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このchapter1は
【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】No1~6,story1~3とは別の作者の方が書かれたssです

シリーズもの&完結していますので、2話以降も編集の完了までお待ちいただけると幸いです。

144: 1/3 2015/02/04(水) 10:50:52.52 ID:???



雪のちらつく曇天の下、人影もまばらな通りで足踏みしながら待っているアスカ
駆けてくる足音に気づく
が、わざと顔は上げずにマフラーに埋めたままそっぽ向く
息を切らして立ち止まるシンジ
「ごめん、…クラスのみんな振り切ってくるのに手間取っちゃったんだ。
 最近、みんな僕たちのこと勘づいてるみたいでさ…校門まで一緒に出て、
 別れてから、大回りして戻ってきたんだ」
やっと振り向いてシンジを睨むアスカ
「…言い訳なんか聞いたって嬉しくないわよ。ばか」
「ごめん…」
素直にしょんぼりするシンジ
二人の白い息が混じりあって寒空に昇る
シンジを横目でにらみ、ぼそっと言うアスカ
「…それに、みんなに知られたって、別にいいのに。私は」
ぱっと顔を上げるシンジ
「え…でも、その、僕は…僕なんかとじゃ、アスカは恥ずかしいんじゃない…?」
「何言ってんのよ」

145: 2/3 2015/02/04(水) 10:51:41.66 ID:???
向き直り、一歩踏み込むアスカ
お互いの近さにとまどうシンジ
「この私があんたを好きなんだから。正々堂々として、何が悪いのよ」
「え…アスカ」
何度か瞬きするシンジ
ゆっくり顔が上気していく
それを見て逆に自分が照れてしまうアスカ
行き交う人々を気にして声を張る
「…もう! さっさと行きましょ、凍えちゃうわ。
 あーもうっ、さっむーい。ったく、何とかしなさいよ馬鹿シンジ、あんたのせいでしょ」
「アスカ」
先に歩き出したアスカを呼び止めるシンジ
振り向くアスカにまっすぐ歩み寄る
急にあわてるアスカ
視線を泳がせると、自分のコートのボタンを外しているシンジの指が目に入る
「ちょっ…」
固まっているアスカに近づき、コートで包むようにして冷えた身体を抱きしめる
しばらく無言の二人
くっつきそうな二つの頭に雪が散りかかり、髪に留まる
もそっと動くアスカ
はっとして腕を緩めるシンジ

146: 3/3 2015/02/04(水) 10:53:51.77 ID:???
が、アスカはかえってコートの下で肩に手を回し、身を寄せる
ちらっと見上げると、さっきよりはるかに真っ赤になっているシンジの顔
くすっと笑うアスカ
肩口に顔を埋める
小さく息を呑み、さらにぎゅっと抱きしめるシンジ
「…あったかい。ほんとに走ってきたんだ」
「…うん」
「ばーか。ほんっと素直っていうか、ばか正直なんだから」
「…うん」
「けど、こんなとこで…人が見るわよ。あんたこそ、そういうの嫌がるじゃない」
「いいんだ。だって…こういうのが、正々堂々、だろ。
 …僕もアスカのこと好きだ。だから、恥ずかしくなんか、ないよ」
「…そ。…じゃ、見せつけちゃおっか」
囁いて、いきなりまともにキスするアスカ
シンジの目が一瞬見開かれ、やがてゆっくり閉じる
雪の舞う中に立ち尽くす二人の影

後日、学園じゅうに目撃者の証言および「碇×アスカ」の相合傘の落書きが氾濫したという

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151: 1/3 2015/02/06(金) 10:45:46.67 ID:???
「立春カップルぅぅ?! 何よソレ、どこのどいつがんなタワケたこと言ってんのよ!」
「だから、クラスのみんなだってば…」
膝に両手ついて身を乗り出しているアスカ
弱り顔のシンジ
校舎隅のひと気のない階段室で冬の陽射しを浴びる二人
「立春の日に交際発覚したから、なんだって。…やっぱり、みんな見てるんだね」
「それが何よ」
きっとなるアスカ
「言ったでしょ。私は他人の目なんて気にしないわ。正々堂々って言ったの、本気だもの。
 今さら引っ込める気はないわよ」
瞬いて、ちょっと表情が明るくなるシンジ
目だけでふわっと笑う
つられて肩の力が抜けるアスカ
「…僕も、かまわない。…だけど僕は、僕じゃなくて、アスカが何か言われるのは嫌なんだ。
 みんなも悪気はないのはわかってるんだけどさ」
「ばーか。そんなのどうだっていいじゃん、私らが平気な顔してりゃいいんだから」
ふふんと笑い、上体を引いて再び両膝の上で頬杖つくアスカ
急に不安そうになって見つめるシンジ
陽がかげってくる
雪雲の増えてきた空を見上げるアスカ
「…そういえば、こんな天気だったっけ」

152: 2/3 2015/02/06(金) 10:46:46.28 ID:???
「え?」
きょとん顔のシンジに眉をつり上げるアスカ
「私とあんたが初めてあった日、よ! まさか忘れてるんじゃないでしょうね?」
「え?! ううん、忘れてなんかないよ、…そっか、ここの受験の日だったんだっけ」
「そ。ま、覚えてるなら、よーし」
「ごめん…」
「なんで謝んのよ、ばか」
「…なんでだろ」
自分の内側を見つめるような表情をするシンジ
覗き込むアスカ
「…うれしいから、かな」
「は?」
視線を上げ、けげんそうなアスカを正面から見つめるシンジ
真剣な眼差
内心大いに動揺するアスカ
「変な話だけどさ、…アスカに怒られたり、謝ったりするのは、他の人のときと違って、
 なんだか苦しくないんだ。ギスギスしないっていうか、安心…するっていうか」
「…な」
自分で気恥ずかしくなってしまい、視線をちょっと逸らすシンジ
それでも思いきって続ける
「うまく言えないけど、…アスカだけなんだ」
両目を見開くアスカ

153: 3/3 2015/02/06(金) 10:47:51.94 ID:???
言葉が見つからない
波立つ胸のうちを抑え、何とか主導権を取り戻そうともがいて、急に、ふっと受け入れる
自分でも知らなかった柔らかな笑顔が浮かぶ
そうできた自分を素直に好きだと思えるアスカ
見つめ返すシンジの目も、無防備なほどに驚きと嬉しさをあらわにしている
二人でいることを噛みしめる二人
「…ばーか」
自分たちだけに聞こえる声で呟くアスカ
「そんなの、当ったり前じゃない」
「…そうだね。アスカ」
「ん」
目と目で微笑み、ほとんど同時にお互い身を寄せて静かなキスを交わす二人
雲が切れ、しばし眩しい光の幕が踊り場を覆う



163: 1/8 2015/02/13(金) 13:31:05.01 ID:???


校庭の植え込みの陰に佇むシンジ
雪雲の裾の辺りが少し晴れて夕焼けの色が覗いている
ふーっと白い息を吐き出すシンジ
急にぎょっと振り返る
寄せ残りの雪を蹴散らし、足音高く向かってくるアスカ
明らかに不機嫌な表情
シンジの目の前でぴたっと立ち止まる
険悪な無言
ひるみつつなんとか口を開くシンジ
「…ど、どうしたのアスカ。ずいぶん遅かったじゃない」
きっと眉を上げるアスカ
焦るシンジ
とりあえず身に覚えがないか今日一日の記憶を脳裏でひっくり返してみる
が、アスカはそのまま目を伏せてしまう
尖っていた両肩が落ち、うつむいた顔を前髪が隠す
思わず前に出るシンジ
「…どうしたの!」
「何でもない。…あんたのせいじゃないから」
顔をそむけるようにして答えるアスカ
不機嫌だったのではなく、懸命に虚勢を保っていたことに気づくシンジ
胸が迫る
「…、アスカッ」

164: 2/8 2015/02/13(金) 13:32:36.72 ID:???
正面に回りこんで顔を覗き込むシンジ
「…ごめん。…大丈夫だから、ちょっと放っといて」
さらに深くうつむいて視線を逸らすアスカ
堪らなくなり、手を伸ばすシンジ
途中で気づいて乱暴に両手袋を脱ぎ捨て、素手でアスカの頬を包んで、そっと顔を上げさせる
「え」
痛々しいほどの感情を見せているアスカの顔
まっすぐ見つめて、短く首を振るシンジ
「できないよ」
「ちょっと、何…」
「放っておきたくなんかない。…ごめん。でも、僕が嫌だ。…我慢できないんだ。…ごめんよ」
頬を包む両手の温かさに、ひたすら感覚を占領されているアスカ
唇を噛む
「…謝んないで。…謝んなきゃいけないのは、私の方」
両手を上げて、シンジの手の上に自分の手袋の手を重ねる
「…ばか。わざわざ冷たい思いして」
「…うん」
やっと少し笑い合う二人
もう半歩前に出て、こつんとおでことおでこをくっつけるアスカ
少しの間じっとしている
顔を上げ、ちょっとぼうっとしているシンジに笑ってみせる
「ばか、こんなんで赤くならないでよ。…もう平気。行こ」
「う、うん」
雪道を歩き出す二人

165: 3/8 2015/02/13(金) 13:34:24.12 ID:???
だいぶ薄れてきた遠い夕映えの光
アスカにせっつかれてもそもそと手袋をはめ直すシンジ
「…あのさ、…さっき、どうしたの」
「ん? んー…」
「あ…別に、アスカが言いたくないなら、いいんだ」
「ばか」
思い出しているのか、少しぎこちない笑顔を見せるアスカ
とたんに心配顔になったシンジに、ゆっくり眉を開く
「それじゃあんたが嫌なんでしょ。
 …大丈夫、つまんないこと。あんたのせいでもない。…私のことよ。
 今日、教室でちょっと、からかわれちゃってさ」
組んだ両手を前にうんと伸ばすアスカ
見つめるシンジ
「…僕たちのことで?」
「そ」
両手を下ろすアスカ
「こうやって話せば、なんでもないことなのにね。
 最初は私、そんなのてんで平気だって思ってた。普通に冗談ぽく答えてるつもりだった。でも
 気づいたら、いくら上っ面は合わせられても、本当は我慢できないんだってわかって…
 一回自覚しちゃうと、駄目ね。…結局、みんなに嫌なこと言って、一人で出てきちゃった」
淡々と語るアスカから目が離せないシンジ

