<管理人注>

このssは貞本エヴァからの最終話分岐LASです。

元スレでは、同じ作者のSSがバラバラになっていたので再構成しています。

【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】No.1

【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】No.2

の続編です。







5: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/17(日) 00:13:19.76 ID:???
最初は何も映らなかった。アスカとシンジが目を見合わす。
「これ、何も映らないじゃない」アスカがそう言った瞬間、シンジが「あっ!」と叫ぶ。
「え、どうしたのシンジ…ってあっ…」アスカもその鏡に視線を落とし、そのまま動かなくなる。
いや、動けなくなる。
その鏡に映っていたのは、赤い服を着たアスカと白と青の服を着たシンジ。
アスカの夢に酷似している。2人とも巨大なロボットのようなものに乗っている。
そして敵を倒す。ある時は単独で、ある時はコンビを組んで。
その戦いを通して2人の間に、嫌悪、信頼、愛憎、そんな言葉がちらつく。
鏡の向こうにいるアスカは、シンジを憎み嫌い軽蔑し、それでもシンジへの想いを断ち切れない。
そのジレンマと壊れていく自分を、半ば呆然としながら見つめるアスカ。
でも、膝が震えている。失禁しそうなくらいに震えている。全身の血液が凍り付いたかのようで、
ただ、握りしめているシンジの手が温かい。それがあるから生きているんだって思える。
ふと、場面が変わる。そこに現れたのは学院の面々。
「ミサトがいる…!」「赤木先生も…委員長やトウジも!」
シンジとアスカが口々に叫ぶ。
「加持先生も…」アスカが口ごもる。これは…何?鏡の中の自分は加持先生に恋をしている。
執拗に迫り、彼を困らせる。でもここから見ると分かる。
それは憧れとプライドが作り出した幻想に似たものであることを。
しかし、やがて加持の姿は消え、そこにシンジがスライドしてくるかのように現れてくる。
倒れるアスカ。心配するシンジ。なんであんたは気がついてくれないの?
あたしが、こんなにもあんたのことを求めているのに!鏡の向こう側でアスカが叫んでいる。
声にならない声、でもそれは、こちら側のアスカにははっきりと聞こえる。
そこにまた現れる敵。敵敵敵。
また胸が苦しくなる。息が苦しくなる。右手でシンジの手をぎゅっと握りしめて、
左手で自分の胸元をぎゅっと握りしめて、アスカは鏡を見る。
そして、とうとうそれは現れる。
白い巨人。顔のない巨人。
「エヴァシリーズ…完成していたの?」
思わず声に出る。「え?今の言葉は私が言ったの?」
ゾクゾクっとした悪寒が背筋を走る。

6: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/17(日) 00:14:36.23 ID:???
>>5
やがて、アスカはズタズタにされる。ボロボロに切り苛まれる。引きちぎられ、喰われ、そして死ぬ。
その痛みが、ここにいるアスカにも伝わってくる。思わずよろめく。が、倒れない。足を踏ん張って、耐える。
倒れてなるものか。シンジと一緒に戦うんだ。あたしが生まれてからずっと抱えてきた謎を、
真実を見つけ出すまでは、目を背けたりするものか。
鏡の向こう側のアスカに伝えたい。大丈夫だから、シンジはあんたをきっと助けにくるから、と。
と、突然水面が揺らぐ。つられてこちらも目眩がして足下がふらつく。シンジも同じようによろけ、
お互いに肩を抱くようにして支え合う。2人とも肩で息をしている。
シンジも、戦っているんだ。アスカはそう感じる。
揺らいでいた水面が元に戻る。画面は、ちょっと前に巻き戻っている。
「あれ?」
そこにいたのはシンジ。紫色のロボットに乗って、初号機に乗って、アスカを助けに来たシンジ。
「ごめんアスカ、遅くなって」懐かしい声。愛おしい声。
シンジが、戦う。アスカを守るために。
「ああ、あたしの王子様」心の中で思っていただけのはずなのに、言葉にしていることに、アスカは気づかない。
だが、倒しても倒しても立ち上がってくる敵に、シンジも疲れる。絶望感が彼を支配する。
「姫を助けろ、男だろッ!」
「え…コネメガネ?」「真希波さん?」
一瞬、何かが混線したかのように、真希波マリの声が混じる。
ピンク色の機体が見えたような気がしたが、次にシンジとアスカが見たものは、
白い巨人に上空まで引き揚げられていくシンジの機体の姿だった。
やがて、サードインパクトが始まる。

7: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/17(日) 00:15:50.67 ID:???
>>6
また画面が揺らぐ。水面から蒸気が立ちのぼってきて、シンジやアスカの前髪や、睫毛を濡らす。
世界が赤く染まっている。荒廃しきった世界に、取り残されたように生きる人々がいる。
その中に、自分も。
「あたしの左目…でも、シンジはどこに?」自分の変わり果てた姿に愕然とする。
それよりなにより、シンジがいるべきはずの場所にいないことに絶望する。
「ひーめ、」なんとマリがいる。隣でピンク色の機体に乗っている。さっきのは幻じゃなかった。
そして気がつくと、アスカは戦っている。相手は…シンジだ!
「嘘っ」アスカは驚く。何故?どうして?
「おとなしくやられろっっっガキシンジィィィィィ!!!」
何が起きているのか分からないまま、鏡を見続ける。とにかく混乱する。
しかし、王子様は強い。軽く捻られ吹っ飛ばされるアスカ。なんだか複雑だ。
やがて訪れる自爆と、赤い大地のアップが出てきたと同時に、画面は暗転する。
次に現れた画面は、真っ赤になった海だ。真っ赤に染まった世界を、2人は見下ろしている。
補完され、LCLになった人々の中に、アスカは溶け込もうとしている。
シンジは絶望の淵にいる。彼が頷けば、世界は終わる。女が、リリスが…綾波が誘っている。
ダメ、ダメよシンジ、ここにいるアスカは思わずそう叫ぶが、鏡の向こうの彼には届かない。
こちら側のシンジは固まっている。視線は一点に集中し、息すらしているかも怪しいくらいに微動だにしない。
ただ、アスカの手を握る手は、決して離そうとしない。それが、今の彼が生きている証。
「そう 誰も苦しまない、誰も悲しまない、争いもいさかいも支配も服従も飢えも寒さも痛みもなにもない幸せな世界」
女が、綾波が何か言ってる。
「はぁ?そんな世界あるわけないでしょ、あったとしたら、そんなのインチキよインチキ!
エセ宗教の世界よ!」
アスカがこちら側から叫ぶ。叫びながら、シンジを気にして横を見る。シンジは…固まったままだ。
「シンジ、ちょっとあんたしっかりしなさいよ」
シンジ、反応しない。

8: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/17(日) 00:16:37.98 ID:???
>>7
「こら、そこの女、なんにもない世界には幸せだってないのよ!分かってて言ってんの?」
鏡の向こう側にいる女に向かって怒鳴り続けるアスカ。
「悲しみや苦しみ、そういったものがあるから幸せがあるんじゃないの?
何もないのが幸せなんて、そんなのまやかしにしか過ぎないわ!」
「…確かめなきゃ」突然、シンジが呟く。
「違うよ綾波。一度は望んだかもしれないけど今は違う」
ここに立つシンジが、鏡の向こう側にいるシンジとシンクロしている。
シンジは、なおも語りかける。鏡の向こうの女に、綾波に。
「だってここには誰もいないもの、ここには幸せなんてないよ。悪いこともないけど、
いいこともない、死んでいるのと同じだ」
「そうよシンジ、」シンジに聞こえているかは分からないが、アスカはそうやってシンジを応援する。
「確かめなきゃ、この手が何のためにあるのか、僕が何のためにいるのか」
そしてその手はアスカの手を握りしめて離さない。
「少なくとも、今のシンジは、あたしと幸せになるためにここにいるわ。この手はあたしと
幸せを作り出すためにここにあるのよ」
誰に語るでもなく、自然と口に出た。
女の姿が薄れてきた。水面に波が立ち始めている。アスカは、そろそろこの時間が終わることを直感する。
「…なにが起こっても、世界中の人達の幸せを、あなたが守るのよ」どこかから聞こえる声。
ふと綾波が微笑む。アスカ、ドキッとする。そして、爆発。
「碇君 私は 砕けて 散って すべてのものに降りそそぎ 待っている あなたが 還って来るのを」
その言葉が終わるのと共に、銀のお盆が割れる。何故か分からないが、ガラスが砕けるような音を立てて、
金属であるはずの銀が、割れる。
驚いて石碑の横から後ろに飛び降りるシンジとアスカ。
その砕かれた鏡の前から去る直前、アスカは暗転した画面の向こうに光が差し、
そこに子供が2人、歩いているのが見えた気がした。その子達と手を繋いでいる父と母。
あれは…あたし達?
もう、分からない。

9: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/17(日) 00:17:36.81 ID:???
>>8
「終わったみたいだね…。お疲れ様。どうだったかな?」タブリスが静かに言う。
2人とも汗びっしょりだ。
「君たちが今見たものは、ずっとずっと過去に、本当にあったことなんだ。
この世界にはいろんな世界があって、そのどれもが同じ時間軸上にあるわけではないけれど、
世界によっては、君たちが全く同じ君たちであったわけでもないけれど、
でも、何度も何度も繰り返してきた世界が、そこにあったんだ。
そして、信じられないことかもしれないが、かつて君たちは、その世界を背負っていたことがあるんだ。
仕組まれた子供として、その小さな両肩に世界の運命を乗せて、戦っていたことがあるんだ。
信じる信じないは君たちの勝手だ。だけど、僕はそれが本当のことだと知っている。
何故なら、僕はその全てを実際に見てきたからね…」
ゾクッとするような言葉。だが2人はその言葉に反論できない。疑問を挟むことすら出来ない。
その言葉はただ、土に水がしみこむかのように、2人の記憶の扉の向こう側に吸い込まれていく。
「でもね、」タブリスが続ける。
「それらがあったからこそ、今の君たちが存在するんだ。今、君たちはここでこうやって、
深い深い、誰にも断ち切ることの出来ない絆で、結ばれているんだよ。それだけは分かって欲しい、」
黙って2人は頷く。
「君たちの関わってきた世界には、今、楔が打ち込まれている。今君たちが存在するこの世界に、だよ。
君たちが本当の意味で結ばれたとき、それらは毀たれ、その時にようやく君たちは運命の螺旋階段、
無限回廊から解放され、望む世界に辿り着くことができるんだ、
だからいいかい、碇シンジ君、君はやっと手に入れたこの幸せを、絶対に手放しちゃいけないよ」
シンジの目が大きく開かれる。「…なぜ、僕の名前を?」
「知っていたさ、ずっと昔からね、」
シンジとアスカが何か言おうとするが、その前に、占い師が続ける。
「でも良かった。君はここで、本当に君の望む幸せを手に入れたんだね。僕は、嬉しいよ」
そして、ここで時間が終わる。部屋が明るくなる。星々の時間は去り、夜が明ける。

14: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:45:20.61 ID:???
>>9
「あの…料金は?」シンジが訊ねる。
「お代はいただきません、」タブリスが言う。
「え?でも…」アスカが財布を出そうとしていたところで固まる。
「その代わり、お願いがあるんだ」
シンジとアスカが顔を見合わせる。タダより高いものはない、そんな諺が脳裏をよぎる。
「いや、心配しなくていいよ、」2人の心理を読んだかのように、タブリスが続ける。
「僕はこの日のため、ここまで生きてきた。君たちに再び出会う今日という日を待っていたんだ。
君たちは、僕の呼びかけに答えてくれた。寸分違わず、正しい道を経て、ここまで辿り着いたんだ。
そして、この場で、僕は君たちに伝えたいことはみんな伝えた。僕の役目はここで終わりだ。
だから…」すっとタブリスが息を吸い込む。つられてアスカとシンジも息を吸い込む。
「僕の事を、ずっと覚えていてくれないか?」
そう言うと、タブリスはそのフードをゆっくりと取る。
シンジとアスカは息を飲む。
そこに居たのは、白い肌、シルバーに近い白い長い髪を後ろで束ね、赤い目をした、1人の男。
その目は神話の時代からの知識や体験を蓄えたような深みと輝きがあり、
その表情は、若いとも老いているとも言い難い、一種独特な雰囲気を持っていた。
「エルフみたいだ…」シンジが呟く。
その言葉を聞いて、タブリスは穏やかに微笑む。

15: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:46:52.23 ID:???
>>14
「僕の本当の名は、渚、カヲル。シンジ君、君を、ずっとここで待っていたよ」
渚、カヲル。聞いた事がある。シンジはそう感じる。その微細な感情の揺れ動きを、カヲルは感じ取る。
「君はね、ずっとずっと昔、あの世界で、僕と友達だったんだ。…友達、というと語弊があるかもしれないけれど、
でも少なくとも僕は君を友達だと思っていたよ。今でも、思っている、」
カヲルはシンジの目を見つめて、続ける。
「不思議だね…、こうして悠久の時を経て再会してみると、昔の嫌な事とか辛かったことは
忘れてしまって、良い思い出しか浮かんでこないよ」
シンジは何を言われているのか、よく分からない。分からないまま、頷く。
それを見て、カヲルは意を決したように、シンジに告げる。
「さあ、碇シンジ君、大事な事だから、もう一度言うよ。
君たちは、やっと手に入れたこの幸せを、絶対に手放してはいけない。
分かったね?」
シンジは、カヲルの言葉に視線を逸らす事なく、真っ直ぐにカヲルの目を見つめて答える。
「分かりました。僕はアスカを手放さないし、ずっと、あなたのことを忘れません」
「あたしもよ。この幸せは、誰にも渡さない。それを教えてくれたあんたのことも、決して忘れない」
アスカも約束する。2人ともカヲルと目を合わせて、決意した言葉をひとつひとつ発する。
それはきっと、言霊となって、2人を終生拘束し、見守り続けるだろう。
カヲルは、2人の言葉を聞くとにっこりと微笑んで、こう言う。
「Onen i-Estel Edain. u-chebin estel anim
これでお別れだよ。でも今度こそ、君は僕のこと、忘れないだろ?」
そして、シンジの頬に手を触れる。「あぁ、」嗚咽のような声が響く。カヲルの目から一筋の涙がこぼれ落ちる。
シンジは精一杯の微笑みを湛えて言う。
「Hannon le(ありがとう)」と。
カヲルはドアのところまで2人を見送ると、最後にこう言った。
「Namarie! Nai hiruvalye Valimar ! Nai elye hiruva. Namarie」
まるでねじまり鳥の鳴き声のような音を立てて、ドアが閉まる。

16: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:48:44.90 ID:???
>>15
外に出るとすでに日は暮れかかり、冷たい風が吹き出していた。
駅までの道のりを無言で歩く2人。きらびやかなショーウインドウもコーヒーの香りも、
今の2人の興味を捉えることは出来ない。
「あの夢は…ほんとうのことだったのね…」デパート前で信号待ちをしている時に、アスカが呟くように言う。
「僕もおそらく同じ夢を見ていたんだと思う。その記憶がないだけで」シンジが頷く。
経験をしたという実感はない。記憶という手触りもない。ただ、知識として
「あなたがたはこういう経験をしてきました」と言われただけだ。否定するのは簡単だ。
だが、アスカの夢、それよりなにより渚カヲルの圧倒的な存在感が、先ほど2人が見た事は
真実なのだと証明している、2人はそう思っている。
「あたしたち…本当に何度も何度も巡り会って、そのたびに一緒になっていたんだ…」
信号が変わる。2人とも歩き始める。
「シンジ、あの鏡が割れた後の最後のシーン…」アスカが訊ねる。「最後にほんの一瞬映ったのって…」
「え?ごめん…鏡が割れたところまでしか見てなかったよ…」「えー」「ごめん…」
「んもう…」頬を膨らませて抗議の意を示すアスカ。もう一つ、訊いてみたいことがあったが、
でもそれはアスカの胸の内に留めておく事にする。
「(あの女の人、最後にあたしを見た気がするのよね…)」
アスカは、あの女、綾波が最後の最後でこちら側にいた自分を見たような気がしてならない。
「(あたしが見ていることに…気がついてた?まさかね…でもあの人は粉々になって、
土に還った。シンジに、待っていると言い残して…)」
ふ、とアスカは感じる。そうだ、その土を通り抜けて、あたし達は再び?この世界に存在している。
「(調子良すぎるかもしれないけど…託されたと思う事にするわ)」アスカは空を見上げると、
シンジに聞こえないように、こっそりと呟いた。
「ファースト、あんたの気持ち、受け取ったわ。ありがとう」
「(ん、なんでファーストなんだろう?ま、いっか)」

17: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:49:38.42 ID:???
>>16
「ねぇシンジ、あたしたち、今でも『仕組まれた子供たち』なのかしら?」
駅が見えてきた頃、アスカがシンジの方を向いて言う。
「うーん…どうなんだろう?あの人は、楔が打ち込まれている、って言ってたよね?」
「うん、あたしたちが本当の意味で結ばれた時に、あたしたちはようやく解放される、って言ってたわ…」
結ばれる、という意味を考えたとき、アスカもシンジも赤面することを抑える事が出来ない。
「(それってやっぱり…そういうことよね…)」「(それってやっぱり…そういうことだよな…)」
チラッとお互いを見やる。バッチリ目が合って、2人とも同じ事を考えていたことを知り、
余計に顔が赤くなる。
またしばらく無言が続く。駅の改札を抜け、ホームに出た時に、アスカが口を開く。
「でも…今はまだその時じゃないと思うの、」「うん、」シンジが同意する。
「僕たちは、『本当の意味で』結ばれなくてはならない」シンジが呟くように言う。
横に並んでいた中年女が怪訝そうな顔つきでシンジを見る。聞かれたことを、シンジは気にしない。
「本当の意味って何かしらね…?」「なんだろうね…?」
少しの間を置いて、シンジが恥ずかしそうに言う。
「よくわかんないけど、でもそれも、これから2人で一緒に探していけばいいんじゃないかな?」
そのシンジの表情を見て、アスカも理解する。そうだ、そんなに焦ることはないんだ。
「ま、そうね。きっと、その時が来たら分かるわよ、あ、これなんだ、って。」
2人で笑う。この瞬間が、たまらなく心地よい。幸せだと感じられる瞬間。
電車が来る。ゴオッという音と共に、アスカの髪が風に揺れる。繋いだ手は、微塵も揺るがないままだ。

18: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:52:49.94 ID:???
>>17
「あれ、何て言ってたの?」駅から寮に向かう道すがら、アスカが聞く。
「オネン イ・エステル エダイン ウ・ヘビン エスル アニム…エルフの言葉、シンダールだよ」
シンジがアスカの意図を正確に理解して、答える。
「私は人間に望みを与えた、私は私自身に何の望みも残さなかった、っていう意味だよ。
指輪物語の追補編にある言葉で、うまく訳せないけど、エステルって希望って意味と同時に、
人の名前なんだ。これはそのエステル君のお母さんが言った言葉で、
暗黒が到来しようとしている時に、エステルは希望となるでしょう、っていう感じかな…、
で、そのエステルが大きくなってアラゴルンとなり、物語の最後で暗黒に打ち勝って王となるんだよ」
「へー…深いのね…。でもそれって…、シンジが希望ってこと?」
アスカが不思議そうに訊ねる。「僕にもよくわかんないよ」シンジはそう言うことしかできない。
あの目、あの目に捉えられたシンジ。渚カヲルという名とともに、あの目はきっと忘れよう
としても忘れる事は出来ないだろう。そうシンジは感じている。
「ねぇ、最後に言っていたのは何?」アスカがなおも訊いてくる。
「ナマリエ!ナイ ヒルヴァリェ ヴァリマール! ナイ エルェ ヒルヴァ ナマリエ
さらば!汝がヴァリマールを見出さんことを!汝こそが見出さんことを。さらば!
こんな感じかな?ヴァリマールは…理想郷の王国の都なんだよ。」
「あたし達は、理想とする住処を見つけ出せる、ってこと?」アスカが言う。
「うん。きっとそうなんだと思う。」シンジが答える。その横顔の凜々しさに、アスカはほれぼれとする。
黙って、シンジと組んでいる腕に力を入れる。シンジの肩に、頬を寄せる。
「きっと、見つかるわ。いいえ、向こうからあたしたちのところに来てくれるわよ」
「うん、そうだね。きっとそうだよ」
アスカが真っ直ぐにシンジの目を見つめる。キスして、のサイン。
シンジは黙って、アスカの気持ちに応える。普段より、少し長めに。

