろうか。思わず僕は微笑んでしまった。

国語の試験が終わり、答案用紙が回収された後、
僕は前後左右の人達からお礼を言われることになる。
前の席の女の子からは「ごめんなさい、さっきはあんな事言って…」と言われ、
後ろの席のジャージ姿の兄ちゃんからは「ほんま助かったわぁ、
これで受かってたらあんさんのこと、センセと呼ばせてもらうで!」とか言われ。

肝心の惣流さんは「ダンケ。別にこれがなくてもあたしの合格は動かないだろうけど…
でも礼だけは言っとくわ」と。さっきからこの感じ、妙に懐かしい。なんでだろう?

262: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 22:52:50.81 ID:???
>>261
社会と理科も滞りなく終わり、僕はとりあえず全力は尽くしたという充実感と
達成感を胸に、学校を後にした。
校門を出て、駅に向かって歩き出すと、後ろからトントン、と肩を叩かれる。
振り向くとそこには人差し指。頬に突き刺さる。
「まさか、こんなのに引っかかるなんて、あんた、バカ?」
そこにいたのは、惣流さん。
「な、なんだよ、いきなり人の肩叩いておいて」と言いながらも顔が赤くなっているのが分かる僕。
「嘘よ、さっきはありがとう。ちゃんとお礼言わなくちゃって思ってね…」と惣流さん。
「ははは、いいよ別にそんなの。でもあれは驚いたよね…」と僕。
「本当よ、あたし大声出しちゃったもの。あんたがあの時あんなこと話してなければ、
あたしは『在原業平』なんて漢字書けなかったし、歌の意味だって分かんなくて、
鉛筆ルーレットに賭ける羽目になってたわよ」2人で笑う。
この空気感がなんか心地よい。このままずっと続けばいいのに、とふと思う。
「えっと…惣流さん、だっけ」僕は言う。
「受かってるといいね…」「もちろんよ、当たり前じゃない。あたしにとって、ここはただの滑り止めよ」
即答されてしまい、僕の言葉の続きは喉から先に出ることなく、暗闇に還っていく。

263: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 22:53:51.20 ID:???
>>262

「でも…今は滑り止めって感じでも、ないかもね」ぼそっと呟く声。
「え…」僕は思わず立ち止まる。
「いや、なんでもないわ。ほら、行くわよシンジ」
いきなり名前を呼ばれて僕は更にびっくりする。
「あれ?あたし今なんて言った?」2歩ばかり先に進んで急停車する惣流さん。
「シンジ、って言ったよ」と僕。なんで顔真っ赤なんだ///
「あんた、なんで顔真っ赤にしてんのよ」という彼女の顔も真っ赤だ。

結局、無言のまま、歩行再開。時間は無情にも断固として歩みを止めない。
「…シンジ…妙にしっくり来るのよね…、
ひょっとして私たち、前世で出会っていたりしたのかもしれないわね」
駅に着く直前、彼女はそう言った。
「え?」僕が思っていたことと同じことを言われて、ドギマギする。
この受験という日に、僕はひょっとしたらもっともっと大きくて大切なものに出逢ったのかもしれない。

階段を上り、10分待ってようやく到着する急行に乗るその時に「…そうかもね」と呟く僕。
びっくりしたように僕を見る彼女。
その思いが伝わったのか、お互いに電車の中では一言も話せず仕舞いで終わってしまった。

264: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/06/30(日) 23:01:25.72 ID:???
>>263

「あたしのこと、アスカで良いわよ」電車を降りて、別れ際の言葉に、僕は反応できない。
「受かってるといいね、一緒に」さっき言えなかった続きを、僕は言うのが精一杯。
「きっと受かってるわよ、あたしの予感は当たるんだから」そう言って手を振るアスカ。
「じゃあね、シンジ。また合格発表の日に会いましょ」
「そうだね、惣流さん」「惣流さんじゃない、アスカでいいって言ったじゃない!」「…ごめん」
「…まったく、もう、でもそれってシンジらしいわよ」

軽やかな笑い声と共に、別の路線に乗り換えていくアスカの後ろ姿に、僕は声を掛ける。
「ありがとう、アスカ」
聞こえないはずだと思ったのに、アスカは振り返った。
「一緒に通えたらいいわね、バカシンジ」
なんでバカ呼ばわりされなきゃいけないのか、良く分からなかったけど、
なんだか心が温まるような気がした。

370: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
合格発表当日。
10時開門だというのに、僕は9時過ぎにはそこにいて、
校門の横で寒さに震えながらその時を待っていた。
天気は、晴れ。3月なのに放射冷却が猛烈に効いていて、凄まじく寒い。
こんなこと言ったら北海道とか東北の人には怒られるのかもしれないけど、
でも寒いものは寒い。マフラーを耳まですっぽりと隠れるように巻き、
寒さ凌ぎにその場で足踏みをする。同じような仲間が既に十数人いて、
どこかの国のマスゲームよろしく、同じように足踏みをしている。

駅前の喫茶店で時間を潰しても良かったんだけど、
でもそうすると入れ違いになりそうな気がして、迷った末に僕はここに来ることを選んだ。
あれは、果たして約束と言えるものだったのだろうか。
「また合格発表の日に会いましょ」
その一言が、この2週間、ずっと頭の中を回っていた。
うん、そうだ。
僕はどうしようもなく、彼女に惹かれている。
一緒にいる時のあのほっとした心持ちは、今まで僕が味わったことがないものだった。
きっとどこかで会っている、その気持ちはあの時からますます強くなっている。
運命とかそういう言葉では言い表せない、特別な縁(えにし)がある気がして。
それを確かめたくて。
だから僕は、約束とも言えないあの言葉を頼りに、ここにいる。
合格発表と入学手続きは今日から3日間。つまり、今日ではないかもしれない。
でも、きっと彼女は、アスカは今日ここに来る。なんとなくだけど、そういう確信めいたものがあった。
そういう気持ちになったのも、初めて。

371: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>370
「おはよう、シンジ」
俯いていた僕に投げかけられた声。待ち望んでいたはずの声なのに、その声の主の方を見るのが、なんとなく気恥ずかしい。
「あ…お、おはよう惣r…じゃない、アスカ…さん」
「ダメ、『さん』も要らない、やり直し」ニカッと笑うアスカ。
「お、おはよう…アスカ…」顔が真っ赤なのが分かる。さっきまで物凄く寒かったのに、
今は猛烈に暑い。
「何赤くなってんのよ、バカシンジ。おはよう、寒いわね」
アスカは僕の方に一歩近づき、そして言う。
「ひょっとして、あたしのこと、待っててくれたの?」
「あ、いや…その…うん…」待ってたよ、2週間前、駅のホームで別れた時から、ずっと。
心の中の声が、アスカに聞こえることはない。はず。
「ちっ、先を越されたかぁ…」「え?」「いや、なんでもない、ほら、開門するわよ、行きましょ」
ちょっとした思索の海に潜っていると、その上を越えていく言葉を捕まえられない。
その時のアスカの呟きを確かめる間もなく、僕達は校内へ突き進む。
いつの間にか、すごい人並み。朝のラッシュ時のようだ。
玄関前の掲示板は、既にごった返している。両腕を突き上げる人、その場で立ち尽くす人、悲喜こもごもなシーンがそこに展開されていた。ほんとに、ドラマのワンシーンみたいだ…。

372: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>371

「…すいません」そう言いながら、僕達は人波の中を進む。
ようやく辿り着く掲示板。そしてその時になって初めて、僕はアスカの手を繋いでいたことを知る。
「…あ///」
何か言われるかと思ったけれど、アスカは意外にもそのことについては何も言わず、ただ、
「ほら、見つけなきゃ」と僕の背中を押した。
さっきまで繋いでいたその手で。
お互いに無言になって自分の番号を探す。
「…あった!」
僕もアスカも殆ど同時に自分の番号がそこにあるのを見つける。
「やった!」「あたしもよ!」
両手を高く突き上げ、その勢いでそのまま僕に抱きついてくるアスカ。
瞬間、シャンプーのいい匂いと、カシミヤのコート越しに僅かに感じられる胸の感触。
喜びも束の間、突然の出来事に僕の頭の中は真っ白になる。
ガッツポーズをする筈だった両手の間に飛びこんできた僕の想い人。
どうしたらいい?どうしよう?握りしめた拳をそのまま、おそるおそる彼女の背中に回す。
「…!」声にもならない声を上げて、アスカが飛び下がる。その拍子に後ろの男子にぶつかって睨まれる。「あ、す、すいません」そう言いながら彼女の目は鋭く僕を射貫く。
「ご、ごめん…」「あんた、ドサクサに紛れて今あたしを抱きしめようとしたでしょ、んなの100万年早いわよ!」「…ごめん」
いや、抱きついてきたのはアスカだろ…。僕の声はアスカの次の言葉によって喉元で止まってしまう。
「ははっ、まあいいわ、合格記念の特別大サービスってことにしといてあげるから」
彼女はウインクする。
ああ、ダメだ。どうしようもなく、彼女に引き込まれていく。
気づくと目の前に右手。「ほら、お互い合格したことだし、健闘を称え合いましょ」「…うん」
改めて、がっちりと握手。ようこそ、高校生活。ようこそ、新しい人生。