166: 4/8 2015/02/13(金) 13:35:21.15 ID:???
ふと横目で窺うアスカ
聞いている自分の方が本気で傷ついているようなシンジの表情
とっさにまた前を向いてしまうアスカ
どうしていいかわからず、話を続ける
「それで…、シンジを待たせてるってわかってても、何となく、顔向けできない気がして…
 違うか、私がつらかっただけ。いつも偉そうに振るまって、正々堂々なんて言ったくせに、本当に
 こだわってるのは自分の方なんだ、って、わかって。心底自分が嫌になっちゃった、って感じ」
薄青く暮れてくる雪道
自嘲するようだったアスカの顔がはじめて嫌悪にきつく歪む
「でも、一番嫌だったのはね…
 さんざ回り道しても結局、あんたのところに行ったことよ。…待っててくれるって知ってたから。
 …ほんと、嫌な奴」
言葉を一つ一つ噛みちぎるように吐き出すアスカ
はあっと溜息をつく
「…ごめん。こんなことまで聞かせて」
表情をつくろいつつシンジの方を向いて、はっとする
数歩後ろで立ち止まっているシンジ
宵闇でよく見えない表情
振り返っているアスカの両目の奥で何かが頼りなく崩れる
「…シンジ? ねえ」

167: 5/8 2015/02/13(金) 13:36:09.61 ID:???
すがるようになる声の調子を自分で憎むアスカ
駆け寄りたいのをこらえる
涙がにじむ
急に、足元から這いのぼる寒気が意識される
「…シンジってば」
顔を上げるシンジ
生真面目な目でアスカを見つめ、口を開きかけ、突然表情を崩してうつむく
灯り始めた街灯に照らされて光る涙
声を殺すようにしてしゃくりあげる
本当に泣いているシンジ
「…ば」
考える間もなく駆け寄るアスカ
シンジの身体をがむしゃらに抱きしめる
「この馬鹿。ばか。ばか…!」
「ごめん…」
「ばか…なんで、あんたが泣いてんのよ…」
震える肩を押さえようとするシンジ
「わかんな、い…わかんないけど、アスカが、そんなに嫌な思いしてたんだって…考えてたら、…」
「ばか」
自分も涙ぐんでいるアスカ
嗚咽を洩らすシンジ
今はお互い顔が見えないことを感謝する二人
もう真っ暗に近い道
身を噛む寒さに少しずつ我に返る二人
「…おさまった?」
「うん…ごめん」

168: 6/8 2015/02/13(金) 13:38:28.76 ID:???
「ほんとよ。こういう時、泣くのは私の方でしょ。…男のくせに」
「ごめん…」
もう笑っているアスカ
その顔を見てつられて微笑むシンジ
ちょっと真顔になる
「…本当にごめん。…僕はもっとアスカのことわかりたい。それで、…ちゃんと、男らしくなりたい」
「は? あんたが?」
瞬きして弱気な表情になるシンジ
「…変、かな。…あは、そうだよね」
「違うわよ」
今度は自分からシンジの頬に触れるアスカ
「違うけど、でも、なんで?」
なぜ訊かれるのかわからないシンジ
「アスカのこと支えたいから。
 ちょっと違うな…その、アスカにふさわしい人間になりたいから。アスカがいつも、僕の好きな顔で
 笑ってられるように」
真剣に、けれど力むことなく答えるシンジ
何度も考えてもう自分にとって当たり前になったことだから照れも気負いもない
逆に完全に不意をうたれて真っ赤になるアスカ
手を引っ込めたいが動けない、顔も伏せられない
嬉しいのと悔しいのが混じりあって涙まじりの笑顔になる
うろたえるシンジ

169: 7/8 2015/02/13(金) 13:39:34.27 ID:???
「え?! ごっごめん、どうしよう、アスカ、その」
「いいの!」
なかば意地になって涙をぬぐうアスカの様子に焦りつつ、それでも見とれてしまうシンジ
「でも…」
「いいんだってば。どうしても何かしたいんなら、…こういうときは、男は思いきり抱きしめればいいの」
「! うん」
全身でアスカを抱きしめるシンジ
アスカがとまどうほどの勢い
一瞬二人の息が止まる
二つの身体がお互いの感触に緊張し、なのに少しずつそれがほぐれて、完全になじんでいくことの喜びと安堵
今はもう、それまで離れていたことの方が信じられない
お互いをお互いに預ける、そうすることが自分にとって一番当たり前だから、そうしている
自分とは違う存在なのに、相手も同じ気持ちでいることがわかる、その目の覚めるような驚き
深い嬉しさと少しの怖れ
一瞬一瞬が惜しいと痛感すること
やがて、少し眩しげに目を開くアスカ
何度でも、わかっていても、アスカの顔、移り変わるその表情の一つ一つに見とれてしまうシンジ
シンジの無防備な感情を読み取ってくすりと笑うアスカ
手を繋いで歩き出す二人
「…すっかり遅くなっちゃったね」

170: 8/8 2015/02/13(金) 13:40:33.32 ID:???
「ほんとよ。こうなったら家まで、ちゃんと送っていきなさいよね」
「…いいの?」
「私がいいって言ったら、いいの。決まってるじゃない」
「そっか。そうだね」
「なーに一人で笑ってんのよ。…ところでさ」
「何?」
「その、…今日の、さっきの話なんだけど」
「…? あ、帰り際にからかわれたっていう」
「そう、それ。その、そもそもの原因って言うのがさ…、あー、やっぱり言わない」
「え?! 何だよ、教えてよ」
「わかんないの? 何で今日だったのか」
「…う、うん。今日、何かあったっけ」
「今日っていうか、明日なんだけど。正確には」
「明日??」
「…わかんないわけ、ね。じゃあ言わない」
「?? 何でだよ? 聞かせてよ、気になるじゃないか」
「だーめ。教えない!」
遠ざかっていく二つの足音
しんしんと冷えていく夜道

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180: 1/10 2015/02/18(水) 22:38:11.87 ID:???

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【2月14日】
夜遅くなってやっとアスカの「明日」の意味に思い当たるシンジ
(どうしよう…
 まさか、今から電話かメールで「バレンタインどうなったの?」なんて訊くわけにもいかないし…
 !! もしかして昨日のは、今日、デート…とかに、誘ってよっていう意味だったのか…?!)
うろたえるシンジ
案件が案件なだけに訊くに訊けない
しかも明日は日曜だからますます連絡取りづらい
アスカからは何も言ってこない
(…どうしよう、…訊いたら何で今頃!って怒らせちゃうだろうし、訊かなきゃがっかりするかも
 しれないし…ああもう、明日学校があれば話だけでもできたのに)
一晩中悶々とするシンジ

181: 2/10 2015/02/18(水) 22:39:41.65 ID:???
【2月15日】
朝から機嫌悪いアスカ
昨日は結局、シンジからはメールすら来なかった
(…別に、赤いバラの花束持ってこいってつもりじゃなかったけど)
案外落ち込んでいる自分を持て余すアスカ
(…仕方ないじゃない? あいつ、鈍感だし。まあ、たまに変なとこ鋭いけど、ボケボケッとしてるし)
(けど…だからって、ああいう特別な日まで忘れること、ないじゃない…)
うつむくアスカ
何度も携帯を手にしては放す
ベッドの上に寝転がってみる
天井がぼやける
はっとして涙をぬぐうアスカ
(…ばかみたい。勝手に期待しちゃって。…ほんと、馬鹿。…馬鹿よ。もう、馬鹿シンジ…!)
手に触れた携帯を掴み、床に投げるアスカ

【2月16日】
学校の廊下で顔を合わせる二人
ぎこちない沈黙
それでも意識して何気ない表情をつくろい、自分から話そうとするシンジ
アスカの傷ついた目
たじろぐシンジ
口ごもったシンジを見て凍ったような表情になり、大股に歩み去るアスカ
取り残されるシンジ
心配顔で見送っているが、しだいにむっとして口を結ぶ
(…なんだよ)
どんどん遠ざかるアスカの背中
(何も言わずに…話も聞かずに、まるで、僕だけが悪いみたいじゃないか。なんだよそれ…
 それならもう知るもんか)
目を伏せ、振り切るようにきびすを返すシンジ
(そうだ。知るもんか)
うつむいて足を速めるシンジ

182: 3/10 2015/02/18(水) 22:40:30.57 ID:???
【2月17日】
学校から帰るなり部屋に直行するアスカ
制服も着替えずベッドにつっぷす
もう自分すら騙せない
胸の痛みしか感じられない
(…ばか。馬鹿。馬鹿…! もう、馬鹿…!
 どうして何も言ってくれないのよ。…どうして追いかけてくれないのよ。私のこと…
 そんなにどうでもいいわけ…?)
ドアをノックする音
起きないアスカ
ドアが開く
足音
「こーら、姫。スカートがしわになっちゃうでしょー」
動かないアスカ
「…もうー。機嫌悪いの、日曜からずーっとじゃん。いくら隠してたくたって、これじゃもう
 放っておけないよ。悪いけど、年長者として、口出すからね。
 例の男の子のことでしょ。付き合ってる」
かっとして起き直るアスカ
「…マリおばさんには関係ないでしょ!」
大げさに眉を寄せてみせるマリ
「あー、またー。『おばさん』はやめてって言ってるじゃにゃあーい」