19: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/11/18(月) 00:55:18.92 ID:???
>>18
「シンジ、」寮近くのコンビニでお茶を買って店の外に出た後、アスカがふと気がついたように言う。
「何?アスカ」シンジがアスカを見つめる。
「ん…シンジってさ、またちょっと背が伸びたわよね…」「そう?」
「うん、出逢った頃は私と目線がほぼ一緒だったけど、今はもう、ヒール履かないと目線が
一緒にならないもの。あたしが今160ちょいだから、もうシンジは165は超えてるんじゃない?」
「へー、そっか。全然気づかなかったよ…」
少しずつ大人になっていくシンジを頼もしく思うアスカ。シンジが180まで身長が伸びるとして、
あたしは…もうそろそろ打ち止めかしら…なんてぼんやりと考えている。180の夫と165くらいの妻、
見た目の釣り合いもいいだろう。
「(見た目だけじゃないわ、性格も…カラダもきっと…)////」「何考えてるの?」「…え?いや、なんでもないわ///」
最近、こうやってシンジと自分との将来像をなんとなく考えるようになってきたアスカ。
シンジはどこまでそういったことを考えてくれているんだろう?
そんなことを思いながら、寮に向かって歩く2人。
「ねぇ…今夜も、来てほしいな…///」「うん、もちろんだよ」「ふふ、ありがと」
腕を組んで歩く2人。「あ、見て見てシンジ!」アスカが空を見上げて言う。
「綺麗な空…」「ほんとだ」晴れ渡る夜空に満天の星。
今の世界の星空も、きっとあの頃と同じように綺麗なままだ。
「そうだ、今夜はベランダで星でも見ない?」「いいね、バレなければ」
「大丈夫よ、寮長のお墨付きもらってんだから」
ふいに、すーっと流れる星がひとつ。シンジとアスカは同じ願い事をする。
何をお願いしたかは、言ってしまうと叶わないらしいので、ここでは言わない。

61: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:04:40.62 ID:???
「ねえねえ、ワンコ君、」
体育の授業が終わって、更衣室から教室に戻る途中、シンジはマリに呼び止められた。
「あ、真希波さん、どうしたの?」タオルで汗を拭きながらシンジはマリに返事をする。
「いや、ワンコ君は姫への誕生日プレゼントをどうするのかにゃ…、と思ってさ」
「え?アスカの?」「そうだよ、まさか忘れてるってことはないと思うけどさ、」
「いや、まあ覚えてはいますけど、でもなんで?」
「そりゃまあちょっと、気になってさ、ほら、被っちゃったらマズイじゃん」
「なんだか棒読み調なんですけど…」ジトー「いやいやいや、そんなことないにゃ」
マリは辺りの様子を窺い、アスカがいないことを確かめると、シンジの肩を抱いて廊下の隅っこに連れて行く。
「ちょ、当たってますよ…///」「何が?」「分かってるくせに苛めないでくださいよ…」
肩甲骨付近に当たる胸の感触にドキドキするシンジ。ちなみにドキドキの半分は、
アスカに見つかったら何をされるか分からないという恐怖感のドキドキであることは言うまでもない。
マリはそんなシンジの反応を、明らかに楽しんでいる様子。
「とっておきの情報を教えてあげやう。姫はワンコ君との目に見える絆を求めているにゃ」
「目に見える、絆?」「そうにゃ」
「この前私が見かけた時には、姫ったら、左手の薬指を撫でながら、空想に耽っておったぞよ、」「はぁ、」
「きっとあれは、ワンコ君から左手薬指に指輪を嵌めてもらう夢を見ていたに違いないにゃ!」
シンジはちょっと顔が赤くなる。それを見てマリがニヤリとする。

62: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:05:16.04 ID:???
>>61
「いいかいワンコ君、女はそういう「カタチ」が大好きにゃ。給料3ヶ月分とは言わん、
そりゃワンコ君も姫もまだ学生だし、でも何らかの「カタチ」で気持ちを表現すべき時
でわないのかにゃぁ?」
マリがシンジに顔をくっつけそうなくらいに近づいて、シンジに語る。ミントガムの香りがほんのり漂う。
「気持ちをカタチで、ですか?」「そうにゃ」
「そうすれば今よりももっと親密緊密な仲になり、その後にくるクリスマスでは…
『シンジ、恥ずかしいけど、クリスマスプレゼントは、あ・た・し///』
なんてにゃゃああああああああああああ」
そのままシンジの肩を滑り落ちるように廊下に倒れ込むマリ。
その背後から踵落としをお見舞いしたアスカが現れる。
「コ ネ メ ガ ネェ~」ビキビキビキビキ
物凄い威圧感と殺気を迸らせながら、倒れているマリを見下ろすアスカ。
「い、痛い…痛すぎるにゃ…もうちょっと姫は加減というものが出来ないのかにゃ…」
「はぁ?またどうせ良からぬ事をシンジに吹き込んでたんでしょ?吐けゴルァ」
よろよろと立ち上がるマリの胸ぐらを掴んでいるアスカの姿に、獣の匂いを感じ取って怯えるシンジ。
「…しましま」「は?」「姫の今日履いてるパンツ、今見えたにy」ゴスッ
頭突きを喰らって昏倒するマリを放置し、シンジの手を取って廊下を歩き出すアスカ。
「ったく、油断も隙もありゃしない。シンジもあんなのに付き合ってちゃダメよ!」
「…いやでも、なにもあそこまでしなくても…」
「いいの、あいつはあれくらいやらないと懲りないんだから、現にほら、」
アスカにつられてシンジが後ろを振り返ると、マリが立ち上がって廊下を去るところ。
こちらに気がついて振り向いて手を振る。その手にはタオル。
「あ、あれ、僕のタオル」「ワンコ君の汗付きタオル、ゲットだにゃw」スタコラ
アスカが猛然とダッシュしていくのを見て逃げ去るマリ。それを見ながらシンジは考える。
「(うーん…指輪かぁ…)」

63: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:07:26.63 ID:???
>>62
あの日から数日、アスカはイライラしている。原因は、そろそろ始まりそうな生理のせいでも
もうすぐ始まる期末試験の勉強が進んでいないせいでもない。
シンジだ。マリにちょっかいを出されたあの日から、ふさぎ込んでいるように見えるシンジが原因だ。
あれからアスカが何を話しかけても、何か身が入っていないというか、上の空ではないんだけど、
心ここにあらずというか、そんな感じがするのが、アスカの癇に障る。
もうすぐ自分の誕生日だというのに、そのことに触れようとすると何故かシンジは慌てて話を逸らしてくる。
シンジに限って、自分の誕生日を忘れるはずがない。それなのにこの態度。
間違いない、あの時マリに何か吹き込まれたのだ、ここ数日でアスカはそう確信する。
そこでマリに真相を問い質そうとして、昨日の放課後に教室に行ってみたら、マリは病気で学校を休んでいた。
そればかりか寮にもいない。気になって職員室まで行って事情を聞いてみると、
マリはインフルエンザで実家で療養しているとかなんとか。
「ちっ、逃げたわねあの尻軽性悪女…」
アスカが思わず打った舌打ちの怖さに、担任の加持が震え上がる。
そのイライラには多少の嫉妬心が含まれているのだが、アスカはそれに気がついていない。
そんなイライラを最早隠そうともせず、職員室から教室まで戻ってきたアスカ。
このイライラを少しでも鎮めてくれるのは、自分の恋人しかいない。
「仕方がない、シンジ、帰りましょ、って…あれ?」
シンジがいない。ヒカリに聞くと、先に帰ったという。
「アスカと一緒じゃなかったの?てっきりアスカと一緒に帰ったのかと思ってたわ…」
床がキュッと鳴るくらいの勢いで踵を返すアスカの後ろ姿を、珍しい事もあるもんだ、
というような顔でヒカリが見送っている。

64: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:08:27.91 ID:???
>>63
シンジとアスカが別行動になるのは、そんなに珍しいことではない。お互いに用事があって、
1人で帰ることも…月に1回か2回くらいはある。それに月に1回くらいはアスカも実家に
帰るし、シンジも友達と遊ぶため、今までに2度や3度は地元に戻った事もある。
トイレと風呂以外はいつも一緒にいる、と言われる2人だが、決してそんなことはないのだ。
ただ、今のアスカにはそこまで受け止める余裕がない。
「何よ、シンジまで…」クッ
ただただ、イライラが募る。道端の小石を蹴っ飛ばす。落ち葉を踏みにじる。
ヤケ食いでもしてやろうかとコンビニに寄って栗あんみつでも買おうとすれば、
売り切れている。ますますイライラが募り、気づくとポテチを3袋とアイスを3つばかり買っていたりする。
そんなことですっきりするわけもないのに、何かに当たり散らしたくなる。
そんな気持ちは寮に帰ってからも続いた。
「シンジ!」部屋に行ってみると…誰もいない。ラウンジにも食堂にもいない。
寮長を捕まえて聞いてみても
「ん?まだ帰ってきてはおらんな…。どうした?喧嘩でもしたか?」
と逆に訊かれる始末。寮の中をあちこち探してみたが、どうやら本当に帰ってきていないみたいだ。
仕方なく部屋に戻っても気持ちが落ち着かない。というか、収まりどころが分からない。
着替える気にもならず、ただただ、部屋の中をうろうろする。
気づくとポテチの袋が2つ、空になっている。3つ目は…残り半分。
冷蔵庫から出したコーラも殆ど残っていない。
「そうだ、メール!」
イライラしていて気づかなかった。シンジにメールしてみればいい。
「今どこにいるの?」送信。
いつものシンジならどんなに遅くとも2分以内に返事が来る。
しかし、その2分が長い。部屋を行ったり来たりしてみても、5秒くらいしかかからない。
その5秒ごとにメールのチェックをして、「まだ返ってこない」イライラ
「まだ…」イライライライラ
「何やってんのよバカシンジ…」イライライライライライライライライラ
「あ゛―っもう!」返事を待ちきれずに電話をかけてみる。

65: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:11:23.10 ID:???
>>64
トゥルルルルル…トゥルルルルル…トゥルルルルル…プッ「こちらは留守番電話サービスセンターです」ブツッ
思いあまって携帯を壁に投げつけようとしてしまうアスカ。
それを思いとどまるのにもかなりのエネルギーを使う。
「あーもうっ!どこ行ってんのよバカバカバカバカ!!!」
癇癪を起こして枕を壁に投げつける。
しかし、2分経っても5分経っても返事は来なかった。
イライラがだんだんと不安に変質していく。
いくらメールを打っても、電話をかけても、反応が返ってこない。
今までこんなことなんて、なかった。
怒りが不安へ、不安が、焦りへ。
「ちょ、どうしたのよバカシンジ、さっさと返事しなさいよ…」
携帯を握りしめ、数秒ごとにメールと電話を交互にかけるアスカ。
いつしか、留守電はいっぱいになり、メールの件数も50を超えてくる。
アスカの頭の中は、今ではネガティブなことでいっぱいだ。
「(シンジってば、どこかで事故にでも遭ったのかしら…。どこかで変質者に刺されてたりとか、
踏切で自殺しようとした人を助けようとして代わりに轢かれてたりとか…
ひょっとしたら某国の工作員に拉致されてたりするのかも…)」
アスカの脳内では、各々の想像に対応して、その事故のシーンが走馬燈のように駆け巡っている。
「アスカ!」シンジの最期の言葉はアスカを呼ぶ声。「愛してる」という続きの声は、
発せられなかったり、電車のブレーキ音でかき消されたり、工作員に嗅がされるクロロホルムに吸い込まれたり…
「あああああ、あたしのシンジが…シンジが…死んじゃったらどうしよう…」
とめどなく流れる想像が暴走を始め、アスカの頬を涙となって顕れ出てくる。
「(どうしよう、こんなことになるなら、最後に「愛してる」って言っておけば良かった。
イライラしてて当たり散らすように何か叫んだのが最後の会話になるなんて、イヤ…
あの困ったような表情が、あたしのシンジの最後に見た表情だなんて…
どうしよう…シンジがいなくなっちゃったら、あたし本当に本当に生きていけない…。)」
ボロボロと泣き崩れるアスカ。ベッドに突っ伏してオロオロと泣く。
他人には絶対に見せられない姿だが、個室ということもあって、妄想が全開で暴走している。

66: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:12:13.58 ID:???
>>65



ガバッと起き上がるアスカ。携帯が鳴ってる!バイブレータがブーンという音を立てて、
アスカの携帯が、カーペットの上で小刻みなダンスを踊っている。
手を伸ばす。まるでフォースによって引き寄せられるように、携帯がアスカの手元に吸い込まれる。
でも着信番号は、知らない番号。少なくともシンジのものではない。このへんの市外局番だ。
瞬間的に「(まさか…シンジが運び込まれた病院…?!)」という思いが頭のてっぺんから降ってくる。
飛びつくように電話に出る。
「はい、もしもし、」
「あのー、そちらは惣流アスカさんの携帯でいらっしゃいますか?」若い女の声だ。
「そうですけど…」怪訝そうな声で返事をするアスカ。
「あの、こちら市立病院なんですけど、あなた、碇シンジさんのお身内の方ですか?」
その瞬間、全身の血が一気に引く。ザーッという音が聞こえたような気がする。
「シンジが!シンジがどうかしたんですか???」
携帯を食べてしまいそうな勢いでアスカが叫ぶように訊く。
「あ、碇シンジさんがですね、先ほど事故に遭われまして…」ガチャ
続きはもう何も聞こえない。アスカの頭の中には、市立病院という単語しか残っていない。
部屋を飛び出す。部屋から玄関までの距離を世界記録並みの速度で駆け抜けると、
靴をつっかけただけで外に飛び出す。
「うぉ、なんや惣流、慌ててどこに行くんや?」
玄関でトウジとぶつかりかける。
「話してるヒマはないの!どいて!」
血相を変えて叫ぶアスカにただならぬものを感じるトウジ。
「どうしたんや…なんかあったんかいな?」
「そうだ!バカジャージ、自転車貸して!」「は?何に使うんや?」
トウジがそう聞いた時には、既にアスカは玄関横の自転車置き場からトウジの自転車を引っ張りだしていた。
「いいから!借りるから!」「な、ちょ、待てや…」チャリィィィィィィィ
「行ってしまいおった…なんや何をそんな慌ててるんやろ…」



68: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/03(火) 00:14:43.32 ID:???
>>66
寮を出てすぐにミサトのクルマとすれ違う。急ブレーキをかけて止まるミサトのクルマ。
「アスカ!シンジ君が…」「知ってる!聞いた!」ズキュゥゥゥゥゥゥゥン
「乗ってく…ってあらまぁ、もう行っちゃったわ…」
猛烈なスピードで視界から消え去る自転車を見ながら、ミサトが半分呆然としている。
「…愛よねぇ、って感心してる場合じゃないわ、私も病院行かなきゃ」

自転車を猛烈な勢いでこぎながら、アスカはひたすらシンジのことを考えている。
「(お願い神様、シンジを助けて!)」
赤信号を有無を言わさぬスピードで通過、続いて踏切の段差に転倒しかかりながらも速度だけは落とさない。
市民病院までの約5kmの道のりを凄まじい速度で爆走するアスカ。
「(あたしたち、一生一緒にいて幸せになるんじゃなかったの?この前見たあの映像は幻だったの?
なによりあたし、まだシンジに伝えてないこといっぱいあるもん…それに…それに…
あたしまだシンジに捧げてないもん結ばれてないもん…このままお別れなんて…絶対に嫌!)」
アスカの目から再び涙が流れ落ちる。その涙は、風に運ばれ消えていく。
「シンジ、シンジ、シンジ…」
病院が見えてくる。いわゆるママチャリで、寮から市立病院までの5.2kmの道のりを僅か7分半で走破したのは、
これも後に学院の伝説の一部となるのだが、これも余計な事なので詳述しない。
全く速度を落とすことなく、病院敷地内に突入。駐輪場を見つけるが…
「…(止まりきれない!)」
フルブレーキング。両輪ともロック。リアタイヤがスライドする。カラダが投げ出される。
受け身を取ってその場で2回転ばかりして、アスカは立ち上がる。
あちこち打って擦りむいたが、痛みなんて感じているヒマはない。そのまま走る。走る。
バァン「シンジ、シンジはどこ?」ハアハアハア
「…申し訳ありません、どちらのシンジ様でいらっしゃいますか?」
受付に飛び込まんばかりの勢いで、猛然とダッシュして来たアスカに、若干怯えの色を
見せつつも、受付嬢はパーフェクトに事務的な対応をする。
「ハアハアハア、碇…シンジ、です、さきほど、電話、もらって…」ゼーゼー
「碇…シンジ様ですね…」カタカタ
コンピュータを操作する受付嬢。その間がもどかしい。

72: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:06:32.60 ID:???
>>68
「あ、碇シンジ様、確かに今は診察中ですが…失礼ですが、お身内の方ですか?」
「…ハアハア、そうです」「…ごきょうだいで?」「…違います、」
「申し訳ありませんが、ご家族以外の面会はお断りしておりまして、お友達や彼女さんには
ご遠慮いただいております」「…違います、あたしは彼女なんかじゃなくて、」
「え、あなた、彼女さんですよね?ごめんね、申し訳ないけど…」「…違うもん」「え?」
「あたし…です」「あの…だから彼女さんなら申し訳ないんですけど、」
カチッ、という音が聞こえたような気がした。アスカは俯き加減だった顔を上げて、真っ直ぐに
受付嬢の顔を見て、自分の感情を乗せた言葉を叩きつけた。
「あたし、碇シンジの妻なんです!」バン!
びっくりする受付嬢。「で、でもそれって制服で…」
「なによ、高校生の夫婦がいてもおかしくないでしょ?文句あんの?」ギラッ
「…!」その目の青白く光る炎のような輝きに、ただならぬ殺気を感じた受付嬢。その勢いに押されてつい口走る。
「…今は外科病棟の301で」ダァァァァッシュッ「…あら、いない」

73: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:08:10.43 ID:???
>>72
エレベータが1階ホールにいないと見るや、階段を駆け上り、
3階の外科病棟にアスカが辿り着いたのは、それから僅か15秒後。
「…ゼーゼー」さすがに息が切れる。空気を、酸素を身体が欲している。目の前が暗くなる。
それでもアスカは半ば本能的に301号室を探す。看護師は面会客には目もくれず、
ナースステーションの奥で何事か話し込んでいる。
「…301、あった」
そこには「面会謝絶」の札と「碇シンジ様」のプレート。
「…ここにいるっていうことは、まだ生きているってことよね…」
「(神様…どうかお願い!)」自分の生涯の伴侶が無事である事を祈って、ドアを開ける。
「…シンジ、」
ゆっくりと中に入る。カーテンがベッドの周りをぐるっと一周している。ただ、室内はとても静かだ。
瞬間、嫌な予感かしてアスカはそのカーテンに飛びつく。引き毟るようにカーテンを開けて、
中に飛び込む。
「シンジ、大丈夫?」バシャッ
カーテンが凄まじい音を立ててベッドの隅に追いやられる。そこに、シンジは居た。
眠っている。
左足はぐるぐるに包帯が巻かれ、吊られている。右の側頭部に氷嚢があててある。
「…シンジ、」そっと手を握る。暖かい。生きている。
「…良かった…」
一気に力が抜ける。そばにあった丸椅子に座り込んで、そのままアスカは泣き出す。
「…死んじゃったのかと思った…良かったよ…シンジィ」エーン(ノД`)
その声にシンジが反応する。ピクッと手が動き、アスカの手を握りしめる。
アスカはその動きに泣いていた顔を上げて、シンジを見る。
うっすらと目を開けたシンジがそこに。
「…ア、アスカ…来てくれたんだ…」「いいの、しゃべらなくて、いいの」
アスカは涙を拭こうともせずにシンジの手を握りしめる。そして抱きつく。
「ごめんなさい…」ウェーン(゜´Д`゜)
シンジがなんのことか分からず、きょとんとしている。