…そうか、彼女は僕にとって、新しい希望なのかもしれない。
僕が見つけた、と言うのは違うかもしれないけど、その時僕はそんなことを思った。

373: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>372
入学手続きの書類を取りに、事務所に向かう。
「…ところで、アスカはここを滑り止めって言ってたけど、本命はどうだったの?」
軽い気持ちで訊いてしまって、彼女の表情を見て後悔する。
「…あんたに答える義理はないわ」「…ごめん」なんでか分からないけど、反射的に謝ってしまう。
そのまま気まずい雰囲気が流れる。そのまま事務窓口に行き、書類を受け取る。
「まあいいわ、シンジ、合格祝いにお茶でもしていきましょ。
あんたのおかげで合格できたのかもしれないし、コーヒーくらいなら奢るわよ」
書類を受け取った後、アスカが言う。その瞬間、また心拍数が跳ね上がる。

「…ごめん、まだこの後予定があるんだ…」「へー、レディの誘いを断るほどの予定があるんだ…へー。」
ジロリ、と睨まれる。ヤバイ、また機嫌悪くなってきた;;;;
「い、いや、この後入寮希望者の説明会があるんだよ。僕、寮に入るつもりだからさ、ちょっと…聞いていきたいんだ…。」
ほんとはアスカの誘いは凄く嬉しかったし、出来ればそうしたかった。
でも、入寮希望者はこの説明会に出て、申込書やら何やらを貰わなくてはならない。

「ふーん…なんかそれ、面白そうね」「え?」「私も行くわ、それ」
「え?」「入寮希望者しか聞いちゃいけない、ってわけじゃないでしょ?」
「ま、まあ、多分…」「だったらいいじゃない、ほら、行くわよバカシンジ」

説明会は寮内の食堂でおこなわれる。事務室で地図をもらってそちらに向かう。
アスカは自宅から通うらしい。
「ママがうるさいのよ。ほんとは早く自立したいんだけどね…」そう語るアスカに
「家が近いのはいいよね…」と返しながらも、何か残念な気持ちを抑えられない僕。
「近くなんかないわよ、片道で1時間半もかかるのよ、おまけにあのラッシュじゃない、たまんないわよ…」
誰かさんみたいに助けてくれる人もいないし…、そう聞こえた気がしたけれど、気のせいかもしれない。

374: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>373
寮は学校から10分ほど歩いた場所にある。林の中にある瀟洒な3階建ての建物で、
有名な建築家がデザインしたとパンフレットに書いてあった。
寮は男子寮と女子寮に分かれていて、お互いの棟は食堂を通じて繋がっている。
明城学院はスポーツでも有名で、全国から生徒が集まることもあって、寮はかなり混雑しているものだと僕は思っていた。


「…あれ?これだけ?」男子が10数名、女子に至っては3、4人しかいない。
後で知ったことだけど、スポーツ推薦組は別に部ごとに寮があって、僕の入る普通科の入寮希望者は毎年こんなものらしい。
でもその時の僕にはかなり意外な少なさだった。

375: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>375
「お、センセやないか!ここに居るっちゅーことは、受かったってことやな!」
受験の日に後ろの席に座っていたジャージの彼だ。
「あれ…君は、受験の日のおのぼりさん?」駅で出会ったメガネの彼もいる。
新たな生活を踏み出すに当たって、少しでも知っている人がいる、というのは心強い。
彼らとは良い友達になれそうだ、そんな予感がする。
その2人が僕を見た後に、アスカを見る。
僕から数センチしか離れておらず、見た目密着しているかのような彼女を。
「…で、早速ですか、センセもやりおるなぁ」「…なんか、いや~んな感じ」2人が後ずさる。
「ち、違っ」顔を真っ赤にして同時に口を動かす僕とアスカ。見事なシンクロ。
「なんや、お似合いやないか」苦笑しながらジャージの彼は続ける。
「ワイは鈴原トウジ。トウジでええで。」隣のメガネの彼「俺は相田ケンスケ。よろしくな」「僕は碇シンジ。よろしく。」
「…で、碇シンジ君、このお連れさんは?」鈴原君と相田君は、なぜかアイコンタクトをして、同時に聞いてきた。
「惣流・アスカ・ラングレーさん。受験日当日に知り合って…」「ちょっと、バカシンジ、なんであんたが紹介してんのよ!」
頭をはたかれる。物凄い衝撃とズバン!という音が響き渡る。あまりに大きい音で、叩いた本人がびっくりしている。
全員がこちらを向く。
「な、なんだよ!叩くこと無いじゃないか!」「う…うっさいわね、あんたが余計なことするからよ!」
「早速夫婦喧嘩かいな…」「違うわ(よ)!」こちらも見事なシンクロ。
それに気づいてお互いがまた顔を真っ赤にして俯く。
そんな時に扉が開いて、案内の人が入ってきた。

376: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>376
「寮長の冬月だ。ここの責任者だ。これからちょっとした説明をしてから、寮内の見学をしてもらう。
質問は随時受け付ける。よろしく。」
背筋をしゃんと伸ばして、その冬月と名乗った人が説明を始めた。

寮費は月20,000円。門限は22時、消灯は23時。
朝食と夕食は食堂で取ることができるが、盆と年末年始は食堂は休み。というか、寮自体も基本的には閉館。
食堂には生徒用の簡単なキッチンもあるので、自炊も可能。大浴場と洗濯機は男女各棟の1階。
当然のことながら、責任者に無断で異性の寮棟には入ることは出来ない。
個室や共用スペースは整理整頓を心がけるよう、等々。
入寮案内に載っている個室の写真や食事の写真などを眺める。いかにもバランスが取れた感じの朝食と、豪勢な夕食。
個室は6畳ほどのスペースで、ベッドと机だけが置いてあるシンプルなもの。
トイレとシャワールームも付いている。
ふと横を見ると、アスカが熱心にその案内パンフレットを見ている。まるで本当に入寮希望者のようだ。
僕の視線に気づくと、アスカは僕の耳元に口を寄せて囁く。
「このハンバーグ、美味しそう♪」そこかよw
「あとさ、このベッド小さくない?2人で寝るのはちょっとキツイわね…」と、アスカ。
「どーして2人で寝る必要があるのさ、個室なんだから1人で寝ればいいだけじゃないの?」と僕。
「…バカなだけじゃなくて、ガキか。」と、アスカは溜め息。意味の分からぬ僕。「ま、冗談よ、冗談」
「何か質問かね?」冬月と名乗った責任者の声が鋭く響く。僕達に向かって言っている。
「え、…いや、特にはないです…すいません」消え入りそうな声で答える僕。
「まあ、仲が良いのはいいことだが…申し訳ないが寮内での男女同衾は厳禁でね。
発覚した場合は即時退寮となることを予め伝えておこう。いいかね?」
にやりとした冬月寮長の表情。クスクスと笑う声があちらこちらから聞こえる。
耳まで赤くなった僕と、むっとした表情のアスカ。

377: 265 2013/07/15(月) NY:AN:NY.AN ID:???
>>376
一通りの説明を終えてから、男女に分かれて居室に案内される。
「えー、つまんない」とアスカは多少ふて腐れながら、女子寮へと案内されて行った。
あの子、自宅から通うって言ってたのに、そこまで見てどうするんだろう?