183: 4/10 2015/02/18(水) 22:42:32.12 ID:???
「そっちこそ、30過ぎて『にゃ』なんて言うな!」
「うっわ、ほんとに怒ってるね。…じゃないね、ほんとにつらい思い、してるんだ」
今日も放り出されている携帯を拾ってアスカに差し出すマリ
逡巡して、結局そっぽ向くアスカ
今はまだ手に取りたくない
携帯を机に置いて、アスカの隣に腰を下ろすマリ
睨むアスカ
「…ママの代わりみたいな真似はやめてって言ってるでしょ。いくら小さい頃から私のこと
 知ってるからって」
「代わりなんてできないよ。私はただ姫が心配なだけ」
「…うっさい」
少し表情が落ち着いてきたアスカ
にっと笑うマリ
部屋を見回し、カレンダーに目を留める
「日曜あたりから…ってことは、そっか、バレンタインデーだったんだ。はーん、それでね…
 なーに? 恥ずかしくて渡せなかったとか?」
じろっと視線を動かすアスカ
「渡す? 何よそれ」
きょとんとするマリ
一拍おいて大声をあげる
「あーっ、そっか! 姫は知らないんだ、こっちのバレンタイン!」

184: 5/10 2015/02/18(水) 22:44:09.42 ID:???
「は?!」
「あのね、日本のバレンタインデーはあっちと違うんだよ。女子が男子にあげるの」
「え…? 男が女の子に花やプレゼント、でしょ?」
「だから、日本じゃ違うんだってば。女子が男子に、チョコレートあげるの。そういう風習なの」
「風習って…何よそれ」
「詳しくは製菓会社にでも問い合わせてよー。とにかく、日本ではそれが当たり前なの。
 姫さ、カレが何かくれるのを待ってたんでしょ? でも、彼の方は姫が本命チョコくれるの、
 今か今かと待ってたんだよ」
何も言えずにしばらく瞬きを繰り返すアスカ
「…え…
 じゃあ、…馬鹿シンジは、…どうでも良かったんじゃなくて」
「そう!」
視線を合わせて大きく頷いてみせるマリ
「ただの勘違い。姫は彼を、彼は姫を、それぞれ知らずに待ってただけ。どっちも悪くない。ね?」
「…うん」
素直にこっくりするアスカ
とたんに子供のように傷ついた表情をあらわにする
「…どうしよう。それじゃ私、…勝手に、シンジのこと、ひどい奴だって思って突き放してたんだ…
 どうしよう、…どうしたらいいの」
片手で優しくアスカの頭を叩くマリ

185: 6/10 2015/02/18(水) 22:46:24.57 ID:???
「よしよし。だいじょーぶ、日本の年中行事はアバウトだから。
 今からでも、チョコ用意して渡しちゃえばいーの。準備に時間かかって内緒にしてたのー、
 キミだけ特別にゃーん、って感じで。
 あ、そっか、じゃあほんとに用意すればいいじゃん。チョコ」
立ち上がるマリ
つられて立ち上がるアスカ
「用意って、…何するの」
真剣な表情に思わず微笑むマリ
むんと胸を張る
「そりゃー、手作りよ。手作りの純愛チョコ」
「てづくり? …チョコレートを?!」
「あ、いやいやいや。一からじゃにゃくて、なんつーかな、アレンジすんの。ま、女の子の
 センスが問われちゃうけどね。料理スキルもある程度バレちゃうし」
「う…」
ややひるむアスカ
ちょっと意地悪な目になるマリ
「どうする? 市販のを包むだけにしとく?」
きっぱり首を振るアスカ
「ううん。やる」
にかっと笑うマリ
「わかった。手伝ったげる。最高のチョコ、彼にあげよ」
「うん!」
思いきり意気込むアスカ

186: 7/10 2015/02/18(水) 22:48:43.23 ID:???
【2月18日】
今朝も一人で登校してくるシンジ
いつもの合流場所で立ち止まるが、すぐにまた歩き出す
意地になったように歩いていく
しだいに足取りが遅くなる
止まる
うつむいたまま立ちすくむシンジ
自転車の通勤者やサラリーマンが怪訝そうに振り返って追い抜いていく
まだ人の流れもまばらな早朝の雪道
厳しい寒気の中に一人取り残されているシンジ
目を上げる
白い息を見つめ、意を決してきびすを返すシンジ
足元で汚れた雪がはねる
もと来た道を全力で駆け戻っていくシンジ
(…やっぱり、嫌なんだ)
(もし…もし、アスカがもう僕を嫌だったとしても、…それでも、自分でちゃんと聞きたい。
 このまま何もしないで離れていくなんて、絶対嫌だ。アスカのことで…そう、他の誰でもない、アスカの
 ことで、僕は後悔したくない。逃げたくない。そんなのは御免だ)
走りながら涙目でちょっと笑うシンジ
(…違うか。
 そんなことも、本当はもうどうでもいいんだ。ただアスカに会いたい。アスカの顔が見たい。
 …馬鹿みたいだ。だけど、それが本当なんだ。僕の)
顔を上げるシンジ
角を曲がる
(アスカ…)
急にバランスを崩したたらを踏むシンジ

187: 8/10 2015/02/18(水) 22:49:54.47 ID:???
「アスカ…!」
前方、同じく驚きを隠せないアスカ
手に持った何かをうろたえ気味に背中に隠す
「アスカ…その」
喉の奥がつまったようになるシンジ
「…おはよ」
「あ…」
不安げに唇を結んでいるアスカ
目を逸らしてしまうシンジ
「あの、…お、おはよう。…ッてもう、何言ってんだ。あの、アスカ、…」
「シンジ」
ぱっと向き直るシンジ
言いづらそうなアスカ
横顔を見せ、意味もなく数歩脇へ歩く
痛みに満ちた目をして視線で追うばかりのシンジ
一瞥し、気づいてさっと目を伏せるアスカ
怒ったように無理に顔を上げる
「…、おとといからのこと。
 私、勘違いしてた。シンジが悪かったんじゃないの。
 こっちのバレンタインデーって、女の子からあげるもの、だったんでしょ。…ごめん」
「え…あ」
ようやく事態を理解するシンジ
あわてて強く首を振る

188: 9/10 2015/02/18(水) 22:50:59.49 ID:???
「いやっ、その、アスカが謝ることないよ。僕も…僕だって、勝手に勘違いしてた。
 …勝手に決めつけて、勝手に一人で不機嫌になって…アスカに、何も訊きもせずに。
 だから、アスカは何も悪くない。悪いのは僕だ」
「違うの!」
はっとして口をつぐむシンジ
もどかしげに視線をさまよわせ、結局心を決めて正面から詰め寄るアスカ
息がかかるほどの距離
その場に固まるシンジ
「私は、あんたに謝ってほしいんじゃないの。そうじゃなくて…」
照れてしまって言いよどむアスカ
目の前のシンジの顔を睨むようにして全部吐き出す
「そんなんじゃなくて、…改めて、バレンタインのチョコ、受け取ってほしいの! あんたに!」
もう片手の包みを隠すのも忘れて、握った両手を振って大きく言い切るアスカ
さっと揺れた髪が白い息を払う
小さく口を開くシンジ
が、何も言えない
アスカの照れを映したようにゆっくり顔だけが紅潮していく
ちょっとだけ笑顔をこぼすアスカ
「…もう、ばか!」
やおら包みをむしり解き、中身を取り出すアスカ
あわてるシンジ
「えっ、ちょっと、受け取るって…ここで?!」
「違うんだってば、続きがあるの!」
「続きって…」

189: 10/10 2015/02/18(水) 22:52:38.91 ID:???
包み紙の中から現れた、ややぶかっこうな手作りチョコを一瞬視認するシンジ
すぐアスカの指が握って隠してしまう
「え?! アスカ…」
「昨夜いきなり作ったから、初めてだし、人に見せられるような出来じゃないの! だから…」
いきなりチョコを自分の口に放り込むアスカ
何が何だかわからずにいるシンジに、そのまま思いきりキス
歯の間からチョコを押し込む
一瞬だけ熱さを共有する二人
「…っ」
目を白黒させて受け取るシンジ
長い一秒が過ぎる
さっきと同じく、突然身体を離すアスカ
「…来年は、ちゃんとするから!」
固まっているシンジに声を投げつけ、さっさと先に立って学校へ走り出す
(…来年、って)
一瞬とまどい、すぐに追いかけるシンジ
両脚に力をこめる
(…そう、来年なんて、わからないかもしれない。一緒にいられないかもしれない。
 でも、僕は、アスカが言ってくれる、その未来がいい)
口に残る甘み
(だから)
雪を蹴って走っていくシンジ
声を張る
「待ってよ、アスカ! 一緒に行こう、二人で」
明るさを増す雪道を遠ざかっていく二人の背中






210: 1/4 2015/02/22(日) 13:41:21.42 ID:???
冷たいみぞれの降る午後
カーテンを細く開けて空を見上げるアスカ
明るくなってきたものの晴れそうにない
机に戻って頬杖つくアスカ
参考書のページを意味もなく繰ったり、辞書を引っ張り出てはまた戻したり
机の端に乗せた携帯をちらっと見る
あくびして小さく首を振り、あらためて机に向かうアスカ
降りしきる氷雨の気配
ドアをノックする音
「ひーめ。ちょっと休憩しない? お茶淹れたよん」
緊張を破られるアスカ
「何よ。お茶ぐらい、一人で飲んでよね」
「いーじゃんいーじゃん。ねっ? May I come in your castle, my Lady?」
すでに顔半分くらいを覗かせているマリ
大げさに溜息ついてみせるアスカ
音をたててノートを閉じ、机に両手ついて立ち上がる
「わかったわよもう。 Du magst!」
「Ah! Ja, danke dich fuer herzlich, I appreciate it, Your Highness! God save meine edelen Prinzessin!」
「ちょっと! 思考言語、統一しなさいよ!」
ティーセットを乗せたお盆を持って浮き浮き入ってくるマリ
銀器に盛られたお菓子をチェックしてちょっと機嫌を直すアスカ
向かい合ってお茶にする二人
たわいない話に花が咲く
急にいたずらっぽい目をするマリ
「ねえ、姫。例の彼氏とはこういう日…長電話とかしないの?」