74: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:09:08.88 ID:???
>>73
「まぁったく、おっちょこちょいなんだからw」
病棟の待合スペースでミサトに頭をコツンと小突かれて、アスカはテヘヘと照れくさそうに笑う。
もう泣いてはいないが、目は腫れ上がっていて、美少女の名をほしいままにしていた面影が、ちと薄れている。
「最後までちゃんと話を聞いていれば、そんなに慌てなくても済んだのにねぇ」
ミサトが呆れたように言う。
シンジは買い物帰りに、小さな子供が道路に飛び出したの見て、
反射的にその子を助けようと追いかけて道路に出てしまい、そこへやってきたクルマに
左足を踏まれたのだった。
結果、転倒。左足の中指~小指の骨折。足首の捻挫。それと、転んだ拍子に頭をぶつけて、軽い脳震盪。
シンジは事故の瞬間はよく覚えていない。
ただ、子供は無事で、すぐ横にあった公園でママ友とのおしゃべりに夢中になって
事の次第に気づかなかったお母さんが、真っ青になっていたのはなんとなく覚えている。
救急車が呼ばれ、警察がやってきて、あれよあれよという間に病院に運ばれたシンジ。
そこで現場に携帯と鞄を落としてきてしまったことに気がつき、看護師さんに頼んで、アスカのところと
学校に連絡をしてもらった、というのがこの事故の流れ。
アスカが到着した時、シンジは頭を打ったのと痛み止めの薬が効いていたのもあって、眠っていた。
一応脳の検査もして、異常はないとのことだったが、念のため今晩は病院に泊まるとのこと。
それ聞いた時のアスカは、まるで戦場に行く新婚2日目の夫を見送る妻のような面持ちで、
半泣きになっていた。…ところに、受付で事情を聞いてミサトがアスカを引き取りにやってきた、というわけ。
「それはそうとアスカ、あんた受付でシンジ君の妻です!って叫んだんだって?」ニヤニヤ
「ちょ、ミサトなんでそんなこと知って…/////」カァァァァァ
俯いて顔が真っ赤になる。
「ひゅーひゅー、お熱いですわねお2人さん」ミサトがここぞとばかりにアスカをいじりに来る。

75: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:10:48.51 ID:???
>>74
「(な、なによ、実際そうなるんだから、別に構わないじゃない!)」
とは、恥ずかしくて言えないアスカ。そんなアスカを見て、
「(初々しくていいわぁ、若いっていいわねぇ)」とにんまりするミサト。
「それよりアスカ、あなたもあちこち傷だらけじゃない、」ミサトが心配する。
「ううん、このくらいなんでもないわ。あとでちょいちょいっと消毒しとけば勝手に治るわよ」
アスカはシンジが無事だったので、自分の擦り傷くらいどってことない、という気分になっている。
「そう、それならいいけど」ミサトもそんなアスカの気持ちを理解して、それ以上深入りはしない。
「それより、これから警察行くけど、アスカも来る?」
「警察?どうして?」アスカの疑問にミサトが答える。
「シンジ君、荷物現場に置いて来ちゃったのよ。警察が預かってくれてるらしいから、
今から取りに行くの。で、どーする?一緒に行く?」
答えは言うまでもない。

「あ、あぁ、あれね。ちょっと待って」
女2人を上から下まで値踏みするようにずずずいっと眺めた後、奥に消えていく警官。
無愛想&無礼極まりない態度に、ちょっと苛つく女2人。
「警察っていっつもこんな感じなの?あたしたちの税金で喰っていけてるって自覚ないんじゃないの?」
「…私も何度もスピード違反で捕まってるからあんまり大きい声では言えないけど…全くその通りだわ」
アスカとミサトがひそひそ声で話をしている中、その無愛想な警官が鞄を抱えて戻ってくる。
「はい、これね。中身、確認して」
まるでゴミでも扱うかのように、カウンターの前に投げ出されたビニール袋。
その中にシンジの鞄と携帯が、各々さらにビニール袋にパックされて入っていた。
警官はそのままそこに立っている。中身を開けて確認しろ、ということらしい。

76: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:11:24.67 ID:???
>>75
「やれやれ」
ミサトとアスカは顔を見合わせて肩をすくめると、ビニール袋を開ける。
「どう、これみんなシンジ君ので間違いない?」ミサトがアスカに訊く。
「ええ、みんなそうよ。間違いないわ」アスカが答える。
携帯は着信を知らせるランプが黙々と愚直に点滅している。数時間前の自分の醜態を思い出して、
苦笑いをするアスカ。そのまま黙って作業を続ける。
見慣れた筆入れ、教科書ノートの類、財布、文庫本。芥川の「奉教人の死」。
「…シンジ君って、今時スゴイの読んでるのねぇ…」国語科教師が感心している。
「この前は、泉鏡花読んでたわよ、外科室最高とか言ってたけど」アスカが答える。
「…このご時世に益々絶滅危惧種な高校生ね…」「ちょっとミサト、あんた国語教師なんじゃないの?」
「そうだけど、今時の高校生なんて授業で無理矢理にでも読ませない限り、
このへんのは読まないわよ…って、あら、何かしら?」
ミサトが鞄の奥から何かを見つける。
黙って、鞄からそれを取り出す。小さな紙袋。中には…箱が入っている。
小さい箱。綺麗に包装されている。
アスカが息を飲む。中身が分かったからだ。「…シンジ」
その震える声にミサトがアスカを振り向く。そして、察する。そっと、その紙袋を鞄の奥に戻す。
「…シンジ君には、黙ってなさい」無言で頷くアスカ。涙がポロポロと床にこぼれ落ちる。
「…そして、ごめんなさい」何か、触れてはいけないものに触れてしまった気がして、
ミサトが謝る。それから静かにアスカの頭を撫でる。
「あなた、シンジ君を大切にしなきゃダメよ。あんないい男、なかなかいないんだから」
黙って頷くアスカ。ミサトにしがみつくように抱きつく。ミサトのジャケットが、少し濡れる。
「…お姉さん、ちょっと羨ましいわ」
アスカの肩を抱きながら、ミサトがしんみりと呟く。加持の顔が浮かぶが、首を振って幻影を追い出す。
「ほら、帰るわよ」「うん」
帰りの車内で、2人はそれぞれの物思いに耽る。言葉はないまま、月が傾いていく。

77: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:12:52.79 ID:???
>>76
翌日。トウジに自転車の件を詫びつつ(病院に置きっ放し)、放課後を待ちきれないアスカ。
シンジはお昼には退院している筈で、たまたま授業のないミサトが迎えに行った。
「(今頃は寮に着いている頃かしら…)」
午後の授業をそんなことを考えながらぼんやりと聞いているアスカ。当然、話の内容の半分も聞こえていない。
「…惣流、おい聞いてるのか?惣流!」
ハッ「あ、はい」「じゃあ、そこの問3を」「…すいません…わかりません」
教師が呆れたように言う。
「おまえさ、旦那が心配なのは分かるけど、まだ学生なんだし、試験前なんだからさ、
もうちょっとは集中しろよ…(´・ω・`)」
はははは、というクラスの笑い声の中、反論出来ず真っ赤になって俯くアスカ。
そんなアスカを心配そうに見つめるヒカリ。と、そこにチャイムが。
「お、時間だ。じゃあ、試験までに範囲内の復習をしっかりやっとくんだぞ。」ハーイ
起立、礼、とやって物理教師の時田が顔を上げた時、アスカの姿は既にそこになかった。
「…愛だねぇ」教師の呟きにクラスの殆どが笑う。でも、それはアスカとシンジの仲を応援する、明るい笑いだ。
「あ、最後に余計な事かもしれんが、ひとつだけ教えておこう、」時田が言う。
「試験には出ないが、結婚式に呼ばれた時のご祝儀はな、友人は3万円が相場だ。
今から貯めておいた方がいいかもしれんぞ」

78: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:16:54.93 ID:???
>>77
「…シンジ!」
クラスの仲間が教室の掃除を始めようとしている頃、アスカは既に寮に着いて、シンジの部屋の
ドアを開けていた。昼間なので寮長には許可をもらっている。
「あ、アスカ…ごめん」シンジはベッドに横になって本を読んでいた。
「謝ることなんてないのよ…大丈夫?」今にも泣き出しそうな顔で、アスカが訊ねる。
「うん、大丈夫だよ。腫れも収まってきたし、痛みも薬飲んでるから、あんまりないよ。」
シンジが起き上がる。「ちょ、寝てなきゃダメなんじゃないの?」アスカが慌てる。
「ん、大丈夫だよ。足首がちょっと痛いけど、折れた場所に気をつければ、歩けるんだよ。」
その言葉通り、シンジは立ち上がると机まで歩いていき、そこにあった紙袋を取ると、アスカの方に向き直った。
「アスカ…、こんな場所でなんだけど…お誕生日おめでとう」
「!」来た。分かってはいても顔が上気し、赤くなる。緊張する。
シンジがあの紙袋から包装された包みを取り出す。開ける。中には…指輪が輝いている。
「指のサイズがよく分からなくて…サイズ合わなかったらごめん…あと、
あまりお金も持ってなかったから、そんなにいいモノじゃなくて、ごめん…」
「…バカ」「…ごめん、気に入らなかった…かな」
アスカは黙ってシンジに抱きつく。
「…ううん、そんなんじゃないの。…でも…やっぱりあんたはバカよ…」そのままシンジの腕の中で泣き出すアスカ。
「あたし…何も要らない。シンジがそばにいてくれるのが、最高のプレゼントだもの」
昨日今日で痛感した。シンジがいなかったら、自分の人生は空虚で寂しくて、つまらないものだった。
シンジがいてこそ、アスカは自分らしく振る舞えるし、笑うこともできる。幸せを感じられる。
「シンジが全て、あたしのものにならないなら、あたしは何も要らないんだから」
「…うん」アスカを抱きしめるシンジの腕に、ちょっと力が増す。
「僕の全ては、アスカのものだよ」シンジに抱きつくアスカの腕にも、ちょっと力が入る。
「その代わり、あたしの全ては、シンジのものよ」「うん、ありがとう」
そこからは、黙ってキス。ここから先は、言葉はもう要らない。
「…シンジ」「…アスカ」お互いを呼び合う声だけで十分。
唇と唇がだんだん熱を帯びていき、2人の身体と心が火照り出す。

79: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:17:45.75 ID:???
>>78
「はいはい、そこまで~」「!!!」ガバッ
心臓が口から飛び出すというのは、こういう驚きのことを言うのだろう。血圧が220を超え、
一瞬目の前が真っ赤になる。
「なななななな、なんでそこにいるのよミサトぉぉぉ」アスカの声は、最早悲鳴だ。
「あ~ら、お邪魔しちゃって悪かったわねぇ、それにしてもドア全開でって、いきなりマニアックな
プレイよねぇ~」ニヤニヤしながら近づいてくるミサト。
だが目は笑っていない。
「シンジ君にプリント持ってきたんだけど…お取り込み中だったかしらん?」
「お取り込み中よぉぉおおおおおお」穴があったら入りたい、いやむしろ自分で穴を掘って
そこに埋もれていたい。アスカは恥ずかしさのあまり、顔を覆い、天を仰いで絶叫する。
その拍子に、悪事が露見した子供のように硬直しているシンジにぶつかる。
「痛っっったぁぁぁあああ」左足を踏まれてシンジ悶絶。その様子を仁王立ちになって見守るミサト。
「おほん、あんた達、時と場所をわきまえなさい。明日から期末試験でしょ!特にアスカ、
あんた大丈夫なの?次赤点取ったら留年も視野に入ってくるわよ」
「え?アスカ…ほんとに?」優等生シンジが痛みと驚きとで目を白黒させてアスカを見る。
「…だ、大丈夫よ、もう試験勉強なんてバッチリなんだから!」声がうわずっているアスカ、
全く説得力がない。
「まあそのへんは自己責任だけど、とにかく、試験は明日なんだから、乳繰り合ってるヒマが
あったら、今から部屋に戻って、少しは悪あがきしなさい!」
ミサトはそう言うと、プリントをシンジの机の上に置き、アスカの手を取ると、部屋から連れ出す。
「あ、あと鈴原君の自転車、クルマに乗っけて来たから。お礼言っときなさいよ」スタスタ
何も反論できずに連行?されていくアスカ。「…はい」ショボン(´・ω・`)

80: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:19:25.75 ID:???
>>79
夕食の時間、食堂で独りで食事をしているアスカ。シンジは今日いっぱいは安静ということで、
特例で部屋で食事をすることになっている。寂しさを紛らわすかのように、コンソメスープを
かき回すアスカ。左手の薬指で指輪が回っている。
「(ちょっと大きかったかな…、でもあたしももう少しは大きくなるだろうし…それよりもいつかは…///)」
ぼんやりと赤と白の石がちりばめられた指輪を見つめる。
シンジの想いや自分の想いにしばし浸るアスカ…。試験勉強は…妄想の裏側へ(´・ω・)
「…で、結局なんにもしなかったのかにゃあ?」
スープをかき回す動きが止まる。この声、この猫語。間違いない。
ゆっくりと視線を上げながらアスカは言った。束の間の妄想の時間はおしまいだ。
「うっさいわねコネメガネ、だいたいなんで知ってんのよ?」
「ん?さっきプリント届けにきたミサト先生が楽しそうに話してたにゃ」
「あの嫁き遅れババア…(怒)」「…まあまあ、姫、落ち着くにゃ」
マリが向かいの席に座る。心なしか、少しやつれた気がする。肌に張りがない。

81: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/04(水) 00:19:56.30 ID:???
>>81
「元はと言えば、あんたがシンジに変な事吹き込んだせいで…」
「おや?私がワンコ君にアドバイスしなかったら、その指に収まってるダイヤ&ルビーちゃんは
今頃どこぞの他人のものになってるのでは?」「うっ…」
「ほらほらぁ、感謝こそすれ恨む筋合いはないってもんじゃない?」
「う…ま、まあそうかもしれないけど…」「ほい、」
マリがアスカに袋を渡す。こぢんまりとしたピンクの布袋で、リボンで口が縛ってある。
「え…何これ?」「おめでとう。誕生日プレゼントにゃ」
そう言うとマリはすっと立ち上がる。
「ワンコ君のいるところで開けて欲しいにゃ」「え…う、うん。ありがと…」
思いもよらぬ人物から、思いもよらぬプレゼントに、アスカは驚きの色を隠せない。
いつもの反応も出来ずに、素直に袋を受け取り、ただ、黙ってマリの後ろ姿を見送った。
「…なんだ、あいつもいいとこあるじゃん」
そう呟くとアスカも立ち上がる。シンジのところに晩ご飯を届けに行こう。
そしてその時にこの包みを開けてみよう。
バタバタの誕生日だったけど、なんだかちょっといい気持ちになってこの日が終われるのは
ちょっとした幸せなのかもしれない。来年はシンジと2人っきりで祝えたらいいな…、
そんなことを考えながらその日の夕食をトレイに乗せて、シンジの部屋に向かうアスカだった。

その包みの中身が薄さ0.02mmのゴム製品で、鬼の形相でアスカがマリの部屋に怒鳴り込みに行くのは、
それから30分後の話。ちなみにマリは、当然のことながら、逃げ去った後で居ない。

152: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:49:13.83 ID:???
色づく木々から漏れる日差しの柔らかさに、気持ちよさそうに伸びをするシンジ。
短いようで長かった期末試験も今日で終了。これから24日まで試験休み。
そしてその24日はクリスマスイヴだ。
足の指の骨折は幸いにも軽度のもので、今は許可を得てサンダルで学校に通っているシンジ。
冬休み明けには完治とは言わないまでも、日常生活に支障がない程度には回復しそうだ。
その安心感と試験が終わった達成感とで、シンジは大きな欠伸をする。
それから隣を歩くアスカに話しかける。
「こんな足だけど、試験休みの間に映画でも行こうよ…って、アスカ?」
アスカはシンジの声が耳に入らないかのように、俯いて、しかめっ面をして歩いている。
「どうしたのアスカ?大丈夫?」ただごとならぬ様子に、シンジが心配する。
「…大丈夫よ…ただ、」「ただ?」「…寒い」
そういえば、今日はスカートの下に分厚い黒のタイツを履いて、茶色いカシミアのコートに
千鳥格子のマフラーをぐるぐると巻いて、とにかく防寒一方専守防衛な格好のアスカ。
制服にマフラーを巻いただけのシンジとは対照的だ。それだけに、シンジは心配になる。
「アスカ、大丈夫?熱でもあるんじゃないの?」アスカのおでこに手を当てる。熱い。
「アスカ、熱があるじゃないか、それもかなり高いよ」シンジが慌てる。
「…ん、知恵熱よきっと。ミサトに邪魔された日からほとんど寝ないで勉強したからね…」
ずずず、と鼻をすすりながらいつもより1トーン低い声で話すアスカ。
「…喉も、痛いの?」「…」シンジの問いかけに、黙って頷くアスカ。
「…病院、行こうか?」シンジの問いかけに、手をぎゅっと握ってくるアスカ。
「大丈夫だよ、僕も一緒に行くから」シンジの言葉に、ほっと安心する様子が伝わってくる。
「(う~ん…しかしこりゃ大変なことになるかもしれないぞ…)」
シンジは近くの病院を検索しながら、ミサトに相談すべきか否か、悩んでいた。

153: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:50:35.47 ID:???
>>152
「インフルエンザですね。お薬出しますから、とにかく他人に移さないように気をつけて、
水分摂って暖かくして寝ていなさい」
寮から歩いて3分のところにあった小さな診療所。そこのおばあちゃん先生に、穏やかに、
しかしきっぱりと病名を告げられる。アスカの両肩が少し落ちる。そして、溜め息。
「アスカ…、大丈夫?」
診察室から出てきたアスカの表情を見て、シンジはだいたいのことを悟った。
もう遅いかもしれないが、お互いにマスクをして、アスカは雪だるまのように着ぶくれしている。
薬をもらって外に出ると、既に夕方。冷たい風が吹いていて、2人の体温を奪っていく。
「…ん、ダメよシンジ…あんまり、そばに寄ると、移るわよ…」
「大丈夫だよ、僕、この前予防接種受けたし。」シンジは努めて明るく振る舞おうとする。
それがアスカにも伝わって、かえって心苦しいアスカ。
「…ごめんねシンジ」「別に謝ることなんてないじゃないか、仕方がないよ」
「でも…」「いつもアスカ、僕に言ってるじゃないか、すぐに謝るな、って。」
肩をすくめるようにしてアスカが反応する。少し笑ったのかもしれない。
「…きっと、コネメガネだわ…」ぼそっとアスカが呟く。その真意を理解するのに、数秒かかるシンジ。
「いやいやいや、潜伏期間長すぎるよ、普通インフルエンザって2、3日だよ」
「いや、きっとこれはあいつの菌よ…間違い、ないわ」
喋るのもつらそうなアスカの様子を見ると、シンジは何も言えない。黙って曖昧に頷く。

154: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:51:33.84 ID:???
>>153
時刻は夕方だったが、アスカの姿を見ると放っておくわけにもいかず、シンジはそのまま
アスカの部屋までついて行く。ヒカリもアスカの姿を見ると、黙って彼らを見送る。
部屋にようやく辿り着くと、アスカはコートを脱ぎ、セーターを脱ぎ、フリースを2枚と
ヒートテックの肌着を2枚脱ぎ捨て、パジャマに着替える。その間、シンジはドアの外。
「いいわよ」その声にも元気がない。シンジは部屋に入るとアスカの様子を窺いながら、荷物を片付け始める。
こんな時だが、何も言わなくてもお互いの気持ちは通じている。まるで本物の夫婦のようだ。
「!」突然アスカがシンジの背後を慌てた様子で通り過ぎると、トイレに駆け込む。
シンジは心配になってアスカの後を追う。「アスカ、大丈夫?」
「(嘔吐でもされたら後片付けが大変なんだよな…、ちょっと用意だけでもしておこう)」
シンジがビニール袋を何枚か取り出し、そこにあった小さなプラスチックのゴミ箱
(ただしアスカの性格上、使用実績無し)に被せる形で、簡易的な対ゲ○用特殊容器を作成する。
インフルエンザはとにかく数日間は高熱で死ぬほどしんどい。何年か前にインフルエンザで
死ぬような思いをしたシンジには、それが骨身に滲みて分かっている。
「(せめてアスカには、あの時のような思いはしてほしくないな…)」そんな一心で、
アスカを看病する準備を進めるシンジ。