寮は意外と広くて、1フロアにテレビがある共用スペースと居室が20ばかり。
居室はパンフレットで見たよりも奥行きがあって、必要にして十分。
ここで新しい生活が始まるんだと思うとワクワクしてくる。これもひとつの希望の形。
でも、僕が思う希望のひとつがここにはいないことを僕は知っている。それが残念。
いや、残念という言葉では言い表せない、心の痛みが残る。
それを望むのは贅沢なのは分かりきっているけど。
でも、もし彼女がここにいてくれたら、僕の生活はもっともっと楽しくなったと思う。
そんな気がする。
そんなことを考えていたので、案内役の人が何を言っていたのか、よく覚えていない。
というか、その人の名前も忘れてしまった。青…なんとかさんだった…筈w

説明と案内は1時間ほどで終わり、僕達はまたそれぞれ帰途につく。
ケンスケやトウジは電車の時間があるから、とそそくさと帰っていき、また僕達は2人きりになる。
「…あの、お昼ご飯、一緒にどうかな?」思い切って、僕はアスカを誘ってみる。
「…ん、ごめん急用が出来ちゃった」アスカは僕の方を見もせずにそう言うと後は無言のまま。
駅から電車の中でも、無言のまま。何か考え事をしているみたいで、話しかけられない。
ターミナル駅に着き、また別れの時間がやってくる。
「ま、また会えるかな?」と僕は言う。それを言うのが精一杯。
「んー、そうね、そうかもね。」上の空、という感じだけど、アスカはようやく僕の方を向いてくれる。
「…出来れば、一緒に通いたいな…」僕の呟きに、彼女はピクっと反応する。
でも、言葉はない。
彼女の人生の選択に口を出す権利は僕にはないけれど、でも出来れば、明城学院に来て欲しい。
そう願って、僕とアスカは手を振って別れる。これが最後にはなりませんように。
僕が背を向けて階段を下りていくところを、アスカがじっと見送っていたことを、僕は知らずにいた。

382: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>377

この気持ちは、なんだろう?何かイライラするような、嫌いなものを食べさせられたような不快な濁りが、口の中に広がっている。
「碇…シンジ、か…」
初めて会ったその時。確かあいつは「前にも会ったことない?」というようなことを言ってきた。
知らない。全然覚えていない。そもそも日本に来てからまだ間もない。
なのに「碇シンジ」という名前には既視感がある。どこかで聞いた覚えがある。
試験では、助けてもらった。ぶっちゃけ、明城学院はあたしには少々ランクが高すぎる。
中学の担任は、まだ1年と少ししか顔を合わせていないくせに、
あたしの何もかもを知っているかのような顔で、「おまえにはこの学校がいいだろう」とか言って、
地元の中堅ランクの高校を勧めてきた。ふざけんな。
あたしは家を出たいんだ。ママには感謝しているけど、あたしの居場所は最早あそこにはない。
親の敷いたレールに乗っていくだけの人生なんて、もうまっぴらだ。
少なくとも15年、あたしはそのレールに乗せられて、目も耳も塞がれて運ばれてきた。もう十分だ。
そういう思いでこの学校を選択した。寮に入るつもりだったけど、ママは反対した。
だけどあたしは、どうしてもこの学校に通いたかった。1人で生きていくためのステップとして、
この学校はあたしにはどうしても必要なんだと信じていた。
入ってしまえば、なんとかなる。そう思ってた。だからママと散々ケンカした。
最終的には、家から通うということで、お互いが妥協した。合格すれば、という条件は勿論つくけれど。

383: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>382
だから、今までの人生の中で、1番勉強した。睡眠時間はいつの間にか1日4時間を切った。
腱鞘炎になって、ペンも持てなくなるくらいに指が震えるようになった。
それでも勉強した。反発心とちっぽけなプライドが、あたしをここまで連れてきてくれた。
そのせいかどうか分からないけれど、受験当日、助けの手がいくつか伸びてきた。
ひとつめ、駅で降りられずに困っていたところを助けてもらった。
ふたつめ、受験票を落として水浸しにするところを、寸前のところで拾ってもらった。
みっつめ、超絶苦手な古文のポイントを教えてもらい、まさにそこが試験に出た。


全て、彼、碇シンジと呼ばれる子のおかげ。
ギリギリのところで、奇跡が起きて、多分彼がいたから合格できたんだと思う。
特にみっつめなんて、あたしが消しゴムを吹っ飛ばしたおかげ。
結果論だけど、腱鞘炎になるのも悪くない。
素直にお礼が言いたかったのに、いつものクセで、ついひねくれてしまう。
滑り止めとか余計なことを言って、すぐに墓穴を掘る。可愛くないあたし。

384: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>383
その日の夜は、眠れなかった。1日の色んなシーンが思い浮かんでは消え、また思い浮かんでは消え。
そのほぼ全てのシーンに、あいつはいた。助けてくれた手。字を書く時の指先。
怯えた子犬のような目で、あたしを見つめる表情。

すべて、どこかで覚えがある。肌触りとして、どこかに残っている。

そう思いながらも、いつしかあたしは眠っていたらしい。
夢を見た。
いつもの夢。顔のない、白い巨人たちに襲われる夢。
そこでは、腕を喰いちぎられ、全身を膾のように切られる痛みが、明確なものとしてあたしを襲う。
時々やってくる、苦痛の時間。待って、もうすぐ助けがやってくるから。王子様が助けに来てくれるから。
そこに助けに現れる男の子。彼が助けてくれるから、この悪夢も耐えられる。
彼は自分の背丈ほどもある剣を振り回し、その白い巨人たちを切り裂いていく。
倒しても倒しても復活する巨人。それでもあたしを守るために立ち向かう彼。まさにあたしの王子様。

「約束したんだ、アスカを、助けるって」
ふと、その子が振り返る。
あたしは、息を呑む。
そこにいたのは、碇シンジ。


目が覚める。汗びっしょりだ。

385: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>384
合格発表までの2週間、目を閉じれば、あいつの顔が浮かんで来た。眠れば、例の夢。起きていても、脳裏には憂いを湛えた目であたしを見つめるあの顔。この気持ちは一体、なんなんだろう?
合格かどうかは、自己採点してみて、だいたい分かった。国語の試験で過去最高点を取っていたのが決め手。
実際はまだ分からないけど、多分大丈夫。そう思った時、やっと自分の人生が始まる気がして、少しほっとした。
同時に、あいつは受かっているのかな?という気持ちが沸き上がってきた。
どうしてだか、あいつのことがとても気になる。


だから、その謎を解きたくて、あたしは合格発表の当日、朝イチで学校に向かった。
あいつがどこに住んでいるのか知らないけど、開門時間に行けばなんとかなるだろう、そう思った。
なんとなくだけど、その時間に行けば、あいつに会える、そんな気がしていた。
でもあいつ、シンジはあたしが着いた時にはもうそこに居て、何時間も並んでいたかのように凍えて震えていた。
先を越された、そんな気持ちもあったけど、その表情を見た瞬間に、あたしは気がついた。
稲妻に打たれたような、というと大袈裟かもしれないけど、でもその位に衝撃的に、圧倒的に、気がついた。
あたしは、シンジの隣にいると、安心する。ほっとする。リラックスできる。
それは今まで肩肘張って生きてきたあたしにとって、初めての「居場所」と思える場所だった。
あたしの居場所はどこにもない、そう思っていたからこそ、あたしは新しい世界を見つけるために、この学校を選んだ。
それが、思いもかけぬ形で、いきなり、あたしはその場所を見つけた。
碇シンジ。会うのはあの時が初めての筈だけど、でも多分、きっとどこかであたしとあいつは繋がっている。
そう思った。それが何を意味しているのか、まだよく分からなかったけど、でもこの濁ったようなイライラしたような不快感は、それでいて何か暖かいものを持っていた。
だからもうちょっとこいつのことを知りたくて、だから勇気を出してお茶に誘ってみた。
振られたけど。

386: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>385
寮の説明に一緒にくっついていって、更にその気持ちは強くなった。
元々寮に行きたかった、っていうのもあったけど、こいつの側にもっと居たい、その気持ちに気づいた瞬間に、
ママとの約束、自宅から通うという約束は、頭の中から消し飛んだ。
やはり、なんとしてもここに来よう。例え親から絶縁されようとも、ここに来よう。
シンジはお昼ご飯に誘ってくれたけれど、あたしはその時、ママをなんと言って説得するか、そればかりを考えていた。
長年研究者なんていう理屈を捏ね回している仕事をしている相手に、中学生のあたしが理屈で勝てる筈がない。
思い切って全部話してみよう。その上で、ダメならダメで荷物まとめるまでさ。

娘が一世一代の決意と覚悟を持って寮に住みたいと言ってきたことを、ママは割とすんなりと理解してくれた。
それはとても意外なことだった。ママは私を手元から離すのを物凄く嫌がっていた。
自分の思う通りに、あたしを研究者の道に進ませたがっていた。
だからあたしは一瞬拍子抜けしたくらい。
でも、ママはあたしの話を聞いた後、物凄い一言をあたしにぶつけてきた。
「あなたは、シンジ君に恋をしたのね」
え?今なんて言ったの?恋?このあたしが?
「そうよ、それは恋と呼ぶべきものよ」
誰にも頼らず1人で生きていこうと心に決めていたこのあたしが、恋?あんな奴に?
「自分でも気がついていたんじゃないの?」