211: 2/4 2015/02/22(日) 13:43:56.60 ID:???
「はあ?」
思いきりしかめっ面するアスカ
冷めた目でマリを見やる
が、ちょっと頬に赤みがさしたのをマリはしっかり見て取る
「…あのねえ。私は子供じゃないわよ。いつもべたべたくっついてって、互いのアイジョーを
 確かめ合うなんて幼稚な真似はしないの」
「へえー」
「気楽な大人と違って、好きに動ける訳じゃないもの。甘えてばっかが『好き』じゃないわ。
 不安だから相手にすがるなんてしたくないし、第一みっともないし。
 あいつにだって都合くらいあるでしょ。そうよ、寮住まいなんだから、気軽に電話なんかしちゃ
 シンジが困るかもしれないじゃない」
語るアスカを見守るマリ
「なんで? かわいい彼女が電話してくるの、迷惑な男がいるわけないじゃにゃーい」
意味ありげな笑顔で前に乗り出す
顔色読まれそうであわてて退くアスカ
小さく鼻を鳴らす
「…もう、大人はいいわよね。そうやって外野で面白がってられるんだから」
「あ、まるで人をモテないかのように言うー」
「何よ、現にマリは男っ気ないじゃん?」
引いてみせるマリに、突っかかってみせるアスカ
「『にゃ』なんて言わなきゃ、そこそこカッコイイ大人のオンナで通るのに。ま、自業自得ね」
「あー、またー。にゃによう、自分は幸せいっぱいだからってさ」
「しあわ…っ」
直球くらって真っ赤になるアスカ

212: 3/4 2015/02/22(日) 13:45:35.02 ID:???
母親にも似た愛情に満ちた目でそのあわてぶりを眺めるマリ
「あーもうっ、なんでシンジのことばっか絡んでくるのよ! からかわないでよ!」
「からかいたんじゃないってば。
 ただ…あの子、昔好きだった人にちょっと似てて」
「…え?」
珍しく真顔のマリを見つめるアスカ
「ずーっと昔の話だよ。姫が生まれる前の、ね」
突然、にやりとするマリ
「…だいたい姫さー、知ってるんだよ? その机の上の、学校の宿題じゃなくて、自分で
 やってる日本語の勉強でしょ。彼のことをもっともっと知りたいから」
図星
ほとんどパニックになるアスカ
「このっ、なっ、んで、知…」
「見てればわかるよ。姫は素直だから。…彼も、姫のそんなとこが好きなんじゃない?
 さ、そろそろ解散にしよっかな。ご馳走さまー」
一人でどんどん卓上を片付け、立っていくマリ
ひらひら手が振られてドアが閉まる
遠ざかるスリッパの足音
「……」
自分のティーカップを手に呆然としているアスカ
まだ降り続いている雨の音に気づく
カップを置き、再び窓の傍に立つアスカ
窓ガラスを通して伝わる冷気
ちょっと身を震わせる
振り返る先に携帯

213: 4/4 2015/02/22(日) 13:47:34.38 ID:???
カーテンをきっちり閉めて戻り、携帯を手にベッドに腰を下ろすアスカ
何となくためらう
何度か躊躇し、思いきって画面を操作しようとしたとき、ふいに着信
息を呑むアスカ
一拍置いて出る
シンジの声
聞くだけでもうどうしようもなく、気持ちが柔らかくなってしまう
力を抜いて微笑むアスカ
「もしもし? ううん、平気。
 …ほんとのこと言うとさ、私も今、電話してもいいかなって、思ってたとこ」

-----------


245: 1/9 2015/03/08(日) 13:55:30.03 ID:???
春めいてきた陽射しの下、少し遠出して街中を歩くシンジとアスカ
久しぶりの好天の日曜とあって結構人通りが多い
やや気後れし、手も繋がず、ましてや腕を組むなんてこともできず、ただ並んで歩いている二人
ときどき相手の方を見る
が、人混みを行くのに注意を取られて、視線すらなかなか合わない
それぞれこっそり溜息をつく二人
春が待ち遠しい人々でにぎわう街
大通りはすっかり除雪されているが、道の端や細い路地にはまだ凍み雪が残っている
「ふう、すごい人だね。…こんなことなら、駅前の映画館でも良かったね」
「嫌よ。二人で行ったら、周りからさんざ冷やかされて、映画見るどころじゃないじゃない」
断固反対の顔でかぶりを振るアスカ
しゅんとなったシンジを見て表情をやわらげる
「…違うわよ。あんたと行くのが嫌なんじゃないわ。
 隠し立てする気はないけど、見せびらかしたり周りに見物される趣味はないってだけ」
素直に微笑むシンジ
「うん。
 …でも、アスカ、疲れない? 映画の時間一本ずらして、どっかで一度休もうか」
シンジの顔を見て、安心したように笑うアスカ
「このくらい平気。…それに」
「それに?」

246: 2/9 2015/03/08(日) 13:57:30.42 ID:???
「…、何でもない。ほら、さっさと行こ」
「? うん」
人通りに流されないよう、さっきより少しくっついて歩く二人
そっとアスカの方を見るシンジ
前を見ているアスカ
視線の先をたどり、瞬きしてちょっと目を凝らすシンジ
同じように前を行く男女の二人連れ
二人とも長身、気負いのない大人の洒落っ気を漂わせている
顔は見えないが、身ごなしも、ときどき相手の方を向いて笑う感じも、いい意味で力が抜けていて
目を惹きつける
自分のいかにも高校生な量販品のコートやら普通すぎる靴やらを見下ろして、溜息つくシンジ
(…そりゃ、アスカだってカッコいい大人の方がいいに決まってるよな)
男性の後ろ姿をちょっとうらめしげに睨むシンジ
長髪をうなじで束ねたその無造作な感じ、長年使い込んでいる感じの着慣れた厚手のコート
同じく愛着を持って履きつけているらしい丈夫そうな品質のいいブーツ
何より、連れの女性をからかうような、いとおしむような、さりげない距離の保ち方
その女性も見るからにスタイルが良く、嫌らしくならない程度に身体の線を出していて、若干目のやり場に困る
(…全然、かなわないよな)
また溜息をつくシンジ
「ちょっと、馬鹿シンジ」

247: 3/7 2015/03/08(日) 13:58:57.50 ID:???
びくっと振り向くシンジ
アスカが険のある目つきで見ている
「…あんた今、見てたでしょ」
「な、何をだよ」
「とぼけないでよ。…前のオンナのヒト! 
 ったく、男子ってすぐああいう大人っぽい女に注目するんだから。あんたまでそうだったとはね。
 あー、ヤラシイ」
「え、やっ、違うよ、僕は…」
きっとなるアスカ
「言い訳しないで!」
口をつぐむシンジ
アスカが傷ついたのを無理に隠しているのを、わかるというより感じ取ってしまう
思わず謝ろうとするが、余計に嫌な気持ちにさせるだけだと思い直す
足を速めるアスカに黙ってついていくシンジ
大通りを離れ、めちゃくちゃに細い路地を曲がるアスカ
ときどき雪道に足を取られてよろめく
手を貸したいのに、どうしても思いきって傍に行けないシンジ
雪を口実にしてでもすがってみたいのに、どうしても振り向けないアスカ
もどかしい沈黙
(なんで、こんなつまんないことで意地張ってんのよ…私)
(なんで…何が悪かったんだろう。…いや、そんなふうに思うのも、きっと駄目なんだよな)

248: 4/9 2015/03/08(日) 14:00:24.66 ID:???
住宅街らしき辺りにまで迷い込む二人
いよいよ雪がちになってくる路面
触れたら全部壊れてしまいそうな、もろくて危うい緊張が二人を隔てている
靴底を滑らせながら大きな庭のある家の横を通りかかるアスカ
高く繁った雪木立が影を落とし、路面は凍っている
はらはらしながら見守るシンジ
ますますぞんざいになっていたアスカの足取りが、ふいに乱れる
「…きゃ」
思いきり足を踏み外し、路上にへたり込むアスカ
前に出たものの間に合わなかったシンジ
すぐ前でアスカの両肩が震える
「もう…! もう、…こんなの、イヤ」
助け起こそうとしたシンジの手を振り払って頑なにうなだれるアスカ
落胆と自己嫌悪にゆがむシンジの顔
頭上で何かが重たく軋む音
はっとするシンジ
アスカに覆いかぶさって抱きしめる
「何すんのっ、…?!」
直後、樹上から降る大量の雪の塊

249: 5/9 2015/03/08(日) 14:01:04.26 ID:???
衝撃と重みで動けない二人
真っ白な数秒
やがて、背中と後頭部の痛みを自覚するシンジ
誰かの手が雪を払っている
我を取り戻すアスカ
やっと視界が開ける
覗き込んでいるさっきの二人連れの男女
「おい、大丈夫か」
「あ…、はい、…何とか」
「女の子の方は、大して雪、かぶってないみたいね。やるじゃない、彼氏」
「え…」
ようやく事態をきちんと把握するアスカ
頭上を仰ぐと、重く積もっていた雪を振り落としてすっかり身軽になった木の枝
男性に手伝ってもらって身体じゅうの雪を払い落としているシンジ
女性がアスカに手を差し出す
「大丈夫? 立てる?」
「あ、うん、…じゃない、はい。でも、何で…?」
にっこりする女性
顔は似ていないが、何となくマリを連想するアスカ
(…そっか。年が同じくらいなんだ。…大人、なんだ)

250: 6/9 2015/03/08(日) 14:02:51.33 ID:44r0MSiW
「たまたまよ。
 あたしたち、この辺のお店に行く途中でね。ほら、最近よくあるでしょ、住宅地の中にある
 隠れ家レストランってやつ。けっこう美味しいって、知り合いの間で評判でねー。
 で、歩きながら、ここんちの庭ちゃんと雪囲いしてないじゃない、危ないわねーなんて
 話してたら、案の定、あなたたちが直撃を食らったってわけ」
「本当なら見かけた時点で一言注意しとくべきだったが、こっちも初めての道で、
 不慣れでな。つい自分たちの方優先になってた。すまなかった」
首を振るシンジ
「いえ、いいんです。助けていただいたんですから。ありがとうございます」
ぽかんとシンジを見るアスカ
「…僕たちの方こそ、お二人の邪魔しちゃったんですよね、すみませんでした。
 もう、大丈夫ですから」
アスカ自身はまだ混乱しているのに、見知らぬ大人相手にはきはき受け答えをするシンジが
少し眩しく、少し遠い
遠いと感じるから、追いつきたくなる
自分もちゃんと立って、二人連れにきちんと頭を下げるアスカ
「私も、ご迷惑おかけしました。助けてくれて、ありがとう」
こちらを見るシンジ
ふふんと笑ってみせるアスカ
「お二人がいなかったら、私たち、今頃まだ、巨大雪だるまのままだったもの」
男性が噴き出す