155: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:52:16.11 ID:???
>>154
一方、シンジがそうやって看病の支度をしている時に、アスカはトイレの中で頭を抱えていた。
「はぁ…なんでこんな時になるのよ…」
予定より数日遅れていたのは気づいていた。だが、何も今来なくてもいいじゃないか…。
「つらい日々になりそうね…さすがにこれはシンジにもどうにもならないし…」
寒さに震えながら、身支度?を整えて、トイレから出る。
「あ、アスカ、大丈夫?」「ごめん、ちょっと見ないで」アスカは真っ直ぐに部屋に戻ると、
またすぐに何かを持ってトイレに入る。シンジには訳が分からない。
今度は比較的早く、トイレから出てくる。さっきまで履いていたパンツを洗濯かごに放り込む。
そのままシンジの背後を通り過ぎ、ベッドの中に潜り込むと盛大なくしゃみをひとつ。
シンジはそのアスカの動きを一部始終、視界の隅で捉えていた。なんとなくだけど、アスカの
身に何が起きているのかは想像できた。しかし高校一年の男子、あくまでもぼんやりとした
イメージでしかない。
「(アスカ…大変そうだな…僕に何かできることはないのかな…)」
「…帰っていいわよ…」ベッドの中から弱々しい声がシンジの耳に届く。
「まさか。そんなわけにはいかないよ」シンジは即答する。
「…でも…移しちゃうわよ」ゴホゴホ
咳き込みながらアスカは言う。何か、話すのもつらそうだ。
シンジは予備の毛布を取り出すと、それをアスカの上にかける。
「寒くない?」「寒い」「喉は?」「痛い」「何か…食べたいもの、ある?」「…ない」
それ以上何か訊くのも悪いような気がして、シンジは黙ってアスカの頭を撫でる。
「…でも、何か食べないとダメだと思うから…おかゆでも作ってくるよ」
そう言って一度アスカの部屋を出る。
パタン、静かに閉まるドアの音を、アスカは聞いていない。既に眠っている。

156: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:53:11.40 ID:???
>>155
それから1時間後…。ゆっくりと、ドアが開く。
「…アスカ、おかゆ作ってきたけど…食べる?」シンジだ。
部屋は真っ暗で、返事もない。シンジはゆっくりとベッドに近づくと、机のライトを窓に向けて点ける。
真っ暗な部屋に、ぽっと灯りがともる。アスカは…静かに寝息を立てている。
「冷めちゃうな…どうしよう…」シンジは少しの間考えていたが、やがてまた静かに部屋を出て行くと、
数分後に戻ってくる。手に抱えているのは…カセットコンロとガスボンベ。
それと先ほど背負ってきたナップザックの中に、自分の着替えと毛布。それからスポーツドリンク。
アスカがまだ眠っているのを確かめると、シンジは看病の支度をする。
アスカが治るまで、ここで看病するつもりだ。そのための装備を調えてきた。
ベッドの隣にそのへんに転がっているクッションを2つ3つ並べ、横になれるスペースを確保する。
アスカの枕元にスポーツドリンクと、保冷剤、濡れたタオルと洗面器代わりのボウル
(食堂の学生用キッチンからこっそりと拝借)、万が一の時の対ゲ○用特殊容器をセット。
ごそごそと支度をする物音で、アスカがうっすらと目を開ける。
「あ、ごめん起こしちゃった?」シンジが努めて明るく振る舞う。
「…今…何時?」「19時半ちょっと前だよ、おかゆ作ってきたから、良かったら食べて」
「…要らない」「気持ち悪い?」「…そうじゃないけど…だるい」
アスカのおでこに手を当てる。乾燥した肌の具合から、まだ熱が上がりそうな気配を感じ取るシンジ。
「熱、計る?」黙って体温計を受け取って、寝たまま脇の下に入れるアスカ。
10数秒後にピピピ…と音がして、体温計が、アスカの体温を知らせる。
軽い音の割には、数字は冷酷に39.7℃という現実を教えてくれる。
「トイレ…行かなきゃ」アスカが上半身を起こす。その途端、「寒い!」と震える。
「う~…腰が痛い…」そう呟きながら、牛歩のような足取りでトイレに消えるアスカ。
その間に、シンジはカセットコンロに火を点け、おかゆを暖め出す。優しい匂いが室内に漂い出す。

157: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:54:07.05 ID:???
>>156
「…ん、何してるのシンジ…」アスカがトイレから出てくる。半ば意識朦朧としたアスカは、
そのままベッドに潜り込もうとして、はた、と動きを止める。
「…なんか、いい匂い」「良かったら、少しでもいいから食べて。その後で薬を飲んで、眠ればいいさ」
シンジが茶碗におかゆを少し取り、スプーン(蓮華があれば良かったのだが、生憎なかった)でアスカの口元に運ぶ。
「はい、あーんして」「あ~ん」アスカも熱のせいか、素直にシンジに従う。
「どう?」「…おいしい」「良かったぁ」シンジの顔がほころぶ。
「ほら、少しでも食べて、体力つけなきゃ」シンジが差し出すおかゆを、そのまま素直に食べるアスカ。
茶碗1膳分がなくなる頃、アスカは安心したように再び横になる。
「ダメだよアスカ、寝る前に薬は飲まなきゃ」
シンジが甲斐甲斐しくアスカの身の回りの世話をする。高熱で朦朧としているアスカは、半ば
されるがままになっているが、その表情からはシンジを信頼しきっている様子が窺える。
薬を飲み、その場で歯磨きをし、それが終わるとまた眠りにつこうとするアスカ。
「…行っちゃうの…?」心細そうな表情で、シンジを見る。
「ううん、行かないよ。今夜はずっとここにいるから、安心して」シンジが微笑む。
マスク越しであっても、そのシンジの微笑みは、アスカに伝わったようだ。
「…ん」何枚も重ねられた掛け布団の端から、アスカが左手を差し出す。
シンジは黙ってその手をさすり、そして握る。アスカが安心したかのように、大きく息をつく。
そしてそのまま眠りにつく。今はこれが、おやすみのキスの代わり。

158: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:56:34.50 ID:???
>>157
シンジはふと目が覚める。時計を見ると…午前3時。何となく胸騒ぎがして、クッションを並べただけの
簡易的な寝床から起き上がってアスカの様子を見る。
「…アスカ、大丈夫?」
アスカは眠っている。…が、汗びっしょりだ。息も荒い。熱がまた一段と上がっているみたいで、つらそうだ。
「アスカ、」肩に触れると、パジャマが汗でぐっしょりと濡れている。
アスカは…眠っているというよりは意識不明と言った方がより正確かもしれない、そんな状態で
息をしているというよりは、苦しくて喘いでいる状態だ。
「…大変だ、どうしよう」シンジが少し慌てる。まずはこの全身汗まみれのパジャマをなんとか
しなくてはならない。
「…着替えは…どこだろう?」シンジは机の上のライトを点け、ベッドの下の抽斗、机の背後にある箪笥と
アスカの着替えを探してみる。
ベッドの下の抽斗は…下着だらけ。白やベージュだけではなく、赤やピンク、青やモスグリーン
などの色とりどりな下着に、高校生男子の心は一瞬揺れ動く。
「(バカ、そんな場合じゃないだろ)」
自分を叱咤し、苦しんでいるアスカのためだと着替え探しを続ける。
「…あった!」
机の反対側にある箪笥の中に、スウェットの上下を見つける。とりあえずはこれでいい。
アスカの方に向き直って、そこで初めてシンジは気づく。
「(ひょっとして…僕が着替えさせなきゃいけない…んだよな…)」ゴクリ
週1の訪いの時の添い寝で、シンジは知っている。アスカが夜はノーブラで寝ていることを。
「(これは…ひょっとして…アスカの裸を見てしまうことになるのでは…)」ドキドキドキドキ
意識してしまうともう止まらない。一瞬、止めようかとも考えるが、汗だくで苦しんでいる
アスカを放っておくわけにはいかない。黙ってアスカの部屋にいるということを考えても、
誰かに助けを求めるわけにもいかない。つまり、自分がやるしかない。
「(逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…)」
呪文のように口の中で繰り返し、意を決してシンジはアスカの着替えに取りかかる。
アスカの上半身を起こし、自分が背中からアスカを支える形で、アスカのパジャマを脱がしにかかる。

159: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:57:22.54 ID:???
>>158
ボタンをひとつひとつ外し、腕を抜く。アスカは、目を覚まさない。
パジャマを脱がすと、黄色いタンクトップ1枚になる。シンジは、そのタンクトップもゆっくりと、
しかし断固たる決意をもって、アスカの肌から決別させる。
タンクトップは絞れば汗がしたたり落ちるほどに濡れている。上半身裸になったアスカが、
一瞬身震いをする。「…寒い」ぽつりとアスカが言う。が、目が覚めたわけではなさそうだ。
シンジはそのままタオルでアスカの身体を拭く。背中、脇、腕、お腹、そして胸。
「(…うわっ…すごい綺麗だ…)」
シンジは、そのふたつの膨らみに目を奪われる。薄暗い中でも、これからの成長を予感させる
生き生きとした膨らみ。そして桃色の乳首。
「(いかんいかんいかんいかん、身体が冷えちゃう)」
シンジはこれも断固たる決意を持って、アスカに替えのキャミソールを着せ、その上からスウェットを着せる。
上半身が終わると、次は下だ。起こしていた上半身を寝かせ、続いてズボンを脱がせるシンジ。
足も同じようにじっとりと濡れている。全身から発汗して体温を下げようとしているのだろう。
シンジは、丁寧に汗を拭き取っていく。紺色のボクサータイプの(おそらく)生理用パンツをどうすべきが少し悩んだ後、
そのままにしておくことにした。さすがにシンジと言えど、そこまでのことは出来ない。
スウェットのズボンをはかせる前に、ほんの一瞬、夏にプールでアスカの水着が透けてしまった
時のことを思い出す。今、直にそれを見るチャンスがあるという事実に、シンジのリビドーは
唸りを上げてシンジの理性を吹き飛ばそうとするが、シンジはギリギリ思いとどまる。
「(今は、これでいいんだ)」
そう自分に言い聞かせて、ズボンも履かせ、毛布やら掛け布団やらを何枚もかけて、
枕元に保冷剤を入れ、首筋に濡れたタオルを巻いて、それでようやくシンジの仕事は終わった。
あとはまた、アスカの手を握り、一緒に夢の世界に足を踏み入れるだけ。
「アスカ、頑張れ…」

160: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/24(火) 23:58:29.65 ID:???
>>159
翌朝も、状況はあまり変わらない。アスカは朦朧とした意識のまま、数時間おきにトイレに通いベッドに戻ると眠る。
それを繰り返す。シンジは黙ってアスカの世話をする。
おかゆを温め、枕には保冷剤、首筋には濡れタオル、1日に3回のおかゆと薬。
脱水には気をつけ、こまめに水分を補給させる。
一歩も部屋を出ずに、自分はろくに食事もせずに、献身的にアスカを看病するシンジ。
ゆっくりと時計の針が回り、明るかった空が暗くなる頃になっても、アスカの体温は39℃を下回らない。
アスカの体力もかなりギリギリだが、シンジの疲労の色も濃い。夜中になると、また汗でじっとりと濡れた
アスカを着替えさせ、身体を拭く。ドキドキとした高揚感はまだあるけれど、それよりも
アスカの容態を心配する気持ちの方が大きい。背中にタオルを1枚入れて新しいパジャマを着せると、
シンジの体力も限界に。
「アスカ、頑張れ…僕も…頑張…れ」
アスカの手を握るのと、ほぼ同時に、暗闇に落ちていくかのように、シンジも眠りにつく。

164: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:41:23.98 ID:???
>>160
朝、夜明けと共にアスカが目を覚ます。酷い2日間だった。高熱でうなされ、死ぬような思いをした。
目覚めた、というよりは、生還した、という気分だ。
熱はまだありそうだが、とりあえず山は越えたという実感がある。
「…シンジ、」
ベッドに突っ伏す形で眠っている恋人の頭を、愛おしく撫でる。
もう片方の手は、シンジの手と繋がっている。アスカは、その手も愛おしそうに撫でる。
「(あたしの愛するあなた…ふふっ、あなたって言っちゃった///)」
そこで気づく。パジャマが替わっている。着替えた記憶はない。ただ、夜中に汗びっしょりになって、
苦しかったのは覚えている。
「…!」そういえば、シンジが着替えさせてくれたような気がする…。
でも、ということは…
「(まさか、見られた?)」熱がまた上がりそうになるが、アスカは思い直す。
「(汗まみれだったし、あたしの旦那さまになるんだもの、もうそのくらいはいいはずよね…)」
そう思いながら、気になって自分の胸元を覗き込む。そして話しかける。
「ねぇ、あんたたちはシンジに見られちゃったの?恥ずかしかった?嬉しかった?」
あたしは…恥ずかしいけど、嬉しかったかもしれない。アスカはそう思って、照れ笑いをする。
「シンジ、」その声に、突っ伏していた頭が、ようやくぴくりと反応する。
「…あ、おはようアスカ…、具合はどう?」明らかに寝不足という表情で、アスカを見るシンジ。
「ん…まだ熱はあるけれど…山は越えた感じね、」ピピピピ、ピピピピ、
アスカは脇の下に挟んでいた体温計を取り出す。
「38.0℃、まだあるけど、でもだいぶ良くなったわ。シンジのおかげね、ありがとう」
「そっか…少し熱下がってくれたんだね…、良かったぁ~」最後はあくびと一緒になって、
伸びをするシンジ。「…しょ?」「え?何アスカ?」「…見たでしょ?///」
「え…」カァァァァァ
赤くなるシンジ。
「…ご、ごめん、でもあの時は、アスカ汗びっしょりで、苦しそうだったから、なんとかしなきゃ、って思って…」

165: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:42:12.76 ID:???
>>164
シンジの言い訳には答えず、もじもじしながらも、アスカは言った。
「…ど、どうだった?」「どうだったって?」「バカ、見たんでしょ、で、どうだったのよ?」
顔を真っ赤にしながら訊くアスカに、その意味を理解してこれも赤くなるシンジ。
「…すっごく、綺麗だったよ」「それで?」「え?」「いや…おっきいとか小さいとか…」
「大きさは…よく分かんないけど、でも、とにかくとっても綺麗で…」「…で?」
顔を真っ赤にしたアスカに、シンジがこれも顔を真っ赤にして呟くように言う。
「こんな綺麗な芸術品のようなものが、僕のものなのかな、って思ったら、なんか嬉しいし恥ずかしいしで…」
「…バカ///」
アスカが嬉しさと恥ずかしさで腰をくねらせる…その瞬間、
「やっば!」アスカが跳ね起きてそのままトイレにダッシュ。
置いて行かれたシンジはしばし唖然とする。
「(突然…元気になった?)」視線を元に戻すと、シンジにはその理由が分かる。
シーツに残るしみ。
シンジは黙ってシーツを剥がすと、新しいシーツを出して、セッティングをする。
「…シンジィ、悪いんだけど、箪笥の下から2番目の抽斗から、ジャージのズボン取ってぇ」
トイレから声がする。
「はいはい、」シンジはシーツをセットすると言われた通りにジャージを出し、
ベッドの下の抽斗から、夜見た下着と同じものを出して、一緒に洗面所まで持って行く。
「そこに置いたら出てって。絶~っ対、見ちゃダメなんだから!」
扉の向こうから声がする。
「じゃあ僕は洗濯をしてくるよ。終わったら戻ってくるから」
シンジはそう言うと、先ほどのシーツと汗まみれになったアスカのパジャマ類を洗濯かごに入れて、部屋を出る。
「(ここまで元気になったのなら、もう大丈夫かな)」
試験休みに入って、寮生はまた殆どが帰省してしまい、寮内はがらんとしている。
そのおかげで、誰にも見とがめられずに下まで降りたシンジは、そのまま男子の洗濯室へ。
血のついたシーツは、水で流すと簡単に綺麗になった。シンジはホッとする。
「(血のついたシーツなんて、誤解度400%だよな…誰にも見られなくて良かった…)」
続いて、タンクトップとキャミソールをネットに入れ、パジャマ類と共に洗濯機の中に放り込む。

166: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:43:53.93 ID:???
>>165
と、1枚、はらりとかごから落ちたものがある。拾い上げてみると…アスカのパンツ。
「!」
そういえば、1枚脱ぎ捨ててたような気がする…。すっかり忘れてた…。
「…思ってたより小さいんだな…」
くしゃくしゃっとなった小さな白い下着をまじまじと見つめるシンジ。広げてみる。そして
目の前に掲げてみる。アスカがはいているところを想像する…。
「おや、朝早くからご苦労なことだね、」「!!!」
思わず声が出そうになるところを必死で堪えて、ゆっくりと振り返る。その前にパンツを
冬月寮長に見えないように、さっと洗濯機の中に放り込むことを忘れてはいけない。
「ふ、冬月先生、おはようございます」「うむ、おはよう。細君の具合はどうかね?」
「う…あ、はい、まだ熱はありますけど、山は越したみたいです…」
「そうか、それなら良かった。どうせ君はずっとあちらにいたのだろう?少し休むといい。
看病疲れで君が倒れてしまっては元も子もないからな」
「あ、はい、ありがとうございます」
背を向けて寮内の巡回に向かう冬月を見送ると、シンジはどっと疲れてその場に座り込む。
「あの人、気配なさすぎだよ…」
苦笑しながら頭をかく。そういえば、シャワーも浴びていなかった。
「乾燥させているうちに、シャワー浴びてくるか…」
やがて一通りの行程が終わり、洗濯機が止まる。シンジは洗濯物を取り出し乾燥機に入れ
タイマーをかけると、自分の部屋に戻っていった。

167: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:44:50.66 ID:???
>>166
おおよそ1時間半後、シンジが新しくおかゆを作ってアスカの部屋に持って行くと、
アスカはまた布団を被って眠っていた。洗面所には、そこで洗ったと思しき、
パンツとパジャマのズボンが干されている。
アスカが眠っているのを確かめると、シンジは作ってきたおかゆを卓上コンロにセットし、
洗濯してきたシーツやらパジャマやらをしまい、それからアスカの手を握って、自分の疲れを癒やす。
「(温めるのは、アスカが起きてからで…いいよね…)」
シンジはそのまま目を閉じると、アスカの体温を感じながら夢の世界に足を踏み入れていく…。


ふとアスカが目を覚ますと、隣でシンジが眠っている。アスカの背後から腕を回して、
お腹の前で抱き留めている格好だ。
「ちょっと…移っちゃうよ…」
普段もこのベッドの中で抱き合って眠っているが、今回は寝込んでいるベッドの中だ。
汗で湿っているだろうし、匂いも気になる。なにより、インフルエンザで療養中なのだ、
移してしまっては大変だ。
「ちょっと、シンジ、起きて」
一瞬もったいない気がするが、そこは心を鬼にしてシンジの手をふりほどく。そしてシンジの方に向き直る。
シンジは反応しない。ぐっすりと眠っている。ゆっくりとした呼吸、長い睫毛が時折震える。
その姿に、思わず見とれてしまうアスカ。
「…うう、こいつなんでこんなに寝顔が可愛いのよ…」
そう呟いてしまう。頭を撫で、鼻筋から頬へ、そして唇へと指をなぞっていく。
「(ああ、あたしの愛する人…具合悪いけど、今はなんかとっても幸せ…///)」
インフルエンザで苦しんだ2日間、生理にもなり、とても苦しい思いをした。
でも、そのおかげで、今までで一番、シンジと濃密な時間を過ごせたような気がする。
「(ま…人には言えないわよね…まさか汚しちゃったシーツまで洗濯してもらうなんてね…)」

168: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:46:15.38 ID:???
>>167
自分が今まで張っていた心の壁を、シンジはどんどんと突き崩していく。でもありのままの自分を
見られる事が、シンジの前だと意外と心地よい。シンジが全てを受け止めてくれると分かっているから。
お互いに必要とし、愛し合っていると分かっているから。
思わず顔を赤らめてシンジを見る。もう、この男が知らないあたしはどこにもいない。
あたしがシンジに見せていないものなど、もうどこにもない。全てを見せた。さらけ出した。
あとは…結ばれるだけ…だとアスカは思っている。それがいつになるか分からないけど、
早くそうなりたい。アスカははっきりと意識する。
「ダメ…我慢できないわ…ちょっとだけならいいかな…いいわよね…」
すっと、顔を近づけて、キスをする。移しちゃダメだと分かっていても、吸い寄せられてしまうシンジの唇。
「あぁ、あたしのシンジ…」
そのままシンジに抱きついて、目を閉じるアスカ。シンジの胸に顔を埋め、幸せそうに再び眠りにつく。
穏やかな冬の午後、抱き合った恋人たちを、柔らかい日差しが見守っているかのように包み込んでいた。


「やばっ、寝過ぎた!」
シンジが飛び起きる。それにつられてアスカも目を覚ます。時計を見ると…17時半。
既に外は暗い。雨も降っているようだ。
「ごめんアスカ、今すぐおかゆ温めるから」
ベッドから出て卓上コンロの火を点けるシンジの背中を、まだ少し寝惚けたような顔で見つめるアスカ。
「…ねぇ、シンジ」
「…何?」「…して」「え?」「昨日みたいに、してほしいな…///」
しばらく意味が分からずに、きょとんとしているシンジ。
「昨日…みたいに?」シンジの頭の中はぐるんぐるんと回転している。該当する行為は何だ?