出会い頭にクルマに衝突したかのような衝撃で、あたしは抱えていたこのわけの分からない気持ちが、恋だということを知った。

387: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>386
4月1日。今日から入学式までの1週間の間に、入寮希望者は寮に入らなければならない。
荷物は全てまとめた。大きいものは宅配業者に頼んだし、僕が今日持って行くべきものは、
今日明日分の着替え(荷物が届かなかった時のために)と、小さい頃からやっていたチェロ、このくらいのものだ。

寮に到着すると、荷物は既に来ていて、僕の部屋に運び込まれていた。衣類と本を段ボールから出しながら、僕はふと窓の外を眺める。
男性寮は北側、女性寮は南側にあって、つまり男性寮の居室の部屋の窓からは、女性寮の廊下の窓が見える。
僕の部屋は201で、つまりは2階の端。そこから見える景色は、女子寮の建物の他は、森と空しかない。
今は桜が満開で、澄み渡った青空に桜の薄いピンク色が風にそよいでキラキラと輝いている。
荷物の整理を小休止して、僕はベランダに出てみる。その風を浴びてみたくなったからだ。
風が心地よい。まだちょっとひんやりするけど、春の薫りを連れてきてくれる風を、
僕は目を閉じて全身で受け止める。味わう。

388: 265 2013/07/16(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>387
誰かが呼んでる気がする。「…シンジ…ちょっと、気づきなさいよ、バカシンジ!」
目を開くと、50mくらい離れた女子寮の2階廊下の窓を開けて、そこにアスカが腰掛けている。
「ア、アスカ???」
「バカシンジ!やっと気づいたか!」風を受けてアスカの髪が揺れる。
「あ、危ないよ!」僕は叫ぶ。「大丈夫、落ちても下は芝生だし、それにもし落ちたら責任取ってもらうから~♪」
「そういう問題じゃないだろ!」怒ったような、でも僕は自分が笑っているのを止めることが出来ない。
なんでこんなに嬉しいんだろう?
「来てやったわよ~。あんたが寂しがると可哀想だと思ってね!」
「なんだよ、家から通うんじゃなかったの?」
「ママに頼んだら、OKしてくれたのよ。それに、ここのハンバーグ、美味しそうだったしw」
「なんだよそれwww」僕の笑顔を見るヒマもなく、向こうの廊下から「何やってんの、降りなさい!」
という声が聞こえ、慌てたように窓縁から向こう側に飛び降りるアスカ。窓を閉めながら手を振るアスカ。
手を振って笑顔で応える僕。
ちょっと大袈裟だけど、偶然や必然を超えたところにある「運命」というものを、このとき僕は感じていた。
こんなに笑ったことなんて、なかったかもしれない。







448: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
世の中はお盆休みである。
ここ、明城学院普通科の寮も例に漏れず、お盆休み。
全員が帰省し、寮はひっそりと静まりかえっている。
いや、例外が1人。食堂に掃除機をかけている男がいる。1年A 組、碇シンジ。
本来ならば寮生は全員帰省になる筈なのだが、シンジの希望で彼は誰もいない寮に居残っている。
規則上はNGなのだが、そこは品行方正公明正大、誠実が服を着て歩いている碇シンジ君、
寮長を始めとして、先生一同から食堂のおばちゃんまで、みんなを味方につけ、
「彼なら大丈夫」と思わせた結果、彼はめでたく留守居役となった次第。
元々シンジに「実家」と呼べるような家はなく、1人で居ることに何の不都合もない彼は、
夏休みの宿題などとうに終わらせ、今は誰もいない寮内を掃除してまわっている。
お盆休みの初日であった昨日は、自分の部屋とフロアの共有スペースを奇麗にし、
今日は食堂と厨房を掃除している。
別に誰かに言われたからではない、自分から進んでやるところに、彼の性格が表れている。

「…と、これで掃除機は完了、と。あとは椅子とテーブルを拭いて終わりかな…」

掃除機を片付け、ダスターでテーブルを拭きながら、ふとシンジは手を止める。
そこは、いつもアスカが座っている場所。向かいは自分の指定席だ。

「…アスカも帰っちゃったな…」そう呟くシンジの眼差しは、心なしか寂しそうだ。
脳裏には、一昨日の夕方、駅で見送ったアスカの後ろ姿が焼き付いている。
一学期の間、ほとんど常にアスカと一緒にいたシンジは、何かぽっかりと自分の左隣に穴が空いた気がして、
その喪失感を埋めきれずにいた。

449: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>448
「何ぼーっとしてんのよ、バカシンジ」
ふいに背中から声が掛けられる。2日間聞くことが出来なかった声は、その2日という時間が
ほとんど未来永劫のものと思えるほどに長いものだったと気づかせるに
十分過ぎるほどの響きを持って、シンジを包み込んだ。

「え?ア、アスカ?」
「何よ、鳩が豆鉄砲を食ったような顔しちゃって」人をバカにしたような表情でシンジを見るアスカ。
「い、いや、だって帰ったんじゃなかったの?」その表情がたまらなく懐かしいシンジ。
「ん、ママがさ、研究室に行ったっきり帰って来ないからさ、シンジが寂しくて泣いてるんじゃないかって、
様子見に来てやったのよ」
本当はアスカも寂しかったのだ。シンジはそれを感じ取る。アスカもシンジがそれを感じたのが分かる。
「べ、別に寂しくは…ちょっとは寂しかったかな…//」
「寂しさを紛らわせる為に掃除?偉いわねぇ…」
ははは、と苦笑するシンジ。
「というわけで、プール行くわよシンジ」ビシッ
「ちょ、そんな至近距離で指差すなよ…って、プール???」
「いいじゃないの、外は夏よ、クソ暑いのよ、青白い顔して掃除なんてしてる場合じゃないのよ、
男なら黙ってプールくらい誘いなさいよ!」

450: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>449


ということで、どっちが誘ったのか訳が分からなくなりながらも、
シンジはアスカと近くの遊園地のプールに向かう。
アスカの母は、お盆は研究室に入り浸りなのだという。
「ほら、お盆ってみんな帰省しちゃうじゃない?そうすると普段使えない研究機材が使いたい放題なんだって。
だからうちのママ、お盆と正月は研究所に行ったっきり、ほとんど帰ってこないのよ…」
「そうなんだ…それじゃあアスカも1人っきりだったんだね…、寮に居れば良かったのに」
ほんの少し、シンジの本音が出る。
「まあ、規則だしね…でもあんたくらいなもんよ、好きこのんで居残るなんてさ」
本当は残りたかった。でもシンジとは違って、傲岸不遜唯我独尊、
我が儘が服を着て歩いている惣流・アスカ・ラングレーさんには、許可が出るはずもなく…
結果、泣く泣く帰省する羽目になったのだが…そんなことシンジには言えないアスカ。
「(この日のために)水着買ったし、使わなきゃ損じゃん」
()内はアスカの心の声。恥ずかしくて言えないアスカの乙女心。
「え、水着買ったの?…まさか、この日のために?」
素でアスカの心に直球をずどんと投げ込むシンジ。
「バ…バ、ババ、バカ、そ、そんなわけないでしょう、買ったからには使わないと、ってだけよ」
さすがにこの答えを聞いて、それを素直に信じるほどシンジはお人好しではない。
「…そっか…ありがとう」
「な、何がありがとうなのよ///」

451: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>450
お盆休みの遊園地のプール。物凄い混雑を覚悟していたシンジだが、着いてみると混雑はしているものの、
立錐の余地無し、というほどのものではなく、一安心。
水着に着替え、アスカを待つ。

「お待たせ、シンジ」
現れたアスカは…

「…////」何も言えないシンジ君。
「…どう?似合ってる?」シンプルな白のビキニの上下と羽織っている赤い花柄のボレロが、
白い肌と金髪碧眼によく似合っている。
「か、可愛いよアスカ////」やっとのことで答えるシンジ。
「…ありがとう、シンジにそう言ってもらえると嬉しい…////」
水着売り場で4時間半悩んだ末に買ったものだとは言えないアスカ。でも、その苦労が報われた瞬間だ。

452: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>451
「さて…まずはどこに…」シンジの言葉は今日も途中で消えていく。
「シンジ、あたし、あれやりたい!」アスカがシンジの言葉を先回り。
アスカが指を差した先にあるのは、ウォータースライダー。まあ、鉄板ですなw
「えっ、あれ…に?」絶叫系が苦手なシンジは若干尻込み。
「そうよ、行きましょ。今なら20分待ちくらいらしいわ」
それに気づかないのか気づいていない振りをしているのか、
アスカはシンジの手を取り猛然と乗り場に向かって突き進んだ。