251: 7/9 2015/03/08(日) 14:03:34.40 ID:???
女性もおかしそうに笑う
気持ちのいい笑顔
やっぱり見とれてしまうシンジとアスカ
「…そりゃそうだ。なあ、ところで君たち、良かったら一緒に来ないか? 例の店。
 そろそろ飯どきだし」
「これも何かの縁かもしれないし、ね。何ならオゴるわよん」
「ええ?! おいおい、大丈夫かよ」
一瞬、迷う二人
すぐに揃って首を振る
同時に相手の行動に気づき、しばし無言の譲り合いがあった後、シンジが口を開く
「…ありがとうございます、でも、いいんです。
 お二人の邪魔をしたくないですし、…それに、僕たちも、行きたいところがありますから。
 せっかくのお申し出なのに、すみません」
言葉を切り、ちらっとアスカを見るシンジ
勝気な笑顔で頷くアスカ
「そ。お互い、邪魔しっこなし、ってことで」
きょとんとし、ついで笑い出す二人連れ
侮ったり馬鹿にする笑いではないことがちゃんと伝わる
「わかった。
 確かにそれも道理だな。じゃ、ここからはお互い、自分たちの休日の続きを楽しむとするか」

252: 8/9 2015/03/08(日) 14:04:58.95 ID:???
「かっこよかったわよー、彼氏。彼女もはっきり自分の意見言えて、お似合いよ。仲良くね」
「それじゃな」
手を振って去っていく二人連れ
見送るシンジとアスカ
ふと気づくシンジ
いつのまにかアスカが手を繋いできている
「…なんか、嬉しかった。私」
「…うん」
角を曲がって見えなくなる二人連れ
少し遠い目をするシンジ
「にぎやかで、いい人たちだったね。…何だか、初めて会った気がしなくて…懐かしかった。
 そう、嬉しかった、会えて」
「あんたも?」
ちょっと目をみはるアスカ
が、すぐにはにかむような笑顔になって、ぎゅっとシンジの手を握る
「だけど違うわ。…私が嬉しかったのは、あんたが、私の言いたかったことを全部言ってくれたから。
 正直、見直した。それと、…守ってくれて、ありがと。馬鹿シンジ」
突然身を乗り出してすばやく耳元で囁くアスカ
「…大好きよ」
みるみる真っ赤になるシンジ
姿勢を戻して得意げに笑ってみせるアスカ

253: 9/9 2015/03/08(日) 14:05:34.25 ID:???
降参、の顔で笑い返すシンジ
歩き出す二人
「…じゃ、僕らも、行こっか」
「そうね。映画、まだ大丈夫よね? 帰りの電車の時間もあるし」
「あ…うん、ちょっと調べるから、待って」
「歩きながらケータイいじって、転ばないでよ。…それと、そうだ」
「何?」
「さっき、大人のカップル相手に『僕ら』って言ったときの感じ。あれ、なんかすごく、好き」
「え…」
「あーもう、だからこの程度で照れないでよ。ほら、足元!」
「うわっ、ご、ごめん」
「もう! やっぱり馬鹿シンジなんだから」
しっかり手を繋いで、相手の歩調を確かめながら、大通りへ戻っていく二人

-------------


257: 1/6 2015/03/09(月) 22:21:05.63 ID:???
雨の朝
傘を持つ手が重く感じるほどの本降りにかすむ街
通学路のいつもの待ち合わせ場所で落ち合うシンジとアスカ
「もう、すごい雨ね。日本って世界でもトップレベルの高温多湿気候って言うけど、
 夏だけの話かと思ってたのに」
「春が近いからだよ、たぶん」
「そっか。『一雨ごとに温かくなる』ってやつでしょ」
「そうだっけ?」
「何よ、日本人なのに、季節の言い回しも知らないの? なっさけないんだから」
音を立ててぶつかってくる雨粒を見上げ、傘を揺さぶるアスカ
溜まった水滴が大粒の玉になって幾筋も流れ落ちる
傘の端から滴ったしずくが振り飛ばされ、アスカの首筋を直撃
悲鳴をあげるアスカ
「ちょっと! もうっ何よこの傘、日本製のくせして小さすぎるのよ! 日用品くらい、
 もっと自国の気候に合わせて設計しなさいよね!」
苦笑するシンジ
が、アスカが振り回す傘からさらにしずくが飛んでくるに至ってあわてて傍に寄る
「待ってよアスカ、余計濡れちゃうってば」
「じゃあどうすんのよ! アイアイガサってのは勘弁してよ。一人一本でもこのざまなのに、
 二人で一緒に入っちゃ、ますます小さすぎて二人ともびしょ濡れでしょ」

258: 2/6 2015/03/09(月) 22:21:39.83 ID:???
「そっか…そうだ、じゃ、こうしよう」
自分の傘をひょいと持ち上げ、アスカの傘と半分重ねるシンジ
「…ん」
二つの傘を見上げるアスカ
二つの違う色と柄が重なって、頼もしく雨粒をはじき飛ばしている
「…アスカ?」
足を止めたアスカに、急に心配になるシンジ
「ごめん、…こういう変にくっつくようなこと、嫌だったよね」
「ん? ううん、違うわ。けどどうせなら」
ちょっと頬を上気させて振り向くアスカ
鮮やかに笑う
呼吸を忘れてしまうシンジ
瞬間、ぱっと二つの傘を離し、アスカのが上になるように重ね直すアスカ
「…こうでしょ。
 さっきのだと、私があんたの傘の重さも引き受けることになっちゃうじゃない」
すぐに破顔するシンジ
「そっか。…ごめん。気がつかなかった」
「いいの、アイディア自体は悪くないし。でもこれじゃあ…」
再び歩き出しながら、ちらっとシンジを見るアスカ

259: 3/6 2015/03/09(月) 22:22:26.86 ID:???
無邪気に移ろい続けるその表情に、内心いちいち動揺してしまうシンジ
「え…何」
悪戯っぽく笑うアスカ
「ずうーっと、二人一緒のペースで歩かなきゃいけないってことになるわ。
 しかも両手がふさがってるから、ふらついても手も繋げない。大丈夫? ちゃんと、
 学校までエスコートしてくれるんでしょうね」
息を呑み、真顔になって頷くシンジ
「…うん。僕は、一緒の方が嬉しい」
ぱっと両目を見開くアスカ
大きな八重の花が開くようにゆっくりと微笑む
「…ばか」
黙ってただ笑みを返すシンジ
歩調を揃え、一歩一歩お互いを気遣いながら学校への道をたどっていく二人
「そうだ…ねえ、気がついてた?」
「何が?」
「この前の休みに会ったオトナのカップル。ずっと私たちの前、歩いてたでしょ」
「あ、うん、あの人たち…って、アスカ、あの時は僕のこと注意したくせに! やっぱり
 自分だって見てたんじゃないか」
「まあね。カッコイイ人だったし」
さらっと言われて少しへこむシンジ

260: 4/6 2015/03/09(月) 22:23:50.58 ID:???
素早く気づき、少し寄ってシンジの肩に肩をぽんとぶつけるアスカ
「馬鹿ね、そういう話じゃないの。まあ聞きなさいよ」
ごく小さな笑い
初めて見るように目をみはってしまうシンジ
「…あの人たちも、ずうっと一緒のペースで歩いてたのよ。それに一度気がついたらね、他にも
 男の人が女の人のことさりげなく気にしてて、ぶつかりそうな人から庇ったり、彼女が
 ショーウィンドー見たら一緒に立ち止まったり。彼女も相手のこと、何気なくだけど
 頼りにしてるんだなってのが、なんかすごく伝わってきて」
話し続けるアスカを見つめるシンジ
はにかむように、嬉しそうに話し続けるアスカの横顔
勝気なアスカがいつのまにか身につけ、今はもう自分のものにしてしまっている、柔らかな雰囲気
それが自分に一番向けられていることの怖いほどの自覚
簡単に入れ替わる不安と喜び
その両方ともを胸の中で抱きしめる
「そう、あの時あんたが言ったみたいに、すごく…懐かしい感じだった。なんでか、ちょっと
 悔しい気もして、でも、嬉しくて。…いつか、私もああなりたいなって」
ちょっと照れつつシンジを見やるアスカ
息をつめる
限りなく優しい笑顔を見せているシンジ
深く頷く

261: 5/6 2015/03/09(月) 22:24:40.22 ID:???
「うん。
 僕も、いつかあんな大人になりたい。ずっとアスカの隣で守ってあげられるような。
 …ううん、約束する。だってそれが、僕のなりたい未来で、僕にとっての幸せだから」
真剣な眼差
我にもなく頬をほてらせるアスカ
けれど目が離せない
涙ぐんで見えるほどのいとおしみを込めたシンジの目
突然、シンジも自分と同じ気持ちなんだということを知り、たまらなく嬉しくなるアスカ
飛び立つほど幸せ
でももどかしい
心から答える言葉、世界中に響くような言葉が欲しい
それなのに、結局いつもの言葉しか見つからない
「…あんた、ほんとにばかね」
ほんの少しのほろ苦さを噛みしめて呟くアスカ
「志はわかった。…だから今は、この傘ごしのエスコートで許したげる」
「…うん」
頷くシンジ
とたんに大きな水たまりに踏み込んで、二人とも我に返る
いつのまにか明城学院の校門が近い
周囲もすっかり同じ制服の生徒たちに囲まれている
当然ながらかなりの注目を浴びている二人の半・相合傘
さすがに気後れするシンジ

262: 6/6 2015/03/09(月) 22:26:48.98 ID:???
「あ…ごめん、そろそろ、離れる?」
「なんでよ」
全然平気な顔のアスカ
さっきまでの幸福感がほんのりと頬や目元に残っている
うろたえてしまうシンジ
首筋が熱い
「えっと…だってほら、人が増えてきて歩きにくいし、…皆、見てるし」
ふんと笑うアスカ
「見られたっていいじゃん?
 私はこのままがいい。正々堂々と並んだままがいいの。これが、私とあんただもの。
 誰に見られたって胸を張れるもの。…そうでしょ?」
ふっと緊張を解くシンジ
結局、アスカにはいつも敵わない
「…そうだね」
「そ」
重なる笑い
傘の作る小さな距離で繋がったまま、ゆっくり昇降口へ向かっていく二人

その後、いざ傘を閉じようとしたら傘の生地が水気を含んでくっついてしまっており
ギャラリーの前で傘二本との格闘を演じ、さんざん残った水滴の直射をくらったあげく
二人とも遅刻ぎりぎりでダッシュする羽目になったという

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296: 助演者登場篇 1/8 2015/03/16(月) 23:08:51.19 ID:???