169: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:47:01.27 ID:???
>>168
「…ほら、あたしのこと、綺麗にしてくれたでしょ…、また今日も拭いて、ほしい…ダメ?」
「…え?ええええ?」「バカ、声がデカい」「…ごめん」
「…で、してくれるの?してくれないの?」「…もちろん…喜んで」ゴクリ
シンジはシャワーのお湯を洗面器にあけ、タオルを浸して温める。アスカはその間にトイレに行く。
シンジはドキドキしながら待っている。昨日一昨日は半ば無我夢中のことだったし、アスカは眠っていた。
でも今日は違う。…なんていうか、まるで初めての時を迎えるかのような、そんな緊張感がある。
気がつくと、正座をしてアスカを待っている。そこに現れるアスカ。正座をしているシンジを見て、吹き出す。
「ちょっと、何よそれ」「え?な、何かおかしいかな?」慌てて立ち上がるシンジ。
くすっと笑うと、アスカはベッドに腰掛ける。まず熱を測る。
「…37.6℃か、まだちょっとあるけど、だいぶ収まってきたわね…」
「そ、そうだね、良かった」声が半ば裏返っている。シンジがカチカチに緊張している。
「(ま、まずい…あたしも緊張してきた…)」
胸の先端部が堅くなるのを自覚しながらアスカは思い切ってパジャマを脱ぐ。下は、黒いキャミソール。
「ここから先は…シンジがして…」「うん…」ドキドキドキドキドキドキドキドキドキ

170: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:48:34.55 ID:???
>>169
「アスカぁ、入るわよぉ」ガチャ
「ちょ、いきなり入ってくんな!」ガサッ
アスカは手元にあったクッションをミサトに投げつける。同時に布団の中に隠れる。
「あらごめんごめん、着替え中だった?」そんなことは意に介せず、部屋に入ってくるミサト。
「ったく、嫁き遅れの売れ残りはデリカシーなさすぎだっちゅーの!(怒)」
極力ソフトな物言いをしたつもりのアスカだが、目から殺気が迸っている。
ピキッ「…あんた、今言っちゃいけないことを言ったような気がするけど…まあ今回は大目に見て上げるわ」
ミサトはビニール袋からヨーグルトやスポーツドリンクを取り出す。
「熱はどう?少し足しになるかな?と思って買ってきたけど…あまり意味なかったようね」
足下に置いてある卓上コンロとおかゆの入った土鍋を見て、ミサトは言った。
「熱ならだいぶ下がったわ。さっき計ったら37℃ちょっとだったし…で、何?」
努めて穏やかに話そうとしても、言い方に険があるアスカ。
「しっかし、シンちゃんもマメよねぇ…。ほんっと、私もここまで尽くされてみたいわ」
アスカの想いに気づくはずもないミサトは、アスカの隣に腰掛けると感心したように首を振る。
その拍子に洗面器とタオルを見つけたミサトは、にんまりと笑うとアスカに爆弾投下。
「この際だから、着替える時に、シンちゃんに身体でも拭いてもらえば良かったんじゃないの?」グヘヘ
「バッ、ババババババカ、何言ってんのよ、あんたそれでも教師なの?」グワアアアアアアアアア
目の前で、まるでいきさつを見ていたかのように言われ、アスカは焦る。
「ま、随分と元気になったようだし、大丈夫か。今夜は私が宿直だから、何かあったら連絡しなさい」
ミサトは立ち上がると部屋をぐるりと見回してアスカに微笑むと、人差し指を立てる。
「ふふん、教師でもあるけど、その前に女でもあるのよん♪」
そう言いながらウインクをすると、ミサトは手を振って部屋を出て行った。

171: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:50:00.60 ID:???
>>170
「なによあいつ…肝心な時にあたしたちの邪魔ばっかしやがって」チッ
また一歩、階段をのぼる筈が、お預けを喰った形。どうしてこうも自分たちは間が悪いのだろう、
そう思いながら、アスカはカーテンを開ける。
「ごめんシンジ、大丈夫?」「…寒い」
ベランダの向こうに隠れていたシンジが雨に濡れて捨て犬のように震えている。
「ごめん、濡れたわよね…大丈夫?」
アスカはそのへんにあったタオルをシンジに渡す。取り損なうシンジ。
「…大丈夫なの本当に?」
「…大丈夫だよ…でも、やっぱり寒い」
ガチガチと歯を鳴らして震えているシンジ。ただごとではなさそうなその雰囲気に、
アスカが心配になる。
「とりあえず、暖まらなきゃ、こっちに来なさい」
シンジの手を取って、ベッドに横になるアスカ。シンジの手は、驚くほど冷たい。
上着を脱いだシンジとベッドの中で、抱き合うアスカ。
「…ん、暖かいし…柔らかい」シンジが呟く。
病人の寝床は、正直言って汗臭く、じめっとしているが、シンジもアスカもそんなことは気にしない。

172: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/25(水) 23:52:16.26 ID:???
>>171
「カラダ…どうする…?」アスカがシンジの頭を撫でながら、呟くように訊ねる。
「ん…今は…このままが…いい」シンジが目を閉じたまま、ゆっくりと答える。
「…じゃあ、今まで看病してくれた、ご褒美よ」アスカはそう言うと、もぞもぞと腕を動かした
かと思うと、来ていたキャミソールを脱ぐ。そしてシンジにぴったりとくっつく。
「これが、とりあえずのご褒美。どうシンジ?」
答えはない。シンジは、眠っている。
「ちょ、なんで寝ちゃうのよぉ」アスカはほっぺを膨らませるが、そのままシンジを抱きしめる。
シンジをその胸に抱きしめる形で、アスカはシンジの頭を撫でている。
シンジの寝息が、胸の谷間に沿って、お腹の方に下りていく。乳首が、頬に擦れるように触れる。
「…なんだかちょっとくすぐったいわね…」
アスカはゆっくりと布団の中に潜るように体勢を変え、シンジの唇に自分の唇を合わせる。
心なしか、シンジの唇はいつもよりも熱っぽい。
その感触を慈しむかのように味わった後、アスカの唇はゆっくりとシンジから離れる。
「お疲れ様、あなた」
そう言うと、アスカも目を閉じ、シンジと一緒に再び眠りにつく。
このまま朝まで眠ろう、熱が下がっていたらシンジと近所を散歩しよう。
眠りにつく直前にアスカは感じる。きっと邪魔が入るのって、まだその時が来ていないんだ、
という神様からのメッセージなのかもしれない。でもその時は、確実に近づいてきている。
「(その時あたしは、どんな気持ちで、どんな表情で、シンジを受け入れるんだろう…
なんだかちょっと、待ち遠しいな…)」
アスカの寝顔の微笑みは、誰にも見られる事なく、時間だけがゆっくりと流れていく。

176: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/26(木) 23:09:23.12 ID:???
>>172
おまけ
「何よシンジ…あんた予防接種したんじゃなかったの?」ピピピピ
「したけど…なっちゃったものは仕方ないだろ…うー…38.4℃かぁ」ゴホンゴホン
「やっぱり移しちゃったみたいね…ごめんねシンジ」
「気にしなくていいよ。アスカを看病していた結果だし、名誉の負傷みたいなもんだよ」
「(あの時眠ってるどさくさにキスしまくってたのが原因かもだなんて…絶対言えないわw)
げに恐ろしきはコネメガネ菌ね…」「うーん…違うと思うけれどね…」
「…ま、まあいいわ。あたしはもう元気だし、これからシンジに恩返ししなくっちゃね」
「…いいよ、大丈夫だから…予防接種した分、軽くて済む筈だし…」
「ダメよ、シンジったら、あたしにあんなことやそんなことまでしたのよ、覚えてるでしょ?」
「…うっ…うん」
「だからあたしもシンジを看病するの!」「う、うん」
「そもそも苦しくて、あたしを呼んだんでしょ?」
「そ、そうだけど…でもまさかアスカがベランダから入ってくるなんて…」
「ご覧の通り、身軽ですから。病気のせいで少し痩せたし」
「そっか…大丈夫?」「大丈夫よ、それに…誰かさんのおかげか、胸はちょっと大きくなったしね」
「え?ほ、本当に?」ゴクリ「冗談よバカ」「だよね…」「だよねとは何よ」ボカ「痛っ」

177: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/26(木) 23:11:21.34 ID:???
>>176
「シンジには…あたしの全てを見られちゃったんだし…、」「…だし?」
「だからあたしはね…もうシンジに責任取ってもらってお嫁にもらってもらうしかないんだから///」
「え?ええええええ?」「何よ、文句あるってぇの?」「…いや、ないです、むしろ…」
「むしろ、何よ?」「僕はあんなことなくても…そのつもり…だったんだけど…///」
「…ほ、ほんとに?///」「当たり前だよ、僕たち、ずっと一緒にいるんじゃなかったの?」
「…そ、そうだけど…」「なら、それは必然的なことなんじゃない?」
「(…面と向かって言われると…すごく恥ずかしい…けど…超嬉しい!)」
「なにニヤニヤしてるのアスカ?」「え、べ別に、なんでもないわ///」
「顔、赤いよ、また熱が出てきたんじゃ…?」
「うっさいわね、大丈夫だから!あんたは人の心配せずに寝てればいいのよ!」「…はい」
「さて、それはそうと、しっかり看病してあげるからね。早く良くなるのよ」
「う、うん。ありがとう」
「安心しなさい、いくらでも汗かいていいから。あたしがちゃーんと面倒見て上げるわ」
「…結局そこ?アスカって案外根に持つタイプ?」「まさか」「ですよね…」
「でもシンジの部屋に泊まるのって初めてだわ、なんだかちょっとドキドキするわね…」
「…いつもはアスカの部屋だもんね…あ、男子寮は人いるから、いつもより静かにしないと」
「大丈夫よ、寮長がなんとかしてくれるわ」「…本当かな…?」
「さ、いいから、もう寝なさい。薬は飲んだんでしょ?」「うん。歯も磨いたよ」
「…どれ、お姉さんに喉見せてみなさい」「え…う、うん」アーン
「確かに腫れてるわね…あ、もういいわよ」「う、うん」チュッ「!」
「へへへ、どうシンジ?病気が治りますようにのキスよ」「…///ありがとう」

178: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/26(木) 23:13:30.89 ID:???
>>177
「じゃあ、寝ましょ。シンジ、もうちょっとそっち行って」ゴソゴソ「これでギリギリだよ…」
「男子のベッドの方が狭いのかしら…?」「そんなことないと思うけど…」ムギュ、チュッ
「…やっぱりシンジって、あったかい」「そりゃ…熱出てるからね…」
「バカ、ムードないわね、いっつもシンジって暖かいんだから、あたしを守ってくれるって感じがするの…///」
「…ア、アスカだって、あったかいし…とっても…やわらかいよ、僕を包み込んでくれる優しさを感じるよ」
「ふふっ、ありがと」「こちらこそ、ありがとう」「愛してるわ、シンジ」「僕もだよ、アスカ」チュッ
「…でもちょっと暑いかも…暑かったらごめんねアスカ」
「大丈夫よ、着替えも用意してるし、汗かいたらあたしが着替えさせてあげるから」ニヤリ
「…アスカ、ひょっとして…、それを狙ってる?」
「…あたしの全てを見られたんだもの、あたしだって、シンジの全てを見る権利はあるはずよ!」(`・ω・´)
「だっダメだよ…僕だってアスカのそこは見てないんだから…」「嘘、信じられない」
「嘘じゃないよ…アスカ生理中だったし、それにさすがにそこまでは…、って思って」
「なんだ、いくじなし」ボソッ「え?なんて言ったの?」「ううん、なんでもないわ」
「…なんか、気になるけど…」「気にしないの、さっさと寝て、早く病気治しましょ、
早く治して、デートするんだからね!」「うん、そうだね」
「じゃ、おやすみシンジ」チュッ「おやすみ、アスカ」チュッ
「ねぇアスカ…ひとつ聞いていい?」「何?」
「一緒に寝るのは嬉しいけどさ、でもこれってさ…看病…なの?」
「………zzz」「寝た振りしないでよ…(´・ω・)」

186: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:22:40.82 ID:???
「ったく、なんでこのあたしがこんな格好して、ひがな1日こんな思いをしなきゃいけないのよ!」
アスカは機嫌が悪い。それもそのはず、今日の社会科見学は、その名称とは裏腹に、
期末試験の歴史で赤点を取った生徒に向けた実質的な冬休み中の補講であり、
とどのつまり、アスカは赤点を取って、強制参加の身分なのだ。強制参加者は全部で5人。
成績下位の5人。ワースト5。その中にいるという事実だけでも、アスカのプライドを
傷つけるには十分ではある。隣にシンジがいなければ、もっと機嫌が悪かったに違いない。
「まあまあ、仕方がないよ。ほら、今日はいい天気だし、そんなに寒くもないし、散歩の延長だと思ってさ、」
シンジが一生懸命フォローをしているが、アスカの耳には入っていないようだ。
朝6時学校集合、汚れても構わない服装(冬場でこのドレスコード?は意外とハードルが高い)、
軍手持参、というなにやら怪しい匂いもするこの社会科見学。
行き先は「遺跡」だ。シンジには「遺跡」の一言でピンとくる。彼の地元近くにある、謎の遺跡群のことだ。
誰が、なんのために建造したのか。正確な建築年代も不明、材質もよく分かっていない、
どうやら宗教的な儀式に使われたのではないか、ということだが、とにかく謎だらけなのだ。
今も現地発掘調査は続いており、明城学院で社会科教師を務める加持は、その調査隊のメンバーだったりする。
そんなわけで、今回の社会科見学はその発掘調査の実習という名目で駆り出されたものの…、

187: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:23:24.88 ID:???
>>186
「で、結局公園内のゴミ拾いしてるわけじゃない、なんなのよこれ、バカみたい。
そもそも全然見学じゃないじゃない、肉体労働だなんて聞いてないわよ」イライライラ
「…そんなこと言わないでよ…僕の立場はどうなるの?」
本来アスカが持つべきゴミ袋を抱え、自由参加(という名のアスカの付き添い)のシンジは口を尖らせる。
「あら、さっき散歩の延長だ、って言ったのは誰?」アスカは澄ました顔で言う。
「…もう、」溜め息をついて、アスカの後をついて行くシンジ。
でも、アスカの気持ちも分かる。公園に到着すると、ビニール袋とゴミばさみを渡され、
有無を言わさず清掃作業、ってなんか騙された気がする。
午後には発掘作業の手伝いがあるらしいが、この分だとそれも本当かどうか、怪しいものだ。
シンジがそんなことを考えながら歩いていると、先を行ってたアスカがシンジを呼ぶ。
「ねぇシンジィ、向こう行きましょ」
アスカが指差す先には、1体の「遺跡」が地面に突き刺さるかのように直立している。


「遺跡群」は1体40mほどの高さの像が全部で9体、ほぼ同心円状に立っている形で、
その周辺は国立公園に指定されている。
シンジたちはそのうちの1体に近づく。とは言っても勿論触れるほど近くには寄れない。
せいぜい10mほど近くに寄るのが精一杯で、そこから先は人の背丈の倍くらいある鉄条網が
行く手を阻んでいる。
「…しっかし、こんなもの、誰が作ったのかしらね…」アスカが呟く。
「そうだね…僕も小さい頃から見ていたけど、考えれば考えるほど、わけがわからなくなるよ…」シンジが答える。
しばらく無言で像を眺める2人。冷たい風が川沿いから吹き込んでくる。

188: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:24:18.65 ID:???
>>187
「ねえ、こいつらって、アレに似てない?」ふと思いついたように、アスカがシンジを見て言う。
「アレ?」シンジが言う。
「そう、アレよ」アスカが答える。シンジは数秒の間、その「アレ」が何なのかを分かりかねて
いたようだったが、やがてハッとした顔でアスカに言った。
「わかった、この前カヲルさんとこで見た、量産機だ!」
「そう、あいつらよ。私の夢にも出てきた…。多分、いえ、きっと、間違いないわ」
アスカが真剣な表情でシンジに言う。シンジは、黙って頷く。
その表情には記憶にはない記憶、痛みや苦しみがごたまぜになった影が見受けられる。
シンジも同じように、眉間に皺を寄せ、厳しい表情でその像、白い巨体を見上げる。
量産機、という言葉を口にするのはひょっとしたら今のシンジとアスカにとっては、
初めてだったかもしれない。でも2人にとって、その言葉は馴染みのある、
それでいてこれ以上ない程の禍々しい言葉として、自分たちの血となり肉となっている。
「…今まで気づかなかった」「確かにそうね…」
2人はまたしばらく無言のまま、量産機の残骸?を見上げている。
自然と2人の手はお互いを探し求め合った後、固く繋がれる。
ぎゅっと握るその手は、あの日の戦いを覚えているかのような緊張感に包まれている。
それと同時に、アスカを守るんだというシンジの決意も、そこから滲み出ている。
「楔だ…」シンジが呟く。
「え?」アスカがシンジを見る。
「あの時言われた楔って、きっとこれだよ。今ある現実世界に打ち込まれた楔、僕たちが
結ばれた時にこぼたれると言われていた、楔だよ」
今度はアスカがハッとした表情でシンジを見る。それから量産機を見、またシンジを見る。
「そうだわ、きっと、そう」
全てを納得したかのような表情で、アスカは同意する。
2人は強く強く手を握る。かつて自分たちはこの巨大な物体と戦った事があるんだ、
今や2人はそう確信している。期せずして2人は同じタイミングで量産機を見上げる。

189: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:25:41.03 ID:???
>>188

バシッ

何かが折れるか砕けるかしたような音がする。続いて何かが降ってくる。
「危ない!」遠くから悲鳴が聞こえる。
「アスカ!」シンジがアスカの手を取って、後ろに飛ぶ。ほぼ同時に、シンジたちの目の前、
ほんの数m先に、破片?が落ちてくる。

ドーンッ

物凄い地響きと土煙が上がる。シンジとアスカはその衝撃で思わず転倒する。
「きゃっ」
転びながらもアスカを抱き留めて守るシンジ。柊の垣根が彼らを受け止める。
「いててて…大丈夫アスカ?」シンジがアスカを気遣う。
「大丈夫よ、シンジこそ大丈夫なの?」アスカもシンジを気遣う。
「おーい、大丈夫か?」引率の加持が走ってくるのが見える。
「だ、大丈夫です!」シンジは立ち上がると服の埃を払いながら答える。
見上げてみると、量産機の腕?の部分が少し欠けている。風雨で自然に剥がれ落ちたのか、
それとも…
アスカが立ち上がるのに手を貸しながら、シンジは考える。
「(僕たちが来た瞬間に、こんなことが起きるなんて…これは決して偶然じゃない)」
「(あたしたちが来た瞬間に、こんなことが起きるなんて…これは決して偶然じゃないわ)」
アスカもシンジの手を握りながら、同じことを考えている。と、そこへ加持が到着。
「君たち、ケガはないか?」ゼイゼイ
「大丈夫です先生、驚いて転んだだけですから」シンジは努めて冷静に答える。
アスカも立ち上がって、服の埃を払い、シンジの言葉に頷く。
「…そうか、それなら良かった…しかし、まさかこんなことが起きるなんてなぁ」
加持も像を見上げて呆然としている。
「先生、」「なんだい碇シンジ君、」加持がシンジを振り返る。
「先生は、この遺跡がいつから建っているのか、なぜ建てられたのか、謎のままだ、って
言ってましたよね…?」「…確かに、そう言った。」