「…いざ、自分の分が回ってくると…少し怖いわね…」アスカがぼそっと言う。
高い。そして目の前にはトンネルの如き青く暗い入口が。係員のお姉さんが「お次の方ドゾー」と呼んでいる。
「ほら、行くわよシンジ」気づけばさっきから手を繋ぎっぱなしな2人。
2人用のゴムボートのような乗り物に、前にアスカ、後ろにシンジ。
「ちょっと、変なところ触るんじゃないわよ」と後ろを振り返ったアスカだが、シンジの真っ青な顔を見て、噴き出す。
「アハハハハハ、何びびってんの?大丈夫よ、しっかりそのへん掴まってなさい」
本当はアスカも少し怖かった筈なのに、シンジの顔を見たら不思議とその怖さは消えてしまった。
スタートするとあとは一瞬で。
加速がどんどんついていき、カーブを曲がる度に身体が遠心力で弾き飛ばされそうになる。
「うわあああああああああああ」気づけば大声が出ていた。
次の瞬間、2人は水の中。ドドドドド、という滝のような音だけがシンジの頭の中に響いている。
「大丈夫?」よろよろしながら立ち上がろうとするシンジを覗き込むように上から見下ろすアスカ。
「…びっくりしたぁ…すごかったね…」
「楽しかったわね、次はあそこ行きましょ」
アスカが次に向かおうとしたところは、波のプール。
しかし、ここでちょっとした事件?が起きた。

456: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>452

波のプールに向かうまでにシンジは何か変な視線を感じた。
いや、アスカのような美少女と一緒に歩いていると、アスカに視線を向けられることはしょっちゅうで、
それは幾ばくかの優越感と、居心地の悪さを提供してくれる。
それには慣れてきたけれど…、今日、今感じている視線はそれともちょっと違う。
アスカは気づいていないみたいだけど、この違和感のようなものはなんだろう…?

波のプールに入って、シンジは気がついた。周りの、特に男達が、アスカに注ぐ視線。その視線の先を辿って、
そこに何があったのか。

457: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>456
「アスカ!」
数メートル先のアスカの手を取り、シンジは言った。
「出よう、アスカ」
「え?え?何?どうして?」
アスカの驚いた表情と声に答えず、シンジはアスカの手を引いて、有無を言わさず歩き出す。
「ちょ、ちょっと、どうしたっていうのよ!今来たばかりじゃないの!」
怒り出すアスカ。それにも答えず真っ直ぐに更衣室に向かうシンジ。
「何よ、ちょっと待ちなさいよ!」「…」「待ちなさいよ!」「…」「手、離してよ」
「手ぇ離せ!」
更衣室の前まで来て、無理矢理手を引きはがすアスカ。立ち止まってアスカを向くシンジ。
「どういうつもりよ、折角楽しくなってきたっていうのに…」
アスカの怒声の中、シンジはバスタオルをアスカにそっとかける、というか巻く。腰に。
「…」「え?聞こえない」
シンジはアスカを抱きしめるように近づくと、耳元でそっと囁く。
「…透けてるよ」
一瞬、なんのことか分からず、きょとんとしたアスカだったが、次の瞬間、自分の水着を見て、
ヘソの下、足の付け根のあたり、そこに影が浮き出ているのを見つける。
風が舞う。少しの間があって、喧噪の中、ささやかながらも悲鳴が上がる。
「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアア」

458: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>457
「…ごめん」「…」
帰りの電車の中。アスカは無言で俯いたまま、一言も喋らない。
「もっと早く僕が気づいていれば良かったんだよね…ごめん」
「でも大勢の人がいる前であんなこと言ったら、アスカ傷つくかな…とも思って…ごめん」
黙ってかぶりを振るアスカ。
結局駅に着くまで、アスカは一言も喋らず仕舞い。
駅に着くとアスカは黙ってトイレに向かう。見送ることしかできないシンジ。
「…はぁ…頑張って選んだのに…なんでこうなるの…」
ショックだった。白い水着というところでもっと用心しなくてはいけなかったのかもしれない。
いや、そうではない。正直、シンジになら見られても良かった。いずれはそうなるんだろうな、と思ってもいるし。
ただ、他の誰とも知らない奴等に見られたであろうことが、それがなによりもショックだった。
そして、このショックは誰にも癒すことは出来ない。泣き出したい気持ちを抑えるのに必死で、
シンジを困らせてしまったのもアスカにとっては辛いことだった。
出来れば1人になりたい、そう思ってトイレに入った。シンジのことだから、
1人で先に帰ることはあり得ない。何分でも何時間でも自分のことを待っている筈。
せめて、少しだけでも気持ちを落ち着けないと…。

459: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>458
20分ほどして、トイレからようやく出てきたアスカを出迎えたシンジが、黙ってアスカに差し出したモノ。
黙ってシンジを見るアスカ。
「アイス。食べる?」シンジがはにかんだような表情で言う。
コンビニのビニール袋の中に入っていたのは、スイカバー。
「…なんでシンジがあたしの好きなアイス知ってるの?」
「え…いや、なんとなくだけど、アスカならこれかな?って…」
その瞬間、何かがふっと落ちていく気がした。
なんだ、目の前にいるこいつは、あたしが思っているより何倍も何十倍もあたしのこと、分かってるんだ、
アスカは、そう思えた。いや、確信した。だから、笑った。
「アハハハ、ありがとシンジ。なんか救われたわwww」
今度はシンジがきょとんとする。
「いや、終わり良ければ全て良し、ってことよ」
その笑顔に、よく分からないまま、シンジも笑顔になる。
「良かったぁ…。怒ってるのかと思ってすっごい不安だったんだ…」
「なんであたしが怒らなきゃいけないのよ。むしろお礼を言わなきゃじゃない?」
「いや…だってさ、気づくの遅れたし…その…み、見えちゃったし…」
瞬間、顔が真っ赤になる。それを誤魔化すために、思い切りシンジの背中をひっぱたく。
「痛っ!痛いよ…いきなり叩くなよ…」
「ごめんごめん、変なこと思い出させるんだもん」
「…うっ…ごめん」
「だからぁ、謝らなくていいんだってば。…あ、でもこのアイス、だいぶ溶けてるわよ」

460: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>460



「ふぅ…だいぶ奇麗になったかな…」
デッキブラシで大浴場を掃除していたシンジは、ふと腕時計を見る。まだ午後3時だ。
「ほんとなら、まだプールで遊んでいたんだよな…」
アスカとは仲直り出来たけど、それがちょっと残念でもある。
予定よりかなり早く寮に戻ってきてしまったシンジは、
とりあえず明日やろうとしていた風呂場の掃除にとりかかっていた。

ガラッ「シンジ、手伝うわよ」

現れたアスカを見て、シンジは驚く。

「ア、アスカ、その格好…」
「ん?だってお風呂掃除でしょ。水着でもいいじゃない。」
「え、だってその水着、透けちゃ…」
「いいのよ、他に誰もいないし、ここはそんなに明るくないし、それに…シンジになら見られても…///」
なんて言っていいのか分からなくなっているシンジに、更にアスカが追い討ちをかける。
「シンジも水着に着替えてきなさいよ。掃除終わったら、そのまま水張れば、これ、
ちょっとしたプールよプール。」

461: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>460
「…で、さっきの続きなわけだね」
「そう。我ながらナイスアイディアだと思うわ」
水を張った大浴場は、泳ぐことは出来ないまでも、
身体を伸ばしてのんびり浮かんでいるくらいには十分な広さがあった。
「さっきの混雑を考えたら、このくらいの広さでも十分よ」
足を伸ばして少しバタ足気味に水を叩くアスカ。
「…まあ、確かにそうかもね。でも、バレたら大変だよ。」
「大丈夫よ、だって寮は今週いっぱいは閉館中でしょ。誰が来るっていうのよ?」
「…うーん…昨日は食堂のおばちゃんが夕方様子を見にきたけど…」
「そんなの風呂入ってる振りすればいいじゃない。実際ここはお風呂なんだし。」
「アスカの声が聞こえたらマズイだろ」
「じゃあ黙ってる」
「…それも寂しいな」

462: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/08/13(火) NY:AN:NY.AN ID:???
>>461
ふいに、仰向けに浮かんでいるシンジの背後から、手を回して抱きつくアスカ。
「まだちゃんとお礼、言ってなかったわね…。ありがとう、シンジ。」耳元で囁く。
え、とシンジが振り返る。その拍子に、唇と唇がふっ、と触れ合う。
「!!!」
お互い驚きの表情を見せるが、でも2人は離れない。やがて、ゆっくりと2人は向き直り、
そのまま今度はゆっくりと、しっとりとキスをする。
それは2人にとって、お互いに初めてのキス。