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「おはよう、アスカ!」
朝の廊下で振り返るアスカ
いつもの癒し系笑顔のヒカリが追いついてくる
にっこりするアスカ
ヒカリが横に並ぶのを待って再び歩き出す
「おはよ、ヒカリ。どうしたのよ、今日は遅かったじゃない」
「うん…ゴメンね、ちょっとね」
意味ありげに笑うアスカ
「…わかった。またバスケ部の朝練見てたんでしょ。例のスポーツ特待生」
あわてるヒカリ
「わ、わかる?」
「もっちろん。で、今日も…声、かけられなかったんでしょ」
「それもわかっちゃうのね…」
さらに小さくなるヒカリ
励ますように覗き込むアスカ
「そりゃそうよ。もう、ヒカリってば引っ込み思案なのよ。ま、そこが逆に、ヤマトナデシコ
 っていうかおしとやかっていうか、男子からは理想の女の子っぽくて、いいんだろうけど」
頬を染めてちらっと周りを気にするヒカリ
「そう、かしら…」
「そ! 自信持ちなさいよ」
共感する笑顔を向けているアスカ

297: 2/8 2015/03/16(月) 23:10:05.15 ID:???
頷いて、にこっとするヒカリ
アスカを見る
「アスカ、変わったよね。…すっごくきれいになった。女子の私から見ても」
「…ええ?! な、何」
予想外の切り替え方をされてうろたえるアスカ
今度はヒカリがアスカの顔を覗き込む
「本当よ。みんな言ってるわ。私も、その通りだと思うし」
「だ、だから何がよ」
「恋してる女の子は素敵だなって、こと! 碇君のおかげね。ほんとに、生き生きしてて、
 つい目が奪われちゃって。黙っててもきらきら光ってるみたいだもの、最近のアスカ。
 …いいなぁ。さっき、理想の女の子って言ってたけど、私から見たら、アスカがそれだな。
 そうやって、毎日一緒に登校できるところなんかも」
素直に話すヒカリ
心から言っているのがわかる
顔を赤らめて、けれど自信のこもった笑顔を見せるアスカ
「何よ、ヒカリもあとたったの一歩でしょ。早くなっちゃえばいいのよ。恋する女の子に」
「それがすぐにできたら、いいんだけどなぁ…」
気弱に笑うヒカリ
ふと目を凝らす
「…あれ? アスカ、その髪飾り、いつものと違うんじゃない?」
とたんに照れるアスカ
「あ、気がついちゃったかー。…目立つよね? やっぱ、学校にはしてこなきゃ良かったかも」

298: 3/8 2015/03/16(月) 23:11:13.72 ID:HHN4CyhJ
首を振るヒカリ
思わず隠そうと振り回されるアスカの両手をよけてしげしげと眺める
「ううん。全然、派手じゃないわ。なんていうか…そう、すごく馴染んでる、のかな。アスカにね。
 だって、私もつい今の今まで気がつかなかったくらいだもの。いいなぁ、素敵」
「そ、そう?」
大いにはにかむアスカ
鞄をさげていない左手で改めてそっと髪飾りに触れる
大きく頷くヒカリ
「うん、かわいいのに大人っぽくて、とっても似合ってる。いつのまに新しいの…あ、違うわね」
アスカの手つきの優しさに気づくヒカリ
ふふっと笑う
「…碇君でしょ?」
瞬間、顔を真っ赤にするアスカ
言葉も返せない
あまりにもストレートな反応に逆にあわて、ごめんねと小さく片手で拝むヒカリ
顔を上げられないアスカの手を素早くとって教室へ先導する
引っ張られながらも自分のあからさますぎる反応が悔しいアスカ
ヒカリにかばわれ、顔を伏せたまま席につく
机に乗せた両腕に突っ伏す
「…もう、こんなになるなんて思わなかった。ごめんね、みっともなくて」

299: 4/8 2015/03/16(月) 23:13:17.55 ID:???
「そんなことないわ」
前の席にすわり、周りに注目されないようさりげなく答えるヒカリ
少し顔を上げるアスカ
「すごくうらやましい。それ、本当にアスカに似合ってるもの。
 私、アスカってもっと明るくて華やかな感じのを身につけるタイプだと思ってたけど、今日それを
 見たら、わかった。アスカは強そうに見えるけど、心根は優しくて…優しすぎるくらいで、だから
 皆と同じに弱さだってあるってこと。…私を心配してくれる時に、何となく感じてはいたけど」
ちょっと目をみはるアスカ
「…弱さ? 私の」
あわてて打ち消すヒカリ
「違うの、弱いっていうのはちょっと、言い方悪かったわ。えっと…何て言えばいいのかしら」
「いいの」
噛みしめるように笑うアスカ
髪飾りを指先で軽くはじく
「…これ見てたら、わかっちゃうんだ。そういうことまで」
「え、ううん、そういう気がしたってだけなんだけど」
気弱になって、乗り出していた上体を引くヒカリ
それでも最後まで続ける
「碇君がそれ、選んでくれたんでしょ。…だからきっと碇君は、アスカのいろんなところをちゃんと
 わかってて、それをアスカに贈ったんだろうなって、思って。そういうことが、私、うらやましいな」
屈託のない柔らかい笑顔でアスカを見ているヒカリ

300: 5/8 2015/03/16(月) 23:14:11.19 ID:???
照れたように少し横を向くアスカ
「そんなの、わかんないわよ。あいつが知ってるのはせいぜい私の一部だもの。
 …逆に言えば私もね。お互い勘違いしてるから持ってるってのも、あると思う。正直」
案外真剣な表情にはっとなるヒカリ
アスカが喜びと同じくらい不安を抱えているのが無防備なほど見えている
胸をつかれ、けれどむっと唇を結ぶヒカリ
「そんなふうに斜に構えちゃうことないわよ!
 もったいないわ、そんなの。勘違いだってわかったら、直していけばいいじゃない」
胸の前で軽くこぶしを握って言い張るヒカリ
そのヒカリの顔を見て、やっと眉を開くアスカ
「…そうかな」
「そうよ! それが、その、つ…付き合ってるってこと、なんでしょ。
 単なるもたれあいじゃなくて。アスカ、しっかりなきゃ。他の誰が碇君のこと信じてあげるの?」
「…うん」
微笑むアスカ
必死の面持ちで包みを差し出していた昨日のシンジが脳裏に浮かぶ
(ごめん、一日遅れて。発注するのがあと二日くらい早ければ間に合ったんだけど)
(? 発注って何よ)
(いいから、開けてみて)

301: 6/8 2015/03/16(月) 23:16:20.56 ID:???
上品なラッピングと白いギフトボックスから現れたそれに目を奪われたアスカ
円錐をスマートな流線型に伸ばしたような形の髪飾り
強烈な既知感
いくら手探っても記憶は白紙なのに、実感は消えない
(…わかる?)
(うん。
 これ…見たことある、ううん、ずっと身近にあったような気がする。…でも)
(そのままじゃない。そうだよね)
(…そう。もうちょっと大きくて…もっとはっきりした色だった。…赤?
 そう、赤だわ。ちょうどこれのカラーリングと逆)
(うん。僕もそう思った)
手の中で真新しく光っていた髪飾り
ベースの色は落ち着いた光沢のボルドーで、鮮やかな赤で入った細い幾何学的なラインが彩る
ネガポジ反転した映像のように重なっていた、記憶とも言えない記憶の残響
(最初にネットで見つけたときは、僕も、絶対赤に黒のラインだ、それ以外ないって思えて…
 …だけど、アスカと初めて会ったときのこと思い出してるうちに、考え直したんだ)
(確かに僕は、君に、何か普通じゃないような…特別な、…変な言い方になるみたいだけど、
 運命…?みたいなものを感じて、惹かれた。それは本当だ。…でも、僕が好きなのは、その
 きっかけがあったからじゃない。僕は、今僕の前にいるアスカが好きなんだ)
(だから…逆に今度は、同じじゃ駄目なんだって思った)

302: 7/8 2015/03/16(月) 23:17:04.70 ID:???
(出会ったときのままじゃ駄目なんだ。君と出会っただけで終わりにしてしまいたくはなかったから。
 僕はアスカとずっと一緒にいたい。この先アスカが変わっても、その変わってくアスカを見ていたい。
 だから、今のアスカ…僕の知ってる、僕の好きなアスカに似合うのはどんなのだろうって考えて。
 問い合わせしたら、少し時間かかるけど色のオーダーもできるってわかったから、それだ、って)
(どんな色にするか悩んじゃって、結局、こんなに遅くなったけど)
(ごめん。…でも、バレンタインの時、アスカはすごく一生懸命にしてくれたから。
 僕もそれに応えなきゃ、アスカの傍にいる資格もなくなる気がして。…はは、なんか、こうやって
 話すとけっこう独りよがりだね)
(だけど…アスカ)
(これが今の僕の気持ちなんだ。だから)
(受け取ってほしいんだ)
微笑んでいるアスカ
「…うん。
 ヒカリの言う通りよ。あいつ、私のことわかろうとがんばってくれてる。だから、私も」
安心したように笑みを返すヒカリ
お互い秘密の共犯者の顔でこっそり笑い合う二人
チャイムが鳴る
ざわついていた教室があわただしく静まる
引き戸を開けて入ってくる教師
廊下を振り返って誰かに声をかける教師
「…ん?」
目を見開くアスカ