190: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:27:05.54 ID:???
>>189
「僕、思うんです。この像は建てられたのではなくて、生きていたんじゃないか、って。
それがある理由で、この場所で死に絶え、その死体がこんな形で残ったんじゃないか、って。」
加持がシンジをじっと見つめる。ほんの数秒のことだが、シンジには随分と長く感じられる。
「ほう、それは面白い意見だ。検討に値するよ。」そう言いながらも加持の表情には困惑の色が窺える。
「だが、碇シンジ君、もしこいつらが生きていたとして、そうだとしたら当時の他の生命体達は、
どうしていたんだろう?これだけ大きい生物がいたら、こいつらに生態系は滅茶苦茶に
されてしまうんじゃないか?そもそも地球上にこれほど大きな生物がいたことは無いし、
こいつらが生きていたのなら、なんで9体しか、それもここにしかいなかったんだ?
君の意見が正しいとして、この地球上にこんな生物がいた痕跡は、ここ以外にどこにもないぞ」
「先生、」アスカがシンジの後を受けて言う。
「確かに先生の言う事は正論よ。でも、あたしには…あたしたちには、分かるのよ。」
「分かるのか、その根拠を聞きたいな、聞かせてくれないか?」
加持は真剣な面持ちでシンジとアスカを見て、言った。
「え…いや、根拠はないですけど…」シンジは言葉に詰まる。アスカも何か言いたげだが、言葉が出ない。
自分たちが経験したことなんだ、とはとても言えない。
加持はシンジたちのその表情を見ると、にっこりと笑って言った。
「いや、すまんすまん。そんなつもりじゃなかったんだ。確かに、君たちの意見は非常に興味深いし、
検討の価値はある。これは本当のことだ。ま、学会は誰も信じてはくれないだろうけどな…」
しゅんとするシンジとアスカ。
「でも、俺は君たちを信じる」加持は力強くそう言うと、シンジとアスカの肩を叩いた。
「個人的にもこの遺跡調査には手詰まり感を覚えていたんでね、独自に調べてみるさ」
そう言うと加持は、ここは危ないから撤収するぞ、と言って2人を連れてその場を後にした。

191: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:27:56.41 ID:???
>>190
その日の夜。テレビのローカルニュースでは「遺跡群の一部が剥落 そばにいた高校生2人が軽いケガ」
というテロップと共に、その遺跡群の映像が流れている。
シンジとアスカは自分たちの他は誰もいないラウンジで、ソファーに寝そべって、
そのテレビをじっと見ていた。
「こんな擦り傷でも怪我人にカウントされるんだね…」シンジは肘の絆創膏を撫でながら言った。
「まあ、あんだけ大事になってたんだし、そのへんはマスコミ様の都合でなんとでも言われるわよ」
アスカも呆れたように言った。アスカ自身はどこにもケガはしていない。
ただ、あの後警察の現場検証やら、病院での検査やらで、精神的にヘトヘトになったのは事実。
薄暗くなるころにようやく解放され、寮に辿り着いたあとは、こうしてぐったりしている。
帰り際に加持が、今日の社会科見学は参加扱いで単位もちゃんと認定する、と言ってくれたのが、唯一の救い。
「まあ、お互いまだ病み上がりだしね…」鼻を若干すすりながら、シンジが言う。
「そうよシンジ、あんたぶり返しちゃったりしたら大変よ、早く寝なさい」
「なんだかアスカってば、親みたいなことを時々言うよね」ハハハ、と少し笑いながら
シンジが言う。アスカもそれにつられてちょっとだけ笑う。
「な、何よ、お、お互いふふふ夫婦、みたいなもんなんだし、こ、これでいいじゃない」
意識したつもりはないのに、どうしても言葉に詰まり、顔が赤くなるアスカ。
それを聞いたシンジは、何も言わずに黙ってアスカを抱き寄せる。そしてキスをする。
アスカも喜んで、シンジのキスを受け入れる。シンジの首に手を回し、目を閉じる。
固く抱き合い、キスを続ける2人。がらんとしていた筈のラウンジが、少しずつ熱気を帯びていき、
窓ガラスが曇り出す。2人の、お互いの唇を求める音だけが響いている。

192: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2013/12/31(火) 01:28:35.09 ID:???
>>191
「…いつもなら、そろそろ邪魔が入る頃よ…」ふとキスを止めてアスカが囁く。
「…アスカも、そう思ってた?僕もだよ…」シンジもキスを止め、アスカの目を見て答える。
2人はそーっと起き上がると、ラウンジの出入り口を見つめる。
「5,4,3,2,1…ゼロ!」ガラッ
「おー、お2人さん、元気してたかにゃ?」
2人は顔を見合わせて、そのまま笑い出す。きょとんとした顔で2人を見つめるマリ。
「なんだなんだ、何か楽しいことでもあったのかにゃ?混ぜて欲しいにゃ!」
「ごめん、あんたには関係ないのよ、ただちょっとね…」アスカが涙を拭きながら言う。
「なんだそれ?せっかく病人2人のことが心配でお見舞いに帰ってきたってのに、
何この疎外感…悲しいにゃ、そして寂しいにゃ…」ショボーン
「ま、まだダメだ、ってことだよね」「そうね、いつになるのか分からないけど」
「でも、あれは偶然じゃなかった」「そうね、間違いなく」
2人の会話をただ呆然として聞くマリ。
シンジがマリの方に向き直って、言う。
「真希波さんもせっかくだから、ここでお茶でも飲んでいかない?もう寮内にも
僕たちくらいしかいないし、少しのんびりしようよ」
珍しくアスカも同意する。
「ま、タマにはいいんじゃない?こっち来なさいよ」
少し寂しげに俯いていたマリが、ぱっと表情を明るくしてシンジとアスカの元に駆け寄る。
「じゃあ今夜は3人でパーッとやるにゃ!特別に私秘蔵のモンブランを供出するにゃ!」
2人から拍手が起こる。その拍手に気をよくしたマリが、更にプリンとポテチを追加する。
おやつが用意される間に、シンジはお湯を沸かし、アスカは戸棚からF&Mのアールグレイを取り出す。
久しぶりの楽しいお茶の時間だ。
ラウンジの入口から見廻り中の冬月寮長が顔をちょっと覗かせ、3人の様子を見ると、
微笑んでその場を立ち去った。
「ふむ…今宵は一杯やって、もう寝るとするか…」
今年の仕事納めは、気持ち良く締めくくることができたと思わずにはいられない冬月。
彼の背後では、暖かい光が漏れ、賑やかな声が消灯時間まで響いていた。

247: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:06:08.84 ID:???
年が明けた。僕は元日だけ地元に戻り、叔母さん家に挨拶しに行ったけど、夕方には寮に戻って
寮内の掃除をしていた。地元に戻れば友達がいたりして、確かに故郷ではあるのだけれど、
でもそれと同時に、あそこはもう僕の居場所ではない、という気がする。
ま、そんな格好つけた理屈をつけても仕方が無いんだけど。
「ただいま~」
ほら、やっぱり帰ってきた、僕の想い人が。僕がここにいる理由が。
「おかえり、アスカ」
予想通りとはいえ、やっぱり僕は自然と微笑んでしまう。
「ただいまシンジ。やっぱり帰ってきてたわね」
ブーツを乱暴に脱ぎ捨てながら、アスカは言った。
「…ん、まあね。あっちにいてもやることないしさ…」ブーツを片付けながら、僕は言う。
アスカは聞いてるのか聞いていないのか、とにかく僕に背を向けて、真っ直ぐ食堂に入っていく。
年末年始の休館中だけあって、今この寮内には僕とアスカの2人だけしかいない。
お盆休みの時と同じ理屈で、僕はここの留守番をしている…ことになっている。
アスカも…理由は似たようなものだ。
「ママったらさ…、お正月は帰ってくるって言ってたのに、今朝家に帰ってみたら誰もいなくて、
あげく昼過ぎにメールで『ごめんやっぱり帰れません』とか言ってくるのよ、もうやんなっちゃう」
厨房の冷蔵庫に隠してあった真希波さんのプリンを2つ持ち出すと、1つを僕に渡し、
もう1つの蓋を開けながら、アスカはそうやって僕にその日の出来事を色々話してくれる。
いつもと変わらない日常。何年経っても、場所が変わっても、この空気感、この時間は変わっていて欲しくない。
いや、変えたくない、そう思う。
「ちょっと、聞いてるのシンジ?」
「え?あ、ああ、ごめん。それでご飯も食べずに帰ってきたわけ?」
本当は分かってる。僕にも、アスカにも。だけどそうやって訊く。それが、僕たちの間の無言の決まり事。

248: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:08:56.28 ID:???
>>247
「だって、ここに帰ってくればシンジの作ったご飯が食べられるかな?って思ったんだもん」
「しょうがないな…なんてね、多分そんなことだろうと思って、作ってあるんだ」
僕はそう言うとキッチンに向かう。こんな時のアスカのキラキラした目がたまらなく可愛い。
それと同時に、なんか生きてる、って感覚がこれ以上ないくらいに僕の心を満たしてくれる。
「今日はお正月だけど…煮込みハンバーグにしてみたんだ…どう?」
こんなこと、アスカには言えないけど、「どう?」って訊いておきながらも実はかなり自信がある。
昔から料理はしていたけれど、ここに来てから僕の料理の腕は上がったと思う。
ここに来て、アスカと出逢って初めて気がついた。料理は食べてくれる人がいるからこそ、
楽しくも嬉しくもある。そしてなにより、美味しくなる。
それを教えてくれたのは、僕の作る料理をなんでも美味しいと言って食べてくれる、
目の前にいる僕の恋人。そう、アスカだ。
果たして、アスカの答えはその表情から読み取れる。小さい子供のように手足をバタバタさせて
喜んでくれるというのは、単純に嬉しいだけでなく、僕にしか見せないアスカの姿だという、
ちょっとした優越感のようなものもある。
「スゴイ、これはめちゃくちゃ美味しそうだわ!シンジ、早く食べましょ!」
「…でもまだ17時半だよ…ご飯にはまだ早いよ…」
「何バカなこと言ってるの、善は急げ、腹が減っては戦が出来ぬって言うじゃない!」
言いながらアスカは既にお皿を用意して盛りつけをしようとしている。
僕は笑いながら結局アスカを手伝うのだ。でもこういうやり取りが、結構好きだ。
今までの僕は、言ってみれば殻に閉じこもった子供のようなもので、何かと理屈をつけては
自分というものを外に見せないようにしてきた。なんだかんだ言って、結局は傷つくのが怖かったんだ。
僕が何かを言う事で誰かが傷つき、同じように誰かに何か言われる事で、僕が傷つく。
だったら最初から何も言わない方がいい、中学までの僕は、そう思っていた。
いや違う、アスカと出会うまでの僕は、そう思っていた。
アスカと出会って、僕は知ったんだ。別にそんなことないんだって。
お互いが信頼し合っていれば、自分の気持ちを素直に表現しても、それを受け止めてくれるんだ、って。

249: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:10:18.99 ID:???
>>248
同じように、僕も相手の気持ちを素直に受け止めることができるようになったんだ。
アスカという人がいたから、僕は他者に向かって心を開くということが出来るようになったんだと思う。
そして、そうすることによって、僕は自分に対して、ある種の自信のようなものを持つことが
出来るようになった。
こういう会話のやり取りが心地よいと感じるようになったのも、つまりはアスカのおかげ。
アスカの前では、心の壁を全て取り払って、僕の全てを見せていられる。
そうしてもアスカは受け止めてくれる、って知っているから。
同じように、アスカも僕の前では心の壁を取り払って、全てを見せてくれる。
アスカも、知っているから。
「…シンジ、ねえちょっと訊いてるの?大丈夫?」
「え?あぁ、ごめんアスカ、聞いてなかった」
「んもう、バカ。とっても美味しいって言ってるのに、上の空なんだもん。何かあったの?」
「ごめん、なんでもないよ。」
そう言いながら僕も煮込みハンバーグを口に放り込む。うん、バッチリだ。
「なんでもないようには見えなかったけど…」
アスカの青い瞳が、僕を真っ直ぐに見つめる。そのいたずらっ子のような視線に、
僕はちょっと背中がむず痒くなる。この目に弱いんだよな…。
「アスカと出逢えて本当に良かった、アスカのことを好きになって本当に良かった、って思ってただけだよ」
その瞬間、アスカの顔が真っ赤になる。
「バッ、バカ…」そう、こうやって顔を赤らめて照れてる姿も可愛い。
その姿に思わずドキッとして、条件反射的にキスをしてしまう。
「ひゃっ!」驚くと同時に嬉しそうにもじもじとするアスカ。正直たまらなく可愛い。
この顔は、「もっとして」って言ってる。僕は、その通りにする。
お腹を満たすよりも、心を満たすことを優先する僕たち。
その先を意識することはないと言えば嘘になるけど、今はこれだけでも十二分に幸せ。
「…トマトソースの味がするわ」キスを終えると、アスカが楽しそうに言った。
「お正月っぽくないけどね」笑いながら僕も答える。
「確かにそうかも」もう一度、ねっとりと口と舌を使って、僕を味わった後に、アスカが言った。

250: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:13:05.32 ID:???
>>249
「ふふ、」「はは、」なんだかよくわからないけど、とても楽しい。
いや、楽しいというのはちょっと違うかもしれない。この感覚、なかなか表現しづらい。
心の底からリラックスできているからなのか、2人とも自然と微笑んでしまう。
愛し合ってる、っていうのは、こういうことなのかな、ってふと思う。

「お、やっとるな」ガラッ
「ふ、冬月先生!」ガタッ
突然の来訪。びっくりするのと同時に、数分前でなくて良かったと安堵する僕とアスカ。
「やっぱりここにおったか。君たちがいるだろうと思ってな、差し入れだよ」
そう言うと、冬月先生は風呂敷包みを持ち上げる。
テーブルに置いて、風呂敷を広げてみると、そこにあったのは三段のお重。
「ひょっとして…おせち料理ですか?」「ん…今年は来客がなくてな…余りそうだったから、
君たちに持ってきた、というと失礼にあたるかな?」
「いえいえいえ、とんでもないです…でもこんな豪華な…いいんですか?」
「なに、構うものか。私1人で食べ、かつ余らせるよりは、よっぽどいいだろう」
アスカは目を輝かせている。
「あたし、本格的なおせち料理って、初めてよシンジ」
「え?そうなの?」「だって、ちょっと前まではドイツにいたのよ。日本に帰ってきたって、
ママはあんなんで正月もろくに家に居ないし、だからおせちって殆ど初めてよ。」
「なんと、惣流君はおせちが初めてか。そりゃいかん。ここは日本だ。君もこれから日本にずっと住むのであれば、日本の文化にもっと触れなければならんな。」
そう言いながら、冬月先生は僕を見る。
「そしてそれは、君の役目だ。」
楽しそうににやりと微笑む寮長先生。僕は思わず背筋が伸びる。
「は、はい。」「うむ。良い返事だ。女を泣かすような男にはなるなよ、第3の少年よ。」
なんで僕が冷や汗をかかなきゃいけないのか、よく分からないけれど、とにかく僕は頷く。
アスカが隣でニコニコしながらうんうんと頷いている。
「どうせなら私の部屋で食べないか。あそこは炬燵がある。正月に炬燵でおせちと雑煮、
そして蜜柑。これこそが正しい日本人の正月だとは思わんかね?」
冬月先生がそんなことを言うとは思わなかったけど、僕たちはその言葉に甘えることにする。

251: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:16:32.24 ID:???
>>250
冬月寮長の部屋、というか寮長室の奥にある仮眠スペースなんだけど、これが意外と広い。
8畳分くらいはあるんじゃないかな…。
「まあまあ、2人とも楽にしなさい」そう言われて楽に出来るほど僕たちは子供じゃない。
例によって、冬月先生がお茶を出してくれる。それからしばらくすると、チン、という音がする。
「さすがに雑煮というわけにはいかんが、餅ならあるぞ。食べんかね?」
そう聞きながら、既に寮長先生の手元には磯辺巻きにされたお餅が数個。
さきほど夕食を食べたばかりということも忘れて、アスカが嬉しそうにお餅を食べる。
それからおせち料理を楽しむ。
「これ、美味しいわ」「それは伊達巻きだよ」「これは何?」「蒲鉾って見た事ないの?」「うん」
アスカはどうやらおせち料理を見るのも初めてらしく、興味津々だ。
対して冬月先生は、殆ど食べずにただ日本酒をちびりちびりと飲んでいる。
彼女のお腹の中には胃袋が3つか4つくらいあるんじゃないか、ってくらい食べてから、
ようやくアスカは箸を置く。
「いやいや、これだけ食べてくれると私も嬉しいよ。やはり食卓は大勢いた方が楽しいな」
冬月先生も、今日は妙に機嫌がいい。僕としては「では、そろそろ一局どうかね?」と
いつ言われるかと冷や冷やしていたんだけど、そんなこともなく、冬月先生は炬燵の上を片付けると、
再びお茶を淹れてくれた。美味しいお茶だ。アスカは…蜜柑を食べている。
四次元ポケットのような胃だなぁ、と心の中で半ば呆れ、半ば感心する。
「さて、君たちは今年1年をどんな年にするつもりかね?」
僕とアスカは思わず顔を見合わせる。
「そうだ、もちろん、君たちの仲、それ以外の部分でだ」
冬月先生の凄いところは、こうやって時々僕たちの思考を見抜くところだ。
教員経験のなせる技なのか、とにかく、そういうところがあるから、僕たちはこの人には逆らえない。
「…と、言うと…どういうことでしょうか…?」
アスカとのアイコンタクトの末、僕がおそるおそる聞いてみる役をやることになる。
「どういうこと?うむ…君はもう少し頭が良いと思っていたが、気のせいだったかな、」
思わず言葉に詰まる。

252: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:17:16.58 ID:???
>>251
「それとも、細君の身代わりを買って出たかな…?」
いやもう、ほんとに、この人の前では隠し事は出来ない。思わず2人してまた顔を見合わせる。
「君たち、高校生活というのはな、ただ単純に与えられたモラトリアムではないのだぞ。
君たちが将来どのような道に進んでいくのか、どのような大人になっていくのかの分岐点の
殆どは、この高校の3年間にあると言っていい。」
穏やかに、だけどそこには確固たる信念のようなものが感じられる口調で、冬月先生は僕たちに言った。
「わかりやすく言えばだ、将来何になりたいのか、そのためにはどうしたらいいのか、
高校の3年間はそれを探すためにあるのだ、いいかね惣流君、」
アスカがビクッとする。
「この人と決めた人がいたからと言って、そこに永久就職すればいいなんて甘い考えは、
現代では通用しないのだ。もっとしっかりと自分を見つめ、自分が何をすべきなのか、
どんな人間にならなくてはならないのか、それをしっかりと考えなくてはダメだぞ。」
そう言ってから、冬月先生は相好を崩す。
「いや、すまん。ちと酒を飲み過ぎたかな…。年寄りは説教臭くなっていかん…」
いや、酔っ払っているようには全く見えないんですけど…。
「久しぶりに楽しく食事をしたせいか、少し疲れた。今夜はここに泊まっていくことにしよう。
君たちもそろそろ自室に帰りたまえ。」
時計を見ると、既に21時を回っている。僕たちはお礼を言ってから、寮長室を後にした。

253: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:17:57.03 ID:???
>>252
「寮長って酔っ払うと説教臭くなるのね…おかしかったわ」
アスカが暗くなった廊下を歩きながら言った。ごく自然と、お腹をさすっているけど、
そこに突っ込むのは野暮かと思って、摂取カロリーについては何も言わない事にする。
「なんか、お父さんから懇々と諭される、って感じだったよね」
そう言いながら、僕は呟くように付け加える。
「僕にはお父さんの記憶はないけどね…」
「あら、あたしもよ」
僕の呟きが聞こえていたようで、アスカは前を見ながらそう答えた。
「シンジに言ってなかったっけ?あたしがまだちっちゃい頃にママは離婚してるの。
だからあたしも父親、って言われてもピンとこないわ」
そういえばそんなことを聞いた事がある。仕事人間で家庭を全く顧みなかったアスカのお母さん。
アスカのお父さんはそれに嫌気が差してか、恋人を作って家を出て行った。確かそんな感じ。
「でもまあ、親が無くとも子は育つ、ってやつよね。あたしとシンジがいい例だわ」
そう言うとアスカは、ちょっと寂しげに笑った。僕もなんとなくははは、と乾いた笑い声を出す。
そこから僕たちは黙ってしまう。