「…大好きだよ、アスカ」
「…うん、知ってる////」

抱き合う2人。午後の日が傾いていく中、いつまでも抱き合う2人。

「ねぇ、あたしもこのまま寮にいていいかな?」
「そうしてくれると、僕も嬉しいよ。」
「ありがと。とりあえず…お腹が空いたわ。なんか作って。」
「…アスカ」
「何?」
「なんていうか…、それアスカらしいけどさ、雰囲気ぶち壊しだよw」
「ぷー」


541: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:38:44.53 ID:???
間もなく夏休みも終わろうとしていたある8月の夜。
脳が溶解しそうなほど暑い日々も過ぎ去ろうとしている。
シンジは読書をする手を休めて、ふと窓の外を見る。
カーテンが少しだけ開いているのは、窓の向こう、ほんの数十メートル先に居るはずの、
彼の想い人の様子が気になるから。
夜になっても時々、アスカは廊下の窓を開けて、シンジに何かしらのサインを送ってくる。
それは翌日の弁当のリクエストだったり、冷房が効かない苦情であったり、日々様々。
メールすれば済む話なのだが、そういうとアスカは決まってこう言って、シンジを睨み付けた。
「なによあんた、私の姿を見るよりもただの文章の方がいいってぇの?」
その割には、シンジの携帯メールのアスカフォルダは
毎日3ケタに届かんばかりのペースで件数が増えているのだけれど。

542: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:39:48.08 ID:???
>>541
「あ、雨だ」
窓ガラスにつく水滴を見て、シンジは呟く。
ポツ、ポツと降り始めた雨は、あっという間に迫力を増し、土砂降りとなった。
「うわー…スゴイ雨…。」
しばし呆然と窓を叩き壊さんばかりに打ち付ける雨を眺めるシンジ。
瞬間、建物のシルエットが浮かび上がる。雷だ。
ややあって、遠くからドロドロと響く雷鳴。鳴りやむのとほぼ同時に光る空。
先ほどよりは明らかに短い間隔でお腹に響くような音。
「うーん…パソコンを閉じておいた方がいいかな…」
部屋を振り返って、点けっぱなしにしていた自分のノートパソコンをシャットダウンし、プラグを抜く。
その間も雷鳴はどんどんと近づいてくる。窓ガラスが震えだす。光る。鳴る。世界が震える。
それの繰り返しだ。土砂降りは最早豪雨となって、世界を洗い流しにかかっている。でもクライマックスはまだ先。
「すごいや…こんなゲリラ豪雨は初めてかも…」シンジの目は窓の外に釘付けだ。
「あれ?」
その窓ガラスに反射する赤い光。見覚えのあるサイン。そこでシンジは気づいた。
「やばっ、アスカからだ」メール受信は22:44。2分前だ。
2分レスが遅れると例外なくアスカは不機嫌になる。雷に気を取られて気が付かなった。
シンジは慌ててメールを開く。
「雨、スゴイね…」
この一言で、シンジにはピンと来る。
「大丈夫?怖くない?」返信。

543: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:40:41.39 ID:???
>>542
シンジの想定しているレスは
「別に怖くなんかないけど、シンジが怖がってないか心配だったのよ」
であって、それに対するシンジの答えは
「僕は大丈夫だけど、アスカが心配だよ…ほんとに大丈夫?」
である。確度95%。まず外さない。
きっかり40秒後、一言一句違わぬレスがシンジに届く。
機嫌が悪くなる暇もないようで、明らかに怯えているのがシンジには分かる。
そばにいてあげたい、そう思う。が、ここは男女が隔絶された学生寮だ。
女子寮に続く廊下に立ちふさがるオートロックの扉は、まさにジェリコの壁。たとえそこを突破しても、
この時間に男女が同じ室内にいるのがバレたら、即時退寮とはいかないまでも、
相応の厳しい処分が待ち受けているのは確実。
でも、アスカが心配だ。彼女は間違いなく、自分の助けを必要としている。それがシンジには分かる。
しかしどうすることもできない。想定通り返信はしたものの、悩みだしたシンジ、その刹那、

バッと光が周辺を覆う。一瞬、白と黒、光と影が反転する。それとほぼ同時に
爆発音のような凄まじい地響きが鳴り渡る。電気が消える。暗闇が室内を覆い尽くす。

ズドーンともドカーンとも言えない凄まじい音に、「うわっ!」と思わず声が出る。
直撃?少なくとも相当近くに落ちたようだ。
余韻のような空気の振動が窓ガラスを震えさせている。
その中で、シンジは「きゃああああああああ」というアスカの悲鳴が聞こえたような気がした。

544: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:41:18.78 ID:???
>>543
「アスカ!」メールを打とうと携帯を手にした瞬間、携帯が「着信」と震えだす。
雷鳴が消え、次の一撃を待つ間の束の間の静寂の中、バイブレータのブーン、
という音が悲鳴のように室内に響いている。

「アスカっ!大丈夫?」
何も聞こえない。シンジを嘲笑うかのように空がまた光る。突き上げるような衝撃と音。身体が震える。
「アスカ!アスカ!」必死に叫ぶシンジ。
「…」電話機の向こう側で感じる気配。泣いている。あのアスカが泣いている。
「…怖いよぉ…シンジィ…怖いよぉ……来て…そばにきて…」
初めて聞くアスカの怯えきった声。その声を聴いた瞬間、シンジの中で何が弾け飛んだ。
「分かった。今から行くから、待ってて」
電話を切る。そして一瞬の躊躇いもなく、彼は部屋を後にする。

545: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:42:56.41 ID:???
>>544
食堂の向こう側にあるオートロックのガラス扉。曇りガラスで向こう側は見えない。
オートロックの暗証番号を聞くのを忘れてしまった、と瞬間思うシンジ。
だが、今は停電中。ということは、ロックは外れているはず…。
思い切って手で押し開いてみる。隙間に指を突っ込むのにやや手間がかかったが、
指が入ればあとは案外簡単に扉は開く。フェイルセーフよ、ありがとう。
床はシックな焦げ茶色のフローリングで、無機質なリノリウム板の男子寮との違いにやや不満を感じながら、
そっとシンジは進む。アスカの話では、2階の住人はアスカとクラス委員長であるヒカリの2人。
残りは3階だそうで、つまりヒカリの部屋の前が最大の難関だ。
ここまで、稲妻の瞬きで思ったほど暗くない。
音もひっきりなしに鳴っているが、だからと言って堂々と歩くわけにもいかない。
そっと室内靴を脱ぎ、裸足になる。階段をゆっくりと上り、2階に出る。
この雷雨のせいか、館内は静まり返っている。ダアーっと響く雨音、ランダムに輝く稲光、そして地響き。
「…早く行ってくれないかなぁ…」
呟きかけて慌てて口をつぐむ。
稲妻に照らされる館内で、1人抜き足差し足で歩くシンジも、まるでホラー映画のワンシーンのようで、
実は少し足が震えている。
「205…204…203…ここか、委員長の部屋って」
今にもドアが開きそうでドキドキする。

546: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:43:34.93 ID:???
>>545
「待って!」
その声に飛び上りそうになる。見つかった!全てが水泡に帰す。シンジの脳裏には翌朝職員室に呼ばれ、
担任の葛城先生から説教をされるところがはっきりと写っている。
しかし、おそるおそる後ろを振り向くと、誰もいない。
その声はドアの向こう側から聞こえてくる電話の会話であることにシンジは気づく。
「…ごめん、もうちょっとだけ…うん…ごめんね鈴原…でもやっぱり怖いよ…」
立ち聞きするつもりはなかったが、何か重大な秘密を知ってしまったような気がして、
少し後ろめたい気持ちになる。
それと同時に少しほっとしたような気持ちも。
「なんだ、トウジと委員長って、やっぱりそうだったんだ」
時々お弁当のレシピについてヒカリがシンジに相談をしてくることがあったが、
あれはそういうことだったんだ、なんだかこんな状況下なのに、納得している自分がいる。
それが少しおかしい。でも、おかげで怖くはなくなった。ゆっくりと足元を確かめながら、
一歩一歩、王子様は進む。自分を待つ姫君を助けるために。

548: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:44:31.64 ID:???
>>546
201号室。アスカの部屋だ。雷は少し遠ざかった気もするけど、
雨は相変わらずムキになって、世界を水没させようと無駄な戦いを続けている。
軽くノックをする。返事はない。もっと大きな音でないと気づかないかな?とも思うが、
それをやると周りに、ヒカリに気づかれる危険性がある。
シンジとしては、そのリスクは避けなければならない。
そっとドアノブで手をやる。鍵はかかっていない。音もなくノブは回り、ドアが開く。
初めて入る女の子の部屋。しかし今のシンジにはそんなことを考える余裕もなかった。
とにかくアスカの身が心配でならなかった。
「アスカ、入るよ…」そう室内に声をかけると、シンジはドアを閉めた。