303: 助演者登場篇 8/8 2015/03/16(月) 23:20:12.24 ID:???
「あ…!」
教師の後からもう一人見知らぬ生徒が入室してくる
無意識に息をつめているアスカ
目が離せない
教卓前に立つ教師
「えー、今日は朝礼の前に、転校生を紹介する。
 今年度も残りわずかでいささか変則的だが、家庭の事情ということで今月からの転入となった」
転校生の名前を黒板に書く教師
教卓前に立っている転校生
顔立ちは整っているがどことなく不敵で馴致を拒むような眼差
退屈そうだった視線がアスカを見つける
わずかに表情が変わる
「それでは、本人の方から簡単に自己紹介を…ん? おい、君!」
つかつかとアスカの机の前まで歩いてくる転校生
正面からアスカを見下ろす
意識せず身構えているアスカ
「こら! 渚! 前に戻りなさい! 渚カヲル!」
興味と反発のないまざった目でアスカを眺めているカヲル
口を開く
「…君、どこかで会ったっけ」
凝然と見上げているアスカ

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309: 1/13 2015/03/17(火) 22:56:01.89 ID:???
「「おっはよう碇くんっ!!」」
「うわっ?!」
後ろから同時にシンジの両肩をどやしつける二人の手
盛大によろめくシンジ
恨めしげに振り返る
「…おはよう…なんか、今朝はいつもにまして乱暴な気がするんだけど」
いつも通りのピーカン笑顔を並べたトウジとケンスケ
朝練のままのジャージ姿でスポーツバッグかついだトウジ
おまけとばかりに上から手を伸ばしてシンジの頭をぐりぐりする
「なーにシンキ臭い顔しとんのや。男同士の朝の挨拶やないか、挨拶!」
「そうそう」
眼鏡を直しつつにやりとするケンスケ
コートにマフラーの重装備だが、中の冬服の上着は前を開け、シャツの裾も出したまま
「所詮、俺らはまだまだガキなんだからこのぐらいでいいの。
 …まっ、今朝も仲良くカノジョご同伴だった碇には、もう理解できないかな」
「せやな…シンジはもう大人の階段、登ったんやったな…」
すぐに乗ってオーバーアクションで嘆くトウジ
「それは別に関係ないだろ!」
むきになって言い返すシンジ
すぐに自覚して笑う
からかい混じりにお互いの距離の確認を終え、揃って教室へ向かう三人
席につくなり切り出すケンスケ
「なあ、知ってるか? 今日、うちの学年に転校生が来るんだってさ。しかも二人も」

310: 2/13 2015/03/17(火) 22:57:33.28 ID:???
目を丸くするトウジとシンジ
「そうなんだ…相変わらず情報早いね、ケンスケ」
「せやけど、こないなハンパな時期に? よっぽど急な引越しだったんか」
「詳しい事情までは知らないって。とにかく、一人がうちのクラス、もう一人は隣に入るんだと」
「隣って…」
シンジの呟きに頷くケンスケ
「そう、惣流のクラス。…ついでに最近評価急上昇の洞木サンのクラスでもある」
最後は横目でトウジを見る
盛大に鼻息を洩らすトウジ
「なんや、ワシは知らんで。
 スポーツ特待生言うたら、勉強もせんとチャラチャラしとる、なんてヒガ目で見る奴もおるけど、
 中身は普通科よりよっぽど厳しいんや。色恋にかまけとる暇なんかあるかい!」
「…別にトウジに言ったわけじゃないんだけどな」
「…わかりやすいよね」
こそこそ言い合うシンジとケンスケ
トウジの鉄拳が机を鳴らす
「じゃかあしい! 聞こえとるわ! ワシは知らん言うとるやろ」
意味ありげに眼鏡を押し上げるケンスケ
「じゃ、ますます気にしなくてもいいってことだな。…隣の転校生、男子らしいぜ」
「なにっ…い、いやいや、知らん、知らんで」

311: 3/13 2015/03/17(火) 22:58:34.46 ID:???
だんだん興味を引かれてくるシンジ
「へえ、じゃ、こっちに来るのも男子?」
「それがな…ま、百聞は一見に如かず」
教室の扉を目で示すケンスケ
揃ってそっちを見るトウジとシンジ
扉が開き、教師の後について転校生が入ってくる
支給が間に合わなかったのか、前の学校のものらしい制服のスカートを揺らし、凜と前に立つ
周りで男子がひそかにざわつき始める
ぽかんと目をみはるシンジ
黒板に書かれた名前と転校生の顔を何度も見比べている
気づいて怪訝な顔になるケンスケ
「…という訳で、今学期もぎりぎりだが、このクラスに編入することになった。さ、皆に挨拶を」
「はい」
静かな声に、自然とクラスがしんとなる
「綾波レイです。…よろしくお願いします」
シンジの口が何か小さく動くのを目にとめるケンスケ

休み時間
ピリピリするアスカを一生懸命なだめているヒカリ
問題の転校生は周りからの質問や誘いにいかにも興味なさそうな顔で答えている
火の出るような目で睨みつけるアスカ
「…ほんっと、信じられない。開口一番があれ? しかもこの私に」
やや気おされるヒカリ

312: 4/13 2015/03/17(火) 23:00:03.63 ID:???
「べ、別に悪気があったわけじゃないと思うわ。…かなり変わった人みたいだし」
「悪気があろうとなかろうと、あの台詞を言うこと自体が許せないの!」
机の上で両手をきつく握りしめるアスカ
「…この私にあんなこと言っていいのは馬鹿シンジだけよ。…なのに」
本当に見覚えはないのかと訊ねようとして、アスカが本気で嫌がっているのに気づくヒカリ
少し強い目になる
「…大丈夫よ。
 どういうつもりかわからないけど、アスカが知らない以上、本当に関係ないんだもの。
 アスカは何も気にすることないわ」
顔を上げるアスカ
大きく頷いて、身を乗り出すヒカリ
「それと、さっき悪気はないって言ったけど、やっぱり取り消すことにする。たとえ悪意はなくても、
 悪い結果を招く人っているもの。…私、何だかあの人、好きになれない」
「…ヒカリ」
ちょっと表情を緩めるアスカ
内心かなり気に病んでいた自分に気づき、嫌悪すると同時に意識して振り切ろうとする
なかば無理やりに笑顔を作ってみる
「ありがと。ねえ、私…意識しすぎてたかな」
「ううん。隙を見せなかったアスカは立派よ。相手にすることないわ」
「…そうよね」
もう一度カヲルを見るアスカ
既知感が甦る
ぐっと眉根を寄せ、目を逸らすアスカ

313: 5/13 2015/03/17(火) 23:00:52.46 ID:???
昼休み
「さあーて、メシやメシ。学校最大の楽しみやからな…、おわッ」
食堂へ向かおうと教室の扉開けて固まるトウジ
目の前に険悪顔のアスカ
「な…何の用や、シンジなら」
「どこよ。いないの?」
背後からひょいと顔を出すケンスケ
またも怪訝そうな表情になる
「どうしたんだ? お前ら、学校ではなるべくベタベタしないのが不文律なんじゃなかったっけ」
「いいから、どこ!」
同時に数歩退くトウジとケンスケ
「いいいや、落ち、落ち着け、惣流」
「どこなの!」
アスカの真剣さに態度を改めるケンスケ
「…悪い。ヘンな雰囲気じゃなかったから、もう少し様子見するつもりだった。
 シンジはさっき、転校生と何か話があるとかで、俺たちとは別行動になった。たぶん屋上だ」
「…ありがと」
長い髪をひるがえして駆け出すアスカ
後ろから、置いていかれておろおろしているヒカリが追いついてくる
「アスカ?! …ねえ、何があったの?!」
「ワシにもわからんわ。シンジの奴、あの転校生と知り合いなんやなかったんか?」

314: 5/13 2015/03/17(火) 23:03:20.76 ID:???
相手がトウジで一瞬うろたえるものの、それどころではないと我に返るヒカリ
「転校生って、こっちのクラスもだったの? 
 私たちのクラスに来た転校生も、アスカに変なこと言うし、それにさっき、急に一人で
 いなくなっちゃって。…それでアスカが我慢できなくなって、碇君に」
「何だそれ。まさかそっちもシンジがらみじゃないだろうな…
 なあ、俺たちも行ってみるか」
「私も行かせて。あんなアスカを放っておけないもの」
顔を見合わせて屋上へ向かおうとするケンスケとヒカリ
その目の前に片手を突き出すトウジ
「…いや。ちょっと待とうや」
「何でだよ。場合によっちゃマジで痴話喧嘩じゃ済まないだろ」
「そ、そうよ。碇君のこと、心配じゃないの?」
首を振るトウジ
真顔
「だからって、ワシら他人が首突っ込んでいい問題とちゃうやろ。
 シンジも、もう一人の女を守る男や。自分の問題は自分でケリつけられるやろ。…もし、
 上手くいかんくて自分一人じゃ手に負えんようなったら、シンジの方から何か言うてくるはずや。
 友達やからな。そのときはワシらも手を貸せる。けどそれまでは、シンジに任せとこうや」
「…浪花節だねぇ。ま、わかるよ」
ふっと笑って肩の力を抜き、遠ざかるアスカの背中を見送るケンスケ
トウジを見上げているヒカリ