254: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/21(火) 00:19:06.94 ID:???
>>253
「…でもあの人は、まあいい線行ってるのかもしれないわね」
食堂の前まで来て、女子寮の入口まで来た時に、アスカはそう言った。
「うん、そうかもしれない。やっぱり寮長っていう仕事は、寮生たちの親代わりでもあるわけだし、」
僕の話を最後まで聞かずに、アスカは僕が言おうとしていたことを言ってくれた。
「ああいう人がお父さんだったら、良かったかもしれないわね」
「ん、そうかもね。お父さん、っていうには歳を取り過ぎてるけど」
「あ、そうか。ならお祖父さんで」「了解」
今度は2人で、リラックスして笑う。お互いの笑顔にお互いが癒やされる、そんな実感がある。
「シンジ、」「…わかった、あとで行くよ」
今年の元日は、今までの人生の中で、一番正月らしくない元日だったかもしれない。
でも、間違いなく、一番心豊かに過ごせた年の初めだった、そう思う。
シャワーを浴び、着替えを持って、アスカの部屋に向かう時、ふと思いついて寮長室の前を通ってみた。
ほんの僅かだけど、いびきが聞こえた。
「父さん、」僕は思い切って、呟いてみた。
「うーん…やっぱりちょっと違うかな…」
首をかしげ苦笑いをしつつ、僕はアスカの部屋に向かった。

262: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:28:23.07 ID:???
異変に気づいたのは、連休を終えた火曜日の朝だった。
最初は違和感のようなもので、どこがどう違っているのかよくわからなかったけど、
でも、先週金曜日に夕食を食べた後、別れて部屋へ戻っていったヒカリの後ろ姿とは、何かが違う。
「ねぇ、ヒカリ」
昼休みも終わり、午後の授業が始まる間際に、あたしはヒカリの背中に向かって声をかける。
「え、何?」ヒカリはゆっくりと振り返る。
「ん、…なんでもない」声をかけてはみたが、何と言っていいのか分からない。
ただの違和感、それも本当になんとなく感じる「あれ?」という感じ。ただの気のせい?
この3日間、ヒカリは実家に帰っていて会えなかったわけだけど、そのせいかしら?
何か分からないけど、このむず痒い感じ…。雰囲気が違うというか、匂いが違うというか…。
その違和感が何なのかをぼんやりと考えながら、午後は過ぎていき、放課後になる。
「アスカ、帰ろ」シンジが隣に来て微笑む。どうしようか、ちょっと相談してみるか。
「いやいやいや、この鈍感男には分からないわよね…」思わず声が出る。
「え?」シンジがきょとんとしている。
「あ、ごめんなんでもないわ、独り言よ」ちょっと顔が赤くなってる。バカみたい。
「お待たせ。帰りましょ」平静を装って立ち上がる。目の前にシンジの顔。いつも通りの幸せが、ここにある。
と思った矢先だった。教室を出ようとしたところで、ミサトが私を呼びにやってくる。
「ごめんアスカ、お客さんが来てるんだけど…悪いんだけどちょっち時間貸してくれない?」
「?」シンジと顔を見合わせる。アイコンタクトで多分通じたはず。
「誰?アスカになんの用?」「知らない、心当たりは全くないわ」このコミュニケーションが一瞬で
取れるんだから、あたしとシンジの仲もなかなかのものよね…、と自画自賛してみる。

263: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:29:31.39 ID:???
>>262
「ごめんシンジ、ちょっと待ってて」「分かった。図書室にいるよ」
手を振ってあたしは職員室に向かう。と、メール着信。ヒカリからだ。
「?」フォルダを開いてみると、意味不明な単語の羅列に最後に「わけはあとで!」と書かれている。
何か、切羽詰まった雰囲気がそのメールからは漂っている。
そこには、地名で京都、広隆寺、円通寺、平安神宮と書かれていて、堀川五条東急ホテルとある。
なんとなくだけど、今からあたしに降りかかってくる用件に関係がある気がして、画面をじっと
見つめて、その単語を頭の中にたたき込む。
それとほぼ同時に職員室隣の応接室に通される。ドアが開き、閉じる。
「初めまして、惣流アスカラングレーさんね」ほっそりとした、でもちょっと目つきが険しい感じの、
いかにも教育ママみたいな女の人が、あたしを待っていた。
「惣流・アスカ・ラングレーです」その高圧的な物言いに、少し反感を持ちつつも、自己紹介をするあたし。
「私、洞木ヒカリの母です。娘がいつもお世話になってます。」軽くおじぎをするその人の
言葉に、あたしはちょっと驚いてしまう。ヒカリの感じとはあまり似ていない。
もっと大らか朗らかな感じのお母さんかと思っていたけど…でも自分のママのことを考えると
あまり人の事も言えないか…などと考えてしまう。
「今日わざわざ来たのは、あなたにちょっと聞きたい事があるの。」「…はい、なんでしょう?」
挨拶もそこそこに単刀直入で切り込んできた。
「この前の連休ね、あなた、うちの娘とどこに行ってたのか、教えてくれない?」
この前の連休…あたしはシンジと一緒にいた。土曜日に映画を見に行き、日曜は電車に乗って
アウトレットまで買い物に行った。ダウンコートを一目惚れして買ってしまい、
まだ月の半ばだというのに、今月のおこずかいが無くなってしまった。
そのせいもあって、月曜は寮でのんびりしていた。シンジの弾くチェロは最高だった。
…が、ヒカリの母だと名乗るこの人は、「この前の連休にヒカリとどこに行ったのか?」
と言ったように聞こえる。

264: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:31:12.12 ID:???
>>263
「この前の…連休ですか?」思わず聞き返す。その瞬間に、頭の中で点と点が結びつく。
あのメール!なるほど!
「そうよ、この前の連休、あなたうちの娘と遊びに行ったらしいけど、悪いけどどこに行ったのか、
教えてくれないかしら?」
「…なんで教えなきゃいけないんですか?」ちょっと反感持ってるアピールでもしながら、
さも、しょうがないな…、という感じで、あたしは答える。
「京都にヒカリと泊まりがけで遊びに行きましたけど…」
ヒカリの母はあたしの答えを最後まで聞かずに話を被せてくる。
「どこに泊まったのか教えてくれない?」
「東急ホテルですけど…堀川通りと五条通りとの交差点にあって…
ツインが新幹線のチケットとセットで安かったんです。」
最後はアドリブ。だいたい事情が飲み込めてきた。
「なるほど…。娘によると金閣寺とか三十三間堂とか行ったみたいだけど?」
あのメールにはそんな単語はなかった。っていうか、この人京都に行ったことを知ってて、
あたしに訊いている。試されている、そう感じた。そう感じたら、そう答えるだけ。
「…いえ、広隆寺とか、平安神宮とか…あと円通寺とかなら行きましたけど…」
「そこで何を見たの?」
え?そこまでは聞いてない。どうしようか…京都なだけに適当に仏像とか言っておこうか…、
と一瞬迷ったが、その時隣にいたミサトが助け船を出してくれた。
「もういいんじゃないでしょうか。お母様が疑われるのもごもっともかもしれませんが、
我が校ではそんな不純異性交遊はありませんし、また寮生活にあたっては、私を含めスタッフが
しっかりとお嬢さんたちの指導をしておりますので…」
思わずミサトを見上げる。その表情を見て分かる。なんだミサト、結構苛ついてるじゃんw
その言葉にしばらく沈黙した後、ヒカリの母親だという人も渋々引き下がる。
「…分かりました」そうしてそのままあたしを一瞥した後、部屋を出て行く。
バタン。ドアが閉まる。癇に障るような音に聞こえたのは、あたしもイライラしているせいか。

265: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:32:19.69 ID:???
>>264
「ちょっとなんなのよあの人、最後にあたしに礼の1つも言えないわけ?いきなり呼び出しといて、
失礼極まりないわ」
「ごめんねアスカ。あたしもさぁ、参っちゃってさぁ。」ミサトは応接セットの椅子にドスン、
と腰掛けると、あたしが口をつけなかったコーヒーを一気に飲み干す。
「5時間目が終わった頃かしらね、急にやってきて。お宅は生徒の生活指導をなんだと心得えて
いるんだ!私は娘に悪い虫をつけるためにこの学校にやったわけじゃない!って、
いきなりよいきなり。あたし、思わずきょとんとしちゃったわよ。いくらこちらから説明しても聞かないし、
で、あまりにぎゃーぎゃーうるさいから、申し訳ないけどアスカにご足労願ったわけ。」
「ヒカリのお母さん…なの?」
「うーん…そうみたいね。血は繋がってないらしいけど。」
「あー…なんか納得。ヒカリのお母さん、って感じ、しないもの。」
「ま、迷惑かけたわ。今晩はあたしが宿直だから、もし良かったらケーキくらいなら
買っていくわよ」「いいわよ。これ以上太ったら困るし」
手を振ってミサトと別れて、あたしはシンジのところに向かう。廊下を歩いている最中に、
ヒカリとヒカリのお母さんが玄関前で何事か話しているのを見かける。
何か言って、謝っているヒカリ。
「なによ、別に謝る必要ないじゃない」
あたしはそう呟きながら、図書室に向かった。

266: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:33:05.82 ID:???
>>265
その夜。消灯時間間際になり、シンジと別れて部屋に戻ると、それを待っていたかのように、
ドアをノックする音。
「ごめんアスカ…ちょっと…いいかな?」ヒカリだ。
「どーぞー。来ると思っていたわよ。」
おずおずと室内に入ってくるヒカリ。あたしはヒカリの方に向き直ると、目の前にあったクッションを勧める。
ぽてん、と座るヒカリ。
「今日はごめんね…」「いいのよ別に。メール、ドンピシャだったわ。で、大丈夫だったの?」
「うん…ありがとう」
そのまま無言になるヒカリ。何を話そうか迷っているような様子。あたしも少し迷ったけど、
こっちからキッカケを作って上げた方が良さそうな気がした。
「…で、どうだったの?」「え?どうだったの、って…?」
「あのメールの切羽詰まった感じ、ほんとはコレと一緒だったんでしょ?」
親指を立てる仕草が、我ながらオヤジ臭い。でもここは笑うところではない。
「…」コクリ「どこ行ってたの?」「…京都…だよ。これは本当」
次になんて言おうか考えていたところで、ヒカリが話を続ける。
「前から、冬の京都って行ってみたかったの…。時々鈴原にもそうやって言ってたの。そしたら…」
「そしたら?」
「今度の連休に一緒に行くか?って。自分は連休で帰省するから、金曜の夜は実家に泊まるけど、
翌日そのまま東京に帰る振りして、土曜日に待ち合わせて京都行こうか、って」
あのバカジャージがそんなことを言うなんて。あたしの知らない、というかヒカリしか知らない
一面なんだろうな…、なんてふと考える。照れくさそうに話しただろうバカジャージの姿を
想像する。その姿にシンジが被る。あいつ、そういうとこ行動力ないんだから…。
「…で、土日と京都に泊まった、と」「うん」「2人で?」「…うん」
「よく高校生2人が泊まれたわね…?」
「んーと、シングルを2つ取ったの。でも…」「使った部屋は1つだけってことね…」「…」
沈黙は肯定の証。

267: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:33:53.33 ID:???
>>266
「でもそれって…」核心部分だ。自分でも妙に緊張する。
ヒカリも顔を真っ赤にして俯いたまま、やがて静かに頷いた。
「すごい、やったじゃない、おめでとう」思わず口に出た言葉。この言葉が適切なのかどうなのか、
あたしにはちょっと自信が無い。でもそれを聞いたヒカリの顔が明るく嬉しそうになったから、
きっと正しかったんだと思う。同時に、朝感じたちょっとした違和感のようなものが、
これだったんだと思い当たる。スゴイじゃん、あたし。
「バレないと思ってたんだけどさ、ちょうど日曜日に親が寮に来てたみたいでさ…、
それで疑われちゃって…ごめんね迷惑かけて」
「んー、まあそんなことだろうと思ってたわよ」あのお母さんから感じた色々なことは、
ここでは黙っておこうと思った。ヒカリの実家はあたしの家よりも近いのに、なぜヒカリが
寮生活をしているのか、なんとなく分かった気がした。
「…ごめんヒカリ、ちょっと訊いてもいい?」「…え?何を?」
「あの…つまり…その…痛…かった?」ゴクリ
あたしの顔も真っ赤だ。ヒカリもまた顔を真っ赤にして、それでも答えてくれた。
「うん、すごく…痛かったよ。でもそれ以上に、愛している人とひとつになれたのが嬉しかったし、
すっごく幸せだった。愛する人と結ばれるのって、こんなにも幸せなんだ、って思った」
こんな嬉しそうな、幸せそうなヒカリの顔を見たのは初めてだった。そっか、ヒカリ、
女になったんだ…。
「…アスカは、痛くなかったの?」
「へ?」思わず素っ頓狂な声が出る。その声に、ヒカリが驚いたような顔をする。
「え?まさか碇君とはまだ…なの?」
今度はあたしが真っ赤になって頷く番だ。
「…そうだったんだ…。私てっきりもっと前からアスカと碇君って結ばれてたのかと…」
「…あたしも早くそうなりたいわよ」思わず出たあたしの呟きは、ヒカリには届かなかったみたい。良かった。

268: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:34:47.65 ID:???
>>267
「…そっかぁ。流れでそういう話になったら、どうやって避妊してるのかとか、聞いてみたかったけど」
「ひ、避妊?」うわぁ、なんか生々しい…。
そのあたしの表情に気がついたのか、ヒカリが言った。
「うん、アスカの気持ち、分かるよ。私もちょっと前まではそうだったもの…。
私ね、中学生のころまでは、そんなことする大人って、なんて不潔なんだろう、って思ってたの。
裸見せ合って、抱き合って、考えるだけでも汚らしい、って思ってたの、でも違った。
実際その立場になってみると、あんな素敵なことはなかったよ…」
「そ、そんなにいいもの…なの?」ゴクリ
「アスカもそうなれば分かるよ、それに痛いのは最初のうちだけで、何回かするとすごく…
ダメこれ以上は言えない///」「…ってヒカリあんたそんなに…したの?」
実のところ、さっきからあたしは生唾飲み込みっぱなしだ。更に言うなら、下半身もとんでも
ないことになってて、ヒカリが帰ったら速攻で下着換えなきゃ…なんて思ってるくらい。
ヒカリの話は、ひとつひとつが物凄く刺激的で、でもそれがあたしとシンジの近い将来の
姿なのかな…って思うと、ひとつひとつが参考になるというか…、でもそれと同時に羨ましい
気持ちと、先を越されたというような妬みのような気持ちが入り混じってて、
身体も心も、なんだかよく分からないことになっている。
ただ、半ば呆然とヒカリの話を聞いている頭の反対側で、シンジとあたしがそうなる時のことを
割とリアルに想像していた。ま、リアルと言いながらもそんな経験はまだないから、
実際のところは妄想に近いんだけど。

269: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/26(日) 00:36:01.60 ID:???
>>268
最後にヒカリはあたしにもう一度謝ったけど、それはまた別の理由。
「ごめんねアスカ…。私、嬉しくて誰かにこの話を聞いてもらいたかったのかもしれない…。
嫌な気分にさせたら、ごめんね…」
「ううん、全然そんなことないわ、ヒカリの気持ちも分かるもの。あたしも早くヒカリに
追いつきたいな…///」
そう、早く追いつきたい。してるかしてないかなんて、あまり関係ないのかもしれないけど、
でもあたしにはとてもとても大事な事に思えた。
だからヒカリが部屋を出て行った後で、下着を換え、鍵がかかった机の抽斗を開けて、
少しその抽斗の中身を眺めていた。
そこにあるのは、マリからもらったゴム製品と、ママからもらったピルの山。
お正月、実家に帰ったあたしに、ママはシンジのことを根掘り葉掘り聞いた挙げ句、
研究所からこっそり持ち出してきたピルの山を、遅くなった誕生日プレゼントとか言って
あたしに寄越してきた。それに激怒して家から飛び出して来たことは、まだシンジには話していない。
きっと適当に話したことを、あいつは今も信じてるんだろう。
そのくせ、ゴム製品だってピルの束が入ったビニール袋だって、捨てられずに取ってあるあたし。
ほんと、つくづく、素直じゃないんだから…なんだか本当にバカみたい。
しばらくそのままじっとしていたと思う。それからあたしは、意を決してメールを打つ。
シンジへ。「会いたい」と。

277: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:07:48.86 ID:???
>>269
15分後にシンジが現れる。毎週末の逢瀬の時と同じように、忍び足で、ゆっくりと。
「遅くにどうしたのアス…え?」
シンジが現れるのとほぼ同時にシンジに抱きつくあたし。身体が火照っているのが分かる。
そのままシンジに口づけをする。触発されたわけじゃない……いや、こんなところで
格好つけるのは止そう。
あたしは、ヒカリに無茶苦茶触発されて、刺激されて、シンジを明確に求めている。
これ以上無いくらいに、具体的に、現実的に。
「シンジ…」「アスカ…」「んっ…」「…あっ…」
何か言おうとするシンジの口を、あたしはキスで塞ぎながら、ベッドに倒れ込む。
あたしを抱きしめるシンジの手を、あたしの胸に導く。まだ堅くて小さい、熟れているとは言い難い
胸だけど、それでもシンジの指使いを十二分に感じることができる。
「…どうしたのアスカ…?」「黙って…お願いだから…」
理性が飛ぼうとしている。あたしは、なんとなくだけどそれを感じる。戻れない一線を
踏み越えようとしている。
ええ、いいわ。喜んで越えてやる。シンジと一緒なら。いや、シンジとじゃなきゃ嫌だ。
あたしは、これからシンジに捧げるんだ。
さあ、勇気を出して。
あたしは、シンジの右手を、あたしの、下着の中に導き入れる。既に溢れかえっている女のあたし。
そこにシンジの指が触れた途端、あたしの脳天に電流が走る。ヤバイ、こんななの?
想像していたものよりも遙かにスゴイ。頭のてっぺんから足の先まで、溶けちゃいそうだ。
最後にほんの僅かに残った理性が、あたしから声を出す事を必死になって止めている。
気づけばシンジもあたしも服を殆ど着ていない。シンジに、全てを見られている。
あたし、シンジに全てを見せている。あたしですら見た事がないようなところを、
今、シンジが見ている。そして、指と舌で、触れている。
その現実が、あたしを更に高みに連れて行く。ああ、愛し合うって、こういうことなんだ。
ヒカリの言う通りだ。こんなに、素敵な事だなんて、思ってた以上だ。

278: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:09:38.71 ID:???
>>277







「…ん?」「…どうしたの…アスカ?」「…え…?…まさか!」
快感の頂きにまさに立とうとしていたその瞬間に、あたしは否応なしに引き戻される。
現実に。もうひとつの女という現実に。
シンジの横をすり抜け、トイレに駆け込む。
「嘘…」

279: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:11:25.04 ID:???
>>278
しばらくして呆然とトイレから出てきたあたしを、何も言わずに優しく抱きしめるシンジ。
「…ごめん…シンジ」気づけば涙が出ている。
「ううん、大丈夫?ひょっとして…僕のせい?だとしたらごめ…」
「バカ、そんなんで生理が始まってたまるもんですか。…でも…」
「そこまでして神様は僕たちを止めるのか?って言いたいんでしょ?」
「…うん」
この時ばかりは、あたしは神という存在を全身全霊で呪った。あのカヲルとかいう半エルフみたいな
男の言葉は、今や呪いの言葉のように、あたしたちを縛り付けている。そんな気がした。
そんなあたしの気持ちを察したのか、シンジはあたしの背中を撫で、こう言った。
「まだダメなのか…、とか思わなくていいと思うよ。あの人のせいじゃないよ。
逆に、こんな勢い任せじゃなくて、もっとしっかりとしたところで、って神様が言ってるんだよ。
ほら、アスカ前言ってたじゃないか。海が見えるようなところで、ロマンティックな雰囲気の中で、って」
あたしは言葉が出ない。黙って、頷くことしかできない。
「確かに、ここじゃあ、そんなにロマンティックじゃないしね…」シンジは照れくさそうに呟いた。
「でも…シンジは…それでいいの?あたしと、したいんじゃないの?」思わず出た言葉。
違う、あたしが言いたいのはそんなことじゃないのに。
「…んー、出来なかったのは残念だし、実際、こいつをどうやって落ち着かせるかは悩むところだけど…」
シンジの下半身…夢中になってて気づかなかったけど、すごく固く大きくなってて、
あたしにとっては初めて見るものだった。思わず凝視してしまう。これが…入るの?
嘘みたい。
「でも、もっと良い機会を与えてくれるんだ、って思うしかないじゃない」