暗闇で分かりづらいが、部屋のレイアウトとしては、男子寮とあまり変わらないようだ。
携帯のライトを頼りに少しずつ前に進む。足元に色々物が置いてあるみたいで、前に進みづらい。
何度かつまづきながら、やっとの思いでベッドの横に辿り着く。
携帯のライトに照らされた先に、毛布が小高い山のように盛り上がっている。
「アスカ、来たよ」シンジは優しく声をかける。返事はまだない。
「…アスカ?」毛布に手をかける。ゆっくりと毛布をめくる。
枕にしがみついて丸くなっているアスカがそこにいた。
「…大丈夫?」「…大丈夫に見える?」「…ごめん、遅くなって」
アスカは髪の毛もぼさぼさで、まるで茶髪の貞子のようになっていて、
おそらくまぶたは腫れ上がっているのだろう、赤と白のボーダーのタンクトップはヨレヨレで、
短パンから伸びているすらりとした足も、心なしか震えているように見えた。
「遅いわよ…バカシンジ…私が電話してから何分経ったと思ってんのよぉ…」
枕はまだ両腕の中で固くなっている。
「ごめん…急いできたんだけど、待たせちゃってごめん」
シンジがアスカの横に腰掛けようとした瞬間、また雷が近くに落ちる。ドシン、バリバリバリ。

549: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/22(日) 01:45:55.11 ID:???
>>548
「きゃあっっっっ」
その光と音と共に、アスカの手が、というよりアスカの悲鳴が、シンジの手を掴む。
そして自分の元にシンジを引きずり込む。
「ア、アスカ?」
「黙って…しばらくこのままでいて…」
シンジは何も言わず、ただ黙って、ベッドの中でアスカを抱きしめる。
右手でアスカを抱き留め、左手で頭を撫で、背中を撫でる。
「…大丈夫?アスカ…」
「だめ…怖いよぉシンジ…」
抱き付く、というよりは、しがみついているアスカ。アスカの吐息がシンジの鎖骨のあたりにかかり、
胸の感触はタンクトップ一枚を隔てただけで、その弾力とか、先端の硬さとかが物凄くリアルに伝わってくる。
ほとんど全身をシンジに委ね、とにかくしがみつくアスカ。
その時、シンジは我が身の異変に気付く。
「(うわあああああああああああヤバイヤバイヤバイ)」
シンジも健康的な高校生男子。当然理性よりも本能が身体を突き動かし、
その結果、彼の身体の一部はそれ相応の反応をする。
そしてそれは、シンジの腰に絡みつくように密着するアスカの内股のあたりに当たることになる。
「(うわわわわわわわわわわ、マジヤバイヤバイヤバイ、静まれ俺静まれ俺静まれ俺!)」
こうなってくると雷どころではない。シンジも必死だ。しかしこの健康的なリビドーの波涛は、
そんじょそこらの高校生男子には止めようと言ったって止められるものではない。
「(ダメだ殺される…)」
一瞬、どうせ殺されるならいっそのことこのまま押し倒してしまおうか、などというヨコシマな
考えがシンジの脳裏を掠めるが、さすがにシンジの理性はそこまでの暴走を許さない。
「バカ!アホ!スケベ!エロオヤジ!人が怖がってるときに、信じらんない!」
ガチ切れしたアスカに折檻される姿が、シンジの眼前に克明に広がる。
そんな想像が頭の中を駆け巡っていても、全く収まる気配のないシンジの衝動。
しかし、アスカはシンジの異変?に気づかないのか、そのままシンジにぎゅっとしがみついたまま。
雨はまだ激しく降ってはいるが、雷雲は少しずつ遠くへ離れていっているようだ。
「アスカ、大丈夫だよ、もうすぐ終わるから」
シンジの声が聞こえたのかどうかも分からないが、シンジにはアスカが僅かに頷いたように見えた。

553: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:41:14.51 ID:???
>>549
気が付くと、雨は止んでいた。どうやら抱き合ったまま2人とも眠ってしまっていたようだ。
リビドーの波動も今は止んでいる。
「…ん、2:15?寝ちゃったのかな…帰らないと」
シンジは起き上がろうとする。
「ん?」
ベッドから起き上がろうとするシンジは気づく。彼のシャツの裾を引っ張る手に。
「あ…、ごめんアスカ。起こしちゃった?」
返事はない。
「もう大丈夫みたいだから、僕はそろそろ部屋に戻るね」
「…」
「え?」
「やだ」
その声と同時にアスカがシンジに抱き付いてくる。思わず受け止めるシンジ。
「今夜は、このまま、そばにいて…」
耳元でそう囁くと、アスカはそのままシンジを押し倒すようにベッドに倒れこんだ。

「いや、いやなの…このままシンジがどこか遠くに行っちゃう気がして…だから、行かないで」
「大丈夫だよアスカ、僕がアスカを置いて遠くになんて行くわけないじゃないか」
「でも、不安なの…あたし、シンジがいなくなっちゃったら生きていけないもん」
「僕も、アスカがいなかったら生きていけないよ」
「ほんとに?」「ほんとだよ」「嬉しい////」
「ずっと、ずーっと一緒なんだからね…」
「うん」
「毎日一緒にお風呂に入って、ご飯も一緒に食べて、1つのベッドで抱き合って眠るの」
「うん」
「おじいちゃんおばあちゃんになっても、こうやって抱き合って、手をつないで歩けるような、
そんな2人でいるんだからね」
「うん。僕もそうありたいと思うよ」
シンジの胸の中で、いつもとは全く違う顔を見せるアスカ。そんなアスカを愛おしく思い、
髪を撫でながらシンジは誓う。アスカを一生守り続けると。アスカを一生かけて幸せにすると。

554: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:45:29.16 ID:???
>>553
「シンジ…大好きよシンジ」
「僕もだよアスカ」
唇を重ねる2人。最初は軽く、すぐに濃く、激しく。
シンジの手がアスカの胸に触れる。
「あっ、ダメ」
アスカの手がシンジの衝動を押しとどめる。その手は、そのままシンジの手を取り、
再び抱き合う姿勢に導いていく。
「こんな結ばれ方は…なんかドサクサまぎれみたいでイヤ」「うっ…」
しばしの沈黙。雨音だけが響く。2人の間だけ、時計が止まったように動かない。
数分間の沈黙のあと、アスカが口を開く。
「ねぇ、シンジ…あたしのこと、好き?」
抱き締める手に力を入れて、シンジは返す。
「もちろんだよ。僕はずーっとずーっと、アスカのことが好きだよ」
「我が儘で素直じゃないあたしでも、ずっと大事にしてくれる?」
「当たり前だよ。だってアスカは…」
「だって…何?」
「僕の…一番大切な人だから」
「…ありがとう。あたしもよ、シンジ。
…きっとあたし、シンジに巡り逢う為に生まれてきたんだわ…///」
その言葉にシンジの心は射抜かれる。何度生まれ変わっても、自分たちは出逢い、
愛し合うように運命づけられている、日頃からそう感じていたことをアスカも感じていたんだ、そう確信する。

555: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:46:05.88 ID:???
>>554
「アスカ…僕たちはきっと、何度生まれ変わっても、こうやって巡り逢って愛し合うようになるんだよ///」
「…そうね、きっとそう。何度生まれ変わっても、あたしはシンジのそばにいるもの///」
その一言に、シンジの理性は飛びかける。その気配を感じてシンジの手の甲をぺちん、と叩くアスカ。
「でも、今はまだ、ダメ。」「…」「大丈夫、あたしが捧げる相手はシンジしかいないから。
あたしは、シンジだけだから」
ドキッとするシンジ。
「…その時は、こんな部屋じゃなくて、海の見えるホテルの一室とかで、
ものすごーくロマンチーックな雰囲気の中で、あたしはシンジにあげたいの」
「う、うん」「だから、今はダメ。その代り、ずーっとこうしててあげるから」
「うん…わかった」シンジも、アスカの気持ちを受け止める。
「ありがとうシンジ」「愛してるよアスカ」「あたしも、愛してる///」
シンジと固く抱き合うアスカ。少しずつ弱くなる雨音の中で、やがてアスカの、
そしてシンジの寝息が聞こえだす…。