315: 6/13 2015/03/17(火) 23:04:53.31 ID:???
理由の掴めない苛立ちにまかせて階段を駆け上がるアスカ
屋上の外扉を蹴り開ける
談笑していたらしいシンジが振り返る
その傍らの転校生二人
何か意識する間もなく、ほとんど瞬時に逆上するアスカ
「…あんたたちッ!」
憤りが声になってほとばしる
目の覚めるように鮮やかな怒りの表情
もう感情も隠さず、大股に詰め寄ってくるアスカの不安定な様子に気づくシンジ
瞬間、アスカ以外の全てが消え失せる
「…どうしたの、アスカ!」
待つ余裕もなく自分から駆け寄って途中でアスカを迎える
背後の二人の目も構わず、無意識に伸ばされたアスカの両手を引き取る
まっすぐ顔を覗き込む
視線がぶつかってほぐれる
「…シンジ」
一気に涙が溢れるアスカ
訳はわからないながら、とっさに強く抱きしめるシンジ
もうとどめようもなく激しく泣きじゃくるアスカ
困惑顔で両腕に力を込めるシンジ
アスカの精一杯押し殺した泣き声が流れる

316: 7/13 2015/03/17(火) 23:06:02.20 ID:???
「…ごめん。いきなり取り乱して、馬鹿みたいだったわね。私」
「ううん。僕が先に断っておけば良かったんだ。…嫌な思いさせてごめん」
「…全くよ、ばか」
「…うん。ごめん」
寄り添ってフェンスにもたれているシンジとアスカ
少し離れたところに立つ転校生二人
間近で見ると、案外表情も柔らかく、何よりシンジを見る目が親しみといたわりに満ちている
それでもさっき全身を貫いた絶対的な拒否感を思い出して、身を震わせるアスカ
シンジがつないだ手を握りしめてくる
「…それがシンジ君の大事な人なんだね」
初めて口を開くカヲル
ぱっと向けられたアスカの視線の強さに、心外そうに眉を上げる
「何だよ…そりゃ、最初君にちょっかい出したり、のけ者にしたのは悪かったってば。でも別に
 邪魔するつもりなんかないんだけどな。シンジ君にとって大事な人なら、なおさらだよ」
「そうね。…安心した。私たちが、一番知りたかったことだもの」
人をはっとするさせる優しさで微笑むレイ
風に乱れた髪をそっと払いのける
ちょっと見とれてから、気がつくアスカ
「ん? 私…たち?」
「そ、僕たち二人。昔は三人だったんだけどね、シンジ君も入れて」
「…どういう意味なの、シンジ」
「…うん」
懐かしそうに、それから少し眩しそうにカヲルとレイを見つめ、振り返るシンジ

317: 8/13 2015/03/17(火) 23:07:00.00 ID:???
「幼馴染なんだ、二人とも。
 まだ僕が小さくて、父さんと母さんと一緒に暮らしてた頃の。いつも一緒に遊んでて…
 本当に、いつ初めて会ったのかも思い出せないくらい、ずっと仲が良かった。レイちゃ…、
 じゃなくて、…綾波、は、母さんの側のいとこで、だから家族ぐるみで付き合いがあった。
 それと、赤ちゃんの頃から僕の母さんによく似てたらしくて、僕とはほんとにきょうだいみたい
 だねなんて言われてた。一つ年上のカヲ…渚は、僕ら二人のお兄ちゃん。いつも僕らを
 気にして、かばってくれてた。ずっと三人で育ってきたようなものなんだ」
風の渡る屋上
語るシンジを隣で見つめているアスカ
初めて見る遠いような表情に、楽になったはずの胸が少し痛む
「だけど…いろいろあって僕がおばさんの家に引き取られることになって、渚も急に外国に
 引っ越すことになって。いきなり、三人とも別れ別れになったんだ。小学校に上がってすぐの
 頃だったから、僕らにはどうしようもなくて」
思い出したのか、ちょっとうつむくシンジ
「でも、中学生になった時、突然渚から手紙が来たんだ。また日本に帰ってきたよって。
 それから…お互い、住んでるところが遠かったから直接は会えなかったけど、綾波も入れて
 三人で、最初は手紙で…そのうちメールやネットで連絡取り合うようになって。
 いつかまた三人で会えたらいいねなんて言ってたけど、受験の時期になって、忙しくしてる
 間にうやむやになっちゃってた。…だからそのことはごめん、ってば」
さっきからちょいちょいシンジを突っついているカヲル
シンジが払いのけるとおかしそうに笑う

318: 9/13 2015/03/17(火) 23:08:34.96 ID:???
レイはふざけあう二人を穏やかに見守っている
ときどきアスカを見つめる
居心地がいいような、悪いような、不思議な温かさと寂しさに包まれているアスカ
「…この間のメールで、近いうちにそっちに行くなんて言ってたからもしかしてとは思ったけど。
 でもまさか、二人ともこの学校に転校してくるなんて思わなかったよ。しかも渚、なんで
 一学年下なの」
親しみ半分、困惑半分の笑みでカヲルを押し戻すシンジ
そらとぼけるカヲル
「手続き間違えたんだよ」
「嘘つけ」
「あは、わかる?」
「当たり前だろ!」
呆れ顔のシンジに子供のように屈託なく笑うカヲル
髪を払い、シンジ越しにアスカにも向き直って答える
「そんなの決まってるだろ。君とレイと、それから君の大事な人と一緒にいたかったからさ」
「え」
いきなり自分に視線が集中して焦るアスカ
「…ちょっと待ってよ、なんであんたたち…シンジ、こいつらに私のこと話してたの?!」
「ち、違うよ、話してないよ。僕が知りたいくらいだってば」
頷くレイ
「ええ。碇、くん…からは、何も聞いてない。私たちが想像してただけ。
 でも、きっとそうだと思ってた」
「…どうして」

319: 11/13 (番号修正) 2015/03/17(火) 23:13:58.45 ID:???
身を引いてフェンスにもたれるカヲル
「メールアドレス。去年の春から寮住まいになって携帯必須になったのに、君はいつまでも
 PCの方しか教えてくれなかったろ。だから、携帯は誰かに残しておきたいのかなって
 思ったのさ。僕らにも話せないくらい、大事な誰かに」
わずかに両目を見開くアスカ
シンジを振り返る
ちょっと頬を赤らめているシンジ
「…そうなの?」
目を逸らすシンジ
「え…っと、まあ、…そうなる、かな」
「ばか」
強く身体を押し付けて、シンジの肩口に一瞬だけ顔を埋めるアスカ
真っ赤になるシンジ
しげしげと見つめるカヲルとレイを見てさらにあわてる
「ちょっ、なっ、…だから何でだよ、ほんとにそんな理由で?! わざわざ転校までして」
「いけないの?」
狼狽するシンジに思いきり顔を寄せるカヲル
全身鳥肌が立つアスカ
反射的に思いきりカヲルを突き飛ばす
「なな何やってんのよ男同士のくせにッ! フケツ! 変態! 信じらんない!」
「…痛ったぁー。キミこそ本当に女の子? ひどいな。レイとは比べようもないよ」
レイに支えられて反感丸出しの目を向けるカヲル
「な、ん、で、す、ってぇ…?!」
いきり立つアスカを押さえるシンジ
「…ちょっと待ってよ。綾波で思い出したけど、この前のメールで言ってたこと、本当なの。
 その、…綾波と」

320: 12/13 2015/03/17(火) 23:15:04.54 ID:???
「うん。正式に決めたよ。高校だから学校にはリングはして来ないけど」
「ん?」
シンジとカヲル、レイを見比べるアスカ
「…リングって」
「エンゲージリング。婚約指輪」
さらっと口にするレイ
肩を抱き寄せようとしたカヲルの腕を軽くつねり、外して自分から寄り添う
何度も瞬きするアスカ
「え…って、つまり」
くすくす笑うカヲル
「だから最初に言ったろ、君たちの邪魔する気はないよって。
 そう、僕ら、ずっと一緒にいることに決めたんだ。だからその報告も兼ねて、シンジ君に
 もう一度会いに来たんだよ。で、どうせなら一緒の学校で過ごそうってね」
「…だから、何でそこでそういう発想になるかな…」
胸を張るカヲルの横でさっきより呆れ顔になるシンジ
それでも小さく笑う
「…そっか。…うん。
 おめでとう、カヲルくん、レイちゃん。…僕も、二人にまた会えて、嬉しいよ」
「…ありがとう」
微笑むレイ
「…その人が、碇君の大切な人なのね」
正面から言われてうろたえるアスカ

321: 助演者登場篇(後篇) 13/13 2015/03/17(火) 23:17:58.64 ID:???
逆に落ち着いて、少し顔を上気させながらも、アスカの手を握ってまっすぐ答えるシンジ
「うん。…僕の、この世で一番大事な人。
 惣流・アスカ・ラングレー。…アスカ。僕が初めて本気で好きになった人だ」
目を奪われているアスカ
「…わかったよ」
今度は落ち着いた微笑で頷くカヲル
無言で耳たぶまで真っ赤っ赤になっているアスカを横目に、片手を差し出す
「じゃ、そういう訳だからさ。
 とりあえず、高校の残り二年ちょっとの間、再びよろしく。シンジ君。それと…」
泣きたいのか笑いたいのか、もう自分でも混乱しているアスカ
それでも嬉しさだけは胸が痛くなるほど感じている
(…何よ。これってつまり、もうベストマンもブライドメイドも見つけちゃったってことじゃない)
精一杯の笑顔で返す
「…特別に、アスカでいいわよ。その代わり、あんたたちのこともカヲル、レイって呼ぶから」
「…ありがと」
意外に素直に受け止めるカヲル
両手を揃えてきちんと頭を下げるレイ
「よろしく。…アスカ」
「こっちこそ。シンジの小さい頃のこと、いろいろ教えてよね」
「え、それは別にいいだろ?!」
「いいの。知りたいの、私が!」
屋上の外扉の陰
結局心配になって上がってきていたトウジ、ケンスケ、ヒカリ
明るく笑い合う四人を見て、顔を見合わせて立ち上がり、そうっと階段を降りていく
春近い風が青空の下を渡る

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【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】chapter2








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