280: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:12:33.13 ID:???
>>279
シンジはそう言うと、抱き合ったままベッドに横になって、あたしにキスをしてくれた。
両肩に入っていた力が、ふっと抜ける。怒りや悲しみや虚無感が、空気に混じり合って消えていく。
自分の事よりも、あたしの事をまず大事にしてくれる。あたしの気持ちを優先してくれる。
シンジの奴、こんな場でも、そのいつも見せてくれる姿勢は変わらない。
あたしは、シンジをぎゅっと抱きしめる。
「ありがとうシンジ…ごめんね。今度こそはあげられるって思ったんだけどな…」
「ま、しょうがないよ。残念すぎるけど」
あたしは、黙って、シンジのそれに触れる。「ひゃっ…」シンジが変な声を上げる。
「この子…ちゃーんと予約済みなんだからね。あたし以外の誰とも許さないんだから。
その代わり、あたしもシンジだけなんだからね…」
シンジは、黙ってあたしにキスをすると、微笑んで言った。
「知ってるよ。僕もそうだよ。」
「…だから、もしシンジが良ければ、あたしが手でしてあげるわ」
あたしは、シンジのそれに手を触れたまま、そう言ってみた。やり方なんて全然分からないけど、
せめてそれくらいしないと、シンジに申し訳が立たない、そう思った。
「…あ、でもティッシュがない…」
手の届くところにティッシュがない。でも今更のこのことベッドから出られない。
その時、ベッドの足の方に、さっき脱いだパンツが転がっていたのに気がついた。
それを足を使ってたぐり寄せる。これでいいや。

281: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:13:58.09 ID:???
>>280
その様子に気がついたシンジが笑い出す。
「それじゃまるでノルウェイの森みたいじゃん、いいよそこまでしなくても。大丈夫だから。」
そう言って、あたしの手を取って、その手を撫でてくれるシンジ。
「ごめんねシンジ…」「だから、謝らなくてもいいよ。」
そう言って、シンジはあたしにキスをしてくれた。ゆっくりと、愛情をこれでもかと込めて。
そのまま、あたし達は抱き合って、眠った。しばらくして、シンジがこっそりと起き出して
トイレに行ったけど、あたしは気づかないふりをした。
シンジが何をしに行ったのか、なんとなく分かっていたけど、でもあたしにはそれをとやかく言う資格はない。
そんなことよりも、さっきまでの夢のような時間、強制終了されるまでの、あのひとときを
反芻していた方が、ずっと健康的だ。実際、あたしの頭の中は、その時のシンジの指や舌の
動きを思い出すだけで、身体が痺れるような感覚でいっぱいになった。
その瞬間は、間違いなく掛け値無しに、人生で一番幸せだった。
これからシンジとあの時間を共有できるようになるのかと思うと、嬉しさと悦びで
どうにかなっちゃいそうなくらいだ。
早く、そうなりたい…そんなことを考えていたら、いつの間にか眠ってしまっていた。
気づけば、朝。時計の針は6時を回っている。シンジはもういない。
「よく眠っているので、先に戻ります。愛してるよアスカ」
その置き手紙に書かれたシンジの字に、あたしはそっと口づけをする。
あたしの大切な人。あたしの全て。あたしの大事な王子様。
「シンジ…大好き」
あたしは携帯を引き寄せると、シンジにメールを打つ。今呟いた台詞を、そのまま。

282: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:14:47.14 ID:???
>>281
「アスカぁ、起きてる?」
ヒカリがあたしを起こしに来た時、あたしはシャワーを浴びていた。
昨夜の悔しさを綺麗さっぱりと洗い流して、シンジに会いに行こう。いつもと変わらない
1日。でも、少なくともあたしとシンジの仲は、ほんのちょっぴりだけど、進展したんだと思う。
いや、思いたい。
きっとあいつは、いつもと変わらない笑顔であたしを迎え入れてくれる。
そうすることが、あたしを一番安心させることができると知っているから。
シャワーを浴びて、制服を着て食堂に下りていく。いつもの場所に、朝食を用意しているシンジがいる。
「おはよう、アスカ」
ほら、やっぱり笑顔だ。あたしが求めていた微笑みだ。
「おはよう、シンジ」
あたしも、いつもと同じように返事をする。最後に一瞬だけ、ウインクをしてみせる。
少しだけ顔を赤らめて、照れ隠しか、コーヒーをあたしに渡すシンジ。
「あたしたち、少しだけ、進んだわよね…」
パンにマーガリンを塗りながら、あたしは呟く。シンジならきっと…
「そうだね、僕たちらしいペースで、進んでるんじゃない?」
シンジは、目玉焼きの黄身を割りながら、あたしと同じように、呟くように言ってくれた。
「うん」

283: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/01/27(月) 00:18:47.35 ID:???
>>282
やっぱりシンジは分かっててくれている。あたしが欲しかった答えを言ってくれる。
ヒカリたちはヒカリたちで、あたしたちはあたしたちだ。
神様がまだダメというならば、あたしたちはこれ以上ない完璧なシチュエーションを作り出すだけだ。
ぐうの音も出ないほど完璧な結ばれ方をして、神様にも認めてもらうんだ。
あたしたちが世界で最高のカップルだ、って。
「よし、頑張るぞ」
あたしはそう呟くと、食パンを二つ折りにしてベーコンとハムを挟み、かぶりついた。
我ながら全くお淑やかさとか清楚さがない。半ば呆れた目つきで、シンジがあたしを見ている。
何よ、文句あんの?って、目で訴えかけたら、苦笑してた。アスカらしいと言えば、らしいかな、って
シンジの目が言っている。
「そうよ、あたしらしく、あたし達らしく、いくのよ」
パンを飲み込んでから、あたしはそう言った。
「そうだね」
シンジはそれだけ言うと、微笑んでくれた。その微笑みが、全てを語っていた。
あたしには分かる。そして、それをシンジも分かっている。
ああ、やっぱりこの人しかいない、シンジ以外はあり得ない、あたしは心の底からそう思った。
愛してるわ、あたしのシンジ。

344: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:25:27.94 ID:???
「…アスカぁ、明日ってば大雪になるらしいよ」
金曜の夜、アスカの部屋を訪れたシンジは部屋に入るなり、そう言った。
「ふーん」
アスカはベッドに腰掛けて雑誌を読みながら生返事をする。
「雪だよ、大雪になるんだってよ、大丈夫かな?」
シンジはアスカが真面目に聞いていないことに若干苛つきながら続ける。
「別に、いいんじゃないの?」
アスカは相変わらず、雑誌に目を落としたまま、聞いているのか聞いていないのか分からない。
「ちょっと、アスカ、」
シンジはたまらずアスカの背後から肩を掴む。そのまま左頬に顔を近づけてリピート。
「明日、大雪なんだって。大丈夫かな?」
「へ?なにそれ?」
やはり聞いていなかった。シンジは自分の予想が当たったことに溜め息をつきながら、
アスカの読んでいた雑誌に目を落とす。「なになに、カップルで楽しむ温s」
「な゛っ」アスカ、慌てて雑誌を仕舞い込む。「見ちゃダメよエッチ」
「ごめん…じゃないよアスカ、明日、どうするの?」
「そんなの聞いてないわよ、でも雪なんてたいしたことないんじゃない?去年の受験の時だって、
なんだかんだ言って電車はちゃんと動いたし、試験開始には間に合ったわけだし。」
「いや、それがね、今度のは20年ぶりくらいの大雪になりそうなんだって。」
シンジは説明した。南岸低気圧が発達しながら関東に接近、関東上空にはシベリアからの
寒気が居座っている、この状況こそ大雪の降る一大フラグだ、と。
「大丈夫よそんなの。どうせ地下街歩いて行くんだから平気よ」
アスカは全く気にする素振りも見せない。
「えー…でも映画館から出てきたら一面真っ白で電車も止まってる、とかいうのは嫌だよ…」

345: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:26:01.62 ID:???
>>344
シンジはあくまでも先々のリスクを考えて、アスカに遠回しに明日のデートは延期にしようと言っている。
アスカもそれには気づいていた。だが、愛する人とのデートが、例えどんな理由であろうと
延期になるというのは、アスカには我慢がならないこと。
「だから、あたしが大丈夫、って言ってるんだから、大丈夫よ、わかった?」
シンジを見つめるアスカの目が、全て語っている。シンジもアスカの表情を見て、
自分の努力が決して実ることがないことを知る。
「うーん…しょうがないなぁ」
頭をかきがら、シンジは明日の天気が大荒れにならないことを祈った。それもまたおそらく
無駄になるであろうことを知りながら。


土曜日。寮を出てみると、既にちらほらと雪が舞っていた。
「もう降り出してるよ…」シンジが呟く。
「ん、大丈夫よ大丈夫。きっとそんなに積もらないわよ、楽勝よ楽勝」
アスカは呑気なものだ。
「さ、行きましょシンジ」
アスカはシンジの手を引いて駅に向かう。シンジは空を見上げる。暗い空から雪がはらはらと
舞い降りてくる。頬に触れる空気は、芯まで凍えるような冷たさだ。
「寒っ」シンジは首をすくめると駅へ急いだ。

346: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:27:37.47 ID:???
>>345
「うわっ、なんだこれ!」
数時間後、映画館から出てきた2人が見たものは…一面の銀世界。
「都心でもこんなに降るんだ…」半ば唖然とするシンジ。
「スゴイスゴイ、真っ白じゃない、まるで雪国だわ」無邪気にはしゃぐアスカ。
そのアスカを気にしつつ、シンジはこの後に起こりうる展開をシミュレーションしていた。
「(電車は動いてるのかな…、動いていてもこのペースだと止まっちゃうのも時間の問題かも
しれないな…アスカのことだから隣の公園に行きたいとか言い出しそうだけど、なんとかして
止めて帰らなきゃマズイことになるよな…でも何て言ったらいいかな…)」
「シンジー!」遠くから声が聞こえる。
「あれ?アスカ?」シンジが気づいた時には、アスカはもう100mほど先へ進んでいる。
「ほら、あの公園行きましょ!こんな雪、滅多にないわよ」
アスカはまるで初めて雪を見た小学生のように、目を輝かせている。
放っておいたら雪だるまを作り、雪合戦でも始めそうな勢いだ。
「(しまった…)」シンジはアスカから目を離したことを後悔するが、時既に遅し。
アスカを追いかけていくシンジ、その後ろ姿は横殴りの雪で、あっという間に見えなくなった。

ゲートをくぐり、公園内に入る。目の前に広がるのは普段なら一面の緑色だったかもしれない。
あるいは池のほとりでざわめく水鳥の群れだったかもしれない。
だが、今日は違う。一面真っ白な雪、雪、雪、雪。それしかない。
晴れた日であれば、陽の光を反射してキラキラと輝いている筈の池も今日は不気味に
どす黒いまま、静まっている。まるで魔界への入口のように、その黒い姿を晒している。
「…アスカ、何か嫌な予感がするよ…もう帰ろう」
シンジの提案は、アスカには届かない。アスカはもうシンジの数メートル前を走り出している。
誰もいない公園。誰も踏み入れていない、真っ白な雪原を、アスカは無邪気に走って行く。
「ほらほらシンジ~、誰もいないわよ、貸し切り状態よ」振り返りつつシンジに向かって叫ぶアスカ。
「アスカ、危ないよ!」
シンジがそう言った瞬間、アスカがすっ転ぶ。右足が高く上がり、雪の塊がその辺に飛び散る。
「アスカ!」
シンジは駆け寄ろうとするが、既に雪が深く、なかなか前に進まない。

347: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:28:38.20 ID:???
>>346
やっとの思いでアスカの元に辿り着くと、アスカは雪まみれになって膝を押さえて蹲っていた。
「…痛ったあ…なんでこんなところに花壇があるのよ…」
「雪で見えなくなってたんだね…大丈夫アスカ?」
シンジが蹲るアスカの膝を見てみると、タイツが擦り切れかかっている。
どうやら足を引っかけた拍子に擦りむいたらしい。ひょっとすると血も出ているかもしれない。
「大丈夫?立てる?」シンジの問いかけに黙って頷くアスカ。右手がすっと伸びる。
その右手を握ってアスカを立たせるシンジ。痛そうな素振りを見せながらも、すっと立ち上がるアスカ。
「いたたた…擦りむいたかも。帰ったら消毒しなくちゃ」
シンジは苦笑する。その苦笑の意味を正確に捉えて、アスカが口をぷー、っとふくらませる。
「何よ、ガキみたいに走り回るからだ、って言いたいんでしょ」
「え、い、いや、そんなこと言ってないよ」「言ってたわよ、その顔が」
アスカがシンジの頬を突っつく。別に怒っているような素振りではない。
シンジの苦笑が微笑に変わる。
「だってアスカったら、本当に童心に返った、って感じだったからさ、」
「何よ、いいじゃない。このあたしだってたまには子供の頃に返るわよ…って、
…うるさいわねぇ…まあ否定はしないわよ」
ふふふ、とアスカが笑う。シンジの顔には「いつも子供みたいじゃないか」と書いてある。
お互い、言葉に出さなくても分かり合える。そしてお互いそれを素直に受け入れ、受け止める。
それは、お互いの信頼関係があるから。
2人とも、お互いを必要とし、愛し合っていることを知っているから。
だからこそ、こんな場面でアスカは笑える。笑っていられる。
シンジの前でしか出さないアスカの一面。
シンジもそんなアスカのことが分かっていて、それだけに愛おしくて仕方が無い。
「ほら、風邪引いちゃうよ、」
シンジは、アスカの頭やコートにこびりついた、半ば同化している雪の塊を丁寧に払いのける。
寒さで少し赤らんでいるその指先に、しばしうっとりとするアスカ。

348: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:30:42.57 ID:???
>>347
が、指先からその背後の風景に目の焦点が合った瞬間、アスカは自分が大変な判断ミスを
したことを知った。シンジは、まだ気づいていない。
アスカの雪を払いのけているシンジの手を優しく止め、アスカは呟くように、言った。
「…ヤバイ、これヤバイわよシンジ…」
その言葉の緊迫感に驚き、シンジはアスカの目を見る。そして周囲を見渡す。
シンジがアスカの言葉の意味に気がつくのに、ほんの数秒もかからなかった。
何故なら、彼らの視界は吹雪によって完全に塞がれていたから。

「大変だ…!」
シンジは慌てて周辺を見回す。既に視界は10mもない。自分たちが来た方向さえ分からなくなりそうだ。
「…シンジ!」
アスカがシンジにしがみつくように掴まる。
「大丈夫だよ、落ち着いて」
シンジは優しくアスカの髪を撫でる。が、シンジも心中はさすがに穏やかではない。
というか、焦りの色が濃い。
「(落ち着け…落ち着け…)」
シンジは避難できそうな場所を探す。とは言っても目の前は真っ白で何も見えない。
ただ、公園に入る時にちらっと目にした園内の案内地図の記憶、それだけが頼りだ。
「(確か…ここから東に50mも行けば、休憩所があった筈…でも東って、どっちだ?)」
「あたしたち、こんなところで遭難するの?嫌よこんなところで…」
アスカも、言葉が続かない。いつもの威勢の良さもこの風と雪の前では発揮されない。
「大丈夫だから、ほら、あっちだよ」
シンジは殆ど勘を頼りにアスカの手を取って動き出す。その瞬間、うっすらとだが、前方にビルが見える。
「あのビル…あっちだ!」
既に膝下まで積もろうとしている雪を踏み分け、シンジはしっかりと前に進み出した。
アスカが歩きやすいように、足場を固めながら、ゆっくりと進む。凍えるのが先か、
辿り着くのが先か、時間との闘いだ。と、突然、雪の塊が目の前に落ちてくる。
ドサッ
すぐ近くにあった木の枝が折れたのだ。シンジは思わず立ち止まる。自分の腕の太さくらい
はある枝が、雪の重みに耐えかねてバックリとした傷を残して幹から裂けている。

349: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:32:51.22 ID:???
>>348
「急がなくちゃ」
アスカの手を引き、シンジはなおも前に進む。折れた枝を潜り抜けるように進むと、
ぼんやりとだが、屋根のようなものが見えてきた。
「良かった、生きて帰れるわ」「助かったぁ…」
アスカは泣きそうな表情で、シンジにしがみついている。シンジも緊張が解けそうになるが、
「でもまだ着いたわけじゃないよ。ほら、あと少しだし、頑張ろう」
アスカの手をなおも引き、安全地帯へと一歩一歩進んでいく。

そこはまさに東屋と言ってもいいような場所で、屋根はあるが壁はない、普段であれば
ランチを食べるか喫煙所として使われているか、そんなスペースだった。
それでも今の2人にとっては、天国。
「やっと着いたぁ…」「ひゃぁ…冷たい」
お互いに雪を払いながら、外の様子を窺う。
「こりゃ大変だな…帰れるのかな…」「…シンジ、ごめんなさい」
「え?」「ごめんなさい。あたしの我が儘で…シンジを危険な目に遭わせちゃって…」
アスカの頬を涙が一筋流れる。俯いたまま必死に嗚咽を我慢するアスカ。
思えばシンジの言うことを聞いていれば良かった。映画を見ただけで帰っていれば、
いやそもそも出かけなければ…、アスカの脳裏には昨日からシンジの忠告を無視し続けていた
自分の姿がよぎる。なんてバカだったんだろう、そんな思いがアスカの両目から涙となって
こぼれ出す。
「…大丈夫だよ、アスカ、」
シンジはそっとアスカの頬をぬぐう。アスカの顔が上がる。
「!」
そこにシンジのキス。みるみるうちにアスカの顔がくしゃくしゃになり、シンジに抱きつく格好になる。
そのまま夢中でお互いの唇を貪る2人。横殴りの雪は休憩所の中にも侵入し、瞬く間に積もり出す。
「シンジ、」しばしの口づけの時間が終わらせる一言。
愛してるわ、の言葉は言わなくても伝わる。だから、アスカはその続きを急ぐ。
「なんとかしてここから出なきゃ。無事に帰らなきゃ。」

350: 名無しが氏んでも代わりはいるもの 2014/03/05(水) 00:33:39.12 ID:???
>>349
アスカの気持ちはちゃんとシンジに伝わっている。
「うん、そうだね。」
風の音以外は何も聞こえない。視界も真っ白だ。自分たちが進んできた道など、とうの昔に
雪に埋もれてしまった。自治体が管理している公園だけに、そのうち誰かが見廻りにやってくる
かもしれない。でもその時までに凍え死んでいない保証はない。
「でも、どうしよう、シンジ…」アスカは不安そうだ。
シンジは先ほどの案内図を必死に思い出す。
「えーと…確かここを右に行った方が出口が近いはず…」「どのくらい?」
「うーん…よく覚えていないけど、さっき来た時よりは短かったはずだよ」
2人で顔を見合わせる。くしゃくしゃだったアスカの顔も、今は真剣な表情に戻っている。
アイコンタクトで頷き合い、またキス。そして2人で手を繋いで出口があると思われる方に視線をやる。
「行くよ、アスカ」「ええ」
せーの、で足を踏み出そうとしたその時、シンジ達の正面から人影が急に現れる。
「なんだ、おまえたち、何してるんだ迷ったのか?」
それは、(おそらく)公園の管理人。後ろにはヘルメットを被った男達が数人。
「助かった…」腰が抜けるアスカ。
「すいません、この雪でにっちもさっちもいかなくなっちゃって…」シンジが窮状を伝える。
この男達はまさに公園内の見廻りをしていたのだが、あまりの雪の酷さに一時避難しようと
この休憩所にやってきたのだった。少し先に折れた枝があるのを見つけて、何かごそごそと
話をしているヘルメットの男達。事情を知った管理人(らしき人物は)笑いながら言う。
「こんな日にここに来るなんてバカだなぁ、」「…仰る通りです」
ひとしきり、雪の怖さと関東の人間の雪に対する認識の甘さについて説教されるシンジとアスカ。
「こんな日はな、家から出ちゃダメなんだ。どうせ舐めてかかったんだろ、ほんとにバカだなぁ」
そう言いながらも持っていたスコップで道を作ってくれる管理人と作業者の男達。
10分ばかり黙々と雪をかき分けていくと、出口のゲートがぼんやりと見えてくる。




※続きます
【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】No.4

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