556: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:48:43.72 ID:???
>>555
シンジは目が覚める。薄明りが漏れている。時計の針は5:10。
痺れた右腕をゆっくりとアスカの頭の下から引き抜きながら、シンジは先ほどのひとときを思い返している。
「(あれは、ほんとうのことだったのかな…?夢じゃなかったのかな…)」
自分の願望が、そういう夢を見させたのかもしれない。そうシンジは考えている。
「…おはよう、シンジ」
腕を引き抜いたときに、アスカも目を覚ます。そして自分の想い人に声をかける。
「おはよう、アスカ」
アスカがにっこりと微笑んでシンジの腕の中から彼を見ている。
シンジも微笑み返す。愛し愛されている者同士でしか交わせない確認作業。
2人はごくごく自然な感じでキスをする。シンジの上に覆いかぶさるようにして、
アスカは少しの間、シンジの腕に抱かれて眠っていた一夜の余韻を楽しんでいるかのようだ。
「シンジ、ありがとう。助けに来てくれて」
「ううん、当たり前だよ。アスカを守るのが僕の務めだよ」
「もう…///」
シンジの胸に顔を押し当て、シンジの鼓動を感じるアスカ。
「…さっきあたしが言ったこと、覚えてる?」
瞬間、はっとするシンジ。あれは夢じゃなかったんだ。
「あたし、雷…死ぬほど苦手なのよ」
「うん、さっきのでよーく分かったよ」
「バカ…でもそのせいかな、物凄く素直になれたの。あれ全部、今のあたしの本当の気持ち。
恥ずかしかったけど、思い切って言っちゃった…///」
顔を真っ赤にしてシンジの顔もまともに見られなくなっているアスカ。その姿にますます心を鷲掴みにされる碇シンジ16歳。

557: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:49:27.23 ID:???
>>556
「ア、アスカ」
「なに?」
「僕はアスカを一生大事にするよ。ずーっとアスカを守っていきたいし、アスカを幸せにしたいって思っているよ」
「シンジ…嬉しい///」
伸びあがって、シンジにキスをするアスカ。
「でも、ちょっと間違ってるわ」
「え?どこが?」
「あたしだけが幸せになってもしょうがないのよ。2人で幸せにならなきゃ」
「…うん、そうだね///」
再びベッドの中で抱き合う2人。唇を重ねあう2人。
「あ…」「!」
シンジの身体的反応…でもこれはむしろ朝の男の生理現象…に気づくアスカ。
「あ、あわわわ、これはその、あの…」
気づかれて慌てるシンジ。
「…ふーん、あんたそういえば夜中にもこんなになってたわよね…」
「(やっぱり気づかれてた;;;)…あ、いやその…」
後ろを向いて必死に誤魔化そうとするシンジに対して、アスカが前方に回り込む。
「そんなに…あたしが欲しいの?」
「え?…いやそのそんなわけじゃ…………うん//」
「バカ」
「え?」
シンジの手を取りシンジを立たせたところに抱き付くアスカ。
「さっきシンジが言ったこと、嘘じゃないわよね?」
「も、もちろん嘘じゃないよ」
「本当に?ほんとのほんと?」
「本当だよ。僕はアスカのこと、世界で一番愛してるんだ!」
シンジの背中に回した両腕に力が入る。
「ありがと。分かった。大丈夫よ、いつかきっと、シンジにあげるから。」
「うん」
「でも、今はダメ。それに、もう朝だし、そろそろヒカリが起きてくるわ」

558: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:50:29.44 ID:???
>>557
ガチャ「おはようアスカ、起きてる?」
ドアが開く。
「おはようヒカリ。昨日はスゴイ雨だったよね…」
「ほんと、すごい雷と雨で。停電もしたの、知ってる?」
「知ってるわよ、あたしまだ起きてたもの」
「あ、そうよね、碇君とメールの時間だものね…」
「///うるさいわね…ほら、支度したら朝ご飯食べに行くから、その時またね」
「うん、じゃあね…あと、いい加減部屋の中片付けなさいよ、碇君が見たら何て言われるかわかんないわよw」
「あーはいはい、余計なお世話よ!」ビシッ
「痛っ、何も叩かなくてもいいじゃない」
「自業自得よ、ほら、行った行った」バタン
ドアが閉まる。


「シンジ、もういいわよ」
カーテンと窓の向こう、ベランダに隠れていたシンジが姿を現す。
「びっくりしたぁ…いきなりドア開くんだもの…委員長、廊下でくしゃみしてくれなかったら、
今頃どうなってたことか…ってドアに鍵かけてないの?」
「…テヘ。だって面倒臭いんだもん」
「…そして、確かに散らかってるね…僕が掃除しようか?」
脱ぎ散らかした洋服、制服の類に、あちこちに積まれた漫画やゲーム機。
昨日の夜につまづいたのはこういうことか…とシンジは複雑な気持ちになる。
「あわわわわわ、いけないバレちった///大丈夫、ちゃんとかたすわよ」
「ならいいけど」

559: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:52:02.82 ID:???
>>558
「でも、もうみんな起きだす時間だね…どうしよう、戻るに戻れない…」
「あーそうね、もう食堂にはおばちゃんいるだろうし…」
あ、と声を出してアスカがシンジを見る。
「この部屋の隣、非常階段があるわ。あんた、そっちから帰りなさい」
「えー非常階段って、外じゃんそれ…」
「何よ、文句あるの?」
「いや…ないけど…」
「ならいいじゃない」ニコッ
「アスカ、その笑顔、怖いよ…昨日の雷ほどじゃないけど」

560: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:52:37.41 ID:???
>>559
部屋を去り際に、シンジが呟くように言う。
「でもなんかこれって、平安貴族みたいだね」
平安時代、貴族の男は女の屋敷に忍んで通い、愛を交わした。ちょっと前に授業で習った。
「ぷっ、確かにそうかもね。あんたが在原業平で、あたしが藤原高子ってとこか」
シンジが驚いたような表情を見せる。そこまでは授業でやっていない。
「ん?何不思議そうな顔してんのよ。受験の時にシンジに聞いた話じゃない」
「まあそうだけど…でも僕、そこまで話したっけ?」
「あとで自分で調べたのよ。ああ、そうそう、シンジあの時>>254駆け落ちした、って言ってたけど、あれ違うじゃない。」
「え?僕そんなこと言ってたっけ…」
「言ってたわよ。そういう説があるのかもしれないけど、本来なら忍んで通っていたのがバレて、他に移された、急ぎ入内させられた、ってことなんじゃない?」
「…へーすごい、よく調べたね」
「当たり前よ、いつまでも借りを借りにしておかないのがアスカ様ってことよ」
「ははは、そうかもね」
チュッとキスをしてからアスカはニンマリと笑って続ける。
「そうだ、シンジ、あんたここに通ってきなさいよ」
「え?…ええええええ?」
「うるさい、声が大きい」「ごめん」
「男はそうやって誠意を見せて、女を口説いたんじゃない。
あたしは二条のお后様と違って、どこにも行かずにシンジを待っているから」
「う…わ、わかったよ。でも毎日は無理だよ…絶対バレる」
「まあそうね、さすがに毎日とは言わないわ。あたしが来てほしいと思った時に来なさい」
「それって教えてくれるの?」
「シンジなら、分かるでしょ」
「…頑張ります;;」

561: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/09/23(月) 00:53:08.26 ID:???
>>560
「次は、いつおいでになるの?」
「え?」ビシッ「痛っ、痛いよアスカ…」
「不正解」「え?」「何?また叩かれたい?」「いや、すいません…」
「次は、いつおいでになりますの?」
「…また、すぐに来るよ」
「ありがとう。お待ちしてますわ、あ・な・た///」


非常階段に出ると、外は薄い霧がかかっていて、窓越しに見える廊下を照らす照明が、ぼんやりと浮かんでいるようだ。
室内靴でそのまま中庭の芝生を横切り、同じように非常階段を上って、男子寮の2階から、
屋内に入る。女子寮は非常階段も外からは開かない仕組みになっているのに、男子寮は鍵も
かかっていないことに、やはり多少の疑念を感じながらも、誰にも見とがめられることなく、
シンジは自室に帰還する。
はぁーっ、と深い息をつき、ベッドに腰掛け、室内を見渡す。昨夜離れた時そのままなのに、
何か景色が違って見えるような気がするのは気のせいか。
と、そこにメール。アスカからだ。
本文にはこれだけ。
「なるかみの 少しとよみて さし曇り 雨も降らんか 君を留めん」
シンジはふっと微笑んで、こう返す。
「なるかみの 少しとよみて 降らずとも 我は留らむ 妹し留めば」

「後朝の文のつもりかな…逆なんだけどな…でも、なんだかくすぐったいな…」
シンジは窓の外、アスカの部屋のあるあたりを見て、立ち上がる。
「シャワーでも浴びるか」
今日の2人のお弁当は、飛び切り美味しいハンバーグを作ろう。
そう思ったシンジだった。





【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】No.2










元スレ:http://engawa.5ch.net/test/read.cgi/eva/1370587